仲道郁代ピアノ・リサイタル
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2024年9月14日(土) 14:00 長岡リリックホール コンサートホール
ピアノ:仲道郁代
 
シューベルト:4つの即興曲 D.899 Op.90

(休憩15分)

シューベルト:4つの即興曲 D.935 Op.142

(アンコール)
シューベルト:楽興の時 第3番 ヘ短調

 毎年恒例の、長岡リリックホールでの仲道郁代さんのリサイタルです。私は仲道さんファンを自認し、ともに年齢を積み重ねてきました。これまで何度も演奏会に参加してきましたが、昨年9月の「ブラームスの想念」と題されたリサイタルに引き続いて、今年も聴かせていただくことにしました。

 仲道さんは、ベートーヴェン没後200周年と自身の演奏活動40周年が重なる2027年に向けて、「仲道郁代 The Road to 2027リサイタル・シリーズ」を続けておられ、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを核とした「春のリサイタル」と、ピアニズムの新境地を開く様々な作曲家の曲を配した「秋のリサイタル」を開催しています。
 春・秋含めて10年間で全部で20のテーマを設けてリサイタルを続けておられ、今年の「秋のリサイタル」のテーマは「シューベルトの心の花」で、シューベルトの2つの「4つの即興曲」が演奏されます。
 この秋のシリーズは、今日の長岡リリックホールに始まり、15日は上田市のサントミューゼ、10月5日は浜松市のアクトシティ浜松、10月12日は名古屋市の宗次ホール、10月27日は東京文化会館で開催されます。

 与えられたルーチンワークを早めに終えて、いつものように国道116号線を巻〜吉田〜分水と進みました。大河津橋を渡ってすぐに左折し、信濃川沿いを進んで与板に入り、広域農道1号線を進みますと、ほとんど信号なしで長岡入りできます。
 ホール近くの某所で昼食を摂り、駐車場に車をとめました。ここは無料でありがたいですね。リリックホールに入館し、チラシ集めをしていますと、ちょうど開場時間となりましたので、私も入場して、この原稿を書きながら開演を待ちました。
 コンサートホールは、椅子が新しくなって、赤い色が目に鮮やかになり、座り心地も多少良くなったように感じます。ステージには華やかな生花が飾られ、気分を盛り上げてくれました。配布されたプログラムには、仲道さん自身による解説があり、内容豊富で、読み応えがありました。

 開演時間となり、ホール内が暗転し、真っ暗な中に、ピアノと生花に弱いスポットライトが当てられました。シルバーのドレスが麗しい仲道さんが登場して開演です。
 仲道さんの挨拶があり、リサイタルのテーマである「シューベルトの心の花」についての説明と曲目についての詳しい解説がありました。マイクを置くなり、すぐに演奏が始まりました。以後、1曲ごとに詳しい解説の後に演奏が進められました。

 前半は、作品90です。第1曲は、ハ短調の曲で、運命的なものを表す調性だそうです。緩急・強弱を大きく揺り動かし、クリアで豊潤なピアノの響きが美しく、強奏部でも濁りは全くありません。サウンドの美しさにうっとりし、リリックホールの音響の素晴らしさにも感嘆しました。

 第2番は、変ホ長調で、子供の発表会でよく演奏される曲だそうです。軽やかに演奏が進み、淀みなく沸きあがる泉のように、さわやかな音楽が気持ちよく感じられました。緩急を大きく揺り動かし、再び軽やかになり、そして熱を帯びてフィナーレとなりました。

 第3番は、変ト長調で、優しい響きでゆったりと歌い、心がほっこりとしました。濁りのない低音の美しい響き。揺れ動く思いを載せて音楽が流れ出ました。

 第4曲は、変イ長調で始まり、中間部はベートーヴェンの「月光」と同じ嬰ハ短調になり、変イ長調で終わるそうです。ヒラヒラと音が舞い、大きな高ぶりを見せつつも、再びヒラヒラと舞い踊る音楽。大きなうねりと高まりに胸を熱くし、悲しげに音が舞い、繰り返すうちに明るさを取り戻し、力強く曲を閉じました。

 休憩後の後半も、1曲ごとに詳しい解説があり、演奏が進められました。解説で語られた、ベートーヴェンとシューベルトの関係など、興味深く拝聴しました。

 後半は、作品142で、ベートーヴェンの死の年の1827年後半に作曲されたそうです。第1曲は、ヘ短調で、死への不安感が感じられます。激しく始まり、激しさの後に安らぎを繰り返し、最後は静かに終わりました。
 第2曲は、変イ長調で、ベートーヴェンのピアノソナタ第12番(葬送ソナタ)とよく似たメロディで始まります。弱-強-弱と繰り返し、途中3連譜の泉が沸き出て、大きなうねりを作り、穏やかさを取り戻します。訴えかけるように高ぶらせて、切々とした調べとともに曲が終わりました。
 第3曲は、変ロ長調で、「ロザムンデ」の主題による変奏曲です。聴き馴染みのある「ロザムンデ」の主題が提示され、次々と形を変えていきました。穏やかさ、優しさの中に曲が終わりました。
 第4曲は、ヘ短調で、つらさ、苦しさ、嘆きなどを感じさせながら、曲は様々に揺れ動き、混乱の中に曲が進みます。平穏を取り戻すも、心はそこにあらず、大きく乱れて、揺れ動き、あっけなく曲は終わりました。

 大きな拍手が贈られて、カーテンコールの後に、仲道さんのお話があり、当初はアンコールにベートーヴェンの「悲愴ソナタ」の第2楽章を演奏しようと思っていましたが、リハーサルで、今日のプログラムのアンコールには相応しくないと思い立って、手元の楽譜にあった「楽興の時」ヘ短調を演奏することに急遽決めたそうです。
 仲道さんが話をされている間に、ピアノに譜面台が設置されて、楽譜が置かれ、ゆったりと、穏やかに演奏を終えて、感動のリサイタルは終演となりました。

 しっかりと練られたプログラムであり、1曲ごとに詳細な解説を交えての演奏で、シューベルトの音楽世界をよく知ることができました。内容豊富で聴き応えある演奏会でした。
 仲道さんは、私とともに年輪を積み重ねてきたはずですが、美しさは(遠目では)変わることなく、エレガントな佇まいは永遠の女神のように輝いていました。
 曲の解説での上品で落ち着いた話し振りも麗しく、天使の囁きのようにすら思われ、胸がキュンと締め付けられるようでした。とても還暦過ぎとは思えません。年齢を超越した美しさは仲道さんならではでしょう。

 さて、来年春のテーマは「高雅な踊り」で、秋のテーマは「ラヴェルの狂気」です。来年の秋にも長岡に来演してくれるものと思いますので、楽しみにしたいと思います。

 良い音楽を楽しみ、分かりやすい解説を聞いて多少なりとも賢くなり、喜ばしい気分でホールを後にしました。帰りには某温泉に立ち寄ってリフレッシュし、心も軽やかに車を進め、快適なドライブで帰宅できました。


(客席:17-10、\3000)