りゅーとぴあ ジルベスターコンサート2023
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2023年12月31日(日) 15:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:原田慶太楼
ピアノ:亀井聖矢、ヴァイオリン:服部百音、オルガン:石丸由佳
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 
ウェルカム・オルガン演奏 (石丸由佳)
伊福部昭(和田薫編):SF交響ファンタジー
ゴジラの動機〜間奏部〜「ゴジラ」タイトルテーマ〜「キングコング対ゴジラ」タイトルテーマ〜「宇宙大戦争」夜曲〜「フランケンシュタイン対地底怪獣」バラゴンの恐怖〜「三大怪獣 地球最大の決戦」ゴジラとラドン〜「宇宙大戦争」タイトルテーマ〜「怪獣総進撃」マーチ〜「宇宙大戦争」戦争シーン

ラフマニノフ生誕150年 & 20世紀最高の作曲家たち

第1部
バーンスタイン(マソン編):ウエストサイド物語セレクション
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18 (亀井聖矢)
 (ソリストアンコール)
  リスト:ラ・カンパネラ

(休憩20分)
休憩時オルガン演奏 (石丸由佳)
ラインベルガー:オルガン・ソナタ第11番より 第2楽章「カンティレーナ」

吉松隆:りゅーとぴあファンファーレ
ハチャトゥリアン:剣の舞 (バレエ「ガイーヌ」より)
エルガー:青の挨拶 作品12 (服部百音)
ラヴェル:演奏会用狂詩曲「ツィガーヌ」 (服部百音)
 (ソリストアンコール)
  クライスラー:リチタティーボとスケルツォ より スケルツォ
ラヴェル:ボレロ (Noism)

(アンコール)
エルガー:「威風堂々」第1番 (オルガン:石丸由佳)
 

 りゅーとぴあのジルベスターコンサートは、2000年に始まって、以後4年ごとに開催されてきましたが、2020年はコロナ禍で開催されませんでした。
 その後も開催されずにウィズコロナの時代を歩み、新型コロナが5類に移行して社会生活の制限が撤廃された今年になって、2016年以来、7年ぶりに開催されることになりました。

 これまでのジルベスターコンサートは、22時に開演し、新年のカウントダウンをするのが恒例でしたが、我が家では、大晦日の夜は、仕事のとき以外は家族で過ごすことが習慣になっていましたので、自分だけ家を空けて参加するのがはばかられました。そのため、音楽好きの私でも、参加できたのは2008年のジルベスターコンサートの1回きりでした。
 今回は15時の開演で終演は17時20分とのことで、夕食の時間までに余裕を持って帰れますので、15年ぶり2回目のジルベスターコンサートに参加することにしました。

 過去5回のジルベスターコンサートの指揮は、すべて秋山和慶さんでしたが、今回は原田慶太楼さんです。原田さんは東京交響楽団の正指揮者ですので、新潟でもお馴染みですが、アメリカにも拠点を持ち、今日本で最も活躍している指揮者の1人です。東響以外の日本のオケへの客演も多く、その活躍は目覚しいです。秋山さんの後任としましては、この上ない指揮者といえましょう。
 共演するピアニストは、国内外で活躍する人気ピアニストの亀井聖矢さんで、6月のリサイタル以来、半年振りの新潟での演奏になります。
 ヴァイオリンで共演する服部百音さんは、TV番組等でしばしばお見かけする人気ヴァイオリニストですが、実際の演奏を聴くのは今回が初めてです。
 また、我らが石丸由佳さんもオルガン演奏で参加します。石丸さんは、今シーズンでりゅーとぴあ専属オルガニストの任期が終わり、残すは今日の演奏会と3月のラストリサイタルの2回しかありません。先日のクリスマスコンサートは聴けませんでしたので、今日の演奏会は貴重です。
 そして何より今回最も注目されるは、Noism です。新潟が世界に誇るダンスカンパニー・Noismと、新潟を準フランチャイズとする東京交響楽団との共演が、ついに実現します。これは記念すべきことであり、これを楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。もちろん私もその一人です。
 なお、これまでの5回は、すべてメゾソプラノの郡愛子さんの司会でしたが、今回はフリーアナウンサーとして新潟でお馴染みの佐藤智香子さんです。
 そして、今回のプログラムのテーマは、「ラフマニノフ生誕150年 & 20世紀最高の作曲家たち」で、ラフマニノフのほか、バーンスタイン、ラヴェル、ハチャトゥリアン、エルガー等の親しみやすい曲が選曲されています。

 ということで、魅力あるプログラム、参加しやすい時間帯、そして会員向けの割引販売もありましたので、早々にチケットを買って今日の日を待っていました。

 東響の皆さんは、29日のサントーホールでのノットさんとの第九を終えて、アメリカから駆けつけた原田さんや、独奏者ともども昨日に新潟入りし、昨日からリハをされたとのことです。仕事納めが新潟ということで、お疲れ様です。

 クリスマス前の寒波で、新潟市も大雪に見舞われましたが、その後の好天で雪は消え、穏やかな年末を迎えました。与えられた雑務をこなし、掃除を終えて、大晦日の特別収集のごみ出しをし、簡素な昼食を摂って早めに家を出ました。
 白山神社への参拝客で駐車場は混雑するかと思ったのですが、さすがに時間帯が早いですので、混雑はありませんでした。
 天候は次第に崩れてきて、怪しげな雲を見上げながら、りゅーとぴあ入りしました。ロビーは開場の列ができていましたので、私もその列に並んで入場しますと、ホワイエではCDやグッズ販売のほか、シャンパンの販売もあり、特別なコンサートへの期待が高まりました。
 開演前に石丸さんのウェルカム演奏がありますので、早めにホールに入場し、席に座ってこの原稿を書きながら開演を待ちました。
 ステージを見渡しますと、Noismとの共演用に、1階席の前方3列分がつぶされて、黒いステージに転換されていました。オケはステージの後方いっぱいに配置されており、本来はオケの後方に配置される打楽器群は、ステージ右端に配置されていました。
 拡張された黒いステージが、違和感とともに、いつもとは違う空気感を生んで、コンサートへの期待が高まりました。

 14時35分に、赤い衣装の石丸由佳さんが、助手を従えてオルガン席に登場し、ウェルカム・オルガン演奏として、石丸さんお得意の伊福部昭(和田薫編)のSF交響ファンタジーが演奏されました。
 ゴジラを始め、ちょっとグロテスクな音楽がホールを満たし、祝祭気分のジルベスターコンサートには違和感を感じなくもありませんでしたが、選曲に当たっては深い意味が込められているものと思います。演奏は素晴らしいもので、開演前の演奏にはもったいなく感じました。

 時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にニキティンさんが登場して大きな拍手が贈られました。
 オケのサイズは12型とコンパクトで、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置です。弦5部は、私の目視で 12-10-8-7-6 です。主要メンバーで姿が見えない人もあり、見慣れない客演者も見られました。
 実は、今日は同時刻にミューザ川崎でもジルベスターコンサートが開催されています。演奏は秋山和慶さん指揮によるMUZAジルベスター管弦楽団で、東響のメンバーを中心とするオケだそうです。
 東響は新潟と川崎に分かれて同時刻にジルベスターコンサートを開催しているということになり、メンバーの割り振りに苦労があったものと推測され、客演奏者が多いのも頷けます。

 原田さんが颯爽と登場して、バーンスタインの「ウエストサイド物語セレクション」で開演しました。原田さんは、ウエストサイド物語を見たことが、この道を志すきっかけになったとのことでした。
 原田さんの思い入れの強い演目ということもあり、切れが良く、躍動感に溢れた「かっこいい」音楽が流れ出ました。東響の美しい弦楽アンサンブルにうっとりとし、各パートともお見事。一気に祝祭気分を盛り上げました。

 ピアノが設置され、司会者(佐藤智香子さん)と原田さんとのトークがありましたが、ゲネプロ前に、りゅーとぴあ近くの蕎麦屋で、原田さん、亀井さん、服部さんで年越し蕎麦を食べたとのお話しがありました。
 そして、亀井さんが呼び出されて、2曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。ラフマニノフ生誕150年に合わせて、この曲が選曲されました。
 冒頭のピアノで表現されるロシア正教会の鐘の音から演奏に引き込まれ、強靭でありながらもクリアで繊細な響きを併せ持つ亀井さんのピアノに魅了されました。まさに亀井ワールドの炸裂です。
 亀井さんのパワーに溢れた音楽に原田さんが応えて、熱い音楽バトルが繰り広げられました。単にパワフルなだけではなく、ロシアの大地を想像させる雄大な音楽が、ロマンチックに美しく表現されました。
 第2楽章は、一転してメランコリックに演奏し、しみじみと心に響いてくる音楽に、思わず感動の涙が浮かんできました。何度も実演に接している音楽ではありますが、これほどに胸に迫り、心を揺り動かされてしまうとは予想しませんでした。
 第3楽章は、再び熱く燃え、亀井さんと原田さんのライブセッションという様相でした。互いに刺激し合って熱を帯び、一期一会の音楽を創り上げました。亀井さんは足を踏み鳴らしながら大きな身振りで全身を使って激しく演奏し、原田さんはそれに応えて、熱くオケを煽ってドライブし、それがさらに亀井さんの熱量を高めました。
 龍が天へと昇るかの如く、亀井さん、原田さん、東響とが三位一体となり、ハイスピードで竜巻の如く夢幻の世界へと駆け上がり、血沸き肉踊る音楽に否応なく興奮させられました。
 これほどの音楽が聴けるとは思いもよらず、期待の遙か上を疾走する音楽に魂を奪われました。ブラボーの声がこだまするホールの中で、私も力の限りに拍手を贈り、その演奏を讃えました。

 全力疾走して疲れきっているはずの亀井さんに司会者からインタビューがあり、アンコールに亀井さんの十八番といえる「ラ・カンパネラ」が演奏されました。原田さんも指揮台に座って聴き入っておられました。
 全速力で駆け抜けた後の疲れも感じさせずに、澄み切った音楽が泉のように湧き出てきました。亀井さんの魅力と素晴らしさを再認識し、この場に居れた幸せを噛み締めました。

 休憩時間となり、しばらくした後に石丸さんがオルガン席に登場し、ラインベルガーのオルガン・ソナタが演奏されました。しっとりとした曲を美しく演奏し、心穏やかに聴き入りました。こんな素晴らしい演奏は、休憩時間にはもったいなく感じました。

 拍手の中に団員が入場。原田さんが登場して、りゅーとぴあの委嘱作品である吉松隆の「ファンファーレ2001」で後半が開演しました。ファンファーレということで金管アンサンブルで始まりますが、後半は弦も加わって、美しく聴き応えある作品です。
 21世紀の幕開けを告げるファンファーレとして、2000年12月31日の第1回のジルベスターコンサートで初演された曲ですが、もっと聴く機会があると良いですね。

 続いてはハチャトゥリアンの「剣の舞」でしたが、スピード感に溢れ、スポーツカーで疾走するような音楽に、小気味良さを感じ、爽やかな興奮と感動をいただきました。原田さんのエネルギッシュな指揮に応える東響の素晴らしさに息を呑みました。

 原田さんと司会者の話があって服部百音さんの紹介があり、ブルーのドレス姿が麗しい服部さんが登場し、まずは「愛の挨拶」を、まさに挨拶代わりに演奏しました。最後は演奏しながら舞台から去っていくという演出で驚かせましたが、これは事前に原田さんとは打ち合わせていなかったそうです。
 司会者のインタビューでは、「愛の挨拶」は好きな曲ではなく、これまで演奏を避けてきて、今回初めて演奏したと話しておられましたが、そんなことを言っちゃって良いのかとハラハラしました。でも、好きでもない曲を演奏しているとは微塵も感じさせず、美しく爽やかな演奏で魅了しました。

 続いてはラベルの演奏会用狂詩曲「ツィガーヌ」です。これは服部さんの実力をまざまざと見せ付けられました。前半の独奏部分の、音量豊かに圧倒的なテクニックとともに繰り出される力強い音楽にノックアウトさせられ、その後のオケとのせめぎ合いに圧倒され、服部さんの凄さを否応なく感じました。
 大きな拍手に応えて、アンコールとしてクライスラーの「レチタティーボとスケルツォ」から「スケルツォ」が演奏され、超絶技巧に圧倒され、服部さんの魅力が全開となりました。(→ 演奏の様子
 原田さんの話では、服部さんは病気により長らく演奏できない日々が続いていましたが、病を克服されて、これほどの演奏ができるまでになったとのことです。そんな裏話など感じさせない渾身の演奏を聴かせてくれました。
 服部さんの演奏は、今日始めて実演で聴きましたが、想像以上の素晴らしさでした。ヴィジュアル先行かと勝手に誤解していた自分を恥じました。
 
 そして、プログラム最後は、いよいよNoismとの共演の「ボレロ」です。司会者が1階席に座っておられた金森さんをステージに呼んでインタビューがあり、修道院を舞台として、性と生をテーマにしたという振り付けのコンセプトなどが語られました。金森さんが席に戻って開演です。

 沈黙の中にNoism の9人が入場。井関さんは白い衣裳、ほかの8人は黒い衣裳でした。演奏開始とともに演技が始まりました。
 井関さんを中央にして踊る群舞の美しさ。狭いステージの制約はありますが、「ボレロ」の音楽とともに緊張感が徐々に高まっていきます。曲が進むにつれて、黒い衣裳の団員が、感染が広がるかのように順に衣裳を脱いで白い衣裳となり、どんどんと盛り上がりを見せて、感動のラストを迎えました。
 東響の演奏もさることながら、Noismの圧倒的なパフォーマンスにひれ伏しました。ベジャール版の「ボレロ」は映像で観たことがありますが、ベジャールに学んだ金森さんはそのエッセンスを取り込んで、さらななる高みへと昇華させ、見事な金森版ボレロを創り上げました。
 Noismの「ボレロ」といえば、コロナ渦中の自粛期間中に、ネット配信されたものがありましたが、当然ながら全く異なる作品であり、Noismのレパートリーとして末永く上演すべき作品だと思います。
 素晴らしい音楽と舞踊により、ホールを埋めた観客に大きな感動がもたらされ、スタンディングオベーションでその熱演を讃えました。
 カーテンコールでは金森さんも舞台に上がって、拍手に応えました。新潟にNoismありを、まざまざと見せ付けてくれた素晴らしいパフォーマンスに胸を熱くしました。

 オルガン席に石丸さんが着き、アンコールにエルガーの「威風堂々」が演奏されました。東響の「威風堂々」は、毎年夏に開催される「オーケストラはキミのともだち」で、毎回演奏されていますが、これまでの演奏とは全く異なり、スピードとエネルギーに満ち溢れ、聴く者の心にパワーを与えてくれました。
 終盤でオルガンが加わりますと、興奮も最高潮となり、音楽の素晴らしさ、音楽を聴く喜びを全身で感じました。今日の一連の演奏を象徴する躍動感と生命感に溢れた音楽に、ブラボーと大きな拍手で応えました。

 最後には出演者全員がステージに出てきて、1列に並んで拍手に応え、左右から赤いテープが破裂音とともに打ち出され、感動と興奮のジルベスターコンサートは終演となりました。

 りゅーとぴあ開館25周年を祝う一連の記念公演の最後を飾り、2023年を締めくくるに相応しい内容の濃いコンサートでした。
 この場に参加できた幸せに感謝し、熱い胸の高鳴りとともにホールを出ますと、外は冷たい雨が降っており、駐車場へと小走りしました。天候は崩れましたが、私の心は晴れやかでした。

(客席:2階C6-11、特別割引:¥9000)