藝大フィルハーモニア管弦楽団 ニューイヤーコンサート2023
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2023年1月8日(日)14:00 長岡市立劇場 大ホール
指揮:迫 昭嘉
ソプラノ:鈴木愛美、フルート:小山裕幾、ピアノ:大瀧拓哉
司会:長谷川正規
 
ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲
モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調 KV.314
リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S124/R455

(休憩20分)

J.シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」序曲
J.シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」より 公爵様、あなたのようなお方には
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
グノー:歌劇「ロメオとジュリエット」より 私は愛に生きたい
グノー:歌劇「ファウスト」からのワルツ
J.シュトラウスU:ワルツ「春の声」op.410
J.シュトラウスU:ピチカート・ポルカ
J.シュトラウスU:ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」op.324
J.シュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」op.314

(アンコール)
J.シュトラウスT:ラデツキー行進曲

 2023年最初のコンサートは、長岡市での藝大フィルハーモニア管弦楽団のニューイヤーコンサートです。新潟日報創業145年(創刊80周年)・長岡市立劇場開館50周年記念プレイベントという記念すべき演奏会です。(記念公演と謳うにはネームバリュー的にどうかなとは思いますけれど・・。)
 個人的には、藝大フィルハーモニア管弦楽団というより、長岡市出身の音楽家3人が出演するのが注目され、チケット発売早々に購入して楽しみにしていました。
 とはいえ、チケット発売時には今日の予定や天候がどうなるかは分かりませんでしたので、行けなくなることも考えて、チケットはS席ではなく、A席を購入しました。

 さて、藝大のオケといえば、藝大学生オーケストラはこれまで3回ほど聴いたことがありましたが、藝大フィルハーモニア管弦楽団を聴くのは今回が初めてです。
 このオケは、東京藝術大学に所属するプロ・オーケストラで、年2回の定期演奏会のほか、声楽科との合唱定期、オペラ研究部とのオペラ定期をはじめ、様々な公演を行っています。
 さらに、大学のオケですので、器楽科、声楽科、作曲科、指揮科など各科学生との演奏等で、学生教育にも関わっています。
 このオケの前身である東京音楽学校管弦楽団は、日本初の本格的なオーケストラで、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、交響曲第9番「合唱付き」、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」、ブルックナーの交響曲第7番、交響曲第9番を日本初演しているんだそうです。さすですね。
 そして、指揮の迫 昭嘉さんは、ピアニストとしてのお名前は存じ上げていましたが、指揮をされているとは知りませんでした。また、東京藝大の副学長という要職に就かれておられます。

 共演するソリストは、新潟の音楽好きなら知らない人はいないでしょう。ソプラノの鈴木愛美さんは、2019年のリサイタルのほか、様々な機会で聴かせていただいており、個人的には新潟のソプラノ歌手の中では一番聴いているかも知れません。
 フルートの小山裕幾さんはフィンランド放送交響楽団首席奏者として活躍していますが、2007年のリサイタル以来、これまで何度か聴かせていただいています。2020年5月には、所属するフィンランド放送交響楽団との凱旋公演が長岡市で開催されることになり、チケットを買っていたのですが、コロナ禍で中止になった残念な出来事もありました。
 また、ピアノの大瀧拓哉さんも何度も聴かせていただいています。直近では、昨年11月の新潟室内合奏団とのブラームスのピアノ協奏曲第1番の熱い演奏は記憶に新しいです。
 これら長岡市、いや新潟県が誇る音楽家が、藝大フィルハーモニア管弦楽団とどんな演奏を聴かせてくれるか、非常に楽しみです。

 今日は、天候は良いとは言えませんでしたが、小雨がぱらついたものの雪にはならず、この時期の新潟としましては、上等と言うべきでしょう。
 いつもの長岡遠征のときと同様に、国道116号線を南下し、大河津分水の橋を渡ってすぐに左折。信濃川沿いの道を与板へと進み、町を抜けて右折。広域農道をひたすら直進し、喜多IC手前で国道8号線に入り、すぐに左折して長生橋へと進みます。信濃川を渡って案内板に従って右折し、少し進めば右手に長岡市立劇場があります。
 この道は信号も少なく、快適なドライブで長岡入りできて便利です。何より高額な高速料金を払わないで済むのがメリットです。
 この道ですと、私の家から56km。11時前に家を出ましたが、途中で昼食を摂って、12時40分には駐車場入りできました。
 車内でしばし休憩して館内に入りますと、今年の10月で開館50周年を迎えるということで、ロビーの壁に過去の公演のポスターが飾れており、興味深く見て回りました。開館記念公演の第一弾(1973年10月25日)はN響の演奏会でしたが、その古いポスターが歴史を感じさせました。

 13時15分の開場とともに入場。受付でプログラムやチラシが入ったビニール袋が渡されましたが、その中に開館50周年記念としてチケットケースが入っていました。大ホールの緞帳をデザインしたものだそうです。ありがたく活用させていただきます。

 開演までの間、ホワイエの椅子に座ってこの原稿を書きながら開演を待ちました。となるはずでしたが、家にスマホを忘れてしまい、チラシの裏にこの原稿をメモ書きして時間をつぶしました。

 開演時間が近付いたところで席に着きました。私の席はステージ正面の30列目のA席です。ステージが良く見渡せて、このホールでは好きな場所です。客の入りは良くて、これだけ入れば大入りと言って良いでしょう。

 開演時間となり、団員が入場。最後にコンマスの戸原 直さんが入場して大きな拍手が贈られました。女性陣はカラフルなドレス姿で、新年の祝賀気分を盛り上げてくれました。弦5部は 12-10-8-6-4 で、通常の配置です。

 指揮者の迫先生が登場して、ウェーバーの「魔弾の射手」序曲で開演しました。ゆったりとした弦楽の序奏に導かれ、ホルンの美しいアンサンブルが物語の始まりを告げ、波乱の物語を音楽で奏で、大きく盛り上がって曲を閉じました。実力者揃いのオケの挨拶代わりの演奏で、ホールを埋めた聴衆の心を一気につかみまいた。

 ここで司会の長谷川さんが登場し、挨拶と曲目解説があり、以後長谷川さんの司会進行で演奏会が進みました。長谷川さんのMCの間にステージが整えられ、編成は小さくなって8型となりました。

 小山さんと迫さんが登場して、2曲目はモーツァルトのフルート協奏曲第2番です。小編成のオケの弦楽が美しく、柔らかなアンサンブルとともにフルートが歌い、踊り、冬の長岡に春風が吹きぬけるような爽やかな演奏に、うっとりと聴き入りました。さすが小山さんですね。

 ここで長谷川さんによる小山さんへのインタビューがあり、フルート協奏曲第2番は高校生のときに受けた学生音楽コンクールの課題曲だったこと、カデンツァは自作のものを毎回少しずつ変えていること、そしてフィンランドの正月の様子などが語られました。この間にステージが整えられてピアノが設置され、オケの編成は12型に戻りました。

 大瀧さんと迫さんが登場して、前半最後はリストのピアノ協奏曲第1番です。第1楽章は、力強い序奏に導かれてすぐにピアノが入りますが、力強い出だしとその後の弱音部での美しさで、大瀧さんの力量が如実に示されました。
 ロマンチックに歌い、美しい管や弦のソロと繊細に絡み合う第2楽章。切れ目なく、煌くトライアングルと駆け足する第3楽章。そしてこれまでのテーマを繰り返しながら次第に熱を帯び、フィナーレへと駆け上がった第4楽章。
 切れ目なく演奏される全楽章の中で、大瀧さんの独奏部分の素晴らしさが際立っており。期待にたがわぬ名演だったと思います。

 休憩時間にロビーに出ますと、友人にばったり。少ししかお話しできませんでしたが、この友人とは何故か県内各地で出会い、私の行動パターンと良く似ていて驚きます。ほかにも新潟市から遠征して来られた愛好家のお姿も垣間見えました。女性トイレには長い行列ができて、客席内にまで続いていてびっくり。それだけ盛況だったということでしょう。

 拍手のない中に団員が静かに入場。後半はいかにもニューイヤー・コンサートという演目が並んでいます。迫さんが登場して「こうもり」序曲で開演しました。新年の華やいだ雰囲気を醸しだすには最適な曲ですね。演奏も軽やかで美しく、ホールはウィーンの空気感に満たされました。

 長谷川さんが登場し、先ほど熱い演奏を聴かせてくれた大瀧さんへのインタビューがあり、この間にステージ転換され、指揮台左にソリスト用のスペースが作られました。

 クリーム色(?)のドレスが麗しい鈴木さんと迫さんが登場して、後半2曲目は「こうもり」からの有名なアデーレのアリアです。扇を手に持って、オペラの場面を見るかのようで、ここは鈴木さんの魅力が全開で、楽しく聴かせていただきました。

 ここで長谷川さんにより迫先生へのインタビューがあり、藝大フィルについてのお話がありました。音楽大学に所属するプロ・オケは世界でも珍しく、以前はパリ音楽院にもありましたが、現在ではローマのサンタ・チェチーリア音楽院のほか、あとはモスクワと東京藝大にあるだけだとお話しされていました。
 オケは学生をソリストに迎えてのモーニングコンサートを年に12回開催しているほか、藝大内でのコンサートが主体のため、今回のような学外でのコンサートは少ないのだそうですね。藝大出身の長谷川さんもお世話になったそうです。

 続いてはマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を美しく演奏し、聴衆をうっとりと夢見心地に誘いました。
 そしてピンク色のドレスに着替えた鈴木さんが登場し、グノーの「ロメオとジュリエット」からの「私は夢に生きたい」です。この曲は鈴木さんの十八番というべき曲で、様々な演奏会で何度も聴かせていただいておりますが、今回もオーケストラをバックに期待にたがわぬ歌声で魅了しました。

 長谷川さんによる鈴木さんへのインタビューがあり、ドイツ語でのアデーレのアリア、フランス語での「私は愛に生きたい」の歌い分けなどのお話しや、ウィーン留学時のウィーンの様子などを聴かせてくれました。この間にステージは元に戻されました。

 続いてはグノーの「ファウスト」のワルツを演奏。あまり聴く機会がない曲でしたが、ウィーンの賑やかな街の様子が髣髴されました。

 そして、ここからは J.シュトラウスが続いて、まさにニューイヤー・コンサートという演目になりました。「春の声」、「ピチカート・ポルカ」、「雷鳴と電光」という定番曲3曲を続けて演奏し、長岡市立劇場はウィーンのムジークフェラインに変わったかのようです。(そんなことはないですが、そういう気分に浸りましょう。)

 長谷川さんの最後のMCがあり、プログラムの最後はもちろん「美しく青きドナウ」です。これがないとニューイヤー・コンサートは終われませんものね。つかの間の優雅な気分に浸り、現実生活のストレスを忘れました。

 カーテンコールもほどほどに、ステージに団員が追加され、席に着くや否や、アンコールには外せない「ラデツキー行進曲」で賑やかにコンサートを閉じました。
 最後には今日のソリストを務めた小山さん、大瀧さん、鈴木さん、そして長谷川さんも登場して、盛大な拍手を受けて、新年を祝うに相応しい華やかなコンサートは全て終演となりました。

 長岡が誇る3人のソリストは、その実力を期待通りに遺憾なく発揮してくれました。藝大フィルは、今回はじめて聴かせていただきました。藝大に属するプロの音楽家によるオケなのでしょうが、実力的には在京の他のプロオケには及ばないかなと感じました。
 教育機関のオケですので、学生教育に軸足を置くのが当然であり、連日様々な商業的演奏活動をしている他のプロオケと比較するのも的違いかも知れませんね。

 また、いつものことながら、ホールの問題もありましょう。長岡市立劇場は典型的な多目的ホールであり、残響は短く、デッドな響きです。横幅が広いホールの構造も相まって、客席では直接音ばかりで、包み込まれるような残響を感じることはできません。
 ステージ前にスクリーンがあり、その奥でオケが鳴っているような印象でした。今回は正面ながら30列目と後方でしたので、実際の距離以上にステージからの距離感を感じました。

 終演予定時間が16時40分という内容豊富なコンサートであり、長岡遠征した甲斐がありました。気持ち良く2023年のコンサート通いのスタートを切ることができ、大きな満足感を胸にホールを後にしました。

 長生橋を渡り、喜多ICから国道8号線に入り、長岡花火館手前で左折して裏道に入り、ひたすら広域農道を直進して与板に入り、信濃川沿いを北上。
 分水・吉田市街の混雑を避けるため、すぐに国道116号線には乗らず、大河津分水沿いに北上し、弥彦山麓を走る県道2号経由で弥彦・岩室へと進み、農道に乗り換えて快適に帰宅できました。

 ここまで天候に恵まれて、穏やかな新年を過ごせています。このまま平穏な日が続くと良いのですが、冬はまだこれからが本番です。どうなりますやら。弥彦神社横を通過するときに、穏やかな1年になるようにと心の中で祈りました。

  

(客席:30-24、A席:3000円)