東京交響楽団第129回新潟定期演奏会
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2022年12月4日(日)17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:藤岡幸夫
ソプラノ:砂川涼子、バリトン:与那城敬
合唱:にいがた東響コーラス(合唱指揮:辻 博之)
パイプオルガン:石丸由佳
コンサートマスター:小林壱成
 
フォーレ:パヴァーヌ op.50(合唱付き)

フォーレ:レクイエム op.48(1893年版/ラター校訂)
      T イントロイトゥス(入祭唱)とキリエ
      U オッフェルトリウム(奏献唱)
      V サンクトゥス(聖なるかな)
      W ピエ・イエス(慈悲深きイエスよ)
      X アニュス・デイ(神の子羊)
      Y リベラ・メ(私を解き放って下さい)
      Z イン・パラディスム(楽園に)

(休憩)20分

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
      第1曲 眠りの森の美女のパヴァーヌ
      第2曲 おやゆび小僧
      第3曲 パゴダの女王レドロネット
      第4曲 美女と野獣
      第5曲 妖精の庭

ラヴェル:ボレロ

 11月6日に引き続いて、2ヶ月連続の東響新潟定期演奏会です。その分次回は3月26日と、長い冬休み期間が入ってしまいます。
 今回の指揮者は、新潟定期演奏会初登場の藤岡幸夫さんです。そして、プログラムは、フォーレとラヴェルというオール・フランス物です。

 藤岡さんの指揮は、生で聴くのは今回が初めてですが、毎週土曜日の朝8時半から放送中の、BSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」でお馴染みであり、毎回楽しく観させていただいていますので、勝手に親しみを感じています。番組では楽しいトークとわかりやすい解説が魅力であり、今日の演奏会でも、楽しめる演奏を聴かせてくれること間違いなしであり、期待が高まりました。

 さて、今日の演目をみてみますと、前半は合唱付でフォーレの2作品が演奏されます。パヴァーヌは、これまでの新潟定期演奏会では演奏されておらず、今回が初めてになります。
 また、レクイエムは、2002年10月の第18回新潟定期演奏会(指揮:大友直人)と2016年3月の第94回新潟定期演奏会(指揮:飯森範親)の2回演奏されており、今回が3回目となりますが、1893年版/ラター校訂は今回が初めてになります。ヴァイオリンは1人だけという通常と編成がかなり異なるこの版での演奏が楽しみでした。
 なお、東響以外も含めて新潟でフォーレのレクイエムが演奏されるのは、2018年9月の合唱団にいがた結成25周年記念演奏会以来となります。

 後半はラヴェルが2曲演奏されますが、マ・メール・ロアは今回が初めてです。ボレロは、今回と同様にフォーレのレクイエムとともに演奏された2016年3月の第94回新潟定期演奏会(指揮:飯森範親)以来で、今回は2回目となります。
 なお、新潟定期以外でも、2002年9月の東響ホリデーコンサート(指揮:下野竜也)、2008年12月のジルベスターコンサート(指揮:秋山和慶)で、東響は新潟で「ボレロ」を演奏しています。

 今日のプログラムは、昨日ミューザ川崎での名曲全集第182回と同じ内容であり、その模様はネットで無料配信され、来週まで見逃し配信も行われています。私も視聴させていただきましたが、期待通りの演奏であり、今日の新潟での演奏も楽しみでした。

 
 12月になり、新潟市にも初雪が降り、気温も下がって、一気に冬らしくなりました。昨日は天候が回復しましたが束の間であり、今日は再び天候が崩れて、朝から冷たい雨が降っていました。鉛色の冬空を見上げますと心も寒々としてしまいますが、雪にならないだけありがたいというべきでしょうか。

 今日は12時から新潟定期演奏会の日に恒例のロビーコンサートがあり、ヴァイオリンの土屋杏子さん、パーカッションの綱川淳美さん、ハープの景山梨乃さんの3人によるアンサンブル演奏がありました。今日の演目にもなっているマ・メール・ロアも演奏され、是非とも聴きたいところでしたが、心身の疲労が蓄積していましたので、ゆっくりと休養をとり、この公演に備えることにしました。
 元気ならば、ロビーコンサートを聴いた後、北区文化会館へと車をとばして北区フィルのファミリーコンサートを楽しみ、終了とともに大急ぎでりゅーとぴあに戻り、この演奏会に滑り込むということも考えるところなのですが、気力・体力の低下が進み、無理しないことにしました。


 ゆっくりと朝を過ごしてホームページを一旦アップしました。昼食後に雑務を片付けて、4時前に家を出て、風雨が強い悪天候の中にりゅーとぴあへと向かいました。

 11月16日のNDR北ドイツフィル以来、久しぶりのりゅーとぴあです。この間に聴きに来る予定だった公演がありましたが、諸般の事情で来れず、チケットを2枚無駄にしてしまいました。
 入館しますと、すでに開場が始まっていましたが、チラシ集めをしてから入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。
 ステージを見渡しますと、後方に各種打楽器が並び、左手にチェレスタが2台とハープが並んでいるのが目につきました。
 開演時間が近付くにつれて客席は埋まってきました。ステージ周りのブロックは合唱団席となったためもあってか、なかなかの盛況となりました。

 開演時間となり、拍手の中に合唱団とオケ団員が入場、全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスが登場して、大きな拍手が贈られました。
 合唱団は、ステージ左のEブロックにアルト、後方のPブロックにソプラノ、右のAブロックにテノールとバスが並び、前後は1列ずつ開けられて、ソーシャルディスタンスが取られ、全員マスクを着用していました。
 オケの配置は通常の並びで12型。弦5部は私の目視で 12-10-8-6-4 です。今日のコンマスは小林さん、次席はアシスタントコンマスの田尻さんです。
 廣岡さんが楽団長になられて、お姿を見られなくなったのは残念ですが、楽団の発展ために頑張っていただきたいと思います。

 藤岡さんが颯爽と登場して、1曲目はフォーレのパヴァーヌです。弦のピチカートに導かれて、相澤さんの美しいフルートで演奏が始まりました。
 木管の美しい音に引き続いて合唱が加わり、その透明感のある歌声がホールを満たし、私の汚れた精神が浄化されるようでした。この曲は合唱があると味わいが深くて良いですね。

 一旦団員が退場して、ステージが大きく転換され、弦の席はステージ中央に、ハープとともに、こぢんまりと配置されました。この間にオルガン席に石丸由佳さんが着いてスタンバイしました。

 2曲目はフォーレのレクイエムです。1893年版(ラター校訂)ということで、通常演奏されるオーケストラ版とは異なって、ヴァイオリンは1人のみです。
 団員が入場しましたが、弦は左側にヴィオラが4人+4人で8人、右にチェロが3人+3人で6人、その右にコントラバスが4人並び、ヴァイオリン独奏の小林さんは、コンマス席ではなく、ヴィオラ後方の左端に着きました。
 コンマス席にはヴィオラ主席の青木さんが着き、青木さんが立ち上がり、オルガンの音とともにチューニングとなりました。
 通常はオーボエのラ(A)の音でチューニングされるのですが、この曲にはオーボエは使用されておらず、オルガンでのチューニングになったものと思います。
 ヴィオラは4人ずつ2ブロック、チェロは3人ずつ2ブロック、ヴァイオリンは1人だけであり、こういう並びのオケはこの曲以外にはありません。そして、青木さんがコンマスを務めるというのも貴重な機会となりました。

 ソプラノの砂川さん、バリトンの与那城さん、そして藤岡さんが入場。ソプラノはステージ左後方、バリトンは指揮者の右に席を取りました。
 オケとオルガンの重厚な音に導かれて合唱が加わり、イントロイトゥスとキリエで開演しました。ヴァイオリンのない弦楽の柔らかな響きとオルガンの重低音が、荘厳な雰囲気を醸し出しました。
 オッフェルトリウムは、弦楽の美しいアンサンブルとともに合唱が入り、バリトンの与那城さんの朗々とした歌声が響き渡りました。透き通るような合唱とともにうっとりと聴き入りました。
 サンクトゥスでは、小林さんが立ち上がってヴァイオリンソロを演奏し、ハープとともに歌われる合唱の美しさに心奪われました。ホルンとともに大きく歌い上げた後、ヴァイオリンソロとともに曲を閉じました。
 ソプラノの砂川さんが立ち上がって、私が大好きなピエ・イエス。清廉な声質がこの曲にぴったりでした。ステージ後方で歌ったのも良かったです。
 美しい弦に導かれてアニュス・デイ。劇的な合唱の素晴らしさ。そしてオルガンの重低音。ホールならではの味わいでした。
 バリトンの与那城さんが立ち上がってリベラ・メ。合唱とともに、重々しく朗々とした歌声が荘厳な空気の中にホールに響き渡りました。
 そして、終曲のイン・パラディスム。ハープと小林さんのヴァイオリン、低弦のピチカートで天上の楽園へと導かれました。小林さんはハープの横で座って演奏していましたが、最後は起立して演奏し、安らかな気分の中で曲を閉じました。
 ホールは感動に包まれ、大きな拍手で、独唱者と合唱団、そしてオルガンの石丸さんを讃えました。合唱指揮の辻さんもステージに呼び出されて合唱団の健闘を讃えました。
 コロナ禍の中、今日の日のために練習が積まれ、期待にたがわぬ美しいハーモニーでフォーレの世界を具現化したにいがた東響コーラスの素晴らしさは特筆されます。そして終始大活躍のオルガンの石丸さんもご苦労様でした。

 休憩時間にステージが元の状態に整えられ、後半最初はラヴェルのマ・メール・ロアです。マザー・グースを題材に作曲されたピアノ連弾の組曲の管弦楽版です。オケは12型に戻り、チェレスタが2台とハープが左に並んでいます。
 藤岡さんが登場して演奏開始です。相澤さんでなく、高野さんのフルートで第1曲の演奏が始まりました。その後の管楽器の美しい音色と深遠でとろけるような弦楽の響き。どれをとっても極上の響きであり、東響の素晴らしさが再認識されました。
 引き続いての第2曲も、管楽器の柔らかな響きと、よどみなく流れ出る弦楽のクリアな響きに魅了されました。深遠な森の中に迷い込んだかのようであり、コンマスとピッコロによる鳥の鳴き声にも感嘆しました。
 第3曲は、ピッコロや銅鑼、チェレスタなどが中国的な響きを醸し出し、軽やかに踊る多彩な楽器の響きの美しさに心奪われ、ラヴェルのオーケストレーションの見事さを実感しました。
 第4曲は、朝霧のように美しくたなびく弦にクラリネットが絡み合い、コントラファゴットの重低音がアクセントを付け、幽玄な世界が眼前に広がりました。
 第5曲は、弦楽の美しいアンサンブルにうっとりと酔いしれました。コンマスやヴィオラのソロも美しく、朝もやが立ち込める深い森に太陽の光が差し込み、眠れる森の美女が目を覚まし、明るさの中に盛り上がって物語を閉じました。
 爽やかな感動をホールにもたらし、大きな拍手が贈られました。藤岡さんは各奏者を讃えて起立させ、客席からも負けじと大きな拍手が贈られました。

 オケの編成が大きくなり、最後はボレロです。今日の公演のチラシでも一番大きなフォントで曲名が書かれており、メインといいますか、集客の要としてすえられた曲と思われます。
 弦は増強されて14型となり、ソロをとる多彩な楽器が加わり、指揮者前にスネアドラムが着席しました。ステージ上にびっしりと並んだオーケストラは視覚的にも壮観です。
 藤岡さんが登場して、小音量で刻むスネアドラムのリズムに相澤さんのフルートが加わって演奏開始です。クラリネット、ファゴット、小クラリネット、オーボエと、順次各楽器がソロを取って演奏が進みました。難関のホルンのリズムもばっちり。アルトサックスにソプラノサックスと、通常のオケでは出番が少ない楽器が加わり、どんどん音量を増していきます。聴かせどころのトロンボーンもお見事。ピチカートだった弦がメロディを奏で、オケはひたすらクレッシェンドし続け、どんどんと坂道を上り続けます。
 曲の構造上、否応なく盛り上がり、強制的に感動させられますが、各奏者の素晴らしい演奏技術があってのことです。
 最後は大音量で打楽器群が打ち鳴らされ、豪華絢爛で大音量のオーケストラサウンドがホールを満たし、感動と興奮の中に曲を終えました。東響の底力を見せつけるにふさわしい素晴らしい演奏でした。
 演奏が終わるとともに大きな拍手が湧き上がりました。藤岡さんによりソロを取った各奏者が順に起立を促され、そのパフォーマンスを讃えました。カーテンコールが繰り返されて、最後にスネアドラムをもう一度讃えて終演となりました。

 前半も後半も、期待にたがわぬパフォーマンスであり、藤岡さんの曲作りの素晴らしさ、それに見事に応えた東響の素晴らしさに感動しました。前半でのにいがた東響コーラスの頑張りも賞賛したいと思います。

 今日は親しみやすく、わかりやすい演目でもあり、ゆったりとした気持ちで演奏会に臨むことができました。前半は心が洗われるような清廉な音楽に心が清められ、後半はラヴェルのオーケストレーションの素晴らしさに酔いしれました。最後は理屈抜きに高揚させられ、明るい気分でホールを後にすることができました。まだ少し早いですが、今年を締めくくるにふさわしい、素晴らしい演奏会でした。
 

(客席:2階C*-**、S席 定期会員:¥6300)