新潟セントラルフィルハーモニー管弦楽団第7回演奏会
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2021年3月14日(日) 14:30 新潟市秋葉区文化会館
指揮:磯部省吾
ヴァイオリン:鍵冨弦太郎
 

ロッシーニ:「アルジェのイタリア女」序曲

ベートーヴェン:交響曲第8番

(休憩15分)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

(アンコール)
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番より
        第3曲 “ラルゴ”
クライスラー:愛の悲しみ

 新潟セントラルフィルは、新潟県内で活躍するプロの演奏家とハイレベルなアマチュア演奏家が結集して、2011年に結成されました。
 当初は県央地区でのバレエ公演での演奏のみでしたが、単独のオーケストラ公演として、2014年8月にデビューコンサートを開催しました。その演奏会は私も聴かせていただきましたが、アマオケとは一線を画したプロのサウンドに魅了されました。

 以後定期的に演奏会を開催し、新潟の演奏家を独奏者に迎えての協奏曲シリーズ(新潟のアーティストたち)やベートーヴェンの交響曲演奏シリーズなど、意欲的なプログラムで楽しませてくれています。演奏は正にプロであり、新潟県内最高水準の演奏を聴くことができます。

 昨年の第6回演奏会は、運良く新型コロナ禍直前に開催することができて、渋谷陽子さん独奏によるサン=サーンスのチェロ協奏曲に胸を熱くしたことが思い出されます。
 あれから1年が過ぎ、今年も無事開催できますことは喜ばしいことと思います。今回は新潟出身で全国的に活躍されている鍵冨弦太郎さんとのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲がメインプログラムになっています。

 新潟市出身の鍵冨さんは、12歳で東京交響楽団と共演し、第72回日本音楽コンクール第1位など華々しい経歴を有し、CDをリリースしたりなど活発な演奏活動をされています。新潟は女性ヴァイオリニストの活躍が目立ちますが、男性ヴァイオリニストとしては貴重な存在です。

 鍵冨さんは新潟で定期的にコンサートを開催されており、私も何度か聴かせていただいていますが、2017年11月のコンサートが最後で、3年4ヶ月ぶりになります。毎回女性ファンが多く来られていて、人気のほどが伺えます。ファンクラブもあるようですね。
 オーケストラとの共演としては、2008年10月の東京交響楽団第50回新潟定期演奏会に、りゅーとぴあ開館10周年記念として出演され、ドミトリー・キタエンコの指揮で、今日と同じチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏しています。
 そのときは東響の相手としては役不足感も否めませんでしたが、あれから13年がたち、今度はどういう演奏を聴かせてくれるのか期待されました。

 
 今日は朝から冷たい雨が降り続き、肌寒さも感じました。春の訪れも足踏みで、ちょっと残念な日曜日になりました。午前中は某所で仕事でしたが、昼には終わり、早めに秋葉区文化会館に向かいました。

 ロビーで休憩し、この原稿を書いているうちに開場待ちの列が出来始めましたので、私も列に並びました。当初14時の開場予定でしたが、早められて13時50分の開場となりました。
 客席は着席できない席が指定されていましたが、隔席ではなく所々であり、2〜3席ずつ連続して着席する形でした。開演時間が近付くに連れ客席は埋まり、かなりの混雑となりました。ステージでは小武内さんが音出ししていて、ファゴットを聴きながら開演を待ちました。
 メンバー表を見ますと、新潟を代表する演奏家が結集しており、新潟県内では最強のオケは間違いありません。コンマスは清水俳二さんと加藤礼子さん、第2ヴァイオリン主席は庄司愛さん、ヴィオラ主席は佐々木友子さん、チェロの主席は渋谷陽子さん、コントラバスは別森麗さんという具合です。

 時間となり、拍手のない中に団員が静かに入場。弦5部は、6-6-4-4-2で、ヴァイオリンが左右に別れる対向配置です。コントラバス、チェロが左、ヴィオラが右です。コンマスは、清水さんです。
 潟響の美しきコンミス松村さんが第2ヴァイオリン2列目にいたりして、もったいなく感じます。若手のホープの五來さんも末席におられました。

 磯部さんが登場して、1曲目はロッシーニの「アルジェのイタリア女」序曲です。最初の1音を聴いて、音の素晴らしさに感動しました。まさにプロの音であり、アマオケとは大違いのサウンドです。
 大太鼓の重低音に支えられて、小編成ながらもどっしりとしたサウンドに聴きほれていましたが、その分明るさ、軽快さは少なかったかもしれません。地中海というより日本海という感じでしょうか。これはこれでいい演奏でした。

 続いてはベートーヴェンの交響曲第8番です。小編成のオケの機動性が発揮された小気味良い演奏だったと思います。オケのサウンドも、ちょっと小振りなこの曲にぴったりでした。軽快に、爽やかに駆け抜けて、この曲の魅力を知らしめてくれる演奏だったと思います。
 弦のアンサンブルのほか、管楽器の皆さんも良い仕事をしていました。特に第3楽章のホルンの合奏がお見事でした。そんなこともあってか、磯部さんはカーテンコールでは真っ先にホルンを起立させていました。

 後半は、いよいよメインのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲です。コンマス(コンミス)は加藤さんに交代しました。独奏者用の譜面台が設置されタブレット式の楽譜がセットされていました。
 加藤さんは楽譜を念入りにチェックされていて、なかなかチューニングが始まらないので心配しましたが、後席から促されるように加藤さんが立ち上げってチューニングとなりました。

 黒シャツがかっこいい鍵冨さん、そして磯部さんが登場し、演奏開始です。結論から言って、これは期待以上の素晴らしい演奏でした。
 抜群の演奏技術に支えられて、燃え上がるようなヴァイオリン。力強さと情熱にあふれ、グイグイと演奏に引き込まれました。ヴァイオリンとオケとが互いにせめぎ合い、鬼気迫るような演奏に息を呑みました。

 これまで鍵冨さんの演奏を何度か聴かせていただいたことがありましたが、どこか冷めた印象を感じることが多く、これほどまでに情熱があふれ、熱気を感じさせる演奏は初めてのように思います。
 興奮の第1楽章の後にチューニングがあり、感動からクールダウン。第2楽章をしっとりと歌い、再び躍動する第3楽章。エンディングへ向けてエンジン全開で駆け上がりました。
 独奏者もオーケストラも、新潟の演奏家だけでこれほどの演奏を聴かせてくれるとは、たいしたものだと思います。まさかここまでやってくれるとは期待しておらず、うれしい誤算でした。新潟のプロ集団のなせる業に感激しました。

 本来ならブラボーの嵐となるはずの見事な演奏でしたが、コロナ禍にあって声は出せず、ホールを埋めた聴衆は精一杯の拍手で演奏を讃え、感動に感謝しました。

 アンコールにバッハをしっとりと演奏したあと、小編成(2-2-2-2-1)の弦楽アンサンブルをバックに「愛の悲しみ」を情感豊かに演奏し、感動の公演を締めくくりました。

 外に出ますと、天気は良くなく肌寒さを感じましたが、いい演奏を聴いて心は熱々です。大きな満足感を胸に家路に着きました。

(客席:6-16、¥3000)