水戸室内管弦楽団東京公演
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2012年1月22日(日) 19:00  サントリーホール
 
指揮:小澤征爾
チェロ:宮田 大
 




モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(125a)(指揮なし)

モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」(指揮なし)

(休憩30分)

ハイドン:チェロ協奏曲第1番 ハ長調 Hob.VIIb-1

 
 

 このところ健康状態が思わしくなく、休養されていた小澤さんが久しぶりに指揮をするというので、注目されていたコンサートです。
 私は前日にハーディングを聴く予定にしていましたので、ついでにこのコンサートも聴いてみたいと思っていたのですが、どうせチケットはすぐに完売だろうとあきらめていました。案の定、某サイトででは完売となっていました。ところが偶然別のサイトを見てみましたら、A席が2枚残っていることが判明しました。せっかくなので即購入してしまいました。

 このコンサートは19日、20日の2日間、水戸で行われた第83回定期演奏会を東京で公演するものです。公開リハーサルを元気にされて、19日の公演も無事にこなしたというニュースをネットで見て安心していたのですが、その後体調が思わしくなく、20日の公演は指揮者なしで行ったとのニュースには驚きとともに、落胆しました。東京公演はどうなるのか心配されました。

 2時からの京都大学交響楽団の驚異的名演に感激し、一旦ホールを後にし、ゆっくりと夕食を取り、このコンサートに臨みました。開場にはまだ早い6時頃にホール前に行ってみると、予想通りに掲示が出されていました。プログラムの演奏順を変更し、前半にモーツァルトの2曲を指揮者なしで演奏し、後半のハイドンの協奏曲のみ小澤さんが指揮をするとのことでした。これに伴い3000円ずつ返金するとのこと。健康状態を考えれば、1曲だけでも指揮をしてもらえるのはありがたいことと思います。

 京都大学の終演が4時10分頃でしたから、ステージの撤収時間などを考えると、6時半の開場までにリハーサルの時間も取れないのではないかとちょっと心配です。水戸で十分なリハーサルはしているわけなのでしょうが。

 開場のオルゴールとともに入場。今回の席は1階席後方の2階席の屋根の下です。音響的には悪そうですが、仕方ありません。満席のホールに開演のチャイムが響きました。

 拍手の中楽員が入場。最初は弦楽だけでディヴェルティメントです。第1ヴァイオリンの中に、新潟出身の井上さんもおられました。コンマス席にいるのは渡辺實和子さんでしょうか。

 このオケは指揮者なしでの定期演奏会も行っており、何の問題もなく軽快な演奏を聴かせてくれました。弦楽アンサンブルの美しさは極上であり、躍動感ある生き生きとした演奏に大満足でした。さすがにスタープレイヤーの集まりです。世界的にみても高水準の室内合奏団であることを髣髴させます。

 2曲目は「ハフナー」です。管楽器、ティンパニーも加わってフル編成となりました。メンバーを見るとまさにミニ・サイトウキネンです。ヴァイオリンは場所が入れ替わり、コンマスも交代しています。今度は潮田益子さんでしょうか。

 演奏はやはりすばらしいのですが、交響曲となりますと、気分的にしっくりきません。微妙なアンサンブルの統率の悪さが感じられ、演奏に手いっぱいで、どこかばらけた印象を受けました。1曲目のときのような躍動感が少ないように感じました。コンマスがまとめようと努力されていたとは思いますが、やはり交響曲を指揮者なしで演奏するのは無理があることを実感させてくれました。単独で聴けば十分満足できる演奏ではありましたが。

 休憩は30分もありました。後半の開演前に場内にざわめきが起こり、天皇・皇后両陛下が拍手の中入場され、RA最前列の席につかれました。客席に一礼され、報道陣の写真撮影のフラッシュを浴びておられました。

 楽員とともに小澤さんと宮田さんが登場。後半はハイドンの協奏曲です。今度のコンマスは田中直子さんのようです。本来なら後半は「ハフナー」で、両陛下はこれをお聴きになる予定だったと思いますが、予定が変更され、若き宮田さんが陛下の御前で演奏することとなりました。

 指揮台には椅子が2つ用意されていました。小澤さんは椅子に座らずに演奏を開始。「ハフナー」のときとは違って、見違えるような躍動感ある生き生きとした演奏です。やはり小澤さんがいるといないのとでは大きな違いがあるようです。

 宮田さんは突然の天覧演奏となり、緊張感は想像に難くありませんが、堂々とこなしていたものと思います。明るく透明感のある演奏だったと思います。途中小澤さんは椅子に座ったり立ったりしながらの指揮でした。楽章間には椅子に座ってゆっくり休息を取り、水を飲んだりされていました。体調はかなり悪いということは見て取れましたが、椅子から立ち上がって大きな身振りで指揮をしたりして、残された体力で、精いっぱいの指揮をしてくれたものと思います。最後は足を踏みならしたりして、気合いの入った指揮ぶりでした。楽員も宮田さんも小澤さんに応え、歴史に残るであろう一期一会の名演奏を創り上げてくれました。

 演奏が終わり、両陛下が真っ先に立って拍手され、自動的に館内は全員のスタンディングオベーションとなりました。ホール内は温かい空気に包まれました。カーテンコールで何度も出たり入ったり。最後に小澤さんの健康回復をみんなで祈り、エールを贈ったように思いました。両陛下は立ったまま10分以上も拍手されていましたが、両陛下の反対側の客席の客が、大きな荷物を抱えながら、カーテンコールが始まるや否や、さっさと帰って行ったのは見苦しかったです。

 病気からの復活をアピールするはずの演奏会であり、水戸での2公演のほか、東京、足利、倉敷と、過密なスケジュールが組まれていたことを見ると、小澤さん自身も体力に自信を持っておられたものと思います。リハーサルは報道陣や地元の学生に公開され、その意気込みがうかがわれました。さらに東京公演は天皇皇后両陛下の臨席まで予定され、小澤さんとしては意欲満々だったものと思います。それがこのような事態となり、小澤さん自身が一番残念に思われているはずです。

 いろんな意味で、歴史、記録に残るコンサートとなってしまいました。水戸の2日目は指揮者なし、23日の足利公演は中止、25日の倉敷公演は指揮者なしとなりました。ハイドンの協奏曲1曲ではありましたが、小澤さんの指揮を目に焼き付けることができましたし、天皇皇后両陛下をお迎えしての特別なコンサートに立ち会えた幸せを感じています。

 小澤さんは、3月にはオペラも予定されていますが、無理なさらずに、ゆっくりと静養していただきたいと思います。
 

(客席:1階22-40、A席:12000円)