山本真希オルガンリサイタルシリーズ グレンツィング・オルガンの魅力 No.26
  ←前  次→
2019年12月14日(土) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
オルガン:山本真希
合唱:ヴォーカル・アンサンブル・カペラ
 
J.S.バッハ:クラヴィーア練習曲集 第3部(ドイツ・オルガン・ミサ)

前奏曲 変ホ長調 BWV522/1

コラール(単旋律聖歌):主よ、永遠の父である神よ
主よ、永遠の父である神よ
キリスト、全世界の慰め BWV669
主よ、聖霊である神よ BWV671

コラール(単旋律聖歌):いと高きところには神のみに栄光
いと高きところには神のみに栄光 BWV676

ヨハン・ヴァルター:これこそ聖なる十戒
これこそ聖なる十戒 BWV978

ヨハン・ヴァルター:私たちはみな唯一の神を信じます
私たちはみな唯一の神を信じます BWV680

(休憩20分)

ヨハン・ヴァルター:天におられる私たちの父よ
天におられる私たちの父よ BWV682

ヨハン・ヴァルター:主キリストはヨルダン川に来て
主キリストはヨルダン川に来て BWV984

ヨハン・ヴァルター:深い苦難から私はあなたに叫びます
深い苦難から私はあなたに叫びます BWV686

ヨハン・ヴァルター:イエス・キリスト、私たちの救い主
イエス・キリスト、私たちの救い主 BWV688

フーガ 変ホ長調 BWV552/2
 

 絶大な人気を誇る山本真希さんですが、今年度でりゅーとぴあ専属オルガニストを退任されます。リサイタルも残すところあと2回です。山本さんファンとしましては、何としても聴きに行かねばなりません。

 リサイタルも今回で26回目となります。今回のプログラムはバッハのクラヴィーア練習曲集第3部です。クラヴィーアとは、クラヴィコード、チェンバロ、オルガンといった当時の鍵盤楽器一般を指し、クラヴィーア練習曲集の第1、2、4部はチェンバロのための曲集で、第3部がオルガンのために書かれた曲集です。
 今日の演奏会では、オルガン演奏の前に作品のもととなったコラールが、ヴォーカル・アンサンブル・カペラによって歌われるというのが注目されます。
 この曲集は、9月23日の「第9回山本真希チャリティーオルガンコンサート」で演奏されており、聴く機会がありましたが、今回はりゅーとぴあが誇る大オルガンで、どんな演奏を聴かせてくれるか楽しみでした。

 昨夜は今シーズン最後の忘年会が月岡温泉であり、飲みすぎたわけではありませんが、ちょっと疲れ気味。夕方まで家で休息し、おもむろにりゅーとぴあへと向かいました。

 りゅーとぴあに着きますと、ちょうど開場が始まっていました。隣の劇場ではNoismの公演が行われており、同時刻の開場で、長い列ができていました。

 いつもは3階の左サイドに席を取るのですが、今回は合唱も加わりますので、3階正面中央最前列に席をとりました。客の入りとしましては、いつものリサイタル程度でしょうか。ステージ上に中央に譜面台と小さな足台、左手に白い椅子が11脚並べられていました。

 時間となり、上が赤、下が黒の衣裳の山本さんが、助手を伴って登場し、前奏曲で開演しました。いきなりのホールいっぱいに響くオルガン。さすがにりゅーとぴあのオルガンを知り尽くした山本さんだけあって、美しくも重厚な響きでホールを満たしました。正面の席ということもあって、左右から包み込まれるような感覚と、皮膚が振動するような豊かな音量に、心が揺さぶられ、圧倒されました。

 続いてステージに黒い衣裳のヴォーカル・アンサンブル・カペラの皆さんが静かに登場しました。本来12人(女声3人、男声9人)のはずですが、リーダーである音楽監督の花井哲郎氏がインフルエンザに罹患したとのことで、11人での出演になりました。さらに他の1人も都合により出演できないとのことで、代役の出演となりました。

 ステージ中央のわずかに左寄りに、背の丈以上の高い譜面台が置かれ、それを取り囲むように合唱の皆さんが密着するように集まりました。背の低い人は足台に載り、全体が同じ高さになるように調整しているようでした。

 静かにコラールが歌われ、濁りの全くない清らかな歌声は、聴く者の心に響きました。こんな素晴らしいヴォーカル・アンサンブルが日本に存在したなんて、驚きであり、感動でした。

 以後、オルガン音楽の元になったコラールの斉唱の後にオルガンが演奏されるというスタイルでリサイタルは進行しました。オルガン演奏の間は、合唱の皆さんは椅子に着席し、オルガン演奏が終わると静かにステージ中央に出て歌うというスタイルでした。曲毎に若干編成が変わり、女声が加わらないこともありました。この間に拍手はなく、静寂がホールを包み、コンサートホールは教会の聖堂となり、ミサが執り行われているかのようでした。

 後半も同様に演奏が進められ、最後にフーガを演奏して終演となりました。カーテンコールでは山本さんはステージに下りてきて、合唱の皆さんとともに拍手を受けておられました。
 ステージ中央に来るよう促されていましたが、端っこでつつましくしているのがいかにも山本さんらしく、ますます好きになってしまいます。

 私はキリスト教徒でもなく、かといって仏教徒というほど信心深くもなく、演奏会があると聞けば、教会にも寺院にも出入りするといういい加減な人間なのですが、今日はにわかキリスト教徒となって、汚れきった私の精神が清められたようでした。
 1曲ごとの細切れの演奏会でなく、ひとつの曲集をまとめて“流れ”として聴くというのは良かったと思います。さらにコラール演奏を加えることで、よりいっそうオルガンが引き立ち、厳粛で荘厳な雰囲気を醸し出し、聴く側の意識も高め、より深く音楽の中に身を置くことができました。

 円熟さを増し、人柄が染み出てくるかのような優しく包みこむ山本さんのオルガン。りゅーとぴあと一体化としたかのような安心感を感じながら音楽に浸れます。

 そして今日の収穫は、ヴォーカル・アンサンブル・カペラの素晴らしさ。音楽監督が急遽不在という緊急事態にもかかわらず、これほどまでに清廉で心打つ音楽を聴かせてくれるなんて・・。いい演奏家に出会えた幸せを感じました。

 山本さんのリサイタルもあと1回になりました。今後どのようなポジションで、どのような活動をされるのか知る由もありませんが、新潟での活動を続けてほしいなあと、ファンは勝手に考えています。
 3月15日のラストリサイタルには、山本さんの功績を讃えるためにもみんなで聴きに行きましょう。満席にして送り出そうじゃないですか。

  

(客席:3階:I 1-9、¥3500)