ヨーロッパで出会ったバロック音楽 〜リュートとソプラノの調べ〜
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2025年4月19日(土)14:00 越後森林館
テオルボ、バロックリュート:佐々木勇一
ソプラノ:フローリー・ルループ
 
クラウディオ・モンテヴェルディ:その軽蔑のまなざし
ジョバンニ・ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ
ルイジ・ロッシー:美しい瞳
アレサンドロ・ピッチニーニ:ロマネスク
ジギスモンド・デインディア:私の涙に涙する
ジョバンニ・ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ アルペジアータ
                    カプスペルガー
                    カナリオ
                    ベルガマスカ
ジローラモ・フレスコヴェルディ:我が魂よ、今こそ別れの時

(休憩20分)

佐々木勇一:前奏曲
ジャック・ガロ(シャルル・ムートン編):フォンタンジュ夫人の墓碑
ミシェル・ランベール:僕の羊飼い娘は優しくて一途
H・I・F・ビーバー(佐々木勇一編):パッサカリア
フランツ・トゥンダー(佐々木勇一編):ああ主よ、あなたの愛する天使たちを
〜バロックリュートで奏でる日本の曲〜
 岡野禎一(佐々木勇一編):朧月夜
 弘田龍太郎(佐々木勇一編):浜千鳥
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル:私を泣かせてください

(アンコール)
オーバー・ザ・レインボー
ふるさと
 

 今日は、柏崎市出身でドイツで活躍されているリュート奏者の佐々木勇一さんとベルギー出身のソプラノ歌手のフローリー・ルループさんのコンサートです。今日の公演のほか、明日は地元の柏崎市文化会館でもコンサートが開催されます。
 佐々木さんの名声は以前より存じ上げていましたが、残念ながら実際にその演奏を聴く機会はありませんでした。
 今回7年ぶりに帰国されて、私の自宅からもほど近い越後森林館で、「音楽を楽しむ会」主催でのコンサートを開催されるとの情報を得て、せっかくの機会ですので聴かせていただくことにしました。

 古楽やバロック音楽に疎い私ですので、今回演奏するバロックリュートやテオルボの演奏を生で聴く機会はなく、残り少ない私の人生を少しでも豊かにするために、珍しい楽器の生の音を是非とも味わいたいと思いました。
 私は早々にチケットを買っていたのですが、新潟公演、柏崎公演とも前売りチケットはすぐに完売となり、期待のほどが伺えました。

 コンサ―トについて佐々木さん自身による解説がYouTubeで配信されており、私も視聴させていただき予習させていただきました。
 今回演奏するテオルボやバロックリュートについての解説や演奏がありましたが、巨大なテオルボには驚きました。
 今回は新発田の奥田さんが製作されたテオルボとバロックリュートを使用されるとのことでした。プログラムに込められた思いなどについて興味深く拝聴しました。ビーバーや日本の歌などを自分で編曲した曲も演奏するとのことでした。
 今回共演するルループさんとは、ケルン音楽舞踏大学でともに学び、共演を重ねてきたそうです。テオルボとともに、いにしえの歌声を楽しませていただこうと思います。

 会場の越後森林館は、正式名は「越後杉流通活性化センター」といい、新潟県産の杉を用いて建設されました。六角形の多目的ホールがあり、小規模なコンサート会場として利用されています。私も何度かコンサートに参加させていただいていますが、最近は都合が合わずに行く機会がなく、今回は2019年11月以来、5年半ぶりになります。

 今日は天候に恵まれて、爽やかな土曜日になりました。昨夜は1時半頃に中途覚醒してから眠れず、夜中にCDを2枚聴いて夜明けを迎えました。
 いつものように、洗濯、掃除、カメの水替え、ネコのトイレ掃除、ゴミ出しと、与えられたルーチンワークを終えて、ネコと戯れ、簡単に昼食を摂って、家から直ぐの越後森林館へと向かいました。

 早く着きすぎましたので、車の中で時間調整しました。開場10分前に玄関に行きますと、なんと既に開場されていて、あわてて入場しました。そうとわかれば、もっと早く入場すればよかったです。
 正面3列目に席を取り、この原稿を書きながら開演を待ちました。ステージには、巨大なテオルボとバロックリュートが楽器ケースの上に横にして置かれていました。佐々木さんが出てきて楽器の調整をされていました。

 開演時間となり、二人が入場。主催者による挨拶と二人の紹介があり、モンテヴェルディの「その軽蔑のまなざし」で開演しました。テオルボの豊潤な響きとソプラノの澄んだ歌声が、響きの良い木造のホールに響き渡り、うっとりと聴き入りました。

 佐々木さんのMCがあり、挨拶と1曲目の曲目・歌詞の紹介と、この後の曲目紹介がありました。佐々木さんは長渕剛に憧れてギターを始めたこと、ドイツでの演奏活動のこと、今回は7年ぶりの帰国であることなど、楽しく話してくれました。

 そして、2曲目はテオルボソロで、カプスベルガーの「トッカータ」を演奏し、ソフトで優しい響きのテオルボの魅力を伝えてくれました。私のような素人の耳には、ギターの音を豊潤にしたような印象に感じられました。
 シームレスに続けて、ソプラノとともにロッシーの「美しい瞳」が演奏されましたが、感情の高ぶりを見せながら、情熱的に切なく歌いました。
 続いてテオルボソロで、ピッチニーニの「ロマネスク」が、しっとりと哀愁を感じさせながら演奏され、消え入るように静かに終わりました。
 休みなく、デインディアの「私の涙に涙する」が歌われましたが、どこか悲しげに切なく歌い、泣き叫ぶが如く感情を高ぶらせて胸を打ちました。

 ここで佐々木さんによるMCがあり、テオルボについての解説がありました。ドイツからは持って来れないので、今日の楽器は新発田の楽器製作者の奥田さんから借りたものとの説明がありました。なお、ドイツでは奥田さんが製作したテオルボを使用していて、それは2弦ですが、今回のテオルボは単弦だそうです。
 そして、カプスベルガーについての説明があり、テオルボソロで4曲が続けて演奏されました。「トッカータ アルペジアータ」は、アルペジオといいますか、トレモロ的な演奏が美しく、「カプスペルガー」は、ゆったりと演奏し、「カナリオ」は、少し力強く情熱的に、「ベルガマスカ」は、ゆったりと始まり、そして少し軽快に、明るさを感じさせました。

 そして前半最後は、フレスコヴァルディの「我が魂よ、今こそ別れの時」を、しっとりと悲しげに歌い、切ない思いを吐露するかのような歌声が胸に沁みました。

 休憩時間となりましたが、休憩時間の最後に、このホールの設計者によるホールについての説明がありました。釘を使わずに組み上げられ、6本の根曲がり杉の柱によって支えられている構造や、響きの良さについての説明など、興味深く拝聴しました。

 二人が入場し、後半の第2部の開演です。まず佐々木さんのMCがあり、後半はバロックリュートを演奏すること、このバロックリュートもテオルボと同様に新発田の奥田さんから借り受けたものとの説明がありました。
 後半の曲目解説がありましたが、7年間帰国しない間にお世話になった人が亡くなり、2曲目はその人への追悼の思いを込めて選曲したことなどのお話しがあり、3曲が続けて演奏されました。

 1曲目はバロックリュートソロで、佐々木さん作曲の「前奏曲」が演奏され、悲しげな音楽がしっとりと響いてきましたが、テオルボと違って、大きさが小さい分低音の響きが少なく、若干軽めな印象がありました。
 2曲目のガロの「フォンタンジュ夫人の墓碑」は、故人をしのび、切なく、涙するように、しっとりと演奏し、永遠の別れの悲しみが胸に迫りました。
 3曲目は、ランベールの「僕の羊飼い娘は優しくて一途」が歌われ、少しもの悲しく、切々と胸に秘めた思いを歌い、消え入るように曲が終わりました。

 ここで佐々木さんのMCがあり、次に演奏する佐々木さん自身の編曲による2曲の説明があり、トゥンダーの曲の歌詞の説明がありました。
 まず、バロックリュートソロでビーバーの「パッサカリア」が演奏されました。これまでは知らない曲ばかりでしたが、この曲は良く聴いていますので、友に巡り会えたかのような気分でした。ヴァイオリンの原曲が、バロックリュートで美しく表現されていて、うっとりと聴き入りました。
 続けて、トゥンダーの「ああ主よ、あなたの愛する天使たちを」が歌われ、うら悲しく、切々と訴え、後半は少し明るく、力強く歌い上げました。

 佐々木さんのMCがあり、日本の2曲を演奏するとのお話しがあり、小学校6年生のときの曲にまつわる想い出が楽しく語られました。
 そして、バロックリュートソロで、「朧月夜」と「浜千鳥」が演奏され、お馴染みのメロディを静かに、しっとりと演奏し、曲の中に潜む輝きを抽出して新たな曲に昇華させて魅了しました。

 そして佐々木さんのMCがあり、プログラム最後の曲として、お馴染みのヘンデルの「私を泣かせてください」が、しっとりと歌われ、消え行くように余韻を残すバロックリュートとともに、静かに予定のプログラムは終演となりました。
 
 大きな拍手に応えて、アンコールに誰もが知っている曲ということで、「オーバー・ザ・レインボー」が爽やかに歌われ、ホールを埋めた聴衆を和ませてくれました。
 さらにアンコール2曲目は、フランス語で「ふるさと」が歌われ、新鮮な驚きとともに、静かな感動をもたらして、コンサートは終演となりました。

 主催者の挨拶があってお開きとなりましたが、期待を裏切らないコンサートでした。古楽〜バロック音楽には疎い私ですので、ほとんど知らない曲ばかりでした。特に前半はどの曲も同じに聴こえていたのですが、優雅な雰囲気の中で、非日常を味わえたように思います。
 テオルボやバロックリュートの美しく豊潤な響きを体験できたことは大きな収穫であり、大きなテオルボを眼前で見ることができて、しばらく話の種に使えそうです。

 優雅な時間を過ごして少しリッチな気分に浸り、大きな満足感とともにホールを後にし、暖かな春の空気の中に帰路に着きましたが、アルビの敗戦を知って、せっかくの気分は落ち込んでしまいました。

 
(客席:正面3列目、¥3000)