東京交響楽団 第67回新潟定期演奏会
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2011年9月4日(日) 17:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
指揮: 小林研一郎
ヴァイオリン: 大谷康子
ソプラノ:森 麻季、メゾ・ソプラノ:坂本 朱、テノール:高橋 淳、バリトン:青戸 知
合唱:にいがた東響コーラス(合唱指揮:安藤常光)
コンサートマスター:高木和弘
 



ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26

(休憩20分)

ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付」



 

 
 

 台風12号は紀伊半島に豪雨による甚大な被害をもたらしましたが、新潟はフェーン現象で猛暑となり、熱風が吹き荒れました。

 こんな中、今日は1時からのロビーコンサートから聴きました。ヴァイオリンの大谷さん、廣岡さん、チェロの西谷さん、コントラバスの安田さんの4人による弦楽四重奏ですが、変わった編成です。廣岡さんの発案で、この4人で震災被災地を訪問したそうで、これが今日のロビーコンサートにつながったとのことでした。

 曲目は、最初は4人でシモネッティのマドリガル。続いて西谷さんと安田さんの2人でロッシーニのチェロとコントラバスのための二重奏曲ニ長調より第1楽章、再び4人でロッシーニの弦楽のためのソナタ第1番ト長調が演奏されました。アンコールはスコット・ジョプリンのジ・エンターテイナーで大盛り上がりでした。

 大谷さんは鮮やかな黄緑色のドレスで登場し、いつもながら、たいへんチャーミングでした。大谷さんは風邪で声が出ないとのことでつらそうでしたが、演奏はすばらしかったです。チェロとコントラバスの二重奏も面白かったです。響きの良いホワイエに響く弦楽の調べは美しく、至福のひと時でした。観客は多くなく、サロンコンサートという雰囲気。至近距離で聴く一流演奏家の演奏は何とも贅沢でした。(→ブログ

 時間が空いたので某所で時間調整をし、定期演奏会に臨みました。久しぶりに満席になったホールは気持ち良いですね。合唱団はP席ではなく、ステージ後方に席が設けられていました。指揮台はいつもより背の低い小さなものです。

 拍手の中楽員が入場。全員揃うまで起立して拍手に応えます。そして、今日のコンマスの高木さんが一礼してチューニング。小林研一郎氏(親しみを込めて、やっぱりコバケンさんとお呼びします)と大谷さんが入場し、いよいよ開演です。大谷さんはロビーコンサートとは衣装を替えて、クリーム地にピンクの模様の華やかな中に清楚さもあるきれいなドレスでした。

 しばしの無音状態を確認してから演奏開始。静寂の中から泉のごとく音楽が湧き上がり、満席のホールを満たしました。
 音量豊かにホールに響く大谷さんのグァルネリの音。新潟ではおなじみの大谷さんですが、ソロやオケでの独奏は聴いているものの、コンチェルトを聴くのは初めてです。体調不良を押しての演奏のはずですが、そんなことは微塵も感じさせず、期待通りの名演奏を聴かせてくれました。
 ロマンティックな第2楽章は朗々と歌わせ、うっとりと聴き入りました。終盤は粗さを感じないではありませんでしたが、感動的な演奏だったと思います。コバケンさんはコンチェルトということで、それでも多少は抑え気味だったのでしょうが、ドラマチックな音楽をサポートしていたと思います。

 休憩時間にはCD購入者に対しての大谷さんのサイン会が開かれました。私もCDを買ってサインをもらい、握手もしてもらおうかという思いがよぎりましたが、CDは売り切れてしまって断念しました。
 昨日はオペラシティで本番があり、今日は体調不良を押して、ロビーコンサート、本番、サイン会と大谷さんは大忙しです。疲れを感じさせない大谷さんは、さすがにプロですね。

 休憩後はいよいよ第九です。合唱団が入場して着席した後、オケが入場しました。コバケンさんが登場して演奏開始。第1楽章からコバケン・ワールド炸裂です。こんなに燃え上がる第1楽章ってあったでしょうか。これまで聴いたどの第九とも違うコバケンの第九です。個性たっぷり、休止を長くとり、その静寂がいいアクセントとなっていました。第2楽章もキレのある演奏で、大盛り上がり。ティンパニも良かったです。この2楽章を聴いただけでもお腹いっぱいという感じの満足感です。

 ソリスト4人が入場して合唱団の前に着席して、第3楽章。美しく歌わせて、アタッカで第4楽章へ。コバケンさんの魔術により、オケもエンジン全開。バリトンのオペラチックな歌い方に最初は違和感を感じましたが、声量豊かで良かったです。他の3人は新潟に何度か来られてお馴染みですが、もうちょっと声量が欲しかったような気がしました。オケの後ろの合唱団前の席で、声の通りが悪かったのかもしれません。合唱団はステージに乗る人数だけですから、数としては少ないでしょうが、良く声が出ていました。
 私の大好きなマーチの部分も良かったです。ここでの大太鼓の響き方が私の中でのこだわりなのですが、いい音を出していました。最後の煽り加減も良かったです。

 新潟で第九というと、年末の潟響の第九ですが、今日の演奏は全く別の曲のように感じました。第九はどんな演奏でもそれなりの感動を味わえるという魔力がありますが、コバケンさんの第九は全く別物です。潟響の演奏が悪いということではなく、コバケンさんが凄すぎということです。
 どうして9月に第九を聴かねばならないんだろうと定期演奏会のプログラム発表の時には感じたのですが、結果としては聴けて良かったです。

 炎のコバケンによる燃え上がるような演奏を前にして、当然ながらホールは大盛り上がりでした。カーテンコールもコバケン流です。合唱団をパートごとに立たせたのは良かったです。
 最後は恒例のコバケンさんのスピーチでお開き。合唱団、オケが揃って正面、左右、後方の客席に一例というのはサービス満点で良かったです。

 コバケンさんは5月の日本フィルの定期演奏会で聴いたばかりですが、今回も期待にたがわぬ感動を与えてくれました。強弱のつけ方、節回しはまさにコバケン節。唸り声もまた音楽の一部とさえ感じます。このコバケン・ワールドにはまってしまうと抜け出せません。こういう癖の強い演奏は賛否が分かれ、嫌う人もいるかもしれませんが、私の感性にはピッタリとはまり込みます。

 楽章間に指揮台を降りてオケに一礼したりという何気ない心遣いが楽員の心をつかみ、自分の世界に引き入れて、名演奏を引き出すものと思います。人柄の良さが客席にも伝わり、観客の心もつかみます。こんな指揮者はコバケンさん以外にはなく、コバケンと愛称で呼ばれ、親しまれている所以と思います。日本各地を飛び回って大活躍のコバケンさんですが、是非新潟にまた来ていただきたいと思います。
 

(客席:2階C5-**、S席:定期会員、5500円)