感覚神経伝導速度
sensory nerve conduction velocity : SCV


 方法

   電気刺激により生じた sensory nerve action potential (SNAP)を記録する。M波
   と異なり、非常に小さい電位であるので、平均加算が必要である。通常数十回加算
   する。
   通常末梢神経は混合神経であるので、SCVを測定するには、刺激あるいは記録電
   極のどちらかは純粋に感覚神経のみ分布している場所を選ぶ必要がある。そのため
   指を刺激したり、指で記録したりしている。

       順行性(orthodromic):末梢で刺激→中枢側で記録
       逆行性(antidromic ):中枢側で刺激→末梢で記録

   順行性、逆行性いずれでも記録できるが、当科では順行性で行っている。一般に,
   逆行性の方が電位が大きく記録しやすいが、M波を間違えて記録する危険がある。
   結果はほぼ同じ。順行性で誘発しにくいときは逆行性も試みるとよい。
   しかし、順行性をちゃんととれる技術は身につけなければならない。

   刺激−記録電極間距離が長いと振幅が小さくなる。これは temporal dispersion,
   phase cancellation による。(M波の場合は持続が長いので、このような現象は起
   こりにくい。)

   SCVではMCVと異なり、1点刺激、1点記録で簡便的に計算できるので、当科
   では通常は1点記録で行っている。


     潜時: T
     刺激電極と記録電極の距離: D   とすると、

          SCV = D / T

     2点記録では、
     近位部記録の潜時: T1
     遠位部記録の潜時: T2
     近位・遠位記録電極間距離: D   とすると、

          SCV = D / (T1-T2)

     ※近位部記録の SNAP は遠位部記録に比して振幅はかなり低くなる。(前述)

 注意点

   1)筋肉の緊張がとれないと記録が困難なことがある。肢位を工夫したりし、できる
    だけリラックスさせるのが大事である。
   2)刺激は正中、尺骨神経ではリング電極を使用し、刺激を感じる刺激強度より心持
    ち強めて行う。(数mA程度)
   3)記録は皿電極を用い、神経の走行上に(-)を置き、2-3cm側方に(+)を置く。
    電極の位置はMCVのときの刺激部位を参考にする。
   4)記録部はよく磨き皮膚抵抗を下げておく。:ここがポイント。
    一般的な筋電計にはインピーダンス・チェックのスイッチがあるので、最低限
    10KΩ以下に下げる習慣をつける。
    電極と神経を密着させるために消しゴムで圧迫するとよいこともある。
    記録電極のコードと刺激電極のコードは交差しないよう注意する。(アーチファ
    クトを避けるため)
   5)通常加算するに従い、3相の potential が出てくる。
   6)潜時は、最初の陽性のピークまたは、はっきりしないときは立ち上がりで測って
    いる。
   7)いかにしても有意な波が得られないときは not evoked とする。
   8)温度により伝導速度が変化することに注意。
    29-38 ℃の範囲では皮膚温が1℃低下すると伝導速度は約2m/s 低下する。

 測定の実際

   尺骨神経を例にすると(順行性)
     1)アンプの設定
      MCVと同様だが gain は 2-5μV/div 程度にする。
     2)記録部位を良く磨きできるだけ皮膚抵抗を落とす。(ここが重要)
      アルコール綿でよく拭き、磨き用クリームを付けた綿棒でよく擦る。
      インピーダンス・チェック・スイッチを押して、点灯したら磨き直す。
     3)肘関節の尺骨神経上に(-)電極を、その側方3cm に(+)電極をつける。
     4)手首にアースを巻く。(生食か水で湿らせる。)
     5)小指の基部に(-)、PIP 関節部に(+)のリング電極をつける。
      電極は生食で少し濡らすか、または電極のりをごく少量つけておく。
     6)入力スイッチを記録状態にしモニターする。
      力が抜けないとEMGが入るのがわかるので、安静を指示し、基線の動揺が
      少なくなるようにする。(ここがポイント)
     7)刺激を出し、痛みを感じない程度(数mA程度)に刺激を上げる。
     8)加算を開始し見やすい波形になるまで加算する。徐々にノイズの中から3相
      の活動電位が成長してくる。通常数十回加算するが、数回でよいこともある。
     9)潜時を測定する。最初の positive peak または、よくわからないときは立ち
      上がりまでを測る。
     10)刺激電極の(-)と記録電極の(-)の間の距離を測る。
     11)距離と時間から伝導速度を計算する。
     12)肘管症候群が疑われるときは、肘管の近位、遠位の2ヶ所で記録し比較する。

   ※逆行性測定法
     逆行性で行うときは、肘または手首で刺激し、小指のリング電極で記録する。
     1)筋電計の設定は順行性と同様。
     2)小指を磨いて皮膚抵抗を下げる。
     3)小指にリング電極を付け、筋電計の入力側につなぐ。
      (小指の基部に陰極、PIPJ 付近に陽極をつける。)
     4)手首にアースを巻く。
     5)手首で電気刺激する。(MCVで使う通常の双極刺激電極を使う。当然陰極
      側が遠位になるように。)
     6)順行性と異なり、2相性の電位が記録される。逆行性に比してかなり大きい
      電位になるので、数回の加算で良いこともある。
     7)刺激が強すぎると筋収縮を引き起こし、電極のずれやコードの動揺、M波な
      どがアーチファクトとして入るので注意する。
     8)リング電極と他の指が接触するとアーチファクトの原因になりうる。このよ
      うなときは、ガーゼ等をはさめて絶縁を図るとよい。
     9)潜時は神経活動電位の立ち上がりで測り、刺激電極、記録電極の各陰極間の
      距離をメジャーで測り、伝導速度を計算する。
      もちろん手首、肘の2点刺激を用いて、MCVと同様に測定しても良い。

   ※アーチファクト対策:以下の点を確認せよ。
      力が十分に抜けているか。
      皮膚抵抗は落ちているか。
      アースは大丈夫か。
      コードが交差していないか。
      電極の位置は適切か。
      断線していないか。

    正中神経:第2指を刺激。記録は手首、肘窩。
         逆行性の場合は、手首刺激、記録は第2指

    腓腹神経:足首の外果後方を刺激。(生検する場所)
         MCVで使用する通常の双極刺激電極を用いる。
         記録は膝窩。(脛骨神経の刺激部位付近でよい。)
         逆行性の場合は、外果後方及び約5cm 遠方の足背外側に記録電極を置き、
        足首の 10-15cm 上方で刺激する。

 結果の解釈

   軸索変性を主体とする病変では、神経活動電位の低下に比して伝導速度の低下は軽
   度であり、節性脱髄を主体とする病変では振幅の低下に比し伝導速度の低下が著し
   い。
   振幅の評価に際しては、刺激−記録電極間距離、神経と記録電極間の距離などで変
   化するので注意。
   entrapment のあるときは、その前後で伝導速度や振幅が大きく変化する。
  (entrapment の部位で conduction delay, conduction block がおこる。)
   注意:力が抜けなかったり、皮膚抵抗が高かったりして記録が不良のことがあるの
      で、not evoked の解釈には注意する。

 inching study について

   運動神経同様、感覚神経でも可能である。詳細については、運動神経伝導速度の項に
   述べてあるので参照のこと。

 正常値

     (藤原哲司:筋電図マニュアルより)
             SCV (mean±2SD) 
      尺骨神経   67.3 (59.7-74.9) m/s
      腓腹神経   51.1 (41.3-60.9) m/s

     (新潟大中検)
                  SCV (mean±SD)
      尺骨神経(指−肘)   58.7±5.1 m/s
          (指−手首)  54.4±7.7 m/s
      正中神経(指−手首)  56.5±4.2 m/s
      腓腹神経(足首−膝)  57.5±3.0 m/s


戻る