上妻宏光 宮田大 Duo Concert Tour -月食-
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2024年12月21日(土)16:00 新潟市民芸術文化会館 劇場
津軽三味線:上妻宏光
チェロ:宮田 大
 
上妻宏光(野崎洋一 編):NIKATA
ドビュッシー(伊賀拓郎 編):月の光
上妻宏光(野崎洋一 編):La Noche de Segovia〜セゴビアの夜
ピアソラ(伊賀拓郎 編):「タンゴの歴史」より ナイトクラブ1960

(休憩20分)

宮沢賢治(宮田 大 編):星めぐりの歌
ソッリマ:ラメンタチオ

上妻宏光:紙の舞
民謡津軽じょんがら節

菅野祐悟(篠田大介 編):十六夜より
篠田大介:絃弦相搏

(アンコール)
映画「タイタニック」より 3等客室のアイリッシュダンス
 
 日本を代表する三味線奏者とチェリストの共演ということで、注目されるコンサートです。日本で最も活発な演奏活動をしている三味線奏者といえば、真っ先に上妻宏光さんの名前が挙がりましょう。上妻さんは、ジャンルを問わずに、多彩な音楽家と共演を重ねておられますが、今回は日本を代表するチェロ奏者である宮田大さんとの Duo Concert です。
 二人とも実力と人気を誇る日本を代表するトップ奏者ですので、TV出演も多く、新潟への来演も多くあります。私は県外を含めてコンサートを何度か聴かせていただいていますが、二人の共演を聴くのは今回が初めてです。 
 今回の Duo Cncert Tour は「月食」と題され、すでに5月24日〜6月9日まで7公演開催され、11月9日からは後半の6公演が開催中であり、今日の新潟公演の後は、明日の茨城公演でラストになります。
 和楽器の三味線と洋楽器のチェロという想像もできなかった楽器の組み合わせで、どんな演奏を聴かせてくれるのか興味深く思われ、早々にチケットを買って楽しみにしていました。

 今日は冬至です。16時開演でしたので、ゆっくりと雑務をこなし、15時過ぎに家を出て、小雨が降る中にりゅーとぴあに向かいました。
 開演15分前に入館し、すぐに劇場に入場して席に着きました。ステージ上には2人分の演奏台が置かれ、その上に椅子と譜面台が設置されていました。後方には、屏風様の反射板が立てられていました。

 開演時間となって場内が暗転し、宮田さん、上妻さんの順にステージに登場し、チラシの写真と同様に、宮田さんが右側、上妻さんは左に座りました。宮田さんは黒シャツですが、上妻さんは黒の紋付袴です。宮田さんは紙の楽譜ですが、上妻さんはタブレットを使用していました。

 1曲目は、上妻さん作曲の「NIKATA」です。上妻さんの三味線に始まり、そこに朗々と響く宮田さんのチェロが加わって、しっとりとした音楽が心に沁みてきました。情感豊かな出だしに始まって、緩急自在に音楽が進み、最後はロックを聴くかのような高揚感を誘いました。
 軽やかに弦を撥で弾く津軽三味線と豊潤に音を響かせるチェロとが違和感なく重合し、美しい音楽が創り出され、新しい音楽世界の誕生を目の当たりにして、演奏に引き込まれました。
 響きの少ない劇場ではありますが、チェロは音量豊かに鳴り、芳醇な響きを堪能できました。劇場でこれほどの音を聴けるとは意外であり、PAを使用しているのではと思いましたが、装置は見当たりませんでした。

 二人による挨拶があり、宮田さんが上妻さんの名前を言い間違えたりして、楽しいトークで楽しませてくれました。以後曲目紹介を交えながら演奏が進められましたが、二人ともトークが上手で驚きました。上妻さんは曲によって三味線を持ち変えて演奏しておられました。
 
 2曲目はドビュッシーの「月の光」です。音量を抑えた三味線のトレモロでメロディが奏でられ、チェロが優しくバックを支えて始まり、後半はチェロがゆったりと歌いました。編曲のうまさもあって、全く新しい曲のように創り変えられて、柔らかな音楽世界に心を無にして酔いしれました。

 3曲目は、三味線を持ち替えて、上妻さん作曲の「セゴビアの夜」です。上妻さんがスペインのセゴビアに訪れたときの情景を思い描いて作曲したそうです。オリジナルはギターと三味線の曲ですが、チェロと三味線用に編曲したそうです。
 三味線の演奏技法である他の弦を共鳴させる「サワリ」という奏法の解説もあり、興味深く聞かせていただきました。
 音楽は、ところどころにスペインの空気感を感じさせ、哀愁と情熱の中に熱く燃え上がり、感動と高揚感を感じさせてくれました。

 ここでチェロの説明やエンドピンにまつわる話しがあって、ステージに残るエンドピンを刺した穴のことなど、面白く聞かせてくれました。ちなみに、宮田さんのチェロは1698年製のストラディヴァリウスだそうです。さすがに響きが豊潤ですね。

 前半最後は、ピアソラの「ナイトクラブ1960」です。ギターとフルートの原曲を、フルートを三味線、ギターをチェロに編曲したとのことでした。しっとりと激しく、ブエノスアイレスの場末の夜を思い描きながら、音楽世界に浸りました。

 休憩を明けて、後半は宮田さんだけが出てきて、チェロ独奏で2曲が演奏されました。最初は宮沢賢治の「星めぐりの歌」で、宮田さん自身の編曲です。
 冒頭や途中にバッハの無伴奏組曲の一節を組み入れたりして、哀愁・郷愁を感じさせる音楽で、心をほっこりとさせてくれました。

 チェロを愛した宮沢賢治の話などの後に、曲目説明があり、続いてはソッリマの「ラメンタチオ」です。ラメンタチオというのは「嘆き」という意味だそうです。世界各地の多彩な音楽が盛り込まれた曲だそうです。
 特殊奏法が駆使され、摩訶不思議な重音が響き、宮田さんの歌も加わって、深みのある音楽にどっぷりと浸かりました。
 チェロは演奏するのではなく、歌うのだと話しておられましたが、まさに実際に自分の声で歌うというのは驚きでした。こんな曲があったのですね。

 宮田さんが下がって、入れ替わりに上妻さんが登場しました。三味線独奏の1曲目は、上妻さん作曲の「紙の舞」です。しっとりと、せつなく響く三味線に泣かされました。

 ここで、子供のときの三味線との出会いから、伝統と革新をテーマに演奏活動を続けていること、クラシックとの出会い、宮田さんとの共演への思いなどが語られました。
 そして、津軽三味線の名曲であり基本である「津軽じょんから節」の話しがあり、実は旧節、中節、新節の3種類があることを演奏を交えて説明し、会場にもクイズが出されましたが、私は間違えました。3つにはリズムの違いがあり、リズムやグルーブ感を味わいながら聴いてほしいとのことで、「津軽じょんから節」が新節で演奏されました。
 まさに津軽三味線であり、心を揺さぶる音楽と超絶技法に圧倒され、ただただ聴きほれるばかりでした。圧倒的な演奏を前にして、津軽三味線の素晴らしさを否応なしに再認識させられました。
 
 上妻さんが下がって、二人が登場し、続いては菅野祐悟さんの「十六夜より」です。菅野さんが宮田さんのために作曲したチェロ協奏曲「十六夜」をもとに、篠田大介さんが編曲した曲だそうです。
 5-7-5-7-7 という形を元に作られているそうですが、しっとりと染み入るメロディが美しく、原曲のチェロ協奏曲を聴いてみたくなりました。

 三味線を持ち替えて、プログラム最後は、今回の5月からのツアーのために篠田大介さんに作曲を委嘱した新曲の「絃弦相搏」です。絃は三味線、弦はチェロを表していて、二つの楽器の戦いを意味しているそうです。
 演奏は、まさに丁々発止、それぞれの実力と音楽性がぶつかり合い、高めあっていて、反発するのではなく、熱い音楽を作り上げて、まさにロックバトルとでもいうような興奮を誘い、劇場内に感動と興奮を誘い、割れんばかりの大きな拍手が贈られました。

 アンコールには、三味線を持ち替えて、映画「タイタニック」から「3等客室のアイリッシュダンス」の音楽が演奏されました。冒頭は日本の民謡に始まりましたが、次第にアイリッシュダンスへと変わって行き、感動の中にコンサートは終演となりました。( → 動画

 和と洋の癒合による新しい音楽世界。音楽をジャンル分けする無意味さを実感し、期待を裏切らない素晴らしい内容に、大きな満足感をいただいて劇場を後にしました。


(客席:1階12-24、\6000)