文学


アンソロジー

「街物語」 朝日新聞社 2000.09 (2000.9.1 初版発行)

 朝日の夕刊に掲載された、24人の作家による街に関する短編集。
 私の地元弘前は長部日出雄が書いてるし、東京は現代物あり、時代物ありでバラエティーに富んでいる多和田葉子は経歴を生かしてハンブルグだが、妙に面白い。アンソロジーを読むといつも思うけど、作家の個性はそれぞれあるが、自分が好みだなと思う作家がいる割合はわりと低い。もちろん、好きな作家を見つける早道の一つではあるのだけど。84

「狂気の血統」 集英社文庫 2007.07 (1985.2.10 文庫初版発行)

 吉行淳之介が選んだ公募短編小説のアンソロジー。評でどこを直せばいいかなどにも触れているので、なるほどと思いながら読んだ。89

「I LOVE YOU」 祥伝社文庫 2007.09 (2007.9.5 文庫初版発行)

 タイトル通りの恋愛テーマアンソロジー。伊坂幸太カ、中村航、本多孝好が巧い。それぞれ、集まるという設定の妙、木戸さんのキャラクター(通しで再読したくなった)、ラストのきっかけがいいなあ。それに比べて、市川拓司は読んだ後、ページ破りそうになった。ファンの人ごめん。88

「Teen Age」 双葉文庫 2007.11 (2007.11.20 文庫初版発行)

 角田光代、瀬尾まいこなど7人の女性作家によるアンソロジー。どの短編もなかなか良かったが、やっぱり角田光代が巧い。川上弘美の変さもいいな。88

青山七恵 ★★

「ひとり日和」 河出書房新社 2007.02 (2007.2.28 初版発行)

 今年上半期の芥川賞受賞作。大学の後輩なので、気になって読んでみたんだけど、ぱっとしない日々を送る20歳の女の子の心理状況がリアルで、面白かった。スケートのシーンとか、少しずつ心が離れていく恋人の様子とか、こんな事あったなあとつい共感。これからも応援していきたい。90

赤瀬川隼 ★★★

 野球を題材とした小説の多い作家である、というよりそれしかまだ読んだことがない。
 何でもかんでも記録に残るスポーツ、野球。だからこそ記録には残らないファインプレーや好走塁、クロスプレーなどを記憶に留める事が大事なんだなと私も思った。野球好きの方はぜひ一読。

私のベスト3
 1.「それ行けミステリーズ」 文春文庫
 2.「獅子たちの曳光」 文春文庫
 3.「球は転々宇宙間」 文春文庫

「それ行けミステリーズ」 文春文庫 96.09

 文春文庫の8月の新刊。
 久々に中日が快勝したので野球物の小説でも、と思って読んだんだけど、これが大当たり。普通のサラリーマンがちょっとしたきっかけで草野球のチームを作っていく話で、出てくる人がみんな善人。そしてすこぶる魅力的。明日本屋行って赤瀬川さんの他の小説買ってこなきゃなあ。久々にはまる作家に出会えて幸せです。91

「深夜球場」 文春文庫 96.09

 すっかり気に入ってしまった赤瀬川さんの短編集。
 野球をメインテーマとした短編集だけど、雰囲気的には重めの短編が多い。赤瀬川さんの小説って短編もそれなりに味があるけど、長編の方がよりいいような気がするなあ。84

「獅子たちの曳光」 文春文庫 96.10

 かつてのパ・リーグの名チーム、西鉄ライオンズの黄金期に活躍した選手についての本だけど、名前は知っていてもどういう選手か分からなかった選手たちの凄さが初めて分かった。稲尾とか豊田とか。
 特に仰木さんはオリックスの監督で注目を集めただけにタイムリーだった。88

「球は転々宇宙間」 文春文庫 96.11

 近未来のプロ野球をテーマとした小説。
 地方分権をモットーとするコミッショナーなどの動きのおかげで日本のプロ野球は2リーグ12チームから3リーグ18チームになり、しかも一都市1チームになるという地方在住プロ野球ファンとしては理想的な話。今のままでも面白いんだけど、関東・関西で9チームというのは確かに多すぎる。86

「白球残映」 文春文庫 98.05

 直木賞受賞作で今月の新刊。
 野球が全体を通したモチーフとなっていて、幼い頃の記憶とか、父親との野球を通した関わりなどが描かれる。他の赤瀬川作品もそうだけど、野球への愛情が存分に感じられるし、それほど野球に関係のない短編も結果はともかく、暖かい視点で優しく描かれている。緑と茶色と白のコントラストが鮮やかな球場に行きたくなる一冊。90

「少年は大リーグをめざす」 集英社文庫 98.08

 野球に関するエッセイと短編をまとめた一冊。主に野茂について書かれたものが多い。
 日本のプロ野球への提言として「ネットをなくせ」「外野席の画一的な鳴り物入り応援をなくせ」というのが繰り返し出て来るが、アメリカの様子を読んでいると確かに納得出来る。ただ騒ぐのだったらそれでもいいのだけど、それだったら球場じゃなくてもいいしね。やはり息詰まるやりとりは静かに見守りたい。86

「ブラック・ジャパン」 新潮文庫 2000.07 (1985.4.25 文庫初版発行)

 人種や国という線引きは意味があるのか、という疑問を持った男は、日本人に帰化した黒人をオリンピックに出すことを思いつく。それも注目度の高い陸上競技に、というのが表題作の短編集。
 モデルルームで生活する家族というモチーフの短編集もあり、上野瞭の長編を連想させるが、そういう落ちにするか、という感じ。でもきっとあるだろうなあ。85

「捕手はまだか」 文春文庫 2003.01 (1987.12.10 文庫初版発行)

 中編3編を収録。全て野球がモチーフで、表題作は旧制中学最後の甲子園の切符を賭けて、戦った両校の男たちが30数年ぶりに集まって野球をする話。これもいいのだが、戦後すぐの頃に物資も食料も不足している中、草野球を始めようとする大人や子供を描いた「一九四六年のプレーボール」が良かったな。89 (品切れ)

「ダイヤモンドの四季」 新潮文庫 2003.01 (1995.10.1 文庫初版発行)

 野球をモチーフにした連作短編を含む短編集。ノスタルジー溢れる「夏の日の巡礼」が一番良かった。私は子供の頃はあまり野球好きじゃなかったけど、それが惜しまれる気がするのが不思議。89 (絶版)

阿川佐和子 ★★

「スープ・オペラ」 新潮文庫 2008.06 (2008.6.1 文庫初版発行)

 書評講座へ行く事になったので、その課題図書。独身の女性が、あるきっかけでずっと年上の絵描きと年下の男性と同居する事に。共通点はスープ好き、というストーリー。どちらも魅力的な男性だし、料理は美味しいし、とある種のパラダイス小説。阿川佐和子は初めて読んだが、思っていたより巧いので少し驚き。89

あさのあつこ ★★☆

「バッテリー 1−3」 角川文庫 2005.01 (2003.12.25−2004.12.25 文庫発行)

 帰省先から仙台に帰る電車の中で2巻まで一気読み。仙台駅前で3巻を買って、それも一気読み。確かに評判になるだけあって面白い。児童文学の文庫化なのだけど、協調性なし、ピッチャーとしての才能が自身の拠り所の12歳の少年と、やたら素直でかわいい弟や、バッテリーを組む大人な少年の描写がいい。理不尽な校則や先輩、先生など、こういう事はあったなあと誰でも思うような内容なので、野球は特に知らなくても大丈夫。4巻以降単行本で買っちゃおうかな。94
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「The MANZAI 1」 ピュアフル文庫 2005.12 (2005.12.9 文庫初版発行)

 転校して半年の中2の男の子が主人公。サッカー部の同級生に漫才に誘われて、というストーリー。
 いろいろ事情があったりして葛藤もあるのだが、読後感の爽やかさはさすがあさのあつこ。「バッテリー」の続きも早く読みたいなあ。89

「バッテリー 4」 角川文庫 2005.12 (2005.12.25 文庫初版発行)

 待望の4巻。とにかく早く続きが読みたい。89

「The MANZAI 2」 ピュアフル文庫 2006.03 (2006.3.9 文庫初版発行)

 中学生の漫才コンビシリーズ2作目。微妙な三角関係となってしまったヒロインを巡って、ある事件が起きるがというストーリー。しかし、男も女もこの子たちはいいな。89

「バッテリー 5」 角川文庫 2006.06 (2006.6.25 文庫初版発行)

 いよいよラス前。もう、あと1作しかないと思うと、この世界観と離れるのは寂しいなあ。90

「The MANZAI 3」 ピュアフル文庫 2006.10 (2006.9.17 文庫初版発行)

 次第に登場人物も揃いつつあるシリーズ3作目。早く続きが読みたい。88

「ガールズ・ブルー」 文春文庫 2006.11 (2006.11.10 文庫初版発行)

 勉強が嫌いな高校生たちが主人公。花火大会に行ったり、海に行ったりするが、それほどドラマティックな事は起きないのだけど、そこはあさのあつこ。早く夏が来ないかなあ。88

「NO.6 1」 講談社文庫 2006.12 (2006.10.13 文庫初版発行)

 近未来の日本を舞台にした1作目。これからの展開が楽しみ。87

「NO.6 2」 講談社文庫 2007.02 (2007.2.15 文庫初版発行)

 聖都市から逃れた二人は、の巻。割と短いので、早く次が読みたい。87

「バッテリー 6」 角川文庫 2007.04 (2007.4.5 文庫初版発行)

 ずっと続いて欲しかったこのシリーズもついに完結。高校編とか出ないかなあ。映画化もされて、現在公開中だけど、あの巧を演じられる訳がない。通して一気に読める人は幸せかも。90

「あかね色の風/ラブ・レター」 幻冬舎文庫 2007.05 (2007.4.10 文庫初版発行)

 中編集。小学生の女の子を主人公に、日々の思いを綴る。この作品の主人公が「バッテリー」の原田巧の原型だそうだが、なるほどという感じ。88

「NO.6 3」 講談社文庫 2007.08 (2007.8.10 文庫初版発行)

 主要人物も出そろった感があり、いよいよ物語は動き出す。あさのあつこの小説は、クールな少年がどう変わっていくか、という点が面白い。87

「The MANZAI 4」 ピュアフル文庫 2007.11 (2007.11.18 文庫初版発行)

 あゆみくんの恋は切ないなあ。ただただ、それだけ。86

「NO.6 4」 講談社文庫 2008.08 (2008.8.12 文庫初版発行)

 4巻。ストーリーが本格的に動き出してきた。88

NO.6(ナンバーシックス)〈#4〉 (講談社文庫)

「ラスト・イニング」 角川文庫 2009.01 (2009.1.25 文庫初版発行)

 名作「バッテリー」の、あの再試合まで描いた後日談的中編と短編2編を収録。まあ想像通りだからいいのだけど、「ツ・イ・ラ・ク」にしても「バッテリー」にしても、元の作品内で完結するから想像の余地が残る。後日談は、読みたくなるけど読まないくらいがいいのかもしれない。87
ラスト・イニング (角川文庫)

阿佐田哲也 ★★★★

 大学時代、麻雀ばかりしていた。そういう話はよく聞くだろうけど、私たちは本当に麻雀ばかりしていた一時期があった。
 麻雀打ちは自分のスタンスを確立するために、必ず戦術に凝る時期があると思う。私は打ち手では小島武夫が一番好きだけど、阿佐田哲也の「Aクラス麻雀」はよく読んだ。
 それをきっかけに「麻雀放浪記」「雀鬼伝」などを読んでいったけど、小説より実際の阿佐田哲也の生き方が好きだ。麻雀新撰組結成、解散などのくだりは麻雀ファンなら胸が熱くなるはずだ。
 もう一度そういう時代が来ないかなあ。

私のベスト3
 1.「麻雀放浪記」 角川文庫
 2.「牌の魔術師」 角川文庫
 3.「黄金の腕」 角川文庫


芦原すなお ★★

「ブルーフォックス・パラドックス」 毎日新聞社 99.01 (1997.3.25 初版発行)

 初読みの芦原すなお。
 作家が主人公で、友達の作家が亡くなるシーンから始まる。そこから自分の日々の生活が徐々に変化を遂げ、現実かどうか分からなくなっていくというちょっと複雑な構成の小説。メタ小説という感じだが、芦原すなおがこういう作風の作家とは知らなかった。80

安達千夏 ★★

「モルヒネ」 祥伝社文庫 2007.04 (2006.7.30 文庫初版発行)

 初読みの作家。終末医療に携わる女医が主人公。かつての恋人と再会する、というストーリーだが、文体が淡々としていて淡い感じはいい。山形在住という事で紙面では見かけていたけど、こんな感じの小説だったのか。87

阿部和重 ★

「インディヴィジュアル・プロジェクション」 新潮文庫 2000.07 (2000.7.1 文庫初版発行)

 名前は知っていたけど初読み。J文学と呼ばれている作家がいるが、その中心的作家のようだ。
 渋谷の映画館でバイトする青年が主人公。かつてスパイ私塾にいた彼は、訓練と称して日々様々な事をしている。解説でいろいろ書かれているが、うーん、そう思わない事もないけれど、やっぱり私には合わないみたい。79

安部公房 ★★★

「箱男」 新潮文庫 2008.02 (1983.10.25 文庫初版発行)

 中学生以来で読む安部公房。妻の嫁入り本の一冊。タイトル通り「箱男」が主人公。箱を捨てようと思う時、起こった事は、という構成だが、後半の目まぐるしさは凄い。文中挿入される記事や写真も効果的。発想が凄い。89

有吉佐和子 ★★★

「開幕ベルは華やかに」 新潮社 2001.01 (1982.3.10 初版発行)

 初読みの有吉佐和子。
 帝国劇場で行われる演劇を舞台に、劇作家、演出家、俳優、それぞれの役分についての描写が面白い。俳優としては、そんな事を考えるんだ、なるほど、と言った具合。事件がなかなか起きないので、どこへ収束するんだろうと思ったけど、ラストもなかなか良い。文化勲章って、いろいろ裏もあって大変なんだな。87

飯嶋和一 ★★★

「黄金旅風」 小学館 2008.12 (2004.4.1 初版発行)

 北上次郎さんが褒めていたのを機に読んだ。寛永時代の長崎を舞台に、徳川幕府下での南蛮貿易がテーマ。幕府側からではなく、長崎の商人側から描いているので、一貫して民の見方であろうとする姿勢に、つい感情移入して読み進む。歴史の授業では退屈なだけだったが、すっかり引き込まれた。89
黄金旅風 (小学館文庫)

池澤夏樹 ★★★★

 初めて読んだのは、芥川賞を取った「スティルライフ」だった。21歳位の時かな。
 ちょっと硬質な感じのする文体とストーリーはわりと好きだけど、エッセイはあまり好きじゃない。どうしてだろう。
 村上春樹の小説を読むと、南の島へ行きたくなるけど、池澤夏樹の小説だと住みたくなる。

私のベスト3
 1.「夏の朝の成層圏」 中公文庫
 2.「バビロンに行きて歌え」 新潮文庫
 3.「マリコ/マリキータ」 文春文庫

「マシアス・ギリの失脚」 新潮文庫 96.08

 なんか不思議な小説だ。ところどころに挟まれる「バス・リポート」はユーモラスだし、日本文化の描写、異文化への洞察、そして何よりも登場人物が面白い。
 きっと池澤夏樹も楽しんで書いたんだろうな。86

「夏の朝の成層圏」 中公文庫 96.10

 無人島に流れ着いた男の物語だけど、かなり良かった。
 南の島での生活、文明や資本主義社会についての洞察、ふとした事で知り合った人物との交流とどこを取っても気に入った。池澤作品私のベスト。93

「南の島のティオ」 文春文庫 97.10

 ある南の島に住む少年ティオが主人公の連作短編集。児童文学誌「飛ぶ教室」に連載されていたのをまとめたもの。
 不思議な話、ハートウォーミングな話、怖い話などさまざまだけど、全てに共通するのは「この島に行きたい!」と思わせる素晴らしい描写。はー、本当にこういう南の島に住んでのんびり暮らしたいなあ。池澤夏樹は結局それを実行した訳だけど、私も思ってるばかりじゃなくちょっと調べてみようかな。89

「骨は珊瑚、眼は真珠」 文春文庫 98.05

 久しぶりの短編集で4月の新刊。
 不思議な話やほのぼのとした話、ちょっと考えさせられる話など様々な傾向の作品がある。解説はなかなか鋭くて、ついつい読み返した。
 SFっぽい導入部で始まる「アステロイド観測隊」が気に入った。89

「タマリンドの木」 文春文庫 1999.08 (1999.1.10 文庫初版発行)

 久々に読む池澤夏樹の長編。
 タイのカンボジア難民キャンプで働いている女性に、ふとしたきっかけで日本で出会った男性が、その女性が日本にいる間に急速に惹かれていく。仕事を離れられない彼女に会いにタイに出かけた男性は、というようなストーリー。
 池澤夏樹の小説は、ユーモラスな雰囲気なのだけど、人物がどこか硬質な部分を持っている。この小説もどこか心に透明で硬質な部分がある男女の恋愛小説だ。92

「花を運ぶ妹」 文藝春秋 2000.04 (2000.4.20 初版発行)

 実に7年振りの長編書き下ろし。
 ある程度評価されてはいるが突きつけられない画家の兄は、バリ島で麻薬の罠に嵌る。フランスのパリでコーディネーターをしている妹は、知らせを聞いて駆けつける。この二人のパートが交互に繰り返されるという構図だけど、兄と妹、ヨーロッパとアジア、意志と祈りなど、今までの長編のようにユーモラスさは前面に出さずに、重いテーマを描いている。石と乾いた空気の都を愛し、アジアには興味のなかった妹のカヲルがどう変貌するかは、さすがに巧い。90

「明るい旅情」 新潮文庫 2001.06 (2001.6.1 文庫初版発行)

 旅行記というよりは紀行文。私が好んで読んでいる旅行記とは、文体が大分違い、自ら書いているようにヨーロッパの精神を引き継いでいるのだろう。内省的な文章もあり、その土地に出かけたくはならないけど、心の動きを冷静に見つめている部分は面白い。85

「すばらしい新世界」 中央公論新社 2001.12 (2000.9.10 初版発行)

 重機会社の風力部門で働く男が、あるきっかけでネパールの山奥へ小型の風力発電機を設置しに行くことになる、というストーリー。日本にいる妻や息子とのメール交換、作者の視点なども入って、なかなか楽しい構成。ストーリーも、現在の日本の行方や、核を人間が扱うことについて、宗教の在り方など多岐に渡ってはいるものの、分かりやすい言葉で書かれていて、机上の空論が大嫌いな私でも、面白く読めた。主人公のように、心はいつも柔らかく持ちたいな。91 
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「静かな大地」 朝日新聞社 2005.06 (2003.9.30 初版発行)

 明治時代、北海道を開拓するために静内に入った人たちを巡る小説。
 最初に淡路島の侍たちが入植し、散々の苦労の後アメリカ型の農業と牧場を目指す。最初からいたアイヌの人たちとの友情の反面、国策によりどんどん追いつめられていく。主人公の少年時代から、とある事までを姪の目で描く静かさが、なんだか読んでいて心地よかった。91
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池永陽 ★★

「コンビニ・ララバイ」 集英社 2003.06 (2002.6.30 初版発行)

 子供と妻を亡くしてから、なげやりな経営となったコンビニ店長が主人公。コンビニに集まる店員や客を軸に、様々な出来事を描いていく連作短編集方式。ベテラン店員に怒られつつ、投げやりな経営をする店長のキャラクターはなかなかいいが、ラストがちょっと不満。でも、最終章のエピソードはなかなかいい話だった。87
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「そして君の声が響く」 集英社文庫 2007.09 (2007.8.25 文庫初版発行)

 フリースクールでボランティアを始めた大学生が主人公。その生徒に恋をするが、彼女が背負っているものが分からず、というストーリー。もどかしさはいいのだけど、もうちょっと読みたかったかな。86

「ひらひら」 集英社文庫 2008.04 (2004.1.25 文庫初版発行)

 ヤクザの下っ端、22歳の男が主人公。要領も悪く、けんかも弱い。お人好し過ぎる彼を巡って、老任侠の言葉や、周りの人の優しさが胸に沁みる。88

「水の恋」 角川文庫 2008.12 (2005.12.25 文庫初版発行)

 同じ女性を好きになった男二人。一人は首尾良く結婚するが、一人は亡くなってしまう。亡くなった親友と妻と間にあった空白の一日に縛られつつ、主人公は再生を目指すというストーリー。妻と心が離れていく様子や、他の人物の造形がいい。いい話なんだけど、印象が弱いのが惜しい。87
水の恋 (角川文庫)<

いしいしんじ ★★

「麦ふみクーツェ」 新潮文庫 2005.08 (2005.8.1 文庫初版発行)

 どこかの島で、音楽が生き甲斐の祖父と数学が生き甲斐の父と暮らす僕が主人公。楽団を立ち上げた祖父に影響されて、音楽家を目指す内に知り合う様々な人たちの描写がいい。様々な悲しい出来事も起きるのだけど、読後感の透明感は不思議な感じ。89
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「トリツカレ男」 新潮文庫 2006.04 (2006.4.1 文庫初版発行)

 様々な事に取り憑かれては、それだけを熱心にする男が主人公。やがてその男が恋をするが、というストーリー。幸せな気分になる読後感。88

「いしいしんじのごはん日記」 新潮文庫 2006.08 (2006.8.1 文庫初版発行)

 Webで掲載されていた日記をまとめたもの。見たことなかったけど、これが面白い。浅草に住んでいた頃もいいけど、三崎へ引っ越した後の魚三昧の生活が、実に美味しそう。作家としての生活と、普段の生活のバランスも良くて、そんな風なんだと妙に納得。89

「東京夜話」 新潮文庫 2006.12 (2006.12.1 文庫初版発行)

 東京のさまざまな街を舞台とした短編集。不思議な話が多くて、それぞれが微妙にリンクしていたりするのが良かった。88

「絵描きの植田さん」 新潮文庫 2007.12 (2007.12.1 文庫初版発行)

 高原の湖のそばで一人暮らしする絵描きが主人公。ある日母と娘が引っ越してきたことから、心を少しずつ開いていくが、というストーリー。絵もいいし、話も巧いなあ。単行本は好きな人へのプレゼント用に最適かも。無骨なオシダさんがとてもいい。89

「三崎日和」 新潮文庫 2008.05 (2008.5.1 文庫初版発行)

 ごはん日記その2。新鮮な魚を食べながら、近所の人との交流や、パートナーがいる松本での生活を淡々と描く。読後、魚を食べたくなる事必至。文中に出てくる鮮魚店のサイト見たけど、やっぱり結構高いんだなあ。87

「ポーの話」 新潮文庫 2008.11 (2008.7.20 文庫初版発行)

 うなぎ女たちの間から生まれた「ポー」を主人公として、その成長を描いていく物語。独自の世界を構築し、変な盗人、レース鳩飼育者など、関わっていく人たちの造形が秀逸。読後しばらく、この世界に浸り続け、なかなか現実に戻れなかった。86

石田衣良 ★★

「アキハバラ@DEEP」 文春文庫 2007.01 (2006.9.10 文庫初版発行)

 読みそびれていて、実は初読みの石田衣良。社会からドロップアウトしたものの、それぞれ協力して、新しい概念のあるものを作り上げた6人。さて、というストーリー。全てが都合よすぎる気がしないでもないが、展開的には面白かった。88

「1ポンドの悲しみ」 集英社文庫 2007.08 (2007.5.25 文庫初版発行)

 恋をする女性を描いた短編集。さすがにどの短編も巧い。これは女性にはたまらないポイントだろうな、というのがあって勉強にもなる。89

「池袋ウエストゲートパーク」 集英社文庫 2007.09 (2001.7.10 文庫初版発行)

 読みそびれていた人気シリーズ。池袋西口公園に集まる若者をモチーフに、そこから徒歩数分の果物屋の息子マコトが主人公。マコトの成長小説としても、ミステリとしても読みやすい。続編も読んでみよう。88

「波のうえの魔術師」 文春文庫 2007.12 (2003.9.10 文庫初版発行)

 老投資家に誘われ、フリーターの主人公が株修行を始める、というストーリー。池井戸潤や真山仁に比べると、いささかディテールは甘い気がするが、それでも主人公の成長ぶりに釣られて一気読み。88

「うつくしい子ども」 文春文庫 2007.12 (2001.12.10 文庫初版発行)

 9歳の少女殺人事件。犯人は中学生の僕の弟だった、というストーリー。メインとなるモチーフより、あるグループの存在が良かった。ラストはもう一歩踏み込んで欲しかった気もする。87

「4TEEN」 新潮文庫 2007.12 (2005.12.1 文庫初版発行)

 直木賞受賞の連作短編集。中2の男の子4人組が主人公だが、自転車であちこち走りながら、さまざまな体験をする。良かったけど、自分が14歳の頃を思うと、こんなに大人じゃなかったな。88

石川達三 ★★

「青春の蹉跌」 新潮文庫 1999.09 (1971.5.20 文庫初版発行)

 30年ばかり前の小説。
 法学部の貧乏学生だが、裕福な叔父の援助を受けている。叔父の娘と結婚すれば、成功は見えてくるが、今付き合っている女性への欲望も抑えられない。さて、どうするか、というストーリー。この時代だったらそうだろうな、という風に展開していくので今ひとつ深みがないような気がするが、主人公の心理描写はなかなか面白かった。84

絲山秋子 ★★★

「海の仙人」 新潮文庫 2007.11 (2007.1.1 文庫初版発行)

 初読みの絲山秋子。宝くじが当たり、デパート店員を止めて福井の海沿いに引っ越した男が主人公。役立たずの神様ファンタジーは居候するし、女性と出会うがある問題があって、と変な話だけど、文体のシンプルさでそうは思わせないのが魅力。88

「イッツ・オンリー・トーク」 文春文庫 2007.11 (2007.9.20 文庫初版発行)

 先に映画(やわらかな生活)を見ていたけど、原作は中編でデビュー作だったのか。映画はずいぶんふくらませて作っているけど、面白さからいけば、映画の方がいいかも。ただ、もう一編の「第七障害」はいいなあ。それと、あとがきの書店員さんの熱意もいい。ボリュームのある長編も読んでみたい。88

「逃亡くそたわけ」 講談社文庫 2007.12 (2007.8.10 文庫初版発行)

 躁鬱病で福岡の病院に入院していた主人公の女性が、名古屋出身の男性と逃亡。大分、熊本、宮崎、鹿児島へと南下していく。二人のやりとりがおかしく、悲しいが、読後妙に元気が出る。主人公が何でも九州を日本一と言い張るのが、うちの奥さんのようだ。90

「スモールトーク」 角川文庫 2008.02 (2008.2.25 文庫初版発行)

 別れた男が毎回違う車に乗って、デートに誘いに来る、という設定の短編集。ラストがなかなかいい。会社員時代を描いたエッセイも良かった。さぞかし残念だったろうな。89

「ニート」 角川文庫 2008.06 (2008.6.25 文庫初版発行)

 短編集。現在ニートと、ニートを脱した主人公の交流を描く。一人暮らしで、携帯は止まってもホームページだけは更新していて、日々貧乏が進み、栄養不足になっていくのが伝わってくる、というのはリアルだ。88

「袋小路の男」 講談社文庫 2009.01 (2007.11.15 文庫初版発行)

 高校の先輩に思いを寄せ続け、長い片思いを続けること12年。その女性側からの表題作と、男側からの短編、小品だが印象的なもう一編を収録した短編集。手を握ったこともないのに、献身的でいじらしいなと思いつつ、2編目を読むと、ギャップが面白い。ラストも決まっている。巧いなあ。絲山秋子を未読の方へお勧め。90
袋小路の男 (講談社文庫)

稲葉真弓 ★★

「エンドレス・ワルツ」 河出文庫 1999.08 (1997.8.4 文庫初版発行)

 70年代に生きたジャズ界の異端児阿部薫と、作家であり女優だった鈴木いずみとの激しい愛の生活を描いた小説。
 音楽、ドラッグ、酒。それらのファクターと共に生きている二人を鈴木いずみの視点から書かれている。昔の栗本薫の小説みたいな感じだけど、そういう風にしか生きられない人というのは確かに存在するのだろう。86

井上ひさし ★★☆

「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」 新潮文庫 2002.01 (2002.1.1 文庫初版発行)

 岩手県の一関で行われた井上ひさしの作文教室の模様を本にしたもの。分かりやすい言葉で書かれているので、そうだったのかとためになる。文章の一番大事な事は、自分にしか書けない事を誰にでも分かる言葉で書く、というのは納得。現役の学生はもちろん、ちょっとした文章を書き事が多い人にもおすすめ。88 
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上野瞭 ★★

 ずっと前に「砂の上のロビンソン」がNHKでドラマ化されたので見た方もいるかもしれませんが、家族をモチーフにしてすれ違いと再構築の様子をユーモラスに淡々と描く作家である。
 といっても、3冊しか読んでないので、今後もうちょっと追いかけてみたい。

私のベスト3
 1.「砂の上のロビンソン」 新潮社
 2.「三軒目のドラキュラ」 新潮社
 3.「アリスの穴の中で」 新潮社

「アリスの穴の中で」 新潮社 96.08

 上野瞭の家族三部作の真ん中。他のはそのうち作家コーナーで紹介します。
 普通のおじさんが妊娠したらどうなるか、というストーリーだけど、もの哀しいけど暖かい視点の上野瞭の筆が冴えている。ちょっといろいろ考えてしまった一冊。85

上橋菜穂子 ★★☆

「精霊の守り人」 新潮文庫 2007.09 (2007.4.1 文庫初版発行)

 全然知らなかったが、児童文学ではロングセラーのファンタジー。用心棒をしている女性が、皇太子のガードを頼まれた事から話は進む。なるほど、世界の構築やルールがリアルで面白い。結構長いシリーズのようなので、続きを読むのが楽しみだ。解説は恩田陸。90

「闇の守り人」 新潮文庫 2007.11 (2007.7.1 文庫初版発行)

 シリーズ2作目。故郷に帰ったバルサは、かつての陰謀に再び巻き込まれるが、というストーリー。前作同様、世界観が面白く、少年少女も生き生きと躍動感があって、感情移入出来た。このシリーズ、面白いな。89

「夢の守り人」 新潮文庫 2008.01 (2008.1.1 文庫初版発行)

 シリーズ3作目。今回の主役級はトロガイ老師。かつての過去が明かされ、現在の事件とつながっていく、という構成。終盤追いかけてくるものの存在が怖いし、戻りたくない気持ちも分かる気がする。89

「虚空の旅人」 新潮文庫 2008.08 (2008.8.1 文庫初版発行)

 シリーズ第4作。南にある隣国の儀式に招かれたチャグムとシュガが主人公。こちらのコンビを描くことにより、世界観が広がったとあとがきにもある通り、これからの展開が楽しみ。89

虚空の旅人 (新潮文庫)

薄井ゆうじ ★★★

 「本の雑誌」で紹介されていた「樹の上の草魚」をきっかけとして何冊か読んだ。設定はSFっぽいし、理不尽なのだけど、ふんわりとした文体で疲れた時とか、嫌になった気分の時に読むと不思議に癒やされる。

私のベスト3
 1.「くじらの降る森」 講談社文庫
 2.「樹の上の草魚」 講談社
 3.「天使猫のいる部屋」 徳間書店

「くじらの降る森」 講談社文庫 96.08

 文庫化第1弾だそうだけど、北上次郎さんの書評でお馴染みの薄井ゆうじ。
 正直、評判のいい「樹の上の草魚」よりこっちの方が好き。現代的なファンタジーです。87

「竜宮の乙姫の元結いの切りはずし」 講談社文庫 96.10

 今月の新刊で書き下ろし。
 例によってどこか不思議な薄井ワールドが展開されていくけど、今回のモチーフは竜宮城。全体が長くないせいもあるけど、今一つ作品世界に入り込めなかった。82

「星の感触」 講談社文庫 97.06

 2m67cmの大男、猫田研一を巡っての物語。
 薄井ゆうじらしく、猫田研一ことケンはその後も成長を続けるし、もちろんそれがメインのストーリーではない。自分探し小説のちょっと変化球という感じ。でも薄井ゆうじの作品世界はやっぱりいいなあ。89

「雨の扉」 光文社文庫 98.11 (1998.10.20 文庫初版発行)

 久々の薄井ゆうじで長篇。
 劇団の下っ端である若い男が画材屋の二階で女と知り合う。そういう恋愛小説なのだなと思って読み始めると、その男の未来の自分が同一時間上に存在して、過去と現在が入り乱れてのストーリーへと突入する。
 小劇団を軸にして展開するため、その世界が好きな私は面白かったが途中はやはりややこやしかった。タイトルが全てを表しているのかな。 84

内海隆一郎 ★★☆

「人びとの旅路」 新潮文庫 2000.07 (1993.6.25 文庫初版発行)

 21のちょっといい話的短編集。
 でもこれが結構シンプルなのだけどいい。8歳年下の男に恋しているが、自分からは声を掛けられない女性に対して、男が取った方法とは? とか、親子、友人、恋愛に関して、ふーむと思う話ばかり。こういう小説書く作家もいたんだなあ。88

梅田香子 ★★★

「勝利投手」 河出書房新社 96.09

 この小説を今まで見逃していたのはとても残念だ。私もまだまだ修行が足りないです。
 ストーリーは、甲子園での優勝投手が実は女の子で、しかも中日ドラゴンズがドラフトで1位指名。それからの活躍と野球の楽しさ、恋愛などを描いたものだけど、セリーグの球団は実名で出てくるし、中日がメインで出てくるし、もう狂喜乱舞して読んだ一冊。
 昭和61年初版の本ですが、何とか探して読んでみて下さい。点数が甘いのは自覚してます。96

「ダグアウト・ストーリー」 講談社 2000.05 (1988.10.15 初版発行)

 ようやく古本屋で探し出した梅田香子。半自叙伝的小説というか、「勝利投手」で受賞した後、取材活動をしながら知り合った中日ドラゴンズの監督付広報早川のノンフィクションとなっている。
 小説なのかノンフィクションなのか位置づけが曖昧なため、訴えてくる力は弱いが、中日ファンとしては嬉しい読み物となっている。あとスポーツ紙各紙の中日番の人となりが書かれているので、現在も活躍している各記者の性格が分かって面白かった。84

江國香織 ★★

「ホリー・ガーデン」 新潮文庫 2000.06 (1998.3.1 文庫初版発行)

 集英社の小冊子「青春と読書」の対談を見て、こんなあっさりした人だったっけ?と思ったのと、最近評判がいいので、久しぶりに読んでみた。
 小学校からの幼なじみの30歳の女性二人を主人公に、彼女を慕う後輩や、年の離れた恋人の事を中心に話は進む。うーん、やはり作風はそんなに変わってない。素敵な毎日小説(と、勝手に名付けた)。毎日お気に入りの食器で紅茶飲んだりする人にとっては心地よい世界なのだろうが、どうも私は苦手だ。82

「神様のボート」 新潮文庫 2007.06 (2002.7.1 文庫初版発行)

 かなり久しぶりに読む江國香織。でも思ったより良かった。娘と母と交互の視点から語られるのだが、一度安心させておいての落ちは、かなり怖いよ。88

「流しのしたの骨」 新潮文庫 2007.07 (1999.10.1 文庫初版発行)

 夫婦と4人の子供の一家を描いた、静かな物語。その家族の微妙な変わり具合が、文体とも合っていて、こちらも静かに読み終わった。88

「泣かない子供」 角川文庫 2007.08 (2000.6.25 文庫初版発行)

 結婚する時、奥さんが100冊くらい本を持ってきた中に結構江國香織があったので、ぼちぼちと読んでいたら、前ほど嫌いではないのを発見した。でも、このエッセイ集はちょっと合わなかったな。85

「間宮兄弟」 小学館文庫 2007.11 (2007.11.11 文庫初版発行)

 映画で見て、面白かったので読みたかった。30代になっても、子供の頃と同じように、仲良く二人だけで暮らす兄弟が主人公。二人とも無理目の恋愛に突入してしまい、そのやりとりが妙におかしい。いい人なんだけど、ちょっとね、と言われるタイプ。でも、こういう静かで変化のない生活もちょっといいかな。89

遠藤周作 ★★★

「わたしが・棄てた・女」 講談社文庫 99.04 (1972.12.15 文庫初版発行)

 実は初読みの遠藤周作。
 戦後間もない東京を舞台に、貧乏学生と田舎から工場へ就職した少女の出会いをきっかけに、学生の手記と少女のパートが交互に繰り返されるという構成。
 要はタイトルそのままの話なのだけど、少女が生来の人の良さから夜の街へと落ちていき、やがてライ病と診察され、専門病院へ行く辺りから話が動き始める。キリスト教を元にした人生観がそこに反映されているのだけれど、遠藤周作はこういうタイプの小説を書く作家だったのか。 84

「侍」 新潮文庫 2001.03 (1980.6.25 文庫初版発行)

 勧められて読んだ一冊。
 仙台ではお馴染みの支倉常長が主人公。藩政時代、初めてローマを訪れたという位の知識しかなかったが、なるほど、こういう人だったんだと納得。伊達家に命じられ、出航した翌年に、徳川家の意向でキリシタン迫害となり、通商条約を結ぶ事はなかったが、ヨーロッパへ行くというストーリーよりも、キリスト教を通して日本での生き方を見つめ直す点が良かったし、宣教師のキャラクターが熱くていい。88

「深い河」 講談社文庫 2001.05 (1996.6.15 文庫初版発行)

 たまたま同じツアーとなり、様々な事情を抱える何人かの視点から、インドを舞台に描かれる。中でも神父を目指し、日本からフランスに渡り、その後インドに辿り着く一人の男の描写がいい。巧く立ち回ることが出来ず、神学校でも落第生だが、神の存在に対するスタンスが共感出来た。そういうキリスト教なら私にも理解出来るし。88

大江健三郎 ★★

「万延元年のフットボール」 講談社 96.11

 初めて読んだ大江作品。
 村上春樹の「1973年のピンボール」を読んで以来読みたかった一冊。二人の兄弟と兄の妻を中心にして話は進むけど、思ったよりも読みにくくはなかった。ただ好きな作家とは言えないけれど。86

大崎善生 ★★

「パイロットフィッシュ」 角川文庫 2004.04 (2004.3.25 文庫初版発行)

 ノンフィクションで話題になった大崎善生の小説デビュー作。ある日、19年ぶりに昔の彼女から電話がかかってくる、というストーリー。過去と現在が交互に繰り返される構成だが、なるほど、このタイプの小説なら好きな人は多いだろうな、という感じがする。ちょっと私には感傷的すぎるかも。87
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大槻ケンヂ ★★☆

「グミ・チョコレート・パイン グミ編」 角川文庫 1999.07 (1999.7.25 文庫初版発行)

 筋少の大槻ケンヂが書いた自伝的小説。
 高校2年生の大橋賢三を主人公に、凡庸な高校生活を嫌い、映画、小説、ロック、グラビアの女の子に情熱を注ぐ彼も、やがて恋をして、というストーリー。原田宗典のエッセイのような文体だな、と思って読み始めたのだが、これがはまった。早くチョコレート編も文庫にならないかな。93

「オーケンののほほんと暑い国へ行く」 新潮文庫 1999.08 (1998.10.1 文庫初版発行)

 テレビの企画でインドへ行ったときの旅行記とタイへの旅行記。
 インドは蔵前仁一の「ゴーゴーインド」を引き合いに出したりして、旅行記好きだというのが伝わってくるが、読むと行くとは大違いというのもひしひしと伝わってくる。
 タイ編はビーチでの描写が多くて、羨ましい限りだ。84

「グミ・チョコレート・パイン チョコ編」 角川文庫 2000.09 (2000.9.25 文庫初版発行)

 去年読んで、一部に勧めまくった小説の続編。
 今回は目標を持って進んでいる分、一作目よりテンションは低い。しるこドリンクのエピソードのようなインパクトもないしなあ。このヒロインのような子は、確かに高校生からみると理想の子だと思う。ちょっとしみじみしてしまうが、3年経った今でも出ていないという3作目の完結編を待ちたい。86

「グミ・チョコレート・パイン パイン編」 角川文庫 2006.11 (2006.11.25 文庫初版発行)

 ついに3部作の完結編。最初読んだ時ほどのパワーは感じられないけど、多分読んでいる私も歳を取ったからだろうな。いずれにせよ、ちゃんと完結まで読めて良かった。88

大道珠貴 ★★★

「しょっぱいドライブ」 文春文庫 2006.02 (2006.1.10 文庫初版発行)

 芥川賞受賞の表題作を含めた中編集。自信がなく、日常をふわふわと生きている女性が主人公だが、誰にも感情移入しようがない。面白い描写もあるのだけど、モチーフが何だか分からない。87

小川洋子 ★★★★

「博士の愛した数式」 新潮社 2004.06 (2003.8.30 初版発行)

 「本の雑誌」で取り上げられていたので、ようやく読んでみた。10歳の男の子と二人暮らしの女性が、家政婦として行った先にいたのが博士。大学で数学を研究していたが、事故に遭い記憶が80分しか持たない、というストーリー。記憶が蓄積されないので、忘れないように体中にメモを貼るシーンや、野球を巡るあれこれ、子供についての愛情など、サブエピソードもいいが、素数を中心とする数学についてのアプローチがいい。決して小説の形を借りた、知識詰め込み本ではないので、どうも数学は苦手だったなあという人も安心して読んでみてほしい。96
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加賀乙彦 ★★

「ヴィーナスのえくぼ」 中央公論社 2002.08 (1989.10.20 初版発行)

 前に北上次郎が推していたので読んでみた一冊。とんでもなく忙しい上に毎晩泥酔して帰ってくる商社マンの夫といじめに遭っている息子を持つ専業主婦の主人公は、ある時不倫に走る。さて、というストーリーなのだが、後半の展開が凄い。この主人公にどうにも感情移入は出来ないけど、うーん、読後感も重い。なかなか変わった小説を書く作家だな。85 (品切れ)

角田光代 ★★★

「幸福な遊戯」 角川文庫 2003.12 (2003.11.25 文庫初版発行)

 海燕新人文学賞を受賞した表題作を含む3編を収録した中編集。角田光代は初めて読むが、なるほど、こういう手触りか。失われつつある関係、日常の繰り返し、モチーフの一つ一つが分かりやすくて、つい先を読んでしまう。解説の永江朗も書いているが「書店員が応援したくなる作家」というのも分かる気がする。87
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「まどろむ夜のUFO」 講談社文庫 2004.01 (2004.1.15 文庫初版発行)

 短編集。解説の斎藤美奈子が書いている「アパート文学」「フリーター文学」というのが、まさにぴったり来る感じ。誰かと一緒に住んでいたり、日々ぶらぶらしていたり、という人たちが主人公だが、ちょっとそれに憧れてしまう。特に何が起きる訳でもないけど、この雰囲気はいいな。88 文庫購入icon

「空中庭園」 文藝春秋 2004.03 (2002.11.30 初版発行)

 とある郊外のマンションを舞台とした連作短編集。隠し事は一切しないという家庭内ルールの一家4人が主人公で、様々な思いを抱えている。浮気ばかりしている父親はコミカルだが、どうしようもない。中学生の弟に一番感情移入したかな。しかし、角田光代も慣れてくると、この変さが癖になるかも。90
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「真昼の花」 新潮文庫 2004.09 (2004.9.1 文庫初版発行)

 中編2編を収録。ふらりとアジアに出ていったまま、帰らない兄を追うように旅に出た妹が主人公の表題作が良かった。数日間の旅で分かったような事を言うのもナンセンスだけど、何年いようと旅は旅というのも事実。その辺りの中途半端さと寄る辺なさがいいな。88
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「キッドナップ・ツアー」 新潮文庫 2006.07 (2003.7.1 文庫初版発行)

 初期の児童文学。小学生の女の子を主人公に、離婚したお父さんと誘拐された事にして一緒に過ごす、夏休みの話。最初は何でも買ってくれたのに、徐々にお金が無くなるところや、どう話していいか分からない点、クールな女の子なのに怖がりな点など良かったな。いいなあ、夏休み。89

「対岸の彼女」 文藝春秋 2006.10 (2004.11.10 初版発行)

 確か直木賞受賞作。主婦と、久しぶりに働きに出た先の女社長の二人を軸に、依存するだけではなく、自分で考えていくまでのストーリー。角田光代読むのは久しぶりだけど、すんなり入り込めたし、いい話だった。90

「太陽と毒ぐも」 文春文庫 2007.07 (2007.6.10 文庫初版発行)

 主に恋人たちを主人公とした短編集。迷信好き、買い物好き、熱狂的巨人ファンなど、それぞれ特徴があるが、それはどのカップルには一つはあるだろう。中日ファンの私も、野球の話はつい共感。「あんたが応援したからって、勝つ訳ないでしょ」とか言われたら泣きそうだ。風呂嫌いの彼女を描いた「サバイバル」が良かったな。解説は先日お会いした池上冬樹さん。90

「おやすみ、こわい夢を見ないように」 新潮文庫 2008.06 (2008.6.1 文庫初版発行)

 短編集。元カレにいやがらせをされたり、娘との関係を巧く築けない母親が主人公。最後の短編、かつての親友を思う話が一番良かった。小学生だった頃の揺れを、ここまで描写出来るのは凄い。89

「人生ベストテン」 講談社文庫 2008.08 (2008.3.14 文庫初版発行)

 帰省帰りのバス中で読んだ短編集。表題作は40歳を目前にして、今までの人生イベントを並べてみたら、10代の頃ばかり。それでは、初恋の人に会ってみようと同窓会に出かける女性の話。暗くならないどころか、妙なユーモアさえ漂うので読後感はいい。同僚の独身4人組のリアルさにも笑った。これは、どの会社にもいそうだ。89

人生ベストテン (講談社文庫)

片山恭一 ★★

「世界の中心で、愛をさけぶ」 小学館 2003.12 (2001.4.20 初版発行)

 これだけ売れていて、今さら読むのも何なのだけど、機会があったので読んでみた。大事な女性を失った男が主人公で、過去のエピソードが綴られるという構成。多分私がすれているからだと思うのだけど、このテーマなら他の作家の小説の方がいいような。85
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「もしも私が、そこにいるならば」 小学館 2003.12 (2003.11.1 初版発行)

 短編集。正直「世界の中心で…」が合わなかったため、どうなるかと思って読んだが、こちらは結構好みだった。文章も漢字の使用頻度が上がってちょうどいいくらい。表題作もいいけど「鳥は死を名づけない」が一番好きかな。89
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桂望実 ★★

「県庁の星」 小学館 2005.11 (2005.9.20 初版発行)

 県庁のエリート職員が、民間交流でスーパーへ。何もかもが県庁のやり方と違うし、最初は全く相手にされなかったが、徐々に考え方も変わってきて、というストーリー。
 古株のパート主婦とのやり取りは良かったし、少しずつ変わっていく様子も良かったのだけど、その辺りの描写が短すぎるのが残念。まあ長い小説はそんなに売れないんだろうしなあ。87

金城一紀 ★★★

「GO」 講談社 2000.08 (2000.3.30 初版発行)

 本の雑誌で北上次郎が誉めていたため、読もうと思ったら、今年上半期の直木賞受賞作だそうだ。船戸与一しか見てなかったからなあ。
 生まれてからずっと日本で暮らしているが、国籍が韓国の高校生が主人公。友達の誕生パーティで出会った日本人の女の子に恋をする。国籍や血って一体何なんだ、というモチーフもいいが、個性的な父親を始め、回りのキャラクターの造形がいい。もちろん、恋の描写も良くて、元気が出る一冊。2作目以降も楽しみだ。95

「レヴォリューションNo.3」 講談社 2001.10 (2001.10.1 初版発行)

 勉強が苦手なやつらが集まる高校を舞台にした連作集。ど真ん中ストレートの描写ばかりで、そうなんだよなあと共感してしまう。世の中を変えるべく、有名女子校の文化祭へ乗り込むエピソードも、リーダー格の友人のエピソードも、最後の短編のある長編を思い出させるラストもいい。物事を一面からしか見ずに、正義面して語るのはその辺のおじさんに任せよう。私も、そんな中身がない言葉は信じない。ソフトカバーにして定価を抑えた心意気もいい。92

「FLY,DADDY,FLY」 講談社 2003.02 (2003.1.31 初版発行)

 最愛の娘が暴力事件に巻き込まれたが、無力感にさいなまれる40代の父親が主人公。ふとしたきっかけで変わり始めるのだけど、このコーチ役が、というストーリー。このトレーニングの様子と、全てのトピックがある一点に集中する構成がいい。「GO」と同じ高校と人物が出てくるのだけど、それは読んでのお楽しみ。シンプルな話なんだけど、胸が熱くなって、くすくす笑わせてくれる、とても元気が出る一冊。これはお勧め。97 
単行本購入

「対話篇」 講談社 2003.02 (2003.1.30 初版発行)

 「FLY,DADDY,FLY」と同時発売の短編集。この冒頭の「恋愛小説」という短編、村上春樹の短編を思わせる。それを今の作家が書くとこうなるかなという感じ。これがベストだけど、悲しい話だ。最後の「花」は長編での金城一紀らしい話だと思うが、いずれにしても死をテーマにした短編集だけに、こういう作品も書けるんだ、とちょっと嬉しかった。90 単行本購入

「SPEED」 角川書店 2005.07 (2005.7.1 初版発行)

 「ゾンビーズ」シリーズの最新作。今度の主人公は女子高生。普通に生きてきたはずなのに、トラブルに巻き込まれ、あの面々の仲間になるというストーリー。
 いろいろ汚い事情も分かってくるのだが、「どの場所だって一緒。染まらなければいいだけだ」など今回も印象的なセリフがある。そういうもんだ、と思ってやり過ごすより自分の方法で闘え、というメッセージは熱いなあ。なお、今回もワンツー練習とブルース・リーと山下君の災難があるので、安心して読めた。91
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「映画篇」 集英社 2007.08 (2007.7.30 初版発行)

 タイトル通り映画をモチーフとした短編集。一つの映画がキーワードとなっていて、最後に全てが結びつくという連作集でもある。作者自身を彷彿とさせる最初の「太陽がいっぱい」から始まって、どの短編もとてもいい。中でも「フライダディ」にも出てきたが、「ドラゴン怒りの鉄拳」と「愛の泉」が良かった。「ゾンビーズ」シリーズの続編も読みたいな。92

「SP」 扶桑社 2008.03 (2008.3.10 初版発行)

 フジテレビで放送されていたドラマのシナリオ。途中まで見ていたのだけど、最後は見ていなかったので、謎も解けて良かった。注がたくさん付いているので、金城一紀の考えとか、俳優の岡田くんへの信頼が見えて面白かった。完結してはいないので、ぜひ続けてほしい。90

亀海昌次 ★★

「染色体」 情報センター 2002.05 (1985.1.15 初版発行)

 作者はグラフィック・デザイナー。北上次郎の書評で読んでから、ずっと探していた一冊。仕事仲間の男の病死や、女の事、デザイナーという虚業のような仕事、それらを通して淡々と描いているが、心臓の期外収縮という持病により、一人ではなかなか外出も出来ない。それなのに奥さんに愛人の元へ車で送らせたりするが、本人は投げやりになったり、前向きになったりする。生きるという事と死ぬという事の差を、考えてしまう。86 (品切れ)

川上弘美 ★★

「蛇を踏む」 文春文庫 1999.08 (1999.8.10 文庫初版発行)

 96年に芥川賞受賞した表題作を含む中編集。
 タイトルそのまま、蛇を踏んだ事によって蛇が母親に代わり、ご飯を作ってくれたり、一緒にビールを飲んだりして暮らしていく女性の話。結構独特な小説世界を書く人で、言い表すのが難しいが、たゆたゆと読むのは結構心地よい。85

「センセイの鞄」 平凡社 2001.12 (2001.6.25 初版発行)

 高校の頃のセンセイと居酒屋で再会した女性が主人公。徐々に惹かれていくが、その様子がいい。どんなところへ、例えキノコ狩りに行こうとも鞄を離さないセンセイの、論理的なんだか感覚的なんだか分からない話し方と、主人公のツキコさんとのやりとりがいいな。川上弘美は久々に読んだのだけど、変な形容詞は相変わらず健在で「ぼわぼわと話す」が特に良かった。90
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「ゆっくりさよならをとなえる」 新潮文庫 2004.12 (2004.12.1 文庫初版発行)

 様々な媒体に書いたエッセイ集。あの文体で日々の事や、読んだ本の事などを書いているので、読んでいると和む。これだけ感性が柔らかくて、私より年上というのが凄いなあ。日々の生活をどう送るかは見習わないと。本代と飲み代にお金が使えるようになった自由は、同感。大人になって良かったなと思う事の一つ。89
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「ニシノユキヒコの恋と冒険」 新潮文庫 2006.08 (2006.8.1 文庫初版発行)

 新刊が出た時から読みたかった作品。女性が望む全てのものを持っているような西野くんが主人公。でもぎりぎりの部分で人を愛せない彼と関わった10人の女性の視点で語る連作集。女性たちがいろいろな部分で直感的に悟るのが、ちょっと怖い。90

「おめでとう」 新潮文庫 2007.05 (2003.7.1 文庫初版発行)

 恋がテーマの短編集。淡々と、でも川上弘美らしく、それぞれの恋が描かれる。たまにはこういう作風も落ち着いていいな。88

「物語が、始まる」 新潮文庫 2007.10 (1999.9.18 文庫初版発行)

 SFの要素を入れた短編集。不思議でほんわかした話が多いが、どうも煮え切らない。文学寄りかSF寄りか、スタンスがちょうど中間点くらいだからかな。86

「神様」 中公文庫 2009.01 (2001.10.25 文庫初版発行)

 短編集。くまと散歩に出る話とか、壺の中から女が出てくる話とか、ユーモラスな短編が多い。このくま、最後の短編にもう一度出てくるのが嬉しい。いいなあ、くま。88
神様 (中公文庫)

川西蘭 ★★

 三上博史が主演していた映画をきっかけとして読み始めた。感覚的な表現が多くて時々読みにくいけど、その中ではっとする表現があったりして止められない。最近は雑誌などにも書いてますね。

私のベスト3
 1.「ルームメイト」 集英社文庫
 2.「50の職場と50の小説」 角川文庫
 3.「港が見える丘」 集英社文庫

「サーカス・ドリーム」 集英社文庫 96.10

 サーカスをテーマとした短編集。
 所々にサーカスのモノクロ写真が入り、雰囲気を盛り上げるが、そもそも私はサーカスに郷愁を感じないので、好きな人におすすめ。82

「ルルの館」 集英社文庫 96.11

 隣の家に住むルルと知り合ってから主人公夫妻の生活が変わっていく。
 変則的な恋愛小説。82

北原亞以子 ★★★★

「東京駅物語」 新潮文庫 1999.11 (1999.11.1 文庫初版発行)

 北上次郎のエッセイで前に取り上げられて以来読みたいなと思っていたら、文庫新刊で出たので読んでみた。
 まだ東京駅と呼ばれる前の明治から戦後まで、それぞれ東京駅にまつわる人たちの連作短編集。ある短編のある人が、違う短編に関わっていてというような構成だけど、その妙より人物描写が巧い。あと何冊か読んでみよう。90

「恋忘れ草」 文春文庫 2000.02 (1995.10.10 文庫初版発行)

 平成5年上期の直木賞受賞作で、連作短編集。
 江戸時代、職業を持って自活していく女性がそれぞれ主人公となり、周囲の口さがない声や、やり場のない恋愛を通して、それぞれの道を模索していく、というストーリー。甘いタイトルとは違い、シビアな話が多い。巧いなあ。94

「まんがら茂平次」 新潮文庫 2000.03 (1992.9.1 文庫初版発行)

 幕末の江戸を舞台にした連作短編集。
 万に一つも本当の事を言わない「まんがら」な茂平次を主人公に、戦になりそうだが、それとは関わりなく生きて行かなくてはならない町の人々を中心に描かれる。宮部みゆきの江戸物も巧いけど、こちらも巧い。「花は桜木」なんてため息が出る。91

「その夜の雪」 新潮文庫 2000.04 (1997.9.1 文庫初版発行)

 江戸の市井の人々を主人公とした短編集。
 表題作は、祝言を控えた一人娘が暴漢に襲われ、自害した。仏とまで言われた父親の同心は復讐に燃えるが、というストーリー。読後、ほうとため息がでるような話は相変わらず巧い。江戸の街というのは教科書の中で見かけるのと、小説の中で見かけるのでは、まるでイメージが違う。88

「深川澪通り燈ともし頃」 講談社文庫 2001.05 (1997.9.15 文庫初版発行)

 読む時に気づいたのだが、シリーズ物2作目だった。気にせず読んだけど。
 ある木戸番小屋の夫婦を慕っている男と女がそれぞれの中編の主人公になるという構成。男の方は、けんかばかりしていた男から、江戸で五本の指に入る狂言師とまでなったが、ある出来事で墜ちていく。女の方は、30代で一人暮らしだが、十何年も付き合っている妻子持ちの男がいる。この二人の描写が、巧い。頼られる存在となる木戸番の夫婦もいい。92

銀林みのる ★★

「鉄塔 武蔵野線」 新潮文庫 97.06

 第六回日本ファンタジーノベル大賞受賞作で今月の新刊。
 引っ越し前のふとしたきっかけで、前々から好きだった鉄塔を辿っていく少年の物語。その辺りの描写は好きなんだけど、鉄塔そのものに私はあまり興味を感じなかった。少年の心がないという事かなあ。ラストはうーん、という感じ。84

草薙渉 ★★★

「黄金のうさぎ」 集英社文庫 97.05

 ゲストブックに書き込んでもらったので、興味を持って読んでみた草薙さんの小説。
 最初はシリアスなタイプかなあと思いこんで読んだのだが、わりとユーモラスなタッチで書かれているし、テーマも黄金と取っつきやすい小説だった。黄金を巡っての話になるかと思いきや、ちょっと意外な展開で面白かった。また何冊か読んでみたい。86

倉橋由美子 ★★★

「大人のための残酷童話」 新潮社 2002.01 (1984.4.20 初版発行)

 よく知られている童話、昔話を元に論理的で残酷な話にしてみようという短編集。エロティックな落ちが付いていたり、考えが足りないものはやはり幸せになれなかったりして、読んでいても納得出来る。最後に一行書かれている教訓も、なんだかユーモラスでいい。87 
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栗田有起 ★★

「お縫い子テルミー」 集英社文庫 2007.10 (2006.6.30 文庫初版発行)

 妻が買ってきたのを読んでみた。沖縄から歌舞伎町へ流れ、お縫い子をして生きていく表題作より、もう一編の方が印象深かった。夏休みはいいなあ。87

小池昌代 ★★☆

「感光生活」 ちくま文庫 2007.12 (2007.11.10 文庫初版発行)

 12月の小説家講座のゲストだったので、読んでみた。もともと詩人で、小説も書き始めたそうだが、不思議な味わいの短編集。謎の隣人が鍋を持ってくる話が好き。87

幸田文 ★★★

「季節のかたみ」 講談社文庫 96.12

 結核にかかってから読むようになった幸田文。
 「おとうと」の時もそう思ったけど、大正・昭和初期生まれの女性の人の文章って何だか独特の味わいがあっていいなあ。これはエッセイ集なんですが、季節に関することを綴った文章が何だかきちんとしていて心地よい。86

小林多喜二 ★★★

「蟹工船・党生活者」 新潮文庫 2001.05 (1964.6.28 文庫初版発行)

 なぜか読みたくなって読んでみた。
 タイトル通りの2編の中編集。「蟹工船」はオホーツクで、ロシアと張り合いながら蟹を取る船が舞台。莫大な利益が出ているのに還元もされず、ただ使い捨ての労働者。ストを起こすが、帝国海軍と繋がっている会社は、そちらに応援を頼むが、というストーリー。もう一編の「党生活者」の方は、地下生活を送る共産党党員の話。個人的にはこちらの方が、面白かった。90

小林信彦 ★★

「イエスタデイ・ワンス・モア」 新潮文庫 96.10

 これまたずっと読みたかった作家。
 この小説はタイムスリップ物のわりにはあっさりと書かれているので読みやすかったけど、何か物足りなかった。82

「怪物がめざめる夜」 新潮文庫 97.03

 今月の文庫新刊。文庫になったので買ってみた。
 ラジオを舞台として一躍スターになった男を巡っての怖いといえば怖い話。解説は宮部みゆきだが、彼女がいうほど怖くはなかった。90

「唐獅子株式会社」 新潮文庫 2000.06 (1981.3.15 文庫初版発行)

 読みそびれている小説を読もうという事で、読んでみた。
 関西のヤクザ一家が、近代化が大好きな親分の命令の元、社内報、放送局や映画、アメリカ化など、様々な事をやらされては振り回される、連作短編集。解説が筒井康隆なのだが、昔の彼の小説とも共通項がある暴れぶり。歌編もあるのだが、今の状況も大して変わってない。87

「紳士同盟」 新潮文庫 2000.07 (1983.1.15 文庫初版発行)

 映画化されてそちらは見たけど、小説は初読み。
 いわゆるコン・ゲーム小説で、テレビ局をクビになった男、芸能プロが行き詰まった男、俳優志望の貧乏な男、電話番だった女、この4人が組んで、2億円を目標に、被害者の出ない詐欺を目指して知恵を絞る。先がどうなるかわくわくさせられる小説だ。90

「紳士同盟ふたたび」 新潮文庫 2000.07 (1984.7.15 文庫初版発行)

 タイトルそのまま、前作の続編。
 スマートなコン・ゲームを目指して悪戦苦闘する4人組。二人は入れ替わったが、主要メンバーは同じなので違和感はない。ただインパクトはやっぱり1作目の方があったな。それにしても、リンダ・ロンシュタットという歌手はそんなに時代を代表していたのか。知らなかった。84

斎藤綾子 ★★★

「結核病棟物語」 新潮文庫 97.06

 去年から私のページを見ている方はご存じの通り、結核は以前私がかかった病気です。
 作者の実体験を元に書かれたようだけど、結構重症だったようなので感慨がひとしお。でも中身は結構軽妙に書かれているので、いわゆる病気物とはひと味違います。病棟の様子も生活感たっぷりで、なかなか楽しませて頂きました。85

「ヴァージン・ビューティ」 新潮文庫 2002.06 (1999.11.1 文庫初版発行)

 ちょっといつもと違うものも読もうかな、と思って読んでみた斉藤綾子の短編集。気持ちよさと気持ち悪さと愛について、どの短編もモチーフはそうだが、私はそれほど情動的じゃないので、ふーんという感じかなあ。83 
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佐伯一麦 ★★

「ア・ルース・ボーイ」 新潮文庫 96.10

 仙台を舞台とした恋愛小説という趣だけど、今一つ書き込みが足りないような気がした。脇役の人物が魅力的なだけに、ヒロインの行動が今一つよく分からないというのは惜しい気がする。83

桜井亜美 ★

「イノセント・ワールド」 幻冬舎文庫 1999.07 (1997.4.25 文庫初版発行)

 古本屋で何となく買った初読みの作家。
 17歳の女子高生が主役で、知的障害者の兄と性的関係がある。新システムでの売春もしている。自分と他者との距離感が掴めない。それらのファクターを踏まえての小説だけど、こういう「現代の感性」を前面に押し出す小説は賞味期間が短そうだ。83

笹生陽子 ★★

「ぼくは悪党になりたい」 角川書店 2005.01 (2004.6.30 初版発行)

 北上次郎の帯に釣られて読んだ青春小説。自由に生きる母親と、やたら元気な弟に挟まれ、つい主婦業をしてしまう17歳の高校生が主人公。憧れている人はいるのに、友達の彼女(しかも嫌いなタイプ)とどうにかなってしまうし、そりゃ家出もしたくなるよなあというような状況。もう少し長めの話で読んでみたかったなあ。88
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「楽園のつくりかた」 角川文庫 2005.07 (2005.6.25 文庫初版発行)

 念願の私立中に入った2年生の優くんは、家族の都合ですごい田舎に引っ越す事に、というストーリーの青春小説。クラスメイトは3人だけだが、嫌で嫌で仕方なかった生活が徐々に変わるまでがいい。たまには、こういうストレートな話もいいな。88
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佐藤亜紀 ★

「ボディ・レンタル」 河出書房新社 2000.05 (1996.12.10 初版発行)

 第33回文藝賞優秀作だそうだが、この賞が参考になったことはないような気もする。
 東大と思われる大学に通う女の子が主人公で、医学部大学院にいる綺麗すぎる女性、高飛車な同級生、その友達の野獣くんなどが友達だが、クラブでバイトしている傍ら、ボディレンタルを始めた、というストーリー。そこから更に何か見えたら良かったのに。79

佐藤賢一 ★★☆

「ジャガーになった男」 集英社文庫 2003.05 (1997.11.25 文庫初版発行)

 第6回すばる新人賞受賞作。佐藤賢一って大学が仙台で山形在住なので、紙面でもよく見るが、読むのは初めて。仙台市民にはお馴染み、支倉常長の使節団に加わり、そのままイスパニアに留まった武士が主人公。なかなか波瀾万丈の生活描写が面白い。どこの国も本質的事情は同じなのかも。88
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沢村凛 ★★

「ヤンのいた島」 新潮社 99.01 (1998.12.20 初版発行)

 第10回ファンタジーノベル大賞優秀作。
 最初南の島物という事で池沢夏樹みたいな感じかなと思って読み始めたら、すぐ経済独立が絡んだゲリラの話になって、これじゃ篠田節子だと思いつつ読み進めると、パラレル構成の元、予想内のラストで落ち着いてしまい、ちょっとがっかり。
 ただ、南の島は先進国のリゾート地となるべく存在しているのではないという信念はしっかり伝わってくるので、その点は良かった。 82

椎名誠  ★★★

 椎名誠を初めて読んだのはいつだっただろう。いわゆる自伝的三部作「新橋烏丸口青春篇」「哀愁の町に霧が降るのだ」「銀座のカラス」ですっかりファンになってしまった。
 「雨がやんだら」などのSF、各種のエッセイ、探検隊物など色々な作風の小説も魅力的だし映画ものんびりしていて好きだ。「本の雑誌」も目黒さんの魅力も大きいけど、座談会はとても楽しい。やりたい事をほとんど実現している椎名さんの姿勢を見習いたい今日この頃。

私のベスト3
 1.「銀座のカラス」 新潮文庫
 2.「哀愁の町に霧が降るのだ」 新潮文庫
 3.「アド・バード」 集英社

「武装島田倉庫」 新潮文庫 96.10

 架空の戦争後を舞台としたSF連作集。
 「水域」の時も思ったけど、妙に読みにくかった。シーナ的SFは私には合わないのかもしれない。84

「アド・バード」 集英社 96.10

 「水域」「武装島田倉庫」と同じく戦争後の世界を舞台としたSF小説。
 今までのは何となく合わなかったが、この小説は面白かった。機械的な虫や動物の設定も面白かったし。93

「黄金時代」 文藝春秋 1999.07 (1998.5.30 初版発行)

 椎名誠の中学から学生までの頃を描く自伝的小説。
 ただ、前にも自伝的小説三部作などがあったので「どこかで読んだエピソード」になってしまうのがちょっと残念。ケンカとバイトと恋に明け暮れているところが椎名誠らしくて良かった。89

「日本最末端真実紀行」 角川文庫 2000.04 (1986.5.25 文庫初版発行)

 日本全国さまざまな所へ、ちょっとした旅行として出かけようというエッセイ集。神戸、札幌、倉敷、飛騨高山など、観光地として有名な所は、読んでいても盛り上がりに欠けるが、島などのんびりした場所は、行ってみたい気を起こさせる。瀬戸内海の島は良さそうだ。87

「麦酒主義の構造とその応用胃学」 集英社文庫 2001.08 (2000.10.25 文庫初版発行)

 帰省して、読む本がなくなったため、大好きな紀伊国屋書店に行ったものの定休日で、仕方なくデパートの本屋で買った一冊。しかしデパートの本屋の品揃えは本当ひどい。本を売るつもりがないのなら、雑誌とマンガだけ置いていればいいのに。と、前置きが長い事から分かるとおり、久々の椎名誠は合わなかった。ビールについてのエッセイかと思ったら違ったし。80

塩野七生 ★★

「ローマ人の物語I」 新潮社 96.11

 途中まで読んで放っておいた一冊。
 ローマがイタリア半島を制覇するまでの話だけど、こういう本で読むと世界史ってとっても魅力的なのが不思議だ。85

柴崎友香 ★★

「きょうのできごと」 河出文庫 2007.11 (2004.3.20 文庫初版発行)

 数人の男女の一日を追った小説。学生の頃の気分が少し蘇ってくる、懐かしさを感じるストーリー。85

柴田元幸 ★★☆

「愛の見切り発車」 新潮社 2002.12 (1997.7.20 初版発行)

 村上ファンにはお馴染みの、翻訳家柴田元幸の書評と作家インタビュー集。雑誌などに連載されていたものをまとめたものだが、日本ではまだ翻訳されていない小説も取り上げていて、それが面白そうだとなんか悔しい。しかし、面白そうな小説も、そうじゃなさそうな小説も含めて、世界にはまだまだ未読の小説がたくさんあって嬉しいな。89
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司馬遼太郎 ★★☆

「竜馬がゆく 1」 文春文庫 2008.01 (1975.8.25-9.25 文庫初版発行)

 新年にして、読む本がなくなったため、ストック本から読み出す。有名な話なので、読んだことのある方が多数だろうが、司馬遼太郎は何となく今まで敬遠してきたので、作家としても初読み。魅力的な竜馬の描写は、思いが伝わってきていいのだが、作者が文中に顔を出すスタイルの小説は、久しぶりに読んだ。88

「竜馬がゆく 5−8」 文春文庫 2008.02 (1975.8.25-9.25 文庫初版発行)

 維新後期。せっかく手に入れた軍艦が沈んだり、気心が知れた仲間の死があったり、トラブル続きなものの、竜馬はひたすら突き進む。このような時代小説の常として、ラストがどうなるかは知っているだけに、その生き方は感慨深い。竜馬の名が一時廃れて、という話は初耳だった。90

「坂の上の雲 1」 文春文庫 2008.02 (1978.1.25 文庫初版発行)

 引き続き妻の嫁入り本。明治維新後、松山から3人の男が出た。軍人の秋山兄弟と正岡子規。その3人の視点から明治を語る構成だが、知らない事ばかりでその点は面白い。ただ、全8巻は長いと思う。88

澁沢龍彦 ★★★

「東西不思議物語」 河出文庫 2008.01 (1982.6.4 初版発行)

 こちらも読みそびれていて初読み。古今東西の不思議な話を集めたエッセイ集。知識として広範囲に渡っていて、それでかつ文体が平易。もっと難解な文章を書く人だという先入観があったので、ちょっとびっくり。88

島田雅彦 ★★

「優しいサヨクのための嬉遊曲」 福武書店 2000.07 (1983.8.15 初版発行)

 確かデビュー作。中編2作収録。
 ロシア反政府運動研究サークルに所属する大学生を主人公に、彼が好きな子との恋愛、思想などを描いていく。割と日常的な描写が多いので読みやすい。多分、初めて読むような気がするけど、あと何冊か読んでみたい。87

清水義範 ★★★

「蕎麦ときしめん」 講談社文庫 2000.05 (1989.10.15 文庫初版発行)

 読むのは学生の時以来の清水義範。パスティーシュ短編集。
 表題作は名古屋人の特徴を書いた論文を作者がコメントするという形式で、妙におかしい。「陽気が良くて歩いてみたい時でも、そこに地下街がある限り地上を歩くのはタブーである」とかそんな感じ。司馬遼太郎の文体で中小会社の社史を書く「商道をいく」も面白かった。87

「グローイング・ダウン」 講談社文庫 2000.05 (1989.5.15 文庫初版発行)

 初期短編集。
 SFっぽい設定に、独自の展開を絡めるという手法はこの頃からあるものの、それが巧くはまっている短編とそうではない短編の差が激しい。まあ初期の作品だから、確立されていないといえばそれまでなのだけど。でも表題作はなかなか良かったな。84

「単位物語」 講談社文庫 2000.11 (1994.11.15 文庫初版発行)

 タイトル通り、各単位についての話をふくらませながら、そこから連想される短編へと繋いでいる構成。圧力や気温やエネルギーに関しては、そうだったのか、ふむふむという感じで読み進められたが、自分が苦手な電気などに関しては、読んだ今でもよく分からない。85

「黄昏のカーニバル」 講談社文庫 2000.12 (2000.12.15 文庫初版発行)

 なぜか今年になって再び読み始めた清水義範の短編集。
 今はなき、徳間から出ていた「SFアドベンチャー」に発表された短編ばかりなので、SF寄りのアイディアが多いが、「21人いる!」は結構秀逸。なるほど、その考え方があったかと妙に納得してしまった。86

「間違いだらけのビール選び」 講談社文庫 2001.06 (2001.5.15 文庫初版発行)

 短編集。表題作は、長年飲み続けていたビールの味を変えられた男が、自分に合うビールを求めて、様々なビールを飲み比べてみる話。
 その他も淡々とした作風で、いろいろなテーマが書かれていて、読みやすい。結構唐突に終わる短編も多いので、その後はやや気になるけど。87

「河馬の夢」 祥伝社 2002.01 (1990.12.20 初版発行)

 清水義範10作セットというのをオークションで買ったので、清水義範の未読が一気に増えた。これはユーモラス短編集。外国人のガイドをしている女子大生が京都を説明する短編も良かったが(仏教と神道を英語で私も説明出来ない)、名古屋人が東京案内を書く短編が面白かった。各区を説明するのだが、例えば杉並区は「ほとんど全部が荻窪である。少し阿佐ヶ谷もある」とかそんな調子。この手のネタは、清水義範巧いなあ。表題作も何だかしみじみして良い。89 
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「ことばの国」 集英社 2002.01 (1990.9.25 初版発行)

 こちらもユーモラス短編集。全編、言葉について考えるモチーフで、披露宴について考える短編が面白かった。ファッション用語に関する短編も、体系じゃなくて流行で言葉を決めてしまうから、本当に訳が分からない。でも、ナイロンにどきどきする気持ちは分かる。あれは男なら大体そのような気がする。85 文庫購入icon

「秘湯中の秘湯」 大陸書房 2002.01 (1990.4.10 初版発行)

 同じくユーモラス短編集。うーん、これは今ひとつだったなあ。「非常識テスト」だけは面白かったが、ちょっと作った答えが前面に出過ぎているかも。83 文庫購入icon

「バラバラの名前」 廣済堂 2002.01 (1993.2.10 初版発行)

 例によっての短編集。表題作は、その頃流行った「薔薇の名前」から。何作かまとめて読んでいるので、そう思うのだけど、作品によって出来不出来のばらつきが多いかも。これだけ仕事していれば当然か。84 (絶版)

「お金物語」 朝日新聞社 2002.01 (1991.10.1 初版発行)

 お金に関するテーマの短編集。その発生を描いた短編や貧しい家庭を描いた切ないものもあるかと思えば、どたばたに終始しているものもある。91年というとバブルの真っ最中だが、本文中の描写もそんな感じだったなあ。今の日本の会社員は、ここに書かれているほど金持ちじゃないだろうし。85 文庫購入icon

「世界衣裳盛衰史」 角川書店 2002.04 (1993.5.30 初版発行)

 ビートルズが流行っていた頃、作者がどう思ったかをパロディーにした短編と、世界の有名なデザイナーについて、様々な作家の文体模倣で描いた短編を収録。それにしても器用な人だ。84 (品切れ)

「日本文学全集」 実業之日本社 2002.12 (1992.10.20 初版発行)

 「古事記」や「源氏物語」から始まり、「吾輩は猫である」までの日本文学の名作について書いた短編集。もちろん清水義範だから、ひねってはいるけど、かなり安易なものから、そのアイディアは凄い的ものまで様々。「太平記」が一番面白かった。88 文庫購入

「金鯱の夢」 集英社 2003.01 (1989.7.25 初版発行)

 豊臣家が日本を統一して、名古屋が中心となっていたら、という設定の小説。実質名古屋弁が標準語となり、忠臣蔵や幕末の倒幕も名古屋がメインとなる。設定は面白いのだけど、途中で中だるみする。倒幕後の2つのラスト書き分けはなかなか良かった。85 文庫購入

「私は作中の人物である」 講談社文庫 2008.10 (1996.6.15 文庫初版発行)

 短編集。作中の主人公について、延々考える表題作や、文字化け多数の小説、夫婦ケンカの観戦記など、よく思いつくよなあというようなアイディア多数。清水義範は、たまに読みたくなる。88

下田治美 ★★★

「愛を乞う人」 角川文庫 2000.06 (1993.4.25 文庫初版発行)

 一時、孤児院で育った女性が、娘と共に既に亡くなった自分の父親の事を調べ始めるというのが導入部で、ここから母親に児童虐待されていた回想シーンに入る。この母親が、凄い。病気だったんだ、といえばそれまでだが、その母親の影響下から抜け出た時は、こちらまでほっとした。
 父親の遺骨を探して、台湾まで辿り着くが、親切な人、見かけだけの人とこちらも色々。家族のルーツを探す様々な試みに、つい引き込まれる。昔エッセイを読んだ事があるが、こういう小説を書く人だったんだ。また読んでみよう。91

朱川湊人 ★★☆

「花まんま」 文春文庫 2008.10 (2008.4.10 文庫初版発行)

 第133回直木賞受賞の短編集。昭和30-40年代の大阪を舞台としているが、子供の視点なので、その空気感は普遍的なものがあり、どこか懐かしい。11月の小説家講座のゲストだったので、どんな方なのかと楽しみにしていたら、取っつきやすい、明るい方だった。家族の話も少し伺ったのだが、絆の強さが小説にもよく現れていると思う。90

庄司薫 ★★

「赤頭巾ちゃん気をつけて」 中公文庫 98.09 (1973.6.10 文庫初版発行)

 様々な作家のエッセイなどでタイトルはよく目にしていたので読んでみた一冊。
 受験を目前に控えた高校生の男の子が主人公。序盤仲のいい女の子との電話のシーンで始まるし、文体は口語体で読みやすいし、青春小説なのかと思って読んでいたら途中でひっくり返された。
 自分の存在と生き方を真剣に考え、厭世観に辿り着いた時に出会うエピソードは秀逸。私は現代小説をベースに読んでいるんだけど、昭和40年代にもこういう面白い小説があるのか。読書の道はやっぱり果てがない。なお、解説は三島由紀夫。 93

「白鳥の歌なんか聞こえない」 中公文庫 99.01 (1973.8.10 文庫初版発行)

 栗本薫にも「薫君シリーズ」はあるが、年代的に元祖薫君シリーズの2作目かと思いつつ解説読むと3作目らしい。文庫の収録順に読んでいるのに謎だ。
 今回のテーマは「死」。生きていく上での無力感と空しさ、死という存在を18歳である主人公達がどう考え、どう取り込んでいくかが薫君の心理描写を元に描かれる。
 「今まで全ての男達が自分たちだけの大問題だと思って、怒ったり泣いたりしながら考えてきたんだろうな」というような事を友達と語るシーンがあるが、自分で考えなければならない普遍的な問題というのは確かに存在するだろう。やっぱりいいなあ、庄司薫。 88

「さよなら怪傑黒頭巾」 中公文庫 99.02 (1973.10.10 文庫初版発行)

 シリーズ三作目だが、時系列的には二作目。
 高校を卒業したばかりの薫君だが、兄の友達の結婚式に突然出ることになってから、大学闘争や男としての理念、理想について深く考え出す。もちろん例によって素敵な女の子が登場し、「僕はまるで自分が裸で暮らしている原始人で、それが森の中で素晴らしい動物を見つけて息をこらしている」ような気持ちになっちゃう訳だけど。このシリーズもあと一冊読んだら終わりとは残念だ。 88

「ぼくの大好きな青髭」 中公文庫 99.02 (1980.11.10 文庫初版発行)

 薫君シリーズ4作目で最終作。
 激動期の新宿を舞台に「若者の夢と挫折」がテーマ。高校時代影が薄かった友達が自殺未遂で入院。東大入試中止が原因かと探るマスコミに、薫君が友人代表として会うところから話が始まる。現代にも急激な体制の変化は起こりうるか、またそれを引き起こすのはやはり若者なのか、という一種普遍のテーマだが、薫君の冷静な目から見る出来事は、ある種客観的でそれがまた悲しい。 86

白石一文 ★★★★

「一瞬の光」 角川書店 2000.03 (2000.1.10 初版発行)

 本の雑誌での北上次郎の書評を読んで、とにかく読んでみたくなった一冊。
 従業員5万人。日本有数の大企業の社員でエリートコースを歩む38歳の男が主人公。社長の身内の娘と付き合っていて、その子も申し分のない性格と美貌。順風満帆に見える彼の人生だけど、何か心の中が欠けている。そういう状況で会った一人の女性。さて、というストーリー。恋愛小説というより、自分の中の欠落を見つける小説という感じだが、後半への展開がいい。タイトルはある文中の部分から取られているが、自分の生き方を問われる一冊かも。今年のベスト3入り確定かな。97

「不自由な心」 角川書店 2001.02 (2001.1.30 初版発行)

 「一瞬の光」以来の2作目で短編集。
 悪くはないのだけど、全ての設定がそこそこの地位があり、妻もいる会社員が、妻以外の恋人を巡ってあれこれ考える、というのはどうかと思う。短編だから、違う面を見たかったのに。それと20代の女性の言葉遣いが、やたら幼い気がする。実際こんなもんだ、と言われるとそれまでだけど。でもそれらを考えても、この世界観は妙に納得出来る部分があるし、同意する事も多い。でも文芸評論家には不評だろうなあ。88

「すぐそばの彼方」 角川書店 2001.07 (2001.6.30 初版発行)

 第二長編。有名作家で現在は総理候補の政治家の次男。ある事件が元で、束縛されている生活を送っているが、徐々に本来の自分を取り戻して、というストーリー。職業が国会議員の私設秘書なので、政治にまつわるあれこれがモチーフ。これが結構リアルで、福岡が地盤で、祖父が西日本新聞のオーナーだとか出てくる。モデルいそうだな。田中角栄だと思われる人も出てくるし。でも白石一文だけあって、主題は例によってだめな男の再生の物語。またもや例によって、奥さんの他に愛人はいるし、しかも初めてではない。北上次郎は願望充足小説と呼んでいるが、女性が読むとどうなのかなあ。90

「僕のなかの壊れていない部分」 光文社 2002.08 (2002.8.25 初版発行)

 高給の一流出版社に勤める男が主人公。白石一文の小説のパターン通り、婚約者に近い女性の他に、二人と深い付き合いがある。そして不必要なほど綺麗なこの婚約者を振り回しつつ、自分の論理は崩さないというストーリー。途中で本を投げたくなるくらい、自己中心的な主人公なのだが、先が気になってつい読んでしまう。ある種だめな男を書かせたら日本一かも。それと枝葉の部分だけど、出版社も実名で出たり、ある作家のエピソードが出たりするが、これって日本一高給な会社という事から、やっぱりモデルはあの会社なんだろうな。90 
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「草にすわる」 光文社 2003.09 (2003.8.20 初版発行)

 中編集。どの小説もトーンが一定のため、細かい点はすぐ忘れてしまう白石一文だが、表題作の方はそんな感じ。ただ、薬を食べるシーンは異様な迫力があったなあ。これは記憶されると思う。もう一編の「砂の城」は、いささか自家中毒気味のような。87 単行本購入

「見えないドアと鶴の空」 光文社 2004.02 (2004.2.25 初版発行)

 作家自身の紹介文を読む限り、何のために生まれてきたのか、それを小説にするという境地になったらしい白石一文の新刊。妻とその親友との三角関係がストーリーの中心かと思いきや、中盤から話が違う方へ進む。確かに新境地かも。ただ、それを是とするかどうかは微妙だなあ。後半は惰性で読んだ気もする。86 単行本購入icon

涼元悠一 ★★★

「青猫の街」 新潮社 99.01 (1998.12.20 初版発行)

 第10回ファンタジー大賞優秀作。
 高校時代の友人の失踪を機に、ソフト会社のSEである主人公は友人を探し始める。膨大なwwwの中から手がかりを見つけだし、さらに深いネットの世界へ、というストーリー。
 パソコンやコンピュータを扱っている人ならすんなり入っていける設定だし、今までネットを題材にした小説がどうも嘘臭かったのに比べ、リアルで面白かった。ただその事はある程度コンピュータを知らないと読んでいても分からないという事になるのかもしれない。インターネットを日常的に使っている方へはおすすめ。 85

瀬尾まいこ ★★★

「天国はまだ遠く」 新潮文庫 2007.07 (2006.11.1 文庫初版発行)

 奥さんがはまっている瀬尾まいこを便乗して初読み。人生に行き詰まって、自殺しようと訪れた山奥の民宿で死にきれなかった女性が主人公。毎日のんびりと過ごしている内に、何が大事か悟るというストーリー。わがままさがかわいらしくて、いい感じ。89

「幸福な食卓」 講談社文庫 2007.08 (2007.6.15 文庫初版発行)

 印象的な書き出しで始まるが、それぞれちょっと変だけど仲がいい家族を通して、ほんわかと読んでいたら、最後のエピソードでびっくりした。瀬尾まいこもこういう話書くのか。でも、シュークリームの話は良かったな。こちらまで暖かくなる。89

「卵の緒」 講談社文庫 2007.09 (2007.7.1 文庫初版発行)

 中編2編を収録。表題作より、姉弟の生活を描いた「7's blood」が良かったな。何気ない描写が、胸に迫る。86

妹尾河童 ★★☆

「少年H 上下」 講談社文庫 1999.08 (1999.6.15 文庫初版発行)

 ようやく帰省中に読んだ一冊。
 戦時下、神戸でのびのびと暮らしていたH少年は、戦争が激しくなるに従って様々な疑問を持つようになる。大人は変な決まりを次々に作るし、新聞は本当の事を書いていない。児童文学風の小説だけど、深刻に書かれていないけど、胸に迫るものがある。
 優しい妹がその後どうなったか、ちょっと知りたいな。90

平安寿子 ★★☆

「グッドラックららばい」 講談社 2003.06 (2002.7.25 初版発行)

 ようやく初読みの平安寿子。嫌な事はなかった事にする父、プチ家出から全然帰ってこない母、だめな男と付き合うのが趣味の長女、成り上がりたい次女、この4人の家族が主人公。1983年から2003年までの彼らの行動が描かれるが、4人ともいい感じで面白い。力の抜け具合がちょうどいい作風は結構好き。また読んでみよう。90 
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「パートタイム・パートナー」 光文社文庫 2005.01 (2005.1.20 文庫初版発行)

 仕事は長続きしないけど、女性の相手をする事は得意な男が始めたのは「デート屋」。様々な女性を通して、いろいろな事が起きるのだけど、ちょっとしたセリフや感慨がいい。思わず涙ぐむ一文もあったりするし、平安寿子は油断ならない。作中のデートは、なるほどねー、と思うような事もあれば、それは無理という事もあるし、難しいな。91 文庫購入icon

「素晴らしい一日」 文春文庫 2005.02 (2005.2.10 文庫初版発行)

 デビュー作を含む第一作品集。
 その表題作からして巧いのだけど、解説で北上次郎が書いている通り、世間でダメだとされている人でも、本当にそうなのかという問いかけは、なかなか面白い。去年流行った「負け犬」の発想もそうなんだけど、勝負事で大多数が「勝ち」という事態はあり得ないんだけどなあ。それはそれとして、平安寿子を未読の方は、今の内にぜひどうぞ。90
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「もっと、わたしを」 幻冬舎文庫 2006.08 (2006.8.5 文庫初版発行)

 あまり日々ぱっとしない5人の人生を描いた連作短編集。優柔不断故に二股をかけてトイレに監禁される男とか、全てが普通だけどオヤジ殺しの媚びだけは誰にも負けないシングルマザーなど「ああ、こういう人いるよな」という主人公ばかり。「なりゆきくん」の主人公はいいな。ラストもいい。最初と最後に出てくる理香ちゃんもいい。そして解説の奥田英朗は面白いけど、こんな事書いて大丈夫か。91

「くうねるところすむところ」 文春文庫 2008.06 (2008.5.10 文庫初版発行)

 求人誌の編集者の仕事と恋、両方に行き詰まった30歳の女性が主人公。偶然助けてもらった職人をきっかけに、何の経験もない建築業界へ飛び込むが、というストーリー。視点が途中で変わるのもいいし、ただのシンデレラストーリーにならない点もいい。そしてラストもいい。平安寿子はやっぱりいいな。91

高橋源一郎 ★★

「一億三千万人のための小説教室」 岩波新書 2003.05 (2002.6.20 初版発行)

 プレゼントしてもらった本。NHKでの母校の小学校を訪ねて、そこで授業をするという企画から生まれた、小説の書き方についての本。小学生に教えるという事が前提なので、分かりやすい文章で書かれているが、なかなか深い。誰にでも書ける小説ではなく、自分にしか書けない小説を、というのはごもっとも。でも高橋源一郎は、文学が本当に好きなんだな。89 
新書購入

「優雅で感傷的な日本野球」 河出書房新社 2003.06 (1988.3.31 初版発行)

 確か大学1年の頃話題になって、読もうかどうか迷った記憶がある本。野球をモチーフに、小説の様々な手法を取り入れながら描いているが、何をしたいのかがよく分からなかった。84 (品切れ)

高橋三千綱 ★★

「さすらいのにせギャンブラー」 角川文庫 98.09 (1981.6.10 文庫初版発行)

 ほとんどタイトル通りの内容のエッセイ。様々な外国でのカジノの話や、幼少からのギャンブル人生が語られている。解説は凄いことに阿佐田哲也。
 つかこうへいなどとの麻雀の話も面白いし、ルーレットの賭け方についても面白かった。しかしいろんな所に行っている人だ。 82

「こんな女と暮らしてみたい」 角川文庫 98.11 (1983.9.10 文庫初版発行)

 男女の恋愛について書いたエッセイ。
 割と辛口で、なおかつ正直に書かれている。エッセイというのは好きずきだから好みがはっきり分かれるが、私は気に入った。こういう人と飲むと面白いんだよな。 83

「カムバック」 新潮文庫 2000.05 (1988.6.15 文庫初版発行)

 野球をテーマとした短編集。
 甲子園で活躍したピッチャーと主砲の影になっているセカンド、チーム一の技術を持ちながらも監督に潰されているショート、盛りを過ぎたベテランなど、9人の男が主人公。中でも大学野球部を舞台とした「遊撃」、一度は野球を辞めたが戻ってきた「ピンチヒッター」がいい。野球を知らなくても十分楽しめる質の高い小説だ。95

田口ランディ ★★★

「コンセント」 幻冬舎 2001.01 (2000.6.10 初版発行)

 初読みの田口ランディ。女性だという事も初めて知った。それにしても、何か一冊読もうと思って本屋行ったら、エッセイ集を中心にたくさん出ていて驚いた。今年デビューだったような気がしたのに。
 ストーリーの方は、引きこもり、シャーマンなどを中心に進んでいくが、パワーのある作家だ。セックスと食べるシーンにリアリティーがある。この二つが巧く書けない作家は結構多いのだけど、それだけ取ってもいい。ミステリー以外で、ここ数年にデビューした作家では当たりかもしれない。もう何冊か読んでみよう。92

「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」 晶文社 2001.01 (1999.12.25 初版発行)

 社会で起こる様々な出来事を取り上げたエッセイ集。作者のスタンスがよく分かるが、中でも仕事柄、新聞販売所をテーマにしたエッセイが面白かった。休刊日が各紙横並びなのも、夕刊が休みになる日があるのも、取り上げられているような理由だからなのだけど、村上さんのエッセイで「なぜ横並び?」というのがあったが、そういう事なのです。85

「アンテナ」 幻冬舎 2001.01 (2000.10.31 初版発行)

 「コンセント」とほぼ同様の世界観を持つ小説。
 6歳の妹の失踪をメインモチーフに、大学院で哲学を学ぶ男が主人公。研究テーマにSMを選んだ事から、物語は動き出す。前作の後に読むと、主題の変奏という気がして、インパクトはさほどないが、この世界観はなかなか面白い。初期の吉本ばななのように、しばらくこのテーマで引っ張るのかな。87

「縁切り神社」 幻冬舎文庫 2001.03 (2001.2.25 文庫初版発行)

 短編集。山本文緒の短編集の後に読んだせいかもしれないが、最初の短編読んで、これがあの長編書いた田口ランディと同じ人か? と思うくらい、べたべたな出来だった。
 半分くらいの短編はそういう出来なのだけど、それでも残りの半分は結構読ませる。長編向きの作家なのかもしれないな。83

「忘れないよ!ベトナム」 幻冬舎文庫 2001.04 (2001.4.25 文庫初版発行)

 これが田口ランディのデビュー作らしい。
 タイトル通りのベトナム旅行記だが、変に構えてなくて嫌なところは嫌だというところは面白い。ベトナムという国は、割と旅行記の題材として人気があるので、私も何作か読んだが、やっぱり行きたくなった。旅ならどこでもいいのかもしれないけど。87

「モザイク」 幻冬舎 2001.04 (2001.4.30 初版発行)

 三部作の三作目。今回のモチーフも「繋がること」。
 本人の了承を得るため、説得して病院なりどこかへ連れて行く「移送業」をしている女性が主人公。移送途中で逃げられた少年を探すため、渋谷にいた彼女はある話を聞く、というストーリー。テーマの象徴として使われるのは携帯電話。確かに携帯電話の普及により、ここ数年で10代の生活は一変したから、モチーフとしては面白い。ラストでのイメージは綺麗だったが、現実に起きた事件を盛り込みすぎのような気もする。そんなに簡単に説明が付くほど、シンプルなのだろうか。90

「スカートの中の秘密の生活」 幻冬舎文庫 2001.06 (2001.6.25 文庫初版発行)

 エッセイ集。
 ほとんどが恋とセックスに関しての話なので、身近といえば身近だ。経験上知っている事も、「ふーむ」という事もいろいろあって面白かったが、この手の話は素面で読んでいても、今ひとつ面白くないな。85

谷俊彦 ★

「東京都大学の人びと」 新潮文庫 96.08

 新潮文庫今月の新刊。数年前に映画化された「木村家の人びと」の原作を含む短編集。あの映画見に行ったなあ。シネスイッチ系で公開された気がする。
 表題作が傑作です。思わず笑ってしまった。87

田辺聖子 ★☆

「ジョゼと虎と魚たち」 角川文庫 2007.05 (1987.1.10 文庫初版発行)

 短編集。映画化されたものが好きだったので、原作も味わい深く読んだ。短編のせいか、映画化されたものの方が良かった気もする。88

「夢のように日は過ぎて」 新潮文庫 2007.06 (1992.11.25 文庫初版発行)

 連作短編集。35歳の独身女性を主人公に、様々な恋や日常を描くが、この頃は既にこの歳だとハイミスと呼ばれていたのか。ふーん、時代は変わるもんだと違う方から読んでしまった。今だと普通なのにね。88

谷川俊太郎 ★★

「朝のかたち」 角川文庫 2001.04 (1985.8.25 文庫初版発行)

 詩集2。あちこちで名前はよく見るが、ちゃんと読むのは初めて。
 物語が好きなので、どうしてもストーリーを追ってしまうのだが、一場面を切り取る詩という方法も、たまに見ると面白い。でも私は詩人にはなれそうにないな。85

出崎洋平 ★

「ギャロップ」 新風選書 1999.08 (1999.6.15 文庫初版発行)

 私は紀伊国屋Webのリコメントサービスで、日本で出ている小説を毎日チェックしているのだけど、タイトルが面白そうなので注文してみた一冊。
 小さな工場で毎日真面目に働く21歳の男の元に、兄とその彼女が転がり込んできた。全く働かないその二人のせいで、僕は段々と変わっていくというストーリー。可も不可もなしという小説だが、それなら読まなくても同じだ。76

藤堂絆 ★★☆

「アシタ」 ピュアフル文庫 2008.03 (2008.3.16 文庫初版発行)

 第1回ヤフー文学賞の表題作を含めた短編集。解説が講座でお世話になっている池上さんなので、以前講座の打ち上げで藤堂さんとは少しお話した事もあるので、何か読んでいて不思議な感じ。私が好きな違う視点が繰り返される構成の短編もあるし、素直な感性がいい。ただ、個人的には豊島ミホみたいに、ちょっと変わった子が主人公の方が好みではあるけど。2作目以降も楽しみにしてます。87

藤堂志津子 ☆

「されど、かすみ草」 新潮文庫 99.05 (1995.3.1 文庫初版発行)

 東京から帰る新幹線で何か読もうと、東京駅の本屋で買った一冊。どうせなら初読みの作家にしようと思ってこれを。
 札幌を舞台として倹約家のOLが主人公の恋愛小説。何というか、夢見がちなOLはこういう話を好きかもしれないけど、私はもういい。78

豊島ミホ ★★★☆

「青空チェリー」 新潮文庫 2005.08 (2005.8.1 文庫初版発行)

 前に東北出身若手作家という事で紙面で見たが、初読み。
 中編3作だが、表題作より他の2編が印象的。東京が戦時下になりそうな状況での「ハニィ…」、中学時代から延々一人の子だけを思い続ける「誓いじゃないけど…」は、何かが心の中に刺さる感じ。こういう感覚は結構好きだなあ。90
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「ブルースノウ・ワルツ」 講談社 2005.11 (2004.5.12 初版発行)

 表題作の中編と短編1つを収録したもの。大人になりつつある少女を描いた表題作は、こんな心理なのかとよく分からない部分もあるけれど、面白かった。ラストもいいし。88

「陽の子 雨の子」 講談社 2006.06 (2006.3.27 初版発行)

 雨が怖い中学生の男の子が、ある日出会った10歳年上の女性。その人は数年前から家出してきた男の子と暮らしていて、という設定。序盤はどうなる事かと思ったが、最後まで読んだら結構印象的な話になった。水族館に行く事があれば、きっと思い出すんだろうな。90

「檸檬のころ」 幻冬舎文庫 2007.03 (2007.2.15 文庫初版発行)

 秋田の田舎の高校を舞台に、男女何人かの視点から描いた連作集。「ルパンとレモン」はちょっと泣けた。そんな格好いい時代じゃなかったけど、何か大事な記憶がある全ての人へ。89

「日傘のお兄さん」 新潮文庫 2007.11 (2007.11.1 文庫初版発行)

 短編集。一番長い表題作は、すごいキャラクター考えたな、という感じで面白かったが、他の短編もしみじみ良かった。最後の「ハローラジオスター」が特に良かったな。豊島ミホも順調にファンが増えているようで、何より。88

永倉万治 ★★

「結婚しよう」 新潮文庫 98.09 (1996.1.1 文庫初版発行)

 勧められて読んだ初読みの作家。
 大学での同級生の葬式をきっかけに集まった3人の男女。その恋愛の様子をそれぞれの視点から描くという形式。3人は42歳という設定なので、それぞれしがらみもあるし、事情もある。その辺りを踏まえた話なので読んでいると「こういう感じもいいな」と思ってしまう。ウィスキー飲みながら朝方読み終わり、ちょっと影響受けて、久々に手紙を書いてしまった。
 解説は鷺沢萠。 89

「アニバーサリー・ソング」 新潮文庫 98.11 (1992.5.25 文庫初版発行)

 いろんな体験をしてきた著者が、その中で出会った人たちの事を綴ったエッセイ集。
 まさに「ちょっといい話」という感じで読んだが、しかしいろんな知り合いがいるなあ、この人。 81

「恋はあせらず」 新潮文庫 98.11 (1992.9.25 文庫初版発行)

 「ホットドッグ・プレス」に連載されていたものをまとめたエッセイ集。
 男同士で飲んでいる時の女や恋愛に関するバカ話を読んでいるような感じ。悪くはないんだけど、連発だとちょっと退屈する。 79

「星座はめぐる」 新潮文庫 98.11 (1993.2.25 文庫初版発行)

 ちょっと身につまされる話を扱ったショートショート。
 大体人から聞いた話という感じで話が展開されるのだけど、いくつか「うーん」と感心するいい話があったり、切ない話があったり、悲しい話があったり、いろんな趣向がある。 82

「ジェーンの朝とキティの夜」 角川文庫 99.05 (1991.6.10 文庫初版発行)

 恋愛がテーマの短編集。
 永倉万治は「結婚しよう」が気に入って何冊か読んだが、あまり当たりが無かったのでしばらく読んでいなかったけど、これは結構いい。妻や夫以外に恋愛感情を持つ主人公が多いが、やっぱり結婚してもそういうものなのかも。87

「父帰る」 角川文庫 99.06 (1994.10.25 文庫初版発行)

 平成元年、脳溢血のため41歳で駅のホームで倒れた永倉万治の闘病記。
 救急車で運ばれた病院の事、リハビリの事、倒れて以来初めて書いた文章の事、家族の事などいろいろあるが、今まで出来た事が出来なくなるもどかしさがよく伝わってくる。私も睡眠時間には気を付けよう。82

「この頃は、めっきりラブレター」 講談社文庫 2000.11 (1988.4.15 文庫初版発行)

 今年亡くなった永倉万治。ふと思い出して昔のエッセイを読んでみた。
 ホットドッグプレスに連載していたものをまとめたものだが、シチュエイション別に、こういう子とこういう出会いをした時にラブレターを書いてみてはどうだろう、というテーマで書かれている。そういえば、そんな事もあったなあ、とつい、ほのぼのムード。84

中沢けい ★★★

「楽隊のうさぎ」 新潮文庫 2007.08 (2003.1.1 文庫初版発行)

 学校にいる時間をなるべく短くしたい、という決意で中学生に入学した男の子が主人公。成り行きでブラバンに入る事になって、という導入部だが、味のある仲間たちと吹奏楽に入れ込んでいく描写が、新鮮でいい。尖っていない「あさのあつこ」みたいな感じ。88

「うさぎとトランペット」 新潮文庫 2007.08 (2007.7.1 文庫初版発行)

 続編的長編だけど、主人公は小学生の女の子に。感受性豊かなうさちゃんは、公園から聞こえてくるトランペットを耳にして、というストーリー。普段はおどおどしているんだけど、指揮棒を握るとしっかりするとか、常に暴走する医者とか、周りの人たちが面白い。88

長嶋有 ★★★

「猛スピードで母は」 文藝春秋 2004.08 (2002.1.30 初版発行)

 2年前の芥川賞受賞作。中編2編を収録しているが、前者は最後の1ページが、後者はタイトル通り母の造形がいい。それにしてもこの本、割と透明感のある文体なのに、表紙のイラストで損をしている気がする。出た当時、本屋で考えたもんなあ。90
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中島らも ★★★☆

「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」 集英社文庫 1999.09 (1997.8.25 文庫初版発行)

 久しぶりに読む中島らも。
 中学から大学時代までの事を書いたエッセイ。概ね酒とギターと友達の事が書いてある。かなり笑える話も多いのだけど、行くところまで行ってしまった酒の話はやはりシビアだな。89

永瀬隼介 ★★★

「Dojo」 文春文庫 2007.03 (2007.2.10 文庫初版発行)

 広告代理店をリストラされ、先輩の空手道場を預かる事になった主人公。お人好しで利用される事ばかりだが、空手の腕は凄い、というストーリー。連作形式で、次々と事が起こるが、この主人公と有能な彼女、ここぞという時に出てくる先輩の絡みがいい。続編もぜひ読みたい。90

「踊る天使」 中公文庫 2009.02 (2009.1.25 文庫初版発行)

 歌舞伎町雑居ビル火災をモチーフに、歌舞伎町の奥、バブル時代にあった怪しい料亭の描写と現代の描写が繰り返されるという構成。真相を追うのはぼったくりバーの店長、火元のパブ嬢、常連の銀行員だが、このチームワークの悪さがいい。モチーフは重いが、ラスト近くのシーンは迫力があった。89
踊る天使 (中公文庫)

中村航 ★★★★

「リレキショ」 河出書房新社 2004.03 (2002.12.20 初版発行)

 個人的で申し訳ないが、河出書房新社の「J文学」とかいう路線が大嫌いで、今まで合った試しがない。今回は北上次郎が推していたから読んだのだけど、初のヒット。「姉さん」に拾われて姉弟として暮らす「僕」が主人公。姉さんと男らしい女友達の関係もいいが、かなり妙な「ウルシバラ」ちゃんがいい。こんな手紙もらったら、人生楽しいだろうなあ。淡々と流れる小説だけど、これは拾い物。この作品世界、合う人はぴったり来るかと思われます。93
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「夏休み」 河出書房新社 2004.04 (2003.6.30 初版発行)

 前作の「リレキショ」でウルシバラワールドに完封されたので、続けて読んでみた2作目。妻同士がとても仲がいい夫婦だが、片方の夫、吉田くんが家出してしまう、というストーリー。導入部はどうなるかと思ったが、中盤以降の展開も良かった。ウルシバラの出てくる前作ほどのインパクトはないけど、こういう結婚だったらしてもいいかな。90
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「ぐるぐるまわるすべり台」 文藝春秋 2004.06 (2004.6.10 初版発行)

 中編2作を収録。大学を中退し、とりあえず1年間塾講師として生活する事を決めた主人公がバンドを作るまでの話と、そのバンドにリンクした物語。前の方は「リレキショ」の少し前の話という気がするし、ビートルズの曲にまつわるあれこれが楽しい。2編目は、工場ってQC活動とかちゃんとしているんだと感心。二人組の張り切りぶりも微笑ましい。そして、違う版元から出た事については、作家としてのキャリアを着々と積み重ねているんだなと、ファンとして嬉しい。90
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「100回泣くこと」 小学館 2005.11 (2005.11.20 初版発行)

 惜しいなあ、というのが読後の感想。犬のエピソードや出会いのきっかけは中村航らしく、すごく好きなんだけど、メインモチーフ自体がこの数年、食傷気味のものなのが残念。話はとてもいいし、感動もしたんだけど、残念。88

「絶対、最強の恋のうた」 小学館 2006.12 (2006.11.20 初版発行)

 ちょっと久しぶりな中村航。ほぼタイトル通りなストレートな話だけど、ラストの視点を変えたところは良かった。福島で幸せになるといいな。89

「あなたがここにいて欲しい」 祥伝社 2007.09 (2007.9.10 初版発行)

 短編集。このタイトルだと新井素子を思い出す。元ネタは一緒の曲。表題作も、世界三大美徳に「送りバント」を思いつく話もいいのだけど、最後の「ハミングライフ」が良かったな。久々にイラスト付き。今恋してる人や、恋したい人には特にお勧め。90

「星空放送局」 小学館 2007.11 (2007.11.5 初版発行)

 絵本のような体裁でイラスト満載。デビュー以来の名コンビだし、懐かしい歌は出てくるし、ファンにはたまらない一冊。牛乳飲まなきゃ。88

「僕の好きな人がよく眠れますように」 角川書店 2008.11 (2008.10.31 初版発行)

 大学院で知り合った彼女との恋愛小説。中村航はいつもそうだけど、恋に落ちるまでの描写が巧い。ああ、これは大事だな、という点を突いてくる。途中、まさかの木戸さん再登場が嬉しかった。木戸さん、スキーヤーも嫌いなのか。88

梨木香歩 ★★☆

「裏庭」 新潮文庫 2000.12 (2001.1.1 文庫初版発行)

 95年の第一回児童文学ファンタジー大賞受賞作。思春期の少女が主人公で、近所にある英国人一家の別荘だった洋館にふと入りこんだ彼女は、秘密の裏庭へと旅することになる、というストーリー。現実社会が明朝体、裏庭世界がゴシック体で書かれ、二つの世界が語られる事になるが、こういう構成は大好きなので楽しく読んだ。児童文学という割には、結構テーマが重くて、別世界で語られる様々な事柄については考えさせられる。新潮文庫は、時々このような小説を文庫化してくれるから嬉しいな。88

「西の魔女が死んだ」 新潮文庫 2001.08 (2001.8.1 文庫初版発行)

 とても柔らかい文章の児童文学。タイトルはミステリーのようだけど。中学に入って登校拒否となったある女の子は、イギリス人の祖母の元に預けられる。日本人の祖父と結婚した祖母は、西の山の中の家で一人暮らし。ジャムを作ったり、洗濯をしたり、何でも自分で決める、という魔女として大事な事を教えてもらいつつ、彼女は心が軽くなっていく。続編的短編も収録されているが、やはり表題作が良かった。85

「からくりからくさ」 新潮文庫 2002.01 (2002.1.1 文庫初版発行)

 祖母の死で、祖母の住んでいた家を女子学生専門の寮とする事に。管理人として一緒に住む主人公の女性は、人形のりかさんがとても大事。そこに住む3人の女性の個性と、それぞれの仕事や勉強の様子、草を食べる模様とか、肝心のストーリーよりも日々の描写がとてもいい。日本というのはこういう国だったんだな、と改めて思ったし。ラストの火事のシーンも圧巻。90 
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「エンジェル エンジェル エンジェル」 新潮文庫 2004.03 (2004.3.1 文庫初版発行)

 久々に読む梨木香歩。主人公の女の子は、寝たきりに近い祖母の夜中の介護を引き受けた事から、祖母の少女時代の記憶が蘇る、というストーリー。現在と過去が交互に繰り返され、どちらかというと過去のパートの方が面白い。着地点はやや不満だけど、相変わらず和む作風だ。89
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「春になったら苺を摘みに」 新潮文庫 2006.03 (2006.3.1 文庫初版発行)

 エッセイ集。かつて留学し、今でもよく滞在しているイギリスをメインに、様々な人との触れあいをモチーフにしているが、かつての下宿先の女主人との交流が読んでいて心地よかった。こういう考え方から、ああいう小説が生まれるのかと少し納得。88

「村田エフェンディ滞土録」 角川文庫 2007.09 (2007.5.25 文庫初版発行)

 1899年のトルコを舞台に、日本から留学している村田君が主人公。異国の仲間と不思議な体験をしながら、やがて帰国するが、というストーリー。トルコでのエピソードが面白く、ずっと読んでいたくなるくらい。88

「沼地のある森を抜けて」 新潮文庫 2009.01 (2007.10.31 文庫初版発行)

 叔母から遺産として受け取ったマンションとぬか床。このぬか床をきっかけに、変なことが起こり始めて、というストーリー。最初は微笑ましく読んでいたのだが、テーマが壮大になってきて、ラストではいろいろな事へ思いを馳せてしまった。不思議な話だ。88
沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

仁川高丸 ★★

「微熱狼少女」 集英社文庫 98.03

 初めて読む作家。
 社会に馴染めない女子高生と、女性にしか興味のない高校の女先生。この二人を巡っての話というと、完全に青春小説っぽいけど、後半はこの二人の恋愛状態の描写が続く。
 個人的には、フェミニンな小説は苦手なので、ちょっと引きながら読んだのだけど、ある方向性を持った小説だけになるのはつまらない状態だし、こういう様々な小説が出てくるというのは嬉しいなあ。86

「キス」 集英社文庫 98.03

 「微熱狼少女」の続編的作品と表題作が収録されている中編集。
 前作とモチーフは同じだけど、ゲーム的に女の子と寝る大学生を中心に持ってきたことで世界を広げている。
 表題作の方は女相手の娼婦が主人公。一癖ある人たちが出てくるが、私には分かりにくかった。80

野呂邦暢 ★★★

「草のつるぎ」 文藝春秋 2002.07 (1974.4.5 初版発行)

 第70回目の芥川賞受賞作。佐藤正午の小説に、憧れている作家としてよく名前が挙がるので、読んでみた。九州出身の男が、東京での生活に失望し、地元に戻って自衛隊に入隊。訓練の日々が綴られるが、妙に内省的だけど素直な主人公にいつのまにか感情移入してしまう。その後北海道の部隊へ配属された日々として、続編の「砦の冬」も収録。30年ほど前の小説だけど、違和感もなく、かなり読みやすかった。88 (品切れ)

「草のつるぎ/一滴の夏」 講談社学芸文庫 2002.10 (2002.7.10 文庫初版発行)

 プレゼントされた本で、再編された短編集。佐藤正午が敬愛している作家だが、現在なかなか入手出来ないので、講談社学芸文庫に入った事は非常にいい事だと思う。自衛隊時代を描いた「草のつるぎ」以外は初めて読むが、その後諫早へ帰ってからの「一滴の夏」が良かった。井戸やモラトリアム期間など、村上春樹とだぶる部分も面白い。88 
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灰谷健次郎 ★★★

「兎の眼」 新潮文庫 2000.03 (1984.12.20 文庫初版発行)

 何気なく読んでみた一冊。小学生の時辺りに母親が読んでいたような気がする。
 60年代か70年代初めの大阪の工業地帯にある小学校を舞台に、新任の女性教師、適当だが教育信念がある先生、ごみ処理場の住宅に住む子供たちなどを中心に描く児童文学。子供が突きつける問題というのは本質的な問題が多いので、私も久々に子供の頃を思い出して考えた。あと何冊か読んでみたいな。94

「太陽の子」 新潮文庫 2000.05 (1986.2.15 文庫初版発行)

 神戸の下町にある琉球料理屋「てだのふぁ・おきなわ亭」。太陽の子という意味を持つこの店は、沖縄出身の人や沖縄に惹かれた人でいつもいっぱいだ。店の一人娘、小六のふうちゃんは、神戸生まれながら、沖縄の歴史に興味を持ち始める、というストーリー。
 児童文学として書かれているので、文章は読みやすいが、テーマはずっしりと重い。そこはふうちゃんのキャラクターが救っている部分もあるが、法の平等について考えさせられる。93

「いま、島で」 新潮文庫 2000.08 (1984.6.25 文庫初版発行)

 今は分からないが、灰谷健次郎は淡路島に移り住んで自給自足の生活をしている。その様子を書いたエッセイ集。
 農業という職業は、換金効率からいけば非常に悪い。減反政策はずっと続いているし、野菜の価格も下落気味。ただ、その職業には他の職業にはない魅力があるし、自然が教えてくれる事もたくさんある、という趣旨。納得出来る部分と出来ない部分はあるが、確かに学ぶ事は多いかも。85

「わたしの出会った子どもたち」 新潮文庫 2005.02 (1984.2.25 文庫初版発行)

 自分の子ども時代と青年期、教師になってからのエピソードなどを通じて、様々な事を考えるエッセイ集。
 この境地まで辿り着くまでの苦労や心労は、ほんの少しだけだけど分かる気もする。88 
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「少女の器」 新潮文庫 2005.06 (1992.3.25 文庫初版発行)

 主人公の少女と離婚した両親を通して、家族のありかたを描いている。
 この主人公が、繊細で真っ直ぐ。ボーイフレンドが気に入らないことを言うと、すぐにつねる癖があって、なんだかかわいい。これだけ繊細で鋭いと、真っ正面から向き合わなければならないだろうなあ。あまりそういう事はないので、少し羨ましい。解説は佐藤多佳子。89 文庫購入icon

ヒキタクニオ ★★☆

「凶気の桜」 新潮文庫 2002.09 (2002.9.1 文庫初版発行)

 最近話題のヒキタクニオを初読み。渋谷を根城として若き3人が作った政治結社。アメリカに取り込まれる若者相手に暴れている内は良かったが、ヤクザに接近した事から、というストーリー。昔の花村萬月を連想する作風だが、文体はこちらの方が現代的かな。その分読みやすい。エピソードをくっつけたのは、ちょっと力業かな。88
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引間徹 ★★★

「19分25秒」 講談社文庫 98.07

 第17回すばる文学賞受賞作。
 中編が2作収録されているが、表題作の方が圧倒的に良かった。タイトルは5キロのコースでの競歩タイムだが、驚くべきスピードで歩き続ける男と主人公、男の妹との微妙なバランスが読んでいて心地よい。文学系では久しぶりに他の作品も読みたくなる作家だ。93

ひこ田中 ★★

「カレンダー」 講談社文庫 97.03

 前作の「お引っ越し」も良かったけど、今回のはもっと良かった。
 祖母と二人暮らしの中学生の女の子の家に、事情がある男女が泊まることになったのをきっかけに交流していくのだけど、舞台が京都なので味がある京都弁と少女らしいまっすぐな感性が読んでいて心地よかった。結構おすすめ。90

「ごめん」 偕成社 99.01 (1996.1 初版発行)

 久しぶりのひこ・田中を古本屋で見つけたので買ってきた。
 小学校6年生の男の子が主人公。ある日精通が来て、心が子供のまま体が大人になってしまう。京都で出会ったナオちゃんは年上だし、初恋と性の問題と友達の問題とで揺れ動く。
 思春期に差し掛かる時、誰もが考えた問題をストレートに書いているので、笑ったりほろりときたりしながら読み終わった。全く話題にならなかったけど、この本はいい。新刊書店では見かけないので、古本屋か図書館で探して読もう。 92

氷室冴子 ★★★

「いもうと物語」 新潮社 98.03

 坂東黎人お勧めの本を読んでみよう、という事でこれまた初読みの氷室冴子。
 北海道の小学生の女の子が主人公で、雪国での遊びとか、友達やお姉ちゃんや先生や親のことなど、日常的な生活が綴られる。同じく北国で子供の頃を過ごした私としては「うんうん」と共感しつつ読めて楽しかった。
 こういう傾向の小説を書く作家だったのか。なるほど。90

姫野カオルコ ★★★

「ツ、イ、ラ、ク」 角川文庫 2007.03 (2007.2.25 文庫初版発行)

 北上次郎が推して以来ずっと読みたかった長編。関西地方の小学校から始まり、大人になってからのエンディングまでの恋愛成長小説か。何とも表現しにくい小説だが、ただただ圧倒された。小学校編も中学校編もいい。大人編より好き。作者があとがきでも書いているけど、ある程度大人になった全ての人へ。心のどこかが痛み、熱くなります。94

「よるねこ」 集英社文庫 2007.05 (2005.6.25 文庫初版発行)

 ホラータッチの短編集。解説の大森望は絶賛しているけど、私にはあまり合わなかったな。「ツ、イ、ラ、ク」の作風の方がずっと好き。86

「桃」 角川文庫 2007.10 (2007.7.25 文庫初版発行)

 傑作「ツ・イ・ラ・ク・」に登場した6人の男女を主人公とした短編集。主人公2人を周りはどう見てたのかが語られるけど、うーん、あの作品は作品で完結していた方が良かった気もする。もちろん、これはこれで面白いのだけど。87

藤沢周 ★★

「死亡遊戯」 河出文庫 1999.03

 藤沢周のデビュー作。短編に近い中編が2作収録されている。
 確かに文体は独自で、解説で述べられているような「文章の微分」という技巧も分かるのだけど、それにしてもこの題材を選ぶことはないだろう、という気もする。 80

藤野千夜 ★★

「夏の約束」 講談社 2004.01 (2000.2.1 初版発行)

 芥川賞受賞作。ゲイの青年が主人公で、恋人の青年や友達を通しての一夏の物語。中編程度のボリュームなので何とも言えないけど、とりあえず判断は保留。87 
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「ルート225」 新潮文庫 2005.01 (2005.1.1 文庫初版発行)

 中2の姉と中1の弟が、ある日パラレルワールドに迷い込むというストーリー。仲良くなくなったはずの友達が親しげに話しかけてきたし、巨人の高橋由伸は少しだけ太ってる。そして何より両親がいない、という設定の元、どうすれば戻れるのか二人で考えてみる。懐かしい設定だが、どうなるんだろうという興味で一気読み。ふむー、なるほど。89
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藤水名子 ★★

「色判官絶句」 講談社文庫 2004.02 (1996.6.15 初版発行)

 明の時代の中国の港町が舞台。都からやってきた色男の役人と、港を牛耳る若きヒロイン、大商家の頭領の3人が主人公。特に気性の激しいヒロインを巡って、さまざまな事があるのだが、いつの時代もきっと恋愛だけは変わらないんだろうなあ。ヒロインの造形は良かった。88 (品切れ)

古川日出男 ★★

「ベルカ、吠えないのか?」 文春文庫 2008.05 (2008.5.10 文庫初版発行)

 日本の軍用犬4頭から始まる、世界各国に広がる犬の系譜がモチーフ。絶え間なく戦争があり、捕虜犬になりつつ血統を広げる世界観は快感ですらある。こういう切り口があったとは、新鮮だった。つい一気読み。90

保坂和志 ★★

「プレーンソング/草の上の朝食」 講談社文庫 96.09

 講談社文庫今月の新刊。
 「この人の閾」で芥川賞取った保坂さんの初期の作品。帯の「猫と競馬とともに生きる」につられて読んだ。
 明確なテーマがない小説で文体も句読点が少なくてなんだか地の文がこの文のような感じでそれが何だか心地よくて。「この人の閾」も読んでみようっと。 83

「猫に時間の流れる」 新潮文庫 97.08

 今月の新刊。
 あるマンションに住んでいる男女が猫をきっかけとして知り合い、あくまで猫についての出来事を中心とした生活の様子を描いた中編。
 この人の文体が好きで、ふんわりした気分で読んだ。 80

「この人の閾」 新潮文庫 98.09 (1998.8.1 文庫初版発行)

 久々の保坂和志。短編集で表題作は芥川賞受賞。
 相変わらずちょっと回りくどいというか、考えがいろんなところに飛んで最後は同じ所に戻ってくるような感じの文章。でもこの人の文体は結構好き。
 私は「読むとビールが飲みたくなる作家」として村上春樹に次いで保坂和志を推しているので、村上ファンのみなさんもぜひどうぞ。文庫化は本書で3冊目かな。 83

「季節の記憶」 中公文庫 1999.09 (1999.9.18 文庫初版発行)

 谷崎賞受賞作。
 わりと日常的なテーマに、結構癖のある文体で気に入っている保坂和志だが、この小説はいつになく長い。鎌倉・稲村ヶ崎を舞台に、父親である僕とその小さな息子、近所の兄弟が中心に描かれる。妙な友達や妙な具合に感化されて離婚してきた女性など、エピソードはいろいろあるのだが、事件は何も起こらない。僕がやたら理屈っぽいけど、その理屈が分かる気もするし分からない気もする。子育てについても面白かった。90

「残響」 中公文庫 2002.03 (2001.11.25 文庫初版発行)

 久々に読む保坂和志。2編が収録されている中編集。人の思考は物理的に残るのか、という事を考える表題作もいいが、「コーリング」の方が面白かった。ある人がある人を思うとき、その人は何をしているかというのが繋がっている作品で、その人の考え方とか、言葉のやりとりを思い出したりする。私の事も、誰かが思い出したりするのかな。そうだと嬉しいけど。87 
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「カンバセイション・ピース」 新潮文庫 2006.05 (2006.4.1 文庫初版発行)

 作家が主人公。世田谷の一軒家で妻と猫3匹、間借りしている姪や友人の会社関係者3人と暮らす毎日を綴った、少し不思議な小説。日々色々な話題が出たり、過去と現在と記憶を比較したり、こういう風に暮らすのもいいなと思わせる。主人公がベイスターズファンで、球場のシーンもあるのだが、ここも良く分かる。作中のローズに当たるのは、中日ファンだとゴメスだ。88

堀辰雄 ★

「風立ちぬ・美しい村」 新潮文庫 96.10

 何となく読んでみた一冊。
 観念的な心理描写と絵画的な風景描写で美しい雰囲気の小説となっているが私はまだまだそれを充分に理解できる域に達していないなあと思った。85

町田康 ★★

「くっすん大黒」 文藝春秋 99.06 (1997.3.30 初版発行)

 作家としてのデビュー作。
 ストーリーよりも文体を前面に出すタイプの小説で、日常の奇妙な出来事が不条理性を生み出す。中編集で2作収録されているが、表題作よりもう一つの「河原のアパラ」の方が好き。ハードカバーでは買わないけど、文庫が出たら買いたい作家だ。85

松尾スズキ ★★

「クワイエットルームへようこそ」 文春文庫 2007.08 (2007.8.10 文庫初版発行)

 芥川賞候補になり、注目された中編。ドラッグの過剰摂取で、精神病院に強制入院させられた女性の2週間を描くが、面白い事は面白いのだけど、合わなかった。どこが、と言われても、全体が、としか言いようがないんだけど。85

松浦理恵子 ★★

「セバスチャン」 河出文庫 96.12

 何年か前に挫折して、ようやく読めた一冊。
 「親指P」で一気に売れた松浦さんだが、感覚的な描写が多くて読んでいて疲れてしまう。私にはあんまり向いてないなあ。81

松樹剛史 ★★☆

「ジョッキー」 集英社 2002.02 (2002.1.10 初版発行)

 14回目のすばる新人賞受賞作。「本の雑誌」で評判がいいのと、競馬小説という事で読んでみた。中央競馬のマイナージョッキーが主人公。技術の安売りはせず、営業活動もしない彼はすっかり貧乏生活。せっかくチャンスが来た馬も、ある事で乗り代わりになる。だけど、というストーリー。競馬がモチーフだが、知らない人でも読めるように工夫しているし、競馬を支える人の多さもよく分かる。もちろん競馬を知っている人には、作中の馬を実在の馬に置き換えて読む楽しみもあるし、最後の天皇賞のシーンはどきどきもの。
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「スポーツドクター」 集英社 2005.11 (2003.8.30 初版発行)

 高校の女子バスケ部キャプテンの夏希を軸に、スポーツドクターとその周りの人たちを描く長編。
 デビュー作の騎手に続き、今度の題材もなかなか面白い。健気でまっすぐな主人公もいいし、妙な看護婦や無愛想なインストラクターなど、脇もいい。文中、水泳の話が出てくるのだが、技術が完成してしまえば後はやはり筋力かあ。ふーむ。ちょうど文庫も出たみたいなので、興味ある人はどうぞ。90

「GO-ONE」 集英社 2007.01 (2007.1.25 文庫初版発行)

 廃止寸前の地方競馬の騎手が主人公。彼の持ち味は豪腕。バテた馬でも強引に盛り返させるという設定だが、脚上がった馬にそれは無理だろと思うが、話としては面白い。正確ラップで逃げるのが持ち味の女性騎手など、脇も面白いので、ぜひシリーズ化を。88

松村栄子 ★★☆

「紫の砂漠」 ハルキ文庫 2005.02 (2000.10.18 文庫初版発行)

 学生時代以来、実に久しぶりに読む松村栄子。私が学生の時に芥川賞を受賞して、筑波大卒で小説の舞台がつくばだった事から、記念講演会も聞きに行ったなあ。
 この小説は一転してファンタジー。真実の恋をしてから性別が決まるという星で、少年の冒険を描いているが、この世界設定はなかなか面白かった。久々に他の作品も読んでみようかな。88 
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真山仁 ★★☆

「ハゲタカ 上下」 講談社文庫 2007.03 (2006.3.15 文庫初版発行)

 普段ドラマは全然見ないんだけど、ふと旅先でNHKのドラマ1回目を見たことから原作を読んでみた。不良債権処理に銀行が選んだ外資ファンド。格安で買い叩き売り払う事から「ハゲタカ」と呼ばれる彼らと、銀行員や老舗ホテルの跡継ぎなど、様々な人たちの思惑が熱い。続きも読んでみたい。89

「ハゲタカU 上下」 講談社文庫 2007.03 (2007.3.15 文庫初版発行)

 続編。前作よりスケールアップした買収劇は、読み応え十分。昨今もオリンパスの買収がニュースになっているが、裏側にはこんなやり取りがあるのかな、と興味深い。89

三浦しをん ★★★

「人生激場」 新潮文庫 2006.08 (2006.8.1 文庫初版発行)

 06年上半期直木賞作家のエッセイ集。未読なので、どんな作家なのかなと読んでみたが、なかなか妄想気味かつ暴走気味で面白かった。きっと今年のW杯も、そういう視点で楽しんだんだろうな。89

「ロマンス小説の七日間」 角川文庫 2006.09 (2003.11.25 文庫初版発行)

 ロマンス小説翻訳家の女性が主人公。長年の付き合っている彼と巧く行かなくなると、翻訳の方も勝手に暴走し始めて、というストーリー。どうせなら、もっと暴走すると面白かったのに。87

「秘密の花園」 新潮文庫 2007.03 (2007.3.1 文庫初版発行)

 女子校を舞台に、3人の少女を主人公とし、それぞれの視点から描く長編。ちょっとした誤解や何を大事に思うかの優先順位など潔癖すぎて、ぼうっと本ばかり読んでいた私の高校時代とは大分違うなあ、という感じ。「檸檬のころ」と続けて読んだので、ちょっとギャップがあった。87

「極め道」 光文社文庫 2007.12 (2007.6.1 文庫初版発行)

 初のエッセイ集。妄想癖が強く、大体どの話も暴走してる。ここから直木賞作家になるんだから、凄い。86

「まほろ駅前多田便利軒」 文春文庫 2009.02 (2009.1.10 文庫初版発行)

 06年の直木賞受賞作。町田がモデルの町で便利屋を営む男の元に、高校の同級生が転がり込んでくる。奇妙な共同生活は、男の心を少しずつ変えていく、というストーリー。このコンビ、どこへ行っても騒動を引き起こすのだが、胸が温かくなるシーンもあり、すっかり二人に馴染んでしまった。90
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

三崎亜記 ★★

「となり町戦争」 集英社文庫 2007.01 (2006.12.20 文庫初版発行)

 話題となっていたのを、ようやく読んでみた。ある日突然となり町との戦争が始まるが、表面上は何も変わらないように見える。だけど、着々と公務員的に戦争は進み、というストーリー。ヒロインは感情がなく、淡い感じが、ちょっと「世界の終り」に似ているかも。87

「バスジャック」 集英社文庫 2008.11 (2008.11.25 文庫初版発行)

 短編集。「となり町戦争」より、こちらの方が面白かった。「動物園」と「送りの夏」が特に良かった。前者はイメージの喚起力に、後者はモチーフにすっかり感心。それぞれの作風も変化があるし、三崎亜紀は短編巧者かもしれない。余談だが「デイリーポータルZ」にちょくちょく出てくるのも、意外で面白い。90

三島由紀夫 ★★★

「三島由紀夫レター教室」 ちくま文庫 98.06

 三島由紀夫は中学校の時以来だと思うけど、勧められたので読んでみた一冊。
 5人の登場人物がそれぞれへ出した手紙を並べた形式の小説で、かなりシビアなやりとりだったり、ユーモラスなやりとりだったりして、本当に三島由紀夫が書いたのかと思うくらい読みやすかった。他の小説も読んでみようかな。88

向田邦子 ★★★★

(注)以下に挙げるのは向田さんのシナリオをノベライズしたものです。

 入院中に突然読みたくなって、本屋で何冊かまとめて買ってきた。
 何気ない日常生活の中のちょっとした出来事を巧い切り口でまとめたものが多く、家族についてふと思ったりした。
 何というか、懐古的な気分になるのもたまにはいい。

私のベスト3
 1.「あ・うん」 文春文庫
 2.「愛という字」 文春文庫
 3.「せい子・宙太郎」 文春文庫

「あ・うん」 文春文庫 96.11

 あまり期待しないで読んだ一冊だったけど、面白かった。
 戦前の日本を舞台に一組の夫婦とその友人の男を巡っての日常的な話だけどそれがたまらなくいい。宮本輝の「流転の海」シリーズが好きな方へおすすめ。93

「せい子・宙太郎 上下」 文春文庫 96.11

 脚本を小説にしたため、連作短編のような感じの小説。
 昭和50年代の神田を舞台として、葬儀店に住み込みの夫婦が主人公。思わずほろっとしてしまう場面や笑ってしまう場面ばかりで、何だか良き時代の日本という感じがした。ドラマを見たかったなあ。88

「愛という字」 文春文庫 96.11

 恋愛をテーマとした短編集。
 向田邦子の描く女性は、芯が強くて意地っ張りで、でも何だかとても可愛らしい。しかし豊かではないけどつつましく生きている女性の描き方は本当に巧いなあ。89

「寺内貫太郎一家」 新潮文庫 2000.05 (1983.3.15 文庫初版発行)

 久しぶりに読みたくなって、古本屋で買ってきた。彼女が書く作品世界は、日本にもこんな人たちが生きていた時代があったんだな、と郷愁に似た感情を起こさせる。
 さて、結構昔にドラマ化された話だが、やたら怒りっぽいけど気配りが細かい主人公のキャラクターがやっぱりいい。その性格を把握して照れている時はそっとしておく奥さんのキャラクターもいいな。事故の1年半後に書かれた久世光彦の解説は切ない。88

「想い出トランプ」 新潮文庫 2000.09 (1983.5.25 文庫初版発行)

 直木賞受賞作を含む短編集。
 設定は平凡な日常の生活なのだけど、そこから垣間見える風景や人情の描写が巧い。冒頭の「かわうそ」なんて怖くなってしまったし、最後の「ダウト」は切ないな。向田邦子は長編ももちろんいいけど、短編もいい。89

「夜中の薔薇」 講談社文庫 2000.11 (1984.1.15 文庫初版発行)

 突然の事故で、最後のエッセイ集となってしまった一冊。
 新聞や雑誌に発表されたものを集めたものなので、テーマが食べ物、旅行、若いときの話など様々だが、あの文体で書かれると引き込まれる。これに影響されて料理作ってしまったし。「手袋をさがす」というエッセイは、数年働いて「これでいいのかな」と思っている人が読むと、胸に浸みるかも。88

「男どき女どき」 新潮文庫 2002.04 (1985.5.25 文庫初版発行)

 向田邦子が事故死する直前に書いた4作の短編にエッセイを加えたもの。いつも何気ない描写なのに、涙が出てくるのはどうしてなのだろう。やりたい事がたくさんあったのに、無念の事故死という背景を知っているからか、文章の力なのか、昔の日本へのノスタルジーなのか、その訳を知りたくて、でも一度に読むのは勿体なくて、少しずつ私は読み続けている。87 
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村上政彦 ★★

「ナイスボール」 集英社文庫 98.12 (1998.11.25 文庫初版発行)

 子供の頃キャッチボールの途中にボールを追いかけて川に入っていった父親。その23回忌が終わった途端、本人が現れる。最初「フィールド・オブ・ドリームス」の日本版かと思って読んでいたが、そうではなく父親の存在そのものが自己の存在を見つめさせるというテーマ。映画になるそうだが、むしろもう一編の「南へ、海へ」の方が私は好き。 82

村上龍 ★★

「KYOKO」 集英社 1999.08 (1995.11.20 初版発行)

 約10年振りに読んだ村上龍。帰省する際に読む本がなかったので、妹の部屋から無断で持ち出した一冊。許せ、妹。
 子供の頃に近くの基地の男から受けたダンスのレッスンについて、お礼を言いたくてアメリカに渡った日本人のKYOKO。この男性を捜しだし、その後キューバまで行くことになるロードストーリー。ドラッグもセックスも出てこないので、村上龍はこういうのも書いているのかとちょっと驚いた。映画化されたそうだけど、高岡早紀が主演なら、見てみたいな。88

村田基 ★★★

「フェミニズムの帝国」 集英社 2000.05 (1988.11.15 初版発行)

 200年後の未来、現在とは男性と女性の社会的立場が入れ替わり、男性はか弱き者なので男性保護法まであるという世界を描いた長編。
 主人公の24歳の男性は、電車で痴漢に遭うし、会社では上司に結婚について聞かれ、人に結婚を勧める者に優秀な人はいない、という結論に達する。今の普通の会社員の子というのはこういう感じの扱いを受けているのか。ゲリラ的活動をする男性優位主義者と、それは暴力的世界に戻るだけとする穏健派の間で揺れ動くが、社会の仕組みというのは確かにどちらかに都合良く出来ているものなのかもしれない。87

村山由佳 ★★★

「天使の卵」 集英社文庫 2007.07 (1996.6.25 文庫初版発行)

 今更ながら初読みの村山由佳のデビュー作。少し昔の村上春樹っぽいのが懐かしい。19歳の「僕」が年上の女性を好きになる話だが、ラストの方でびっくりした。そういう着地点だとは思わなかったな。でも思ったより面白かった。89

「きみのためにできること」 集英社文庫 2007.07 (1998.9.25 文庫初版発行)

 音声技師の主人公には、昔から付き合っている彼女がいるが、仕事で知り合った女性の間で揺れ動いて、というストーリー。主人公たちのカップルの純粋さが少しまぶしい。あと、パソコン通信のニフティーの描写が懐かしかった。87

「星々の舟」 文藝春秋 2008.02 (2003.3.30 初版発行)

 ある一家のそれぞれの視点から見た連作短編集で直木賞受賞作。最初は恋愛が主軸で行くのかなと思いきや、最後のパートで胸が熱くなった。構成も人物も巧い。今まで読んだ村山由佳の中では一番良かった。91

室井佑月 ★★

「血い花」 集英社文庫 2001.04 (2001.3.25 文庫初版発行)

 初読みの室井佑月。集英社の小冊子「青春と読書」でエッセイは読んでいたので、軽いノリかなと思いきや、結構ハードな短編集だった。
 表題作は、銀座でホステスをしている子が、母を亡くし、幼なじみからプロボーズされた事により、いろいろ考えるというストーリー。「昼の夢」と「夜の夢」がモチーフだが、強くあろうとする心は健気だな。84

「作家の花道」 集英社 2002.05 (2000.12.20 初版発行)

 集英社のPR誌「青春と読書」に連載されていたエッセイをまとめたもの。青森から出てきて、モデルや水商売をしながら作家になるまでの日々を綴っている。といっても、男が出来ないとか、毎日パーティがないとか、女流作家のイメージと違うとか、そういうテーマが多くて、思わず笑ってしまう。正直、高橋源一郎の再婚相手という興味があって読んだのだけど、この体当たり度は結構すごい。87
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室積光 ★★☆

「都立水商!」 小学館 2002.02 (2001.11.10 初版発行)

 歌舞伎町に、水商売を教える都立水商売高校が設立された、という設定。教師の目から見た回想の構成を取っているが、これが巧い。マネージャ科、ホステス科、ヘルス科などの描写もいいし、甲子園出場の様子も良かった。すごい設定だけど、笑いながらも教育制度の在り方を考えさせるし、既存の高校ではありえない先生の奮闘ぶりもいい。こんな高校あったら行きたかった。アイディアが冴える技ありの一冊。92
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「小森課長の優雅な日々」 双葉社 2005.07 (2004.7.20 初版発行)

 室積光の3作目。生き甲斐がない人生を送っていた40歳の主人公は、「少しずつ周りに悪意をまき散らしている人は、トータルすると3人分くらい殺している。だから死んだ方がいい」という結論に達してからは、正義の行動を取り始める。それがサークル化してしまい、というストーリー。発想は面白いんだけど、着地点が今ひとつかも。85
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森絵都 ★★★

「永遠の出口」 集英社文庫 2006.02 (2006.2.15 文庫初版発行)

 何となく読みそびれていて、実は初読みの森絵都。
 ある女の子の小3から高3までを描く連作短編集なのだけど、こういう事あったなと懐かしくなるようなエピソード満載で、読んでいる間は懐古的な気分になれた。解説で北上次郎も書いているけど、一つ一つの短編が巧いなあ。90

「DIVE!! 上下」 角川文庫 2006.07 (2006.6.25 文庫初版発行)

 高さ10メートルからダイブする高飛び込みがモチーフ。両親ともオリンピック選手でエリート、津軽の海で鍛えた野性的少年、優しいのが取り柄の少年、とタイプが違う3人を軸に話は進む。競技人口の少なさから、オリンピックに出ないと所属クラブが廃止、というピンチに女性コーチがやってくる辺りから、ぐんぐん引き込まれる。恋愛や甘い物など全てを我慢して飛び込みに打ち込むが、誰にでも失恋話をする少年がいい味出してたな。この夏お勧め。私も水泳頑張ろう。92

「つきのふね」 角川文庫 2006.07 (2005.11.25 文庫初版発行)

 初期作品。親友と仲違いし、心が痛む日々を送る中学生の女の子が主人公。そんな中、唯一の心の拠り所は心優しい年上の男の人。でも、徐々に平穏さは崩れていくというストーリー。ラストの手紙は心が痛い。88

「カラフル」 文春文庫 2007.09 (2007.9.10 文庫初版発行)

 出た当時、話題になっていたけど読みそびれていた本。なぜか天使とともに違う人生を送るように送り込まれた先は、中学生の男の子の体。自分の罪を思い出さなければならないんだけど、それは何だろう、というストーリー。巧いんだけど、「DIVE!」の時ほど入り込めなかった。いい人しか出てこないからか。89

「いつかパラソルの下で」 角川文庫 2008.04 (2008.4.25 文庫初版発行)

 厳格な父に反発し、ふらふらと仕事も男も変える25歳の女性が主人公。その父が亡くなった後、驚愕の出来事が起こり、というストーリー。兄と妹もいるのだが、この3人の描写がいい。特に妹の変貌ぶりが楽しかった。いい話だなあ。90

森奈津子 ★★☆

「西城秀樹のおかげです」 イーストプレス 2000.07 (2000.6.26 初版発行)

 西澤保彦が面白いと言っていたので、読んでみた一冊。タイトルから、芸能人好きの振り返り型小説かな、と思っていたら大違い。
 短編集なのだけど、どの短編も同性愛が絡む。それも女性同士。シチュエイションに美学があるみたいで、それを小説の中にどう入れるかが面白い。ちなみに表題作は、タイトルから中身は推測不可能。初っぱなからやられたという感じ。90

盛田隆二 ★★★☆

「夜の果てまで」 角川文庫 2004.02 (2004.2.25 文庫初版発行)

 コンビニでバイトしている北大生が主人公。彼より一回り上の人妻と知り合った彼は、というストーリー。記者志望という設定で、平成3年度の北海道新聞内定を取る。私の一つ上という設定なので、就職試験を巡るあれこれも懐かしく読んだし、実際も概ねこんな感じ。サブストーリーはともかく、メインの恋愛の方は、ここからの展開が凄い。読むとかなりインパクトがあるので、まずはご一読下さい。解説の佐藤正午も書いている通り、構成も巧い。94
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「ストリート・チルドレン」 新風舎文庫 2004.07 (2003.11.5 文庫初版発行)

 出来たばかりの新宿を舞台に、ある一族の300年に渡る歴史を淡々と追い続けるという構成。盛田隆二のデビュー作。構成は面白いのだが、もうちょっとこの人物の話を読みたいな、という頃に次の代へと行ってしまうので、少し物足りない。86 (品切れ)

「おいしい水」 光文社文庫 2005.01 (2005.1.20 文庫初版発行)

 同じマンションに住む主婦グループで仲良く暮らしていた30歳の専業主婦が主人公。自由に生きる女性が引っ越してきた事から、徐々にさまざまな事が表面に現れるというストーリー。
 「夜の果てまで」ほどはカタルシスはないけど、それでも中盤以降の展開は、つい応援したくなる。けど、夫側の方にもつい感情移入してしまうのが面白い。私は自分の会社しか知らないけど、それでもこういう事は普通に起きているんだろうな、とは思う。91 文庫購入icon

「ラスト・ワルツ」 角川文庫 2005.04 (2005.3.25 文庫初版発行)

 12年前、18歳の時に出会った10歳上の女性。再会した現在と過去を織り交ぜながら、二人の関係はどうなっていくのか、というストーリー。「夜の果てまで」ほどは感情移入出来ないが、こういう形もあるんだろうなと淡々と読んだ。87
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「リセット」 ハルキ文庫 2005.05 (2005.4.18 文庫初版発行)

 アメリカからの帰国子女で16歳の女子高生を主人公に、酒鬼薔薇が逮捕された前後を描くという構成。
 ドラッグ、売春、家庭内暴力などの問題、学校や親にまつわる閉塞感など、読んでいて息苦しくなってくるくらい。現実をダークサイドから書けば、こうなるんだなあ。87
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「金曜日にきみは行かない」 角川文庫 2006.04 (2006.3.25 文庫初版発行)

 音楽ライターを主人公に、「ありす」と「有子」など現実か夢か、登場人物たちが入り乱れる実験的小説。一読して何かの小説に似ていると思うのだけど、思い出せなかった。86

「幸福日和」 角川書店 2008.09 (2007.10.31 初版発行)

 小説家講座のゲストだったのを機に読んでみた。出版社の編集総務を務める25歳の女性が主人公。婚約破棄から、ある恋に落ちる。時間や書類にだらしない編集者たちは身につまされる。いささか都合のいい女すぎないかと思わなくもないくらい、いじましい主人公がいい。90

森見登美彦 ★★☆

「太陽の塔」 新潮文庫 2008.01 (2007.6.1 初版発行)

 初読みの森見登美彦。オーストラリアへ向かう飛行機の中で読んだ。京大の大学生が主人公だが、学校にも行かず、振られた女の子の研究をする毎日。妄想とトラブルと友人が絡み合い混乱するが、その混乱ぐあいが楽しい。変な小説書く作家だなあ。88

「四畳半神話大系」 角川文庫 2008.09 (2008.3.25 文庫初版発行)

 京都に住む大学3年生を主人公に、冴えない現実にうんざりし、1年生の頃に戻ったらどうなるだろうと思いをパラレルワールドで実現させた長編。独特の拘りや美意識など、まさに森見登美彦にしか書けない世界だ。88

「夜は短し歩けよ乙女」 角川文庫 2009.01 (2008.12.25 文庫初版発行)

 例によって京都を舞台に、「黒髪の乙女」に恋した「先輩」が織りなす数々の珍事件。オモチロイ事とお酒が大好きなこの乙女、大学生とは思えないけど、そうだなあ、一時期本好きの男が北村薫の「円紫さんシリーズ」の「私」に恋したように、最近の文系男子はこういうキャラに恋するのかな。88
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

矢作俊彦 ★★

「スズキさんの休息と遍歴」 新潮文庫 98.03

 今月は初読みが多いなあと思いつつ初めて読む矢作俊彦。
 たまに見かけるフランスの大衆車2CVに息子と乗って、東京から北海道まで過去を追いかけていくロードノベル風の小説。かつて全共闘運動をしていた主人公だけあって、相手の言動に正面から反論するが、こういうタイプの人は会社員では見かけないし、またいたら疲れるだろうなあ。ところで、随所にイラストや文字の仕掛けがしてあって読む分には面白いが、体裁を組んだ人の苦労をしのばせる。88

山川健一 ★★

「ニュースキャスター」 幻冬舎 2001.08 (2001.1.10 初版発行)

 テレ朝の「ニュースステーション」の久米宏をモデルとした彼を巡る物語。その設定と、ある程度の真実を入れて物語を作るという形式。自民党と正面からぶつかったトラブルの話などは面白いし、ある程度までマスコミの実体に触れているが、一番の問題である地上波デジタル化への膨大な資金投入について触れられていないし、もう一歩突っ込んで欲しかった。まあノンフィクションじゃないと言われたらそれまでなんだけど。87

山崎ナオコーラ ★★

「人のセックスを笑うな」 河出文庫 2008.02 (2006.10.20 文庫初版発行)

 本屋で見て、ふと買ってみた。19歳の主人公と、39歳の女教師との恋愛だが、この先生、ふわふわしていて現実感がない。読みやすいけど、解説の高橋源一郎が褒めるような部分が分からない。私も歳を取ってきたか。86

山崎マキコ ★★

「マリモ」 新潮文庫 2005.03 (2005.3.1 文庫初版発行)

 前半は酒漬けOLのお気楽毎日の話かと思って読んでいたが、これが一転。自分を嫌っている上司を慕って頑張っているのだが、全く巧くいかない毎日。高校時代の恩師を思いだして、日々過ごすが、状況は悪くなるばかり。
 ラストはなかなか救いがあっていいけど、私も立派な大人ではないし、共感できる部分もあるなあ。86
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「さよなら、スナフキン」 新潮文庫 2006.04 (2006.5.1 文庫初版発行)

 いつもばっとしない、何に対しても自信がない大学生の女の子が主人公。必要とされたい一心で、バイトのライター稼業にのめり込むが、というストーリー。途中で「何でそこまで」といらいらしつつ、事態が好転するかと思いきや優柔不断さにまたいらいら、というところがリアルすぎ。解説で角田光代が書いている通り、でもこれがこの人なんだなあ。90

山田詠美 ★★★

「放課後の音符」 角川文庫 1999.03 (1992.11.10 文庫初版発行)

 数年前に「僕は勉強ができない」を読んで以来、久々の山田詠美。
 高校生の女の子が主人公の短編集だが、周りとは違った友達の子の事を中心にしたストーリー。これは高校生の子が読むと凄く感情移入するんだろうな。83

「PAY DAY」 新潮文庫 2005.08 (2005.8.1 文庫初版発行)

 アメリカの双子の兄と妹が主人公。両親が離婚した後、NYから引っ越した南部を舞台に、嬉しい事、悲しい事、それぞれ様々な事が起きる青春小説。
 妹のロビンが健気で、そちらについ感情移入してしまった。久しぶりに読んだけど、山田詠美はやはり登場人物のセリフが巧いなあ。90
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「風味絶佳」 文春文庫 2008.05 (2008.5.10 文庫初版発行)

 職人を主人公としたデビュー20執念記念の短編集。いや、文章もストーリーも、ただただ巧い。最後の「春眠」も巧いなあ。難しい言葉や、レトリックを使わなくても、ここまで自然に大事な事を書けるんだ。ちょうど自分でも短編を書いていた合間に読んだので、圧倒された。91

山本幸久 ★★★

「笑う招き猫」 集英社文庫 2006.01 (2006.1.25 文庫初版発行)

 第16回すばる新人賞受賞作。女二人の漫才コンビとして、貧乏で男なしの生活を送る身長180の女性が主人公。ネタ合わせをしている時が一番幸せ、という二人は、というストーリー。
 期待していたより面白く、一気読み。歌のエピソードも巧いし、ラストも一波乱あっていい感じ。他の作品も読んでみたい。90

「はなうた日和」 集英社文庫 2008.06 (2008.5.25 文庫初版発行)

 世田谷線沿線を舞台とした連作短編集。大きな事件は起きないけど、日常の幸せが浮かび上がってくる。「笑う招き猫」の女性コンビも登場するし、「世田谷線の歌」も再登場するし、読後感もほんわか。88

「凸凹デイズ」 文春文庫 2009.02 (2009.2.10 文庫初版発行)

 社員3人の小さなデザイン事務所を舞台に、新米女性デザイナーを主人公に話は進む。ほんのちょっとだけ、私の仕事もデザインと関わりがあるので、仕事小説としても、またいつもの山本幸久らしい、胸が温まる話としても、面白かった。脇役を主人公とした短編もいい。こういう人がいないと、仕事は回らないよなあ。89
凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1)

梁石日 ★★★

「子宮の中の子守歌」 徳間文庫 96.10

 仙台を舞台とした酒と女と金の小説。
 舞台が仙台なだけに馴染みのある地名はよく出てくるが、主人公の生き方のような人には会ったことはないなあ。85

「血と骨」 幻冬舎 99.01 (1998.2.10 初版発行)

 出た当初、かなり話題になった一冊。何でいまさら読んでいるかというと古本屋で見つけたから。
 梁石日自身の父親がモデルだという話だが、とにかく圧巻。三人称で淡々と語られる物語は凄まじい。戦後の大阪を舞台に、この父親を中心に話は進む。もう暴力、放浪、虐待何でもありで、その生のパワーにただただ押されながらの一気読みだった。
 かなり厚いし、癖もある本だけどおすすめ。 96

湯本香樹実 ★★☆

「夏の庭」 新潮文庫 1999.07 (1994.2.25 文庫初版発行)

 今年の新潮文庫夏の100冊の中の一冊。
 死というものをよく分からない小学生の男の子三人組が、近所で死にそうと噂されている老人の家を監視し始める。ふとしたきっかけで、この老人と交流していく少年たち、というストーリー。短い話だが、少年期の終わりという自分にもかつて在った経験を思い出させ、ちょっと寂しくなった。何気なく読んだけど、なかなかヒット。90

「ポプラの秋」 新潮文庫 1999.07 (1997.7.1 文庫初版発行)

 「夏の庭」の続編的小説だが、今度は少女とおばあちゃんの話。
 夫を失ったばかりの母親と共に、小さなアパートに引っ越してきた7歳の少女は大家のおばあちゃんと出会う。病気がちだったため、おばあちゃんと過ごす時間が長くなるに連れて、親しみを覚え、ある事を共有していく、というストーリー。
 たまにはこういう純粋なテーマの小説もいいな。87

「西日の町」 文春文庫 2005.11 (2005.10.10 文庫初版発行)

 西日を追うように辿り着いた北九州の町での、僕と母親と祖父の物語。さんざん母に迷惑をかけた祖父だが、二人にとってはかけがいのない存在となる。短いながらも読み応えがあった。88

吉田修一 ★★★

「パレード」 幻冬舎 2002.07 (2002.2.10 初版発行)

 先日芥川賞を受賞した吉田修一の長編。ふとした事から2LDKのマンションに同居する事になった5人の男女。暇な大学生や恋人からの電話を一日中待ち続けている女性など、交代でそれらの人物の目から語られる。上辺だけの付き合いがちょうどいい、というセリフもあるくらい、淡々と進むし、ユーモラスな描写も面白かったが、ラスト辺りでひっくり返った。うーん、こういうミステリ的要素があるとは、意表を突かれた。90
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「最後の息子」 文春文庫 2002.08 (2002.8.10 文庫初版発行)

 今年上半期の芥川賞作家のデビュー作を含む短編集。
 表題作より「破片」と「Water」の方が良かった。前者は夏のイメージとひたむきさの裏側の悲しさに、後者は私も水泳部だったので、あの水の感触が思い出されて。そして高校の水泳部の一夏の様子を描いた小説なので、今の時期読むとぴったりかも。点数は、この「Water」で。91 文庫購入icon

「パーク・ライフ」 文藝春秋 2003.04 (2002.8.30 初版発行)

 芥川賞受賞の表題作を含めた2編収録の中編集。表題作は日比谷公園が舞台で、ちょっとした触れあいを淡々と描いた話だが、数年前2か月に一度日比谷公園の近くにある新聞協会に出張に行っていたので、あの公園の雰囲気については何となく分かる。ただ、この小説、読みやすいけど印象に残りにくいな。88
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「熱帯魚」 文春文庫 2003.06 (2003.6.10 文庫初版発行)

 中編集。何だか中途半端でいらいらする表題作より、「グリンピース」が良かった。ある種の好みというのは、感情ではどうしようもない事だから。90
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「日曜日たち」 講談社文庫 2006.03 (2006.3.15 文庫初版発行)

 ある日曜日の5人の主人公を描く連作短編集。それぞれの短編を兄弟が繋ぐのだが、それが生きる最後の短編が巧いなあ。それぞれの短編も微妙に何かが引っかかる。89

「東京湾景」 新潮文庫 2006.07 (2006.7.1 文庫初版発行)

 品川埠頭の倉庫で働き、近くに住む25歳の男が主人公。ある女性と知り合ってから、二人の関係が変化していきというストーリー。こう書くと甘ったるいラブストーリーのようだが、なかなかシビア。解説に書かれている通り、私も泳ぎ切った方に一票。90

「長崎乱楽坂」 新潮文庫 2006.12 (2007.1.1 文庫初版発行)

 長崎の地方ヤクザの家で暮らす事になった少年の成長を描く連作集。中盤から終盤は予想外の展開となり、そのひねり方はさすがだ。89

「7月24日通り」 新潮文庫 2007.11 (2007.6.1 文庫初版発行)

 誕生日と同じタイトルなので、妻は以前読んだそうだ。地方都市をリスボンに見立て、通りの名前も変えて呼んでいるOLが主人公。かつて憧れていた先輩に再会したりするのだが、ラストは予想外の方向に進んで、なかなか面白かった。87

「ランドマーク」 講談社文庫 2007.11 (2007.7.13 文庫初版発行)

 大宮で建設中の超高層ビルを巡り、設計士と作業員の視点で交互に語られる。わりと淡々と話が進むので、どこに着地するのかと思いきや、結構ラストはびっくりした。その光景が浮かぶような、いいラストだと思う。88

「春、バーニーズで」 新潮文庫 2007.12 (2007.12.10 文庫初版発行)

 東京を舞台とした連作短編集。今解説見て初めて気がついたのだが、デビュー作「最後の息子」の主人公のその後らしい。ふーん…、もういいんだ。日常を描くのだけど、描写は安定して巧い。89

「元職員」 講談社 2009.01 (2008.11.5 初版発行)

 妻の実家滞在中、妻が図書館から借りていたのを読んだ。
 業務上横領を放りだし、バンコクへやってきた元職員が主人公。セミプロの子や、その弟の描写はいいが、どうも踏み込めていない地点で終わっているような気がする。吉田修一らしくないなあ。86
元職員

吉行淳之介 ★★★

「砂の上の植物群」 新潮文庫 2000.03 (1967.4.25 文庫初版発行)

 初読みの吉行淳之介。
 中年のセールスマンが女子高生と出会ったことから、その姉との関係が深まっていく。文庫の作品紹介によれば「性の根元にメスを入れた野心的長編」という事なのだが、うーん、私にはよく分からなかった。途中で作者が顔を出す趣向は面白いと思ったけど。83

隆慶一郎 ★★★

「影武者徳川家康 上中下」 新潮文庫 98.02

 読んでいない名作を読んでみよう、という事で読み始めた作品。すっかり堪能した。
 徳川家康は実は関ヶ原の戦いで戦死して、以降は影武者に入れ替わったのではないか、という前提の元にじっくりと描かれた作品。私は日本史が嫌いで、ろくに知識もなかったのだけど非常に面白く読んだ。豊臣家はこういう風に滅んだのか、と今さらながら勉強にもなったし。これは他の作品もぜひ読まなければ。96

「捨て童子・松平忠輝 上中下」 講談社文庫 2004.02 (1993.1.15 文庫初版発行)

 今更だけど、やっぱり凄い隆慶一郎。読んでいる間、完全に作品世界にはまっていた。家康の6男、忠輝が主人公。生まれた時、異形のあまり家康に捨てろと言われ、その後は鬼っ子と呼ばれた忠輝。将軍家を継いだ兄秀忠の小ささと柳生のしつこさにはらはらするし、家康や伊達政宗との繋がりはほっとする。宮城県民にはお馴染み、支倉常長の遣欧使節も出てくるし、何より物語としてスケールが大きく、面白い。96 
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「柳生刺客状」 講談社文庫 2005.05 (1993.5.15 文庫初版発行)

 未完の長編の冒頭を含む短編集。
 「影武者徳川家康」を元となったと思われる表題作を始め、独特の作風で描かれる世界観はやはりいいなあ。87 文庫購入icon

連城三紀彦 ★★

「恋文」 新潮文庫 96.10

 前から読みたいと思っていたがようやく読めた作家。
 用語の使い方に独特のセンスがあって読んでいて心地よい。他の作品、特に長編も読みたくなった。91

「どこまでも殺されて」 双葉社 97.12

 読みたくなって古本屋で買ってきた久々の連城三紀彦。
 六歳の時殺された記憶を始めとして今までに7度殺されたというプロローグ。8度目が近付いてきた時、本編に入るという構成もはらはらさせられて嬉しいが、淡々と語られる地の文と作品の構図が合っていて、独特の作品に仕上がっているのもいい。今まであまり読まなかったけど、連城三紀彦ってこういう作品を書くのか。85

「私という名の変奏曲」 双葉社 97.12

 うーん、ストーリーが説明しにくいというか、ちょっと説明しただけでねたばれになってしまう可能性を含んだ小説。
 作者のことばを引用すると「事件は他殺と自殺が同時に起こっていて・・・、重要な真相の一部が、最初から読者に提示されています」。結構実験的というかトリッキーな作品だが、一読して損はないだろう。87

「戻り川心中」 講談社文庫 2002.09 (1983.5.15 文庫初版発行)

 花をモチーフにした短編集だけど、どの短編も耽美的かつ本格ミステリで巧い。儚げな感じでそのまま終わるのかと思いつつ、論理的解決を付けるという一見矛盾した方法が成り立つのは、連城三紀彦の作風だろうなあ。読み終わって、ふうっとため息をつきたくなるような作品ばかりだ。91 
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「黄昏のベルリン」 講談社文庫 2003.01 (1991.7.15 初版発行)

 ネオ・ナチスがモチーフの謀略事件物。連城三紀彦もこういう作品書くのか、とちょっとびっくり。でも同じ文章内で視点が変わる(分割話法というみたい)を多用したり、ある組織側女性の心理描写は連城三紀彦らしい。東西にドイツが分割されていた時代の話だが、人種の話は肌で感じた事がないだけに、なかなか難しい。89 (品切れ)

若合春侑 ★☆

「脳病院へまいります」 文藝春秋 1999.08 (1999.7.10 初版発行)

 表題作の他、中編一編を収録。どちらも芥川賞候補作で、著者は宮城県出身だというので興味が湧き読んでみた。
 表題作は昭和初期、愛する男の愛人で、どこまでも虐げられる女性の手記という形を取っている。文語体で書かれているし、内容も結構凄いので、かなり意表を突かれた。こういう切り口も面白いとは思うけど、私は苦手とするタイプだな。もう一編は作家の主人と使用人という設定になっているが、主題は似ている。84

綿矢りさ ★★

「インストール」 河出文庫 2005.12 (2005.10.20 文庫初版発行)

 私の買った文庫は11.16付で11刷。1か月で11刷かあ。売れてるなあ、綿矢りさ。
 表題作は、学校と受験からドロップアウトする事にした女子高生と、大人な小学生のコンビを描く中編。正直、思ってたより良かった。もう一編の痛さもいい。89