感想


5月


「1Q84 1、2」 村上春樹、新潮社 (2009.5.30 初版発行)

 久々の、そして待ち望んでいた長編。発売後すぐにベストセラーとなり、騒がれていたのがちょっと意外だった。
 予備知識なしで読んだ方がいいので、ストーリーには触れないけど、ここ数作の村上長編ではベストだと思う。幸せな読書時間でした。ヤナーチェクも車でいつも聴いてるし。本人のインタビューで「僕の作品の中では最も長い長編」と言っていたり、後半の着地点からも、この話は続きますね。「4」は分からないけど、10-12月の「3」は「ねじまき鳥」の時のように、後から出ると思います。94
1Q84(1)1Q84(2)

「アマルフィ」 真保裕一、扶桑社 (2009.4.30 初版発行)

 フジテレビ開局50周年映画とタイアップした長編。イタリアを舞台に、トラブル解決人のような主人公が、誘拐事件に取り組むというストーリー。なんかイタリアありき、でストーリーが組み立てられているような、ガイドブックじみた展開が嫌だった。前作で新境地かと思った真保裕一は、どこへ向かっていくのだろう。87
アマルフィ

「パラドックス13」 東野圭吾、毎日新聞社 (2009.4.15 初版発行)

 久々にSF的設定の新刊。警察官の兄弟や、母親と娘らが、とある理由で自分たち以外の人間がいなくなった世界へ送り込まれる。異常気象が世界を襲い、食料も乏しくなってくる。さて、パラドックスとは何なのか、というストーリー。ラストがちょっと予定調和的なのが残念。並の作家ならともかく、東野圭吾だしなあ。88
パラドックス13

「シャングリ・ラ 上下」 池永永一、角川文庫 (2008.10.25 文庫初版発行)

 CO2削減が至上命題となり、排出炭素量を換算する経済へ移行した近未来が舞台。日本も東京中をジャングルにし、エリートは超高層ビルに住む。そこはユートピアか、というストーリー。反政府側、政府側、どちらのキャラクターも強力で、解説の筒井康隆が書いているように「全てにおいて過剰」なのだが、その暴走ぶりが心地よい。パワフルな物語だ。91
シャングリ・ラ 上 (角川文庫)シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

「海の底」 有川浩、角川文庫 (2009.4.25 文庫初版発行)

 自衛隊三部作三作目は海上自衛隊の潜水艦が舞台。横須賀で停泊中だった艦は、巨大甲殻類の襲撃を受け、祭りに居合わせた子どもたちと共に艦内に閉じこめられる、というストーリー。甲殻類退治、というモチーフはあるのだが、リアルな日常として炊事や洗濯、一人だけいる女の子への処遇など、日常的な描写が楽しい。しっかりしたストーリーに、恋愛まで絡ませるぜいたくな物語。ラストには参りました。91
海の底 (角川文庫)

「黒衣の女王」 栗本薫、早川文庫 (2009.4.15 文庫初版発行)

 グインサーガ126巻。これを読んだ数日後、栗本薫の訃報を会社で聞く。13歳の時からグインを読み続けて、特に高校、大学時代は、膨大な作品のほぼ全てを読んできた。物語世界を構築し、語る力は日本でも有数だったと思う。「魔界水滸伝」でも「グイン」でも出てくる「世界の全てを知ることだけが望み」というモチーフは、10代の頃憧れた。
 書きためていた分を除けば、グインの世界は未完となる。読者の数だけ、それぞれ思うラストがある、というのもいいかもしれない。ご冥福を心からお祈りします。長い間、楽しませていただき、ありがとうございました。88
黒衣の女王 グイン・サーガ126

「推定少女」 桜庭一樹、ファミ通文庫 (2004.9.30 文庫初版発行)

 同じくライトノベル時代の長編。15歳の少女が家出した夜、銃を持った裸の少女と出会う。東京へ逃避行を続ける内、仲間も出来て、というストーリー。どう落ちを付けるのかなと思ったら、そのままだった。もう、こういう話を面白いと思えなくなって、少し寂しい。85
推定少女 (角川文庫)

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」 桜庭一樹、富士見文庫 (2004.11.15 文庫初版発行)

 ライトノベル時代の長編。13歳のリアリストの少女と、自分のことを人魚だと言い張る転校生の少女が出会ったとき、生き残るための闘いが始まる、というストーリー。表紙や途中入るイラストのかわいらしさと裏腹に、モチーフは重い。でも、読後感は悪くない。88
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)

「オッド・トーマスの霊感」 ディーン・クーンツ、早川文庫 (2009.3.25 文庫初版発行)

 死者の霊が見える20歳の青年、オッド・トーマスを主人公としたシリーズ1作目。クーンツのシリーズ物というのも珍しいが、解説の瀬名秀明が絶賛しているように、深い印象を残す。ラストもありきたりと言えなくはないけれど、読み進めていく内に感情移入しているので、共感する。2作目も楽しみ。90
オッド・トーマスの霊感 (ハヤカワ文庫 NV ク 6-7)


4月


「厭魅の如き憑くもの」 三津田信三、講談社文庫 (2009.3.13 文庫初版発行)

 「このミス」などで名前は見かけていたが、初読みの三津田信三。
 うーん、横溝正史と京極夏彦を混ぜて、ホラー風味を強めに付け足した感じがする。悪くはないんだけど、続けて読もうという気にならないかな。いつか一度読んだ物語のような気がするので。87
厭魅(まじもの)の如き憑くもの (講談社文庫)

「荒野」 桜庭一樹、文藝春秋 (2008.5.30 初版発行)

 タイトルは主人公の女の子の名前から。荒野の12歳から16歳までを描いている。恋愛小説家の父親との生活や、自分自身の恋など全ての大人が経験してきた、大人になるまでの物語。3部構成で、2部までは「ファミ通文庫」で既刊。3部を書き下ろして、文藝春秋から出版とは面白いパターンだな。でも、レーベル関係なしに面白い。91
荒野

「私の男」 桜庭一樹、文藝春秋 (2007.10.30 初版発行)

 今さらながら、去年の直木賞受賞作。結婚することになった主人公の女性が、過去を回想するという構成だが、先入観なしで読んだ方がいい。ラストまで読んでから冒頭へ戻ると、最後の一文が響く。「淳悟」の存在感が圧倒的だった。北海道でのシーンは良かったな。90
私の男

「九杯目には早すぎる」 蒼井上鷹、双葉文庫 (2009.2.15 文庫初版発行)

 短編集。初読みの作家だが、運の悪い男が犯罪を犯し、失敗していくパターンの短編が多い。全編ともよく作り込まれていると思うが、表題作はかなり強引だなあ。87
九杯目には早すぎる (双葉文庫)

「臓物大展覧会」 小林泰三、角川ホラー文庫 (2009.3.25 文庫初版発行)

 ホラー短編集。ユーモラスな短編が多いが、想像すると気持ち悪い短編も多い。チョコレートのおまけだったネスレ文庫のも収録されている。88
臓物大展覧会 (角川ホラー文庫)

「向日葵の咲かない夏」 道尾秀介、新潮文庫 (2008.8.1 文庫初版発行)

 夏休みの直前、同級生が首を吊って死んでいる場面を見てしまう小学生が主人公。妹と共に事件を追うが、というストーリー。畳みかける終盤の展開は見事。つい夢中で読み進めた。ただ、着地点は巧いなとは思うけど、微妙かなあ。こういう作風が好きな人にはたまらないと思う。88
向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

「ラストラン」 志水辰夫、徳間書店 (2009.3.31 初版発行)

 1988-92年頃に発表された作品を中心とした初期短編集。どこか懐かしい雰囲気を楽しんだが、最後の短編「ぼくにしか見えない」ではっとした。タイトルは違うが、「虹物語」の表題作と同じだ。読み比べてみると、「虹物語」の方はラストに数行加筆されている。大好きな短編なので、再び収録されてたくさんの人に読んでもらえると嬉しい。でも、悲しい話だ。90
ラストラン

「独白するユニバーサル横メルカトル」 平山夢明、光文社文庫 (2009.1.20 文庫初版発行)

 07年の「このミス」1位作品の短編集。平山夢明は初読みだが、表題作は確かに面白かった。メルカトルというと麻耶雄嵩を思い出すが、そちらではなく本来の地図用語。ただ、全体の作風として好きかどうかだと、微妙だなあ。もう後は読まない気がする。この路線だと乙一の方が好みかな。87
独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

「センチメンタル・サバイバル」 平安寿子、角川文庫 (2009.2.25 文庫初版発行)

 24歳特技なしのフリーター女性が主人公。48歳独身社長の叔母と二人暮らしすることになり、全く性格が違う叔母から様々な影響を受けていく、というストーリー。主人公るかの覇気のなさ具合が「いるいる、こんな子」と最初は思っただけだったが、徐々に自分にもこういう点あるな、とつい感情移入してしまう。平安寿子は、あまり取り柄がない、普通の人を描くのが巧いなあ。89
センチメンタル・サバイバル (角川文庫)

「ワイルドファイア 上下」 ネルソン・デミル、講談社文庫 (2008.5.15 文庫初版発行)

 ジョン・コーリーシリーズ。同僚の死に不審な点を見つけたことから、コーリーと妻のケイトは、上司に逆らいつつも陰謀を辿り着く、というストーリー。ライバルの影も見え隠れする点や、減らず口のユーモアは相変わらずで、かなりの分量ながらリーダビリティーはいい。テロと戦うこの二人のシリーズ、ずっと読みたいものだ。90
ワイルドファイア 上 (講談社文庫 て 11-9)ワイルドファイア 下 (講談社文庫 て 11-10)

「悪の起源」 エラリイ・クイーン、早川文庫 (1976.10.15 文庫初版発行)

 ハリウッドを舞台としたエラリイ物。義父が死んだ事件の依頼を受けたエラリイは、脅迫事件を突き止めるが、さてその脅迫者とは、というストーリー。人妻に魅了されたり、小娘に振り回されたり、人間的魅力が前面に出ていて、楽しく読んだ。久しぶりにクイーンを読んだが、ミステリ部分以外でも、比喩や人物造形もさすがの巧さ。90
悪の起源 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-9)

「スナッチ」 西澤保彦、光文社 (2008.10.25 初版発行)

 高知を襲ったある出来事により、意識が31年後に飛んだ青年が主人公(正確にはそうじゃないんだけど、便宜上)。
 SF的設定に本格ミステリ、というお馴染みの手法で今回も楽しませてもらった。「盗まれた街」にインスパイアされて書いた、とあとがきにあるけど、もはや全く別物。88
スナッチ

「みのたけの春」 志水辰夫、集英社 (2008.11.10 初版発行)

 幕末期の山村を舞台に、塾に集まった若者たちのそれぞれの道を描く。激動の京へ上ろうとする者、家庭の事情で家を離れられない者など様々な事情を呑み込みつつ、時代は進んでいく。ストイック過ぎる主人公は、時にもどかしくもなるが、登場人物の中で、最も我が道を行っている。それが効いたラストが物悲しい。90
みのたけの春

「塩の街」 有川浩、電撃文庫 (2004.2.25 文庫初版発行)

 いわゆるライトノベルの電撃大賞受賞作。
 表紙のイラストで引くが、内容はわりとハード。塩が全てを埋め尽くし、人間までも塩化してしまうという世界で、ささやかに暮らす男と少女というストーリー。前半はややぎこちないが、後半はいつもの有川浩らしく、派手に着地する。この頃から作風は変わってないんだなあ。88
塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

「捨て猫という名前の猫」 樋口有介、東京創元社 (2009.3.25 初版発行)

 実に9年ぶりの探偵柚木シリーズ。女子中学生の飛び降り自殺の件を調べ出す。相変わらず女に甘いが、それを生かし真相に辿り着く、というストーリー。いささか老成してきたような気もするが、このシリーズはたまに読みたい。90
捨て猫という名前の猫 (創元クライム・クラブ)


3月


「ヒーローたちの荒野」 池上冬樹、本の雑誌社 (2002.6.25 初版発行)

 先日の講座で「本間栞」とサインしていただいた。今後もサインもらう機会あったら、娘の名前でもらっておこう。
 「本の雑誌」で連載中のコラムをまとめたもの。なるほど、という視点からスカダーシリーズや藤原伊織など、ハードボイルド中心に、様々なヒーローが論じられている。未読の小説がたくさん出てくるので、片っ端から読みたくなってくる。89
ヒーローたちの荒野

「女たちは二度遊ぶ」 吉田修一、角川文庫 (2009.2.25 文庫初版発行)

 11人の女をモチーフにした短編集。「平日公休の女」と「ゴシップ雑誌を読む女」が特に好きだが、村上春樹の「中国行きのスロウ・ボート」で逆回りの山手線に乗せたシーンを思い出した。どこか心に引っかかる話だ。89
女たちは二度遊ぶ (角川文庫)

「誓いの夏から」 永瀬隼介、光文社文庫 (2009.2.20 文庫初版発行)

 剣道に打ち込んでいた高校生のカップルが、殺人事件に巻き込まれたことにより、二人は破局する。19年後、再び出会った二人は、刑事と事件関係者になっていた、というストーリー。前半の青春小説と、後半の現実の重さとのギャップが凄い。ただ、先日読んだ「踊る天使」と、ラストのパターンが似ている気がする。解説は池上冬樹さん。88
誓いの夏から (光文社文庫)

「深淵のガランス」 北森鴻、文春文庫 (2009.3.10 文庫初版発行)

 絵画修復師の佐月を主人公とする短編集。丁寧に書かれた描写が、読んでいて心地よい。アイルランドのシングルモルトがよく出てくるので、私も大好きなボウモアを飲みたくなってきた。88
深淵のガランス (文春文庫)

「The MANZAI 5」 あさのあつこ、JIVE (2009.3.16 文庫初版発行)

 時期は中3の冬休み。受験を控え、初詣から始まる。きっと、メンバーがばらばらになる卒業で完結するのだろうが、読めなくなると寂しいなあ。87
The MANZAI〈5〉 (ピュアフル文庫)

「乱反射」 貫井徳郎、朝日新聞 (2009.2.28 初版発行)

 「今だけ」というほんの小さな悪事が積み重なり、一人の幼児を殺す。プロローグに書かれているように、登場人物のほとんどが犯人という構成。本当にちょっとしたことなのだが、冒頭のシーンとラストが効いている。小見出しでカウントダウンしていくので、何が起こるか見えるだけに、恐ろしい。
 主人公が新聞社記者ということもあり、途中感情移入しまくりで泣けもしたが、とても怖い小説だ。つい一日の行動を振り返りたくなる。タイトルもまさに言い得て妙。92
乱反射

「阪急電車」 有川浩、幻冬舎 (2008.1.25 初版発行)

 阪急電車今津線をモチーフに、それぞれの駅にまつわる連作短編集。図書館でよく見かける女の子。読む本の趣味が合う。そんな彼女が隣の席に座ったらという、ある意味本読みの夢から始まり、つまらない恋やいい恋をしている女の子たちが、巧くリンクされる。学生同士のカップルの話は、横で聞いてたら気絶しそうだ。でも、読後幸せな気分に。
 初めて有川浩読むなら、これが一番いいかもしれない。もしくは、恋をしたい人にも。92
阪急電車

「ラブコメ今昔」 有川浩、角川書店 (2008.6.30 初版発行)

 自衛隊をモチーフとした短編集。広報自衛官や、オタクな自衛官、上司の娘と恋をしている自衛官など、設定は様々だが、ラストの「ダンディ・ライオン」にやられた。巧いなあ。ブルーインパルスの話では松島基地が出てくるが、ファンの間ではそんな有名な基地だったんだ。ちっとも知らなかった。89
ラブコメ今昔

「別冊 図書館戦争2」 有川浩、メディアワークス (2008.8.9 初版発行)

 6日連続で読んで、ついに最後。脇役の人を中心としているが、いやあ、最後は良かった、良かった。しかし、こういう嫌な奴いるよなあ。ラストで全部吹っ飛んだからいいか。90
別冊 図書館戦争〈2〉

「別冊 図書館戦争1」 有川浩、メディアワークス (2008.4.10 初版発行)

 主人公二人を中心に、もうベタ甘な世界全開。キスしたいだの、スポーツブラだの、幸せで良かったね。90
別冊 図書館戦争〈1〉

「図書館革命」 有川浩、メディアワークス (2007.11.30 初版発行)

 4作目で大団円。
 ラストにふさわしい大作戦付き。ラスト近くはラブコメ度も全開。くすぐったくなりつつ読了。90
図書館革命

「図書館危機」 有川浩、メディアワークス (2007.3.5 初版発行)

 3作目。ヒロインと堂上との恋も佳境。余談ながら、堂上は「どうじょう」と読むのだけど、中日ファン的には「どのうえ」として欲しかった。
 あと、他の作品もそうだけど、膨大な読書量が透けて見える。恩田陸とかもそうだけど、相当数本を読んでいる作家の小説って、やっぱり違う。それと台詞が巧い。自分で書いてみると分かるのだけど、なかなかこうは書けないんだよなあ。売れる訳だ。91
図書館危機

「図書館内乱」 有川浩、メディアワークス (2006.9.30 文庫初版発行)

 規制された言葉や、けなげな恋心、悪意が前面に出る書評、げらげら笑えるラスト。盛りだくさんだ。91
図書館内乱

「図書館戦争」 有川浩、メディアワークス (2006.3.5 初版発行)

 文庫化を待っていたけど、我慢できず。
 本、テレビ、週刊誌など、各メディアに後検閲が認められている仮想の日本が舞台。没収を鑑み、本の定価は高騰。本好きは図書館へと集まるが、一方的に襲われた事件を機に、図書館側も武装。司書活動の業務部と、防衛活動の防衛部とに分かれ、図書館の自由を守る、というストーリー。これだけで本好きはやられるが、ヒロインの新入隊員がまっすぐでいい。司書業務の研修も、リファレンスとか懐かしいなあ。苦手だったけど。91
図書館戦争

「煙霞」 黒川博行、文藝春秋 (2009.1.30 初版発行)

 リストラされそうな大阪の私立校の先生が手を結んで、理事長に直談判。それを機に、学園グループの資産数億円を巡るコンゲームに巻き込まれる、というストーリー。誰が持ってるのか、という興味に加え、一筋縄ではいかない登場人物が、好き勝手に動き回るため、黒川博行らしいユーモラスさもよく出ている。90
煙霞

「幼なじみ」 佐藤正午、岩波書店 (2009.2.6 初版発行)

 牛尾篤の挿絵で彩られている短編。小学校の同級生を思い出す話だが、短いのが惜しい。もっとこの世界のことを読みたかった。88
幼なじみ (Coffee Books)

「プリンセス・トヨトミ」 万城目学、文藝春秋 (2009.3.1 初版発行)

 すっかり気に入って最新作を読んでみた。会計検査院、という国家予算を使用する組織に対しての機関がある、という架空の日本が舞台。こちらの日本もじゃんじゃん検査してくれ。大阪へ出張した際に「大阪国」の存在が浮かび上がり、というストーリー。まあ、タイトル通りなのだけど、展開も人物造形もいい。特にジャージ着た鳥居くん。それぞれの名前も、運命を暗示していて、思わずにやりとさせられる。動画サイトについても良かった。90
プリンセス・トヨトミ

「スノーフレーク」 大崎梢、角川書店 (2009.2.28 初版発行)

 函館を舞台に、亡くなった幼なじみのことを思い続ける高3の女の子が主人公。生き写しのいとこが現れたことにより、過去の事件を掘り起こすが、というストーリー。うーん、読後感はいいけど、着地点が想定内。辻村深月のどんでん返しに慣れてくると、普通のラストだと物足りなくなる。本屋シリーズの方が好きかな。87
透明人間の納屋 (講談社ノベルス)

「屋久島ジュウソウ」 森絵都、集英社文庫 (2009.2.25 文庫初版発行)

 雑誌の企画で編集者たちとグループ旅行のノリで行った屋久島。九州最高峰への登山となり、疲労困憊する旅行を始め、世界各地へ旅行したときのエッセイ集。今回改めて略歴を読むと、私より一つ上だということを発見。何となくかわいらしい女性、という勝手な先入観があったので、ちょっとショック。88
屋久島ジュウソウ (集英社文庫)

「世界悪女物語」 澁澤龍彦、河出文庫 (1982.12.4 文庫初版発行)

 エリザベス女王や則天武后など、世界12人の悪女の生涯を紹介しながら、悪女について考察する。中でも中国の則天武后が圧巻だった。87
世界悪女物語 (河出文庫 121B)

「ドールハウス」 姫野カオルコ、角川文庫 (1997.7.25 文庫初版発行)

 厳格すぎる父親と、束縛しすぎる母親。自由な生活が一切ない一人娘の前に、ある男性が現れて、というストーリー。「家」より「個」を優先する物語、とあとがきで書かれているが、昭和中頃までは普通の風景だったのかもしれない。普通の生活の重要さを改めて思う。87
ドールハウス (角川文庫)

「家守綺譚」 梨木果歩、新潮文庫 (2006.10.1 文庫初版発行)

 百年前の東京を舞台に、文筆業の主人公と、掛け軸からボートで出てくる亡き友人との交流を軸に、不思議な犬や河童などが出てくる、どこかユーモラスな物語。主人公に好意を持つサルスベリの木が特にいい。不思議な話を思いつくものだ。88
家守綺譚 (新潮文庫)

「眩暈」 東直己、角川春樹事務所 (2009.3.8 初版発行)

 探偵畝原シリーズの最新作。タクシーで帰る途中見かけた、怯えた少女。翌日死体で見つかったことから、畝原は調べだすがというストーリー。モラルの絶望的な低下と、善きものを失わない人々。そのギャップが激しい。格差社会、と一言で言うのは簡単だけど、この根は深い。89
眩暈

「沖で待つ」 絲山秋子、文春文庫 (2009.2.10 文庫初版発行)

 表題作は芥川賞受賞作。絲山秋子によくあるモチーフ、転勤先の福岡で頑張って一緒に働いた、同期の男性との友情を描く。まるで知らない場所で、仕事を始めるというのは何割の人が体験しているんだろう。私もその一人なので、この感覚は分かる。それにしても、ハードディスクか。私も妻に頼もうかな。90
沖で待つ (文春文庫)

「しあわせのねだん」 角田光代、新潮文庫 (2009.3.1 文庫初版発行)

 日常生活での買い物やお金の使い方を通して、あれこれ考えるエッセイ。「ねぎそば 390円」の回は良く分かる。私もそんな大人になりたくなかったけど、今や社内の売店で買ったパン2個という日が月に数回はある。ご飯くらい、ゆっくり食べたいけどなあ。ヒブワクチンを申し込みに行った小児科で、つい頷きながら読破した。89
しあわせのねだん (新潮文庫)

「カントの憂鬱」 佐飛通俊、講談社 (2009.3.3 初版発行)

 短編集。作者はスポニチ整理部勤務。昔「群像」に載ったという表題作は、その整理部の仕事とカントの哲学を結びつけようとしているのだが、強引すぎる。何度か出てくるカラオケの意味が分からない。そして、整理部という素材が生かされていない。
 確かにきつい仕事ではあるけれど、愚痴だけじゃなくて、誇りも持ってほしかった。84
カントの憂鬱

「パーマネント野ばら」 西原理恵子、新潮文庫 (2009.3.1 文庫初版発行)

 普段マンガは取り上げないのだけど、新潮文庫で出たので。サイバラらしい、いい話だ。女に生まれたら、こういう風に生きたい。89
パーマネント野ばら (新潮文庫)

「鴨川ホルモー」 万城目学、角川文庫 (2009.2.25 文庫初版発行)

 デビュー作。京大の新入生が、ふと入ることになったサークル。その真の活動内容とは、というストーリー。恋と友情を主軸にパワフルに話は進むが、中盤過ぎからますます加速する。ふみちゃんの軍師ぶりが凄すぎる。京都+学生となると、森見登美彦とかぶるが、私は断然こちらを推す。奇想と日常の融合がいい。91
鴨川ホルモー (角川文庫)