寝たきり体験


 病院での看護業務の中で、体位変換というのは地味で煩わしいけれど重要な仕事です。同じ体位で一晩過ごすだけで褥瘡(床ずれ)ができてしまいます。床ずれを作ってしまうことは看護者の恥と業界では考えられています。私の病院では筋ジスをはじめとしていわゆる神経難病患者を扱っている関係上、ほとんどの患者さんが自分で体位変換(寝返り)することはできません。意識障害のある患者さんなら一定時間ごとの体位変換をしていればいいのですが、意識はしっかりしているけれど自分で動けない患者さんばかりですので、患者さんの要求に応じながらの体位変換となります。一晩で数十回も行うことも普通です。シーツやパジャマのしわひとつで苦痛を訴え、わずか数ミリの違いが苦痛につながります。筋ジスの患者さんの看護の現場をみると一般病院の人は驚かれることと思います。
 さて、このように体位変換ということは大変大事です。というより体位変換しないということは大変苦痛です。昔からよく言われることですが、患者さんの気持ちを理解するにはどうすればいいか。一晩体を動かさずじっとしているということです。おそらく困難でしょう。うそだと思ったら、これから10分間でいいですから仰向けに寝て動かないでいて下さい。たったこれだけのことがいかに苦痛か分かると思います。
 私は以前病気をして寝たきり生活を送りました。足をワイヤーで牽引され、ベッド上から全く動けない状態になりました。腰が痛み、全身が苦痛でいたたまれません。眠れぬ夜を幾晩も過ごしました。仙骨部に褥瘡までできました。動けないことがいかに苦痛なことか思い知らされました。ただ、慣れとは恐ろしいもので、10日もすると苦痛も感じなくなりましたが。それに、寝たまま排尿するというのも簡単そうで難しいことです。
 まあ、寝たまま動かないでどれくらい耐えられるか皆さんも試してみてはいかがでしょうか。


1998年12月