第15回頼勝寺音楽会 チェンバロ&オーボエ アンサンブル
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2025年4月27日(日)13:45 阿賀野市 頼勝寺
チェンバロ:笠原恒則
オーボエ:大木雅人
 
クープラン:コンセール第1番 ト長調 より プレリュード
クープラン:コンセール第9番 ホ長調
日本古謡:さくら
スカルラッティ:ソナタ へ短調 K.481
スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.417
J.S.バッハ:ソナタ ト短調 BWV1030

(休憩20分)

スカルラッティ:ソナタ イ長調 K.208
美空ひばり(小椋 佳):愛燦燦
美空ひばり(見岳 章):川の流れのように
ヘンデル:涙の流るるままに
ヘンデル:ソナタ ト短調 HWV364a
サンマルティーニ:ソナタ ト短調

(アンコール)
いずみたく:見上げてごらん夜の星を
岡野貞一:ふるさと

 

 阿賀野市安田にある頼勝寺では、定期的に音楽会が開催されており、今回は第15回となります。境内にキッチンカーが出店したりして、ちょっとしたイベントになっています。
 私は阿賀野市で仕事をさせていただいていますので、いわば地元開催の音楽会です。毎回魅力的な出演者を招聘しており、これまでも聴かせていただこうと思っていましたが、なかなか都合が合わず、今回は2023年6月の第11回音楽会以来の参加となります。
 前回は新潟のオールスターメンバーによるヴィヴァルディの「四季」が演奏され、2023年のマイベスト10候補にも挙げられた素晴らしい演奏会でした。
 今回も新潟で活発な演奏活動をされているチェンバロの笠原恒則さんと、新潟のみならず東京でも活躍されているオーボエの大木雅人さんという実力者二人の出演です。曲目も日本の歌曲も含みますが、とても一般向けとは思えないガチな曲がプログラムされており、大いに期待が高まりました。

 今日はゴールデンウィークの2日目ですが、昨日に引き続いて天候に恵まれ、絶好の行楽日和となりました。今日は新潟市内で吹奏楽関係のコンサートが2つ重なってあり、そちらにも興味がありましたが、職場近くのこのコンサートを選びました。
 ゆっくりと日曜日の午前を過ごし、いつもの通勤経路で阿賀野市に入り、途中で休憩した後、混雑が予想されましたので、早めに会場入りしました。
 受付をして、本堂に入り正面前方の椅子席を確保しました。渡されたプログラムは手作り感に溢れるものでしたが、内容の豊富さと詳細な解説には驚いてしまいます。音楽に詳しいご住職の博識には感銘を受けます。
 主催者のご住職(息子さんが住職を継がれたようですので前住職ということになりましょうか)が私の席まで挨拶に来てくださり恐縮しました。
 プログラムを読み、この原稿を書きながら開演を待ちましたが、笠原さんが出てこられ、いつものようにチェンバロを入念に調律されていました。

 開演時間が近付くに連れて、椅子席は埋まり、床に座っての観客も多数おられ、予想通りにかなりの盛況となりました。
 新しく就任された住職さんによる挨拶と説明があり、その後、前住職のお話がありましたが、集客は120人くらいだそうでした。プログラムを見れば、スタジオAやだいしほくえつホールで開催すべきガチガチのクラシックプログラムですが、この会場にこれだけ集まるというのは凄いことですね。

 演奏会の前に、前住職による説明の後、鐘の音とともに座禅の時間がもたれ、全員で数分間の瞑想をしました。その後、震災の犠牲者への1分間の黙祷が捧げられ、いよいよ開演です。

 笠原さんと大木さんが登場して、挨拶とプログラムの解説がありました。昨年6月の音楽会で、この二人でここで演奏しましたが、そのときは梅雨時で湿度が高く、楽器が不調で大変だったそうです。そのため、今回の演奏会の依頼を受けたとき、開催日を4月末に設定してもらったそうです。今日の天候は、楽器にはいい感じだそうで、何よりでした。

 曲目解説の後、いよいよ演奏開始です。1曲目は、クープランの「コンセール第1番」より「プレリュード」です。お寺の本堂に響くチェンバロとオーボエが奏でるバロック音楽。ミスマッチにも感じますが、どんどんと演奏に引き込まれました。

 2曲目は、同じくクープランの「コンセール第9番」です。「愛の肖像」という副題が付けられているそうです。8つの楽章のそれぞれに付けられた副題の紹介の後に演奏が進められましたが、各楽章の対比も鮮やかに、楽しませてくれました。

 オーボエが下がって、続く3曲は、チェンバロ独奏です。笠原さんによる曲目解説がありましたが、バッハ、ヘンデル、スカルラッティは同じ年の生まれなんだそうですね。
 スカルラッティについての解説があり、日本古謡の「さくら」とスカルラッティの「ソナタ ヘ短調」が続けて演奏されました。
 「さくら」は、編曲の妙もあり、全く新しい曲のように感じられて楽しめました。「ソナタ ヘ短調」は、笠原さんが桜のイメージだと話されていましたが、技巧的でないシンプルな曲想は感傷的で、哀愁を感じさせました。

 笠原さんによる曲目解説があり、続いては、スカルラッティの「ソナタ ニ短調」です。「フーガ」という副題が付けられているそうですが、少し暗めのフーガで始まり、その後は自由に、快活に、音楽が流れ出ました。

 オーボエが加わって、前半最後は、バッハの「ソナタ ヘ短調」です。昨年6月のこの音楽会で演奏したのですが、楽器のコンディションが良くなく、今回はそのリベンジとして演奏するとのことでした。
 緊張感のある長大な第1楽章の後、ゆったりとした第2楽章。そして快活に足早に駆け抜ける第3楽章から熱を帯びる第4楽章へ。ガチガチのバロック音楽に圧倒され、心地良い疲労感を感じました。

 休憩時間に入りましたが、笠原さんが調律する様子を多くの人たちが見守っていました。そして、後半最初は、チェンバロ独奏で、スカルラッティの「ソナタ イ長調」です。
 オペラで名を馳せた父親譲りのオペラ的な曲だと解説してくれましたが、確かに切々とアリアを歌うような印象を受けました。
 笠原さんから説明がありましたが、後半は「歌心」をテーマとして、歌心に溢れた曲を、国を越えて楽しんでもらおうとプログラムを組んだとのことでした。

 次はオーボエが加わって、美空ひばりの名曲「愛燦燦」です。チェンバロの伴奏でオーボエが歌いましたが、客席から静かに歌声が聞こえてきたのにはびっくりしました。
 これを察知してか、笠原さんから歌を口ずさんでくださいという案内があり、続く「川の流れのように」では、歌声が会場の各所から沸き上がり、それが大きな合唱となって、演奏者と観客とが一体となり、感動の時間が創り出されました。

 オーボエが下がって、次はチェンバロ独奏で、ヘンデルの「涙が流るるままに」です。オペラの有名なアリアを後で他の作曲家がチェンバロ用にアレンジしたものだそうですが、歌声が聴こえてくるような、しっとりとした演奏で楽しませてくれました。

 オーボエが加わり、続いてはヘンデルの「ソナタ ヘ短調」です。第1楽章はしっとりと、第2楽章は軽快に、第3楽章はゆったりと始まりましたが、次第にスピードアップして熱量を増し、会場から「オー」という感動の声も上がりました。

 そしてプログラム最後は、サンマルティーニの「ソナタ ト長調」です。サンマルティーニはイタリア出身で、ドイツ出身のヘンデルがロンドンで活躍したのと同じ時代に、同様にロンドンで活躍していたそうです。
 この曲はフルートでも演奏されるそうですが、緩-急-緩-急という4つの楽章からなるそうです。第1楽章はゆったりと歌い、第2楽章は快活に明るく、第3楽章はしっとりと少しもの悲しく、第4楽章は再び明るく華やかに歌い踊り、感動を誘いました。

 大きな拍手に応えてのアンコールは、「見上げてごらん夜の星を」で、会場の合唱とともに演奏して感動を分かち合い、さらに「ふるさと」を合唱して長時間に渡る演奏会は終演となりました。

 会場の本堂に響き渡る美しい合唱には驚きました。ご婦人方も、男性方も、平均年齢はかなり高いと思われますが、合唱団員のような美しい声で、音痴な私は圧倒されてしまいました。
 そして、チェンバロとオーボエとによるガチのバロック音楽を長時間に渡って真剣に聴き、美しい歌声で合唱する観客のレベルの高さには驚きました。
 期待以上の素晴しい演奏を無料で楽しませていただいて、参加させていただいた甲斐がありました。頼勝寺関係者の皆様に感謝したいと思います。ありがとうございました。

 穏やかな春の午後を音楽で楽しみ、大きな感動と満足感とともに、晴れ渡った空の下、いつもの経路で帰宅の途に着きました。

 
(客席:正面4列目、無料)