H波,F波


 目的

        末梢神経伝導速度の測定では刺激部位より末梢の異常しか捕らえられない。
    より中枢側の異常を調べようとするものである。たとえば root レベルの異
    常の診断などに利用されている。

 対象

        peripheral nerve を侵す種々の疾患の他、radiculopathy, myelopathy  を示
    す疾患が対象となる。

 方法

  H波

       H波=H反射と呼ぶこともある。(H:HoffmanのH)

     1.通常ヒラメ筋で記録する。(誘発しやすいため)
      ヒラメ筋は正常なら確実に誘発できる。他の筋でも可能だが正常でも誘発不  
      能のことがあるので臨床応用しにくい。
     2.膝窩部で脛骨神経を電気刺激する。
      刺激を徐々に上げていくと、神経線維の内まず筋紡錘からのIa線維が興奮し、
      アキレス腱反射の反射弓に従い、motoneuron が興奮し、筋収縮を引き起こす。
      これがH波である。
      刺激を上げるにつれ、興奮するIa線維の数が増加するのでH波は徐々に大き
      くなる。
      しかし、さらに刺激を強くすると運動神経が直接興奮し、M波が出現する。
      さらに刺激をあげるとM波は徐々に大きくなるが、H波は運動神経を逆行性
      に上行するインパルスと途中で衝突(collision)するため小さくなりついに
      は消失する。さらに刺激を上げると後述するF波が出てくる。
     3.刺激の持続時間は1ms 位が誘発しやすい。刺激電極の(-)側を中枢側にする。
      ヒラメ筋に付ける電極の位置に注意する。上すぎると、腓腹筋のM波を拾い、
      見にくくなる。

   【実際の測定法】
     1.ヒラメ筋に電極を付ける。(位置に注意)
      足を底屈させて腓腹筋の筋腹を確かめ、腓腹筋の下方に(-)、アキレス腱上
      に(-)電極を置く。
      患者は腹臥位でも背臥位でも良いが、膝関節、足関節とも軽度屈曲位にな
      るようにする。(マクラを入れるとよい。)
     2.膝窩とヒラメ筋の間にアースを巻く。
     3.表示トレース数を5-10本程度に増やしておく。
      記録は full scale 50ms とする。
      潜時の遅延があるときは full scale 100ms にする。
      gain は通常2−5mv/div 位で記録できる。
     4.刺激の持続時間を1ms にする。
      500μs-1ms 位が最も記録しやすい。
     5.膝窩部に刺激電極を(-)が中枢側になるように当て、刺激を徐々に上げる。
      最もM波が誘発しやすい部位を選ぶ。
     6.刺激部位を決定したら、再び弱い刺激から順に記録していく。
     7.M波が出るより弱い刺激でH波は出現し、M波が大きくなるにつれ、H波
      は消えていくことを確認する。
      各記録波形の刺激強度をメモしておくと良い。
     8.分析時間は普通は 50ms でよいが、H波が出ないときは記録時間を 100ms
      に延ばし、本当に出ていないことを確認する。
     9.H波、M波の潜時を測定する。
      通常だいたい 29-30ms 前後に出てくる。

  F波

   F波の由来については定かでないが、最初は、Foot muscle で研究したためとか、
    Flexor muscle で研究したからとか言われている。

     運動神経を電気刺激したとき、刺激が逆行性に脊髄前角まで上行し、前角細
     胞の約1%を興奮させて、それが順行性に筋肉に伝わりF波を形成する。
     刺激点を近位部にするほど当然M波の潜時は延びるが、F波の潜時は短くな
     る。
     F波はM波の閾値よりも常に高く、出現も不安定であり、振幅もM波の5%
     程度である。
     M波が最大に達した後さらに刺激を強め、gain を上げて(M波は振り切れる)
     観察するとF波がみられる。
     数回施行し、出現率をみ、最短の潜時を測る。

   F波伝導速度(F-wave conduction velocity : FWCV):Kimura による方法

      FWCV = 2D / (F−M−1) 

       D:刺激点から脊髄前角までの距離
         上肢では刺激点からC7 棘突起まで、下肢では刺激点から Th12 棘
         突起までとする。
       F:F波の潜時
       M:M波の潜時
       1:中枢での遅延を考慮して1ms を引く。


   【実際の測定法】
     1.筋に電極を付ける。
      電極の付け方はMCVに準じる。
      原理上は神経伝導速度が測れる部位ならどこでもF波を測れる。しかし、
      近位筋ではM波とF波が近接し、分離して記録することが難しい。
     2.アースを付ける。(刺激と記録電極の間)
     3.刺激電極で神経を刺激する。
      通常は正中神経、尺骨神経は肘、脛骨神経は膝で刺激する。
      MCVと同様に至適刺激部位を選ぶ。
      刺激部位が遠位の時、M波潜時は短く、F波潜時は長い。近位の時は遠位
      に比べ、M波潜時は延長し、F波潜時は短縮する。
      刺激電極の陰極側を中枢側へ向ける。
     4.トレース数は 10本位にしておく。
     5.刺激を上げM波が最大になったことを確認し、さらに刺激を上げる。
     6.M波の後方にF波が出てくる。gain を 200 または 500μV/div 程度に上 
      げると見やすい。このとき当然M波は振り切れる。
     7.10回位記録し、最短潜時を測定する。M波潜時も測る。
     8.このとき出現頻度、振幅にも注意する。
     9.superimpose の記録もとっておく。

 結果の解釈

    末梢伝速が正常でH波、F波が異常(潜時の遅延や誘発不能など)なら近位部で
    の障害の可能性がある。(Guillain-Barre 症候群など)
    H波が異常でF波が正常なら、入力系(後根)の異常の可能性がある。 
    (部位の特定は困難)

 正常値 Kimura による (Kondo 改)

    H波 (ヒラメ筋記録、膝窩部刺激) 
       (mean±SD)   Amplitude  2.4±1.4 mV
               Latency   29.5±2.4 ms

    F波 (mean±SD) 
        median (短母指外転筋より記録)
           wrist   Latency    26.6±2.2 ms
               FWCV       65.3±4.7 m/s
           elbow   Latency    22.8±1.9 ms
               FWCV       67.8±5.8 m/s
        ulnar (小指外転筋より記録)
           wrist   Latency    27.6±2.2 ms
               FWCV       65.3±4.8 m/s
           elbow   Latency    23.1±1.7 ms
               FWCV       65.7±5.3 m/s
        tibial (母趾外転筋より記録)
           ankle   Latency    47.7±5.0 ms
               FWCV       52.6±4.3 m/s
           knee  Latency    39.6±4.4 ms
               FWCV       53.7±4.8 m/s
         
        附: ヒラメ筋より記録(膝窩部刺激)すると
             約 30-32ms 位である。(H波より少し遅い程度)

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