音楽の花束 鍵盤が繋ぐもの 
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2019年9月22日(日) 14:00 だいしホール
 
ピアノ、クラヴィコード:山際規子
箏:奥村京子、 ソプラノ、パーカッション:風間左智、
リコーダー、テノール:林 豊彦、ガンバ 他:白澤 亨
 
第1部 天正遣欧少年使節団を讃えて

フレスコバルディ:ベルガマスカ 〜<音楽の花束>から
ジョスカン・デ・プレ:千々の悲しみ
作者不詳:ロドリゴ・マルティネス
作者不詳:おお、輝ける月
作者不詳:マイティネスにとっては
ファン・バスケス:何でお顔を洗いましょうか?
オラツィオ・ヴェッキ:知ってるよ、誰が楽しい時間を過ごしているか
アントニオ・デ・カペソン:騎士の歌による変奏曲
八橋検校に基づいて:ファンタジア〜Credoと六段の調べ
松本英明:BLOOM

(休憩15分)

第2部 望郷そして異国への憧れ

ショパン:マズルカ Op.68-4
ショパン:バラード第1番 ト短調 Op.23
ショパン:バラード第2番ヘ長調 Op.38
ドビュッシー:カノーブ <前奏曲集第2集>から
ドビュッシー:版画   塔、グラナダの夕べ、雨の庭
ドビュッシー:喜びの島

 古町から急ぎ足でだいしホールに到着。とうに開場時間は過ぎていましたが、入場に手間取っているらしく、開場の列が階段下まで長く伸びていました。
 ホール前方の入り口だけからの入場というのはこれまでになく、受付の手順も慣れていないようでしたが、これもご愛嬌ということでしょうか。客の入りは良くて、ほぼ満席といってよいでしょう。

 今日は山際規子さんの満を持しての初リサイタルだそうです。しかし、チラシの写真は山際さんですが、コンサート名は「音楽の花束」で、山際さんの名前は冠されていません。山際さんの奥ゆかしさでしょうか。
 前半は多彩なゲストとの共演、後半が山際さんのピアノ独奏でというプログラムです。ちょっとコンサートの趣旨がよく分からず、チケットも買っていなかったのですが、多彩な共演者にも興味があり、聴きに行くことにしました。

 前半は「天正遣欧少年使節団を讃えて」というタイトルでのプログラムです。ヨーロッパから帰国した使節団が豊臣秀吉の前で演奏したと想定される楽曲の中から選曲されました。
 私は全く不勉強で知らなかったのですが、フランシスコ・ザビエルが日本にクラヴィコードを持ち込み、その後多くの修道士の入国とともに様々な楽器が日本に持ち込まれ、日本人が習得し演奏していたそうです。織田信長も演奏を聴いて、奏者を褒めていたそうです。
 使節団の少年たちは各種楽器の奏法を習得し、ローマ法王の御前やヨーロッパ各地で演奏して絶賛されたそうです。西洋音楽を吸収して使節団は帰国し、秀吉の前でも演奏しましたが、その後キリスト教禁止令が出され、使節団の少年たちは悲しい運命をたどることになります。そんな歴史を知って音楽を聴いていますと、味わいも違ってきます。
 配布されたプログラムには、このような歴史的背景が詳しく解説されており、大変勉強になりました。クリスチャンである山際さんの思いも伝わってくるように感じました。

 前置きが長くなりましたが、山際さんのクラヴィコード独奏で開演し、2曲目からは他の4人が加わり、林さんがリーダーとなって演奏が進められました。ホール内は照明が落とされ、奏者に照明が当てられる演出も演奏効果を高めて良かったです。

 山際さんはアルトも歌い、林さんはテナーリコーダー、アルトリコーダー、クロムホルンのほかテノールを歌い、白澤さんはビウエラ、コルネット、ドゥルチアン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、中世フィドルと多彩な楽器を演奏、風間さんはソプラノのほかパーカッションで加わり、奥村さんは十七絃、十三絃を使い分けて演奏しました。

 古楽の素朴な音楽は心を癒し、遠い昔へと誘い、タイムスリップしたかのようでした。これまで聴いたことがない珍しい古楽器の音色にも接することができました。白澤さんの多才さには驚きです。
 山際さん、林さんは歌でも活躍し、風間さんとの三重唱の美しさには心奪われました。そして、風間さんのすばらしさ。先週プロジェクト・リュリで聴いたばかりですが、このような古い時代の音楽には欠かせない歌手であり、その存在感は絶大です。パーカッションでもいい味付けをしていました。
 さらには奥村さんの箏。西洋音楽、西洋の古楽器とは異質に思われますが、実際の音楽を聴いていますと、何の違和感もなく、きれいに溶け込み、演奏効果をあげていました。

 いずれの曲も良かったですが、圧巻はグレゴリオ聖歌と六段の調べを融合させた「ファンタジア」でしょうか。風間さんのグレゴリア聖歌のクレドの独唱が、六段の調べへとシームレスにつながり、重なり合い、両者の共通性が見事に浮かび上がりました。
 そして前半最後は、400年の時空を超えて一気に現代となり、箏とピアノとで、タイムスリップに終止符を打ちました。

 休憩後の後半は、山際さんのピアノ演奏です。譜メクリストは何と風間さん。ショパンとドビュッシーが演奏されましたが、一見華奢に見える体からは想像できない、パワー溢れる力強いピアノに圧倒されました。
 四輪駆動車で荒野を走り回るような感覚。音量豊かにマスとして迫ってくる音の洪水。軟弱者を蹴散らすパワー。こんなショパンもあったかと新鮮な感動をいただきました。そしてドビュッシー。パワーとともに響きの美しさに感嘆しました。

 前半があまりにも内容が濃くて感銘深いものがあり、後半のピアノの印象が薄れそうですが、ピアニストとしての山際さんの魅力は十二分に発揮されました。聴く者を圧倒するパワーはさすがです。どうしてこれまで単独のリサイタルをしてこなかったのか不思議なくらいに、魅力溢れる演奏だったと思います。

 ピアノに歌に、多才な才能を発揮する山際さん。そして、魅力あるプログラムを構成したプロデューサーとしての素晴らしさ。今後の益々の活躍を祈りたいと思います。
 

(客席:M-7、当日券:¥2000)