東京交響楽団新潟特別演奏会 「2020霜月」
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2020年11月1日(日) 17:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:飯森範親
コンサートマスター:水谷 晃
 

ボロディン:だったん人の娘達の踊り、だったん人の踊り

ムソルグスキー:はげ山の一夜

チャイコフスキー:大序曲「1812年」

(休憩:20分)

チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」

 新型コロナ禍により今シーズンの東響新潟定期演奏会は全てキャンセルされ、新潟特別演奏会として開催されています。今回は、当初予定されていた第122回新潟定期演奏会に代わって、新潟特別演奏会「2020霜月」として開催されました。

 前回の9月の演奏会は「2020中秋」として開催されましたが、チケット販売が直前でしたし、ネット販売だけで窓口販売がなかったりと、高齢者が多い従来からの古い定期会員にとってはチケット購入しにくく、ネットに疎い年配者は排除された形となり、集客は過去最低だったと思います。

 今回は窓口販売が再開されましたし、人気の飯森さんによる親しみやすい名曲コンサート的プログラムですので、集客が期待できると思われました。
 聴き応えあるロシアの定番名曲がプログラムされており、オーケストラの醍醐味を味わうには絶好の機会ですので、特に若い人たちに是非とも聴きに来ていただきたいと思っていました。

 新潟定期(今年は特別演奏会)は、前日に東京で演奏したプログラムを新潟にそのまま持ってくるのが売りなのですが、今回のプログラムは新潟だけの独自のプログラムです。
 東響の皆さんは、昨日は府中の森芸術劇場で、下野竜也さんの指揮で全く別の内容のコンサートをこなしての新潟入りです。プロとはいえ、ご苦労なことと思います。でも、リハーサルはどうしているのでしょうね。

 今回のプログラムは、曲目的には当初に予定していた定期演奏会の内容と同じですが、共演予定だったバリトンのヴィタリ・ユシュマノフ、新潟市ジュニア合唱団、にいがた東響コーラスの出演がなくなりました。
 バリトン&混声合唱入りの「だったん人の踊り」、バリトン&児童合唱&混声合唱入りの「はげ山の一夜」、児童合唱&混声合唱入りの「大序曲1812年」はこれまで聴いたことがなく、指揮が飯森さんとくれば大爆発必至の演奏が期待でき、今シーズン最高の楽しめるプログラムで期待していました。

 残念ながらバリトンや合唱との共演がなくなり、通常のオケだけの演奏になってしまいましたが、指揮は飯森さんで変更はありませんから、期待通りのエネルギー溢れる演奏が聴けるものと楽しみにしていました。

 ちなみに、演目があまりにも名曲過ぎるためか、これまでの東響新潟定期で取り上げられることはなく、チャイコフスキーの「悲愴」が2012年9月の第73回新潟定期(指揮:ウィグルスワース)で取り上げられたのみです。
 ボロディンの2曲は、偶然にも8月の新潟市ジュニアオーケストラ教室第39回演奏会で、子どもたちが素晴らしい演奏を聴かせてくれています。今度はプロの技に期待しましょう。
 また、「はげ山の一夜」を聴くのは、2019年7月の北区フィル第8回定期演奏会以来であり、「大序曲1912年」を聴くのは、2009年6月の新潟交響楽団第84回定期演奏会以来ですので久しぶりです。


 実は、今日は当初の予定では仕事で聴けないはずだったのですが、数日前に急に予定が変更になり、幸いにも聴きに行けることになりました。2日前に急いでチケットを購入し、このコンサートを楽しみに待ちました。

 本来なら、昼の東響ロビーコンサートで、コンマスの水谷晃さんとチェロ主席の伊藤文嗣さんによるヴァイオリンとチェロの素晴らしい演奏に感動し、その興奮も冷めぬまま、このコンサートに臨むはずだったのですが、体調不良のため休養を取り、このコンサート1本にしぼりました。


 今日から11月。気温は下がり、暖房が欠かせない季節となりました。今日は秋晴れとはいかず、朝は日がさしていたものの次第に雲が広がってきました。
 ゆっくりと休養を取り、曇り空のなか、りゅーとぴあへと車を進めました。田んぼ道から見える飯豊連峰の山頂には白く雪が積もり、南に目をやりますと、中越の山々の山頂も雪化粧していました。季節は晩秋から初冬へと進んでいることを実感しました。

 白山公園駐車場に車をとめ、りゅーとぴあへと歩きましたが、公園の木々は、今を盛りと赤く色付き、落葉も始まっていました。過ぎ行く秋に寂しさを感じつつ、その姿を眼に焼き付けました。

 9月27日の新潟特別演奏会以来、ずいぶんと久し振りのりゅーとぴあです。これけだけご無沙汰するなんて、コロナ禍前には考えられないことです。
 体温チェックと手の消毒をして入館。劇場ではお笑い系の公演があり、そちらも賑わっているようでした。チラシ集めをしていますとちょうど開場時間となり、列に並ぶこともなくスムーズに入場しました。

 ホールに入りますと、ステージでは、コントラバスの皆さんが音出しをしていました。その後、クラリネットの吉野さんが出て来られ、そのお姿同様に美しい音を響かせていました。ホール内各所にテレビカメラが配置されていましたが、収録して公開されるのでしょうか。
 今日の席は、いつものCブロックではなく、2階サイド席のDブロック右端です。ここも好きな場所です。客席にはほぼ満遍なく客が入り、なかなかの盛況と言えましょう。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスが登場して、一段と大きな拍手が贈られました。コンマスは水谷さん、次席は廣岡さんです。
 飯森さんのときは対向配置の場合が多いのですが、今回は通常の配置です。弦は14型で、弦5部は、私の目視で 14-12-10-8-6 です。

 飯森さんが颯爽と登場し、最初はボロディンの「だったん人の娘達の踊り〜だったん人の踊り」です。切れの良い迫力ある演奏に、ホールの空気は一気に飯森さんのものとなりました。「だったん人の踊り」でのヴィオラの刻むリズムを聴いて、ヴァイオリンとヴィオラが左右に分かれたほうが演奏効果が高く、やはりこの配置が合っているんだなあと納得しました。
 プロの演奏は当然素晴らしく、8月のジュニアオケの演奏と比較するのもばかげているのですが、天と地ほどの差などはなく、ジュニアオケも頑張っていたんだなあと、その実力を再認識できたようにも思いました。
 オーケストラだけでも十分楽しめた演奏でしたが、当初予定していたバリトンと混声合唱入りだと実際のオペラを観るかのように、もっと迫力があり聴き応えがあったものと思います。ちなみにこのオペラは、2008年2月に1度だけ実演(ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場)を観たことがありました。

 飯森さんはステージから下がることなく、次のムソルグスキーの「はげ山の一夜」の演奏が始まりました。これも当初は、バリトン、児童合唱、混声合唱入りの予定だったのですが、オーケストラだけになりました。
 通常演奏されるこの曲は、リムスキー=コルサコフによる編曲版ですが、この版にはバリトンも児童合唱も混声合唱も出てきません。となりますと、当初予定していたのは、それ以前の別の編曲版ということになりましょう。未完となったオペラ版でしょうか。
 リムスキー=コルサコフ版以外の演奏としては、ムソルグスキーの原典版をアバドの指揮での録音で聴いたことがありますが、それ以外の編曲版は聴いたことがありません。バリトンや合唱が加わるとどうなるのか興味深かったですが、今回の演奏は、そんな思いなど払拭するような素晴らしい演奏でした。オケだけで十分と思わせる迫力ある演奏もさることながら、最後に静かに鳴り響く鐘も胸にしみました。

 飯森さんが一旦ステージを降りて、前半最後はチャイコフスキーの「大序曲1812年」です。この曲はナポレオン率いるフランス軍をロシア軍が打ち負かすという壮大で華やかな曲であり、難しいことなど言わず、単純に大爆発してくれれば最高な曲です。
 ヴィオラとチェロで演奏される最初の導入部は、ロシア正教会の聖歌ですので、当初はこの部分に合唱を加える予定だったものと思います。これも聴きたかったですが、オケのみでも期待通りの演奏でした。東響のメンバーの頑張りが一番ではありますが、飯森さんならでは曲作りもありましょう。こちらの期待を決して裏切らないダイナミックな演奏は、飯森さんならではと思います。ホール内に大砲がとどろき、感動と興奮で、今日は前半だけでもいいやという思いすら感じました。

 休憩時間にステージがさっぱりと整えられ、後半は「悲愴」です。第1楽章冒頭の重々しい序奏から東響の素晴らしさを感じ、演奏に引き込まれました。甘美な第2主題を思いっきり歌わせ、pppppp(ピアニシシシシシモ)から強烈な一撃で展開部に入る一番の聴きどころもばっちりでした。
 第2楽章のワルツは物悲しさを秘めながらも優しく歌い、第3楽章の壮大な行進曲は期待通りに大爆発。第4楽章がより一層引き立ちました。飯森さんが作り出すこれでもかと攻め込む嘆き節に、胸がえぐられるようでした。
 低弦の響きが静寂の中に消え、飯森さんが手を下した後の10数秒の沈黙が、今日の演奏の素晴らしさを物語っていたように思います。

 さすがに飯森さんは期待を裏切りません。そして東響の各パートの皆さんは最高のパフォーマンスで答えてくれました。オーケストラの醍醐味を味わえた素晴らしいコンサートでした。大きな満足感を胸に抱き、家路に着きました。

  

(客席:2階D5-30、S席:¥6000)