痔慢Vol.3−1『定期検診受けたいんです』痔主上がり(40歳)
「8年ほど前に内痔核の手術を受けた専業主婦です。今も時々便秘をしますが、お尻の調子はまずまず。ただ、再発が不安で一度検診に行きたいのですが、何も異常が見られないのに病院へ行くのはおかしいかしら? 病院の方は『お尻見せたがりの変なおばさん』に思いませんか?」
痔核受診は自覚次第
Dr.OKとの一問一答
●私もそろそろ再発が心配な頃。先生、定期検診はやっぱり受けるべき?
「痔核は良性の病気ですから症状がなければ受診の必要はないでしょう。つまり『痔核受診は自覚次第』といえます。ただ、不安があってどうしても受診したいと思われるのなら大腸癌検査も兼ねた受診が良いと思います。大腸癌の検査には注腸検査や大腸内視鏡検査があり、どちらも予約が必要です」
●異常がないのに受診に来る患者さんを『お尻見せたがりの変な奴』と思うことは?
「皆さん、真剣に悩んだ末に受診されていると信じていますので、そんなことは思いません。診察の結果、異常がないことを丁寧に説明し、患者さんに納得して頂くよう努めています」
●でも、ここだけの話、異常がないと説明しても納得してくれなくて内心「困っちゃうなぁ」という患者さんもいらっしゃるんじゃないですか?
「困るというより思わずひるんだというか赤面させられた患者さんはいますねぇ。私の話じゃないですけど。若い女性で肛門の皮膚の小さな『たるみ』というか『たわみ』を気にして受診に来られたのですが、担当医師は『エッチする時に彼に見られるのが嫌』とはっきり言われ、思わず絶句したそうです」
●コーモンの皮膚のたるみ? 私なら『肛門のたるみ』より『お腹のたるみ』のほうがよっぽど気になるけど…皮膚のたるみなんて、老化現象のひとつじゃないの?
「たるみの大きなものはスキンタッグと呼んでいます。スキンタッグの原因のひとつは老化で、従ってスキンタッグができている成人は大勢います。ただし、もうひとつの原因として、過去に肛門が腫れて皮膚が伸ばされたことも考えられています」
●たるみを放っておいたら、どうなるの? 何か支障が出る?
「たるみが大きいと排便後の拭き取りがきれいにできず、肛門周囲湿疹の原因となることがありますが、シャワートイレなどできれいに洗浄できれば特に治療の必要はないでしょう。治療を要する場合は、手術で切除します。とはいえ、便で汚染される肛門はきれいに縫い合わせることができないため、予後の状況次第では、またもやスキンタッグになってしまうこともあり、あまり小さなスキンタッグには、手術はお勧めしませんね」
●どっかの俳優のように頬を膨らましたり削ったりするのとはワケが違うんですね。というわけで、『お尻の病気、受診は気軽に、手術はよく考えて受けましょう』。
痔慢Vol.3−2『手術後も痛いんです』ぢろうの彼女(28歳)
「彼は先日、車の運転ができないほど痔ろうが悪化したため手術をしました。仕事が忙しいため手術は日帰りでした。ところが、手術後も時々『痛い』と言ってます。これって変でしょ? まさかもう再発した? それとも彼がかかった先生はヤブ!?」
再発の可能性高し
Dr.OKとの一問一答
●痔核に比べると難しいと言われる痔ろうの手術。日帰りでもできるもの?
「痔ろうでも痔核と同様、日帰り手術は可能です。ただ日帰り手術で通常行われている麻酔法(局所麻酔や硬膜外麻酔)は、入院手術で行われている腰椎麻酔と比べ括約筋の弛緩が得づらく、どうしても手術がやりにくくなります。複雑痔ろうの場合は、腰椎麻酔でも視野が得にくいこともありますから、外来で手術されていれば再発の可能性はより高くなるでしょう」
●再発していた場合、次の手術はすぐにできる?
「再発確定までにかける日数は症例によって様々ですが、再発が確定すれば、すぐに手術する場合と炎症が十分治まってから手術する場合があります。これは、手術法による違いです」
●次回はぜひ入院手術をお勧めするわ。その際には “こぼれ話”をご参照の上、入院先をご検討くださいまし。
痔慢Vol.3−3『妊娠前に治療しておくべき?』新妻(32歳)
「21世紀が始まってすぐに結婚した私。気になるのは出産のこと。実はちょっぴりお尻が気になるんですけど。排便後、なんだか重〜い感じがし出血も時々します。これはやっぱり妊娠前に専門科へ行き、なんらかの手をうっておくべきでしょうか? それとも産婦人科の先生に相談すれば十分ですか?」
症状が強い時に肛門科へ
Dr.OKとの一問一答
●考えられるのは、やはり内痔核?
「このような症状の場合、内痔核が原因である場合が大部分です。ただ、診察しないと正確な診断は下せませんから、症状が強いときに肛門科を受診されることをお勧めします」
●症状が強い時に受診しなければならない理由は?
「出血している時期でないと出血原因は確定できないからです。出血して1週間経ってからの受診では痕跡さえない場合もあるので、原因を究明したければなるべく早く受診してください」
●内痔核だったとして、もし放ったらしたまま妊娠に至ったら、どうなる?
「妊娠中に発症しやすい痔の病気の第一位は、なんといっても『かんとん痔核』。これは痔核の本体である痔静脈叢という血管の集まった部分で血液が固まって血栓を生じ、急に腫れあがって痛むものです。その他には、便秘が原因で肛門に傷をつける裂肛が考えられます。しかし、痔が悪化しても妊娠中は手術して治すということがきません。手術で使用する薬の、胎児への影響を考えますからね」
●現段階でやっておくべきことは?
「痔核とわかったら、まず便秘に気をつけること。特に妊娠中に便秘になって痔で苦しむ妊婦さんが大勢います。便秘予防には、食物繊維の摂取。食べ物では十分に食物繊維がとれないときには、薬局などで補助食品として売られている食物繊維を毎日摂ることをお勧めします」
●産婦人科での相談や治療に問題はない?
「まれに産婦人科の医師で肛門疾患を熱心に勉強している人がいますが、大部分は『シロウト』といっていいと思います。性器出血した際に『どうせシモを診てもらうから肛門科でも良いだろう』と考える人はいないはずですし。
だからといって、痔疾患の守備範囲である外科なら問題ないかと言うと、一概にそうとは言い切れないのが実情です。『アッペ(虫垂炎、いわゆる盲腸)・ヘモ(痔)・ヘルニア(脱腸)はウンテン(下っ端の医者)の手術』と甘く見ている医師が少なからずいるためです。そんな中、他の外科領域の疾患で忙しいのにもかかわらず熱心に肛門疾患を勉強されている外科の先生にお会いすると頭が下がる思いです」
●医療の世界でも『餅は餅屋』に任せるが正解! プロならではのアドバイスもいただけること間違いなしですよ。
外伝・こぼれ話 誰もが知りたいこの話をこっそりお教えいたします
1・信頼できる先生とは『患者さんに丁寧に説明する先生』である
Q高価な機器を買えるほど流行ってるのは腕のいい証拠。最新鋭マシンを使いこなせるのは情報収集と研究に熱心な医師の証明。だから、最新機器を導入している個人病院は信頼できる医師、との考えは変?
Aフェラーリに乗っている人は皆、プロレーサー並の運転技術を持ってる人とは限らないでしょうし、『最新治療=最良の治療』の公式も成立しません。たとえば、肛門科の治療でいえば、つい最近、痔核を特殊な器具を使って無痛・短期間入院で手術してしまうという『PPH法』が画期的な手術法として取り上げられたのですが、学会では『肛門への侵襲が大きく、すべての痔核に適応すべきでない』との意見が現時点での主流です。長期的な効果や副作用などに関してもまだ十分に解明されていないのも事実です。
Qでは、症状を聞いただけで診断を下したり薬を処方してくれる先生を名医と考えるのは?
A『患者の言いなり医師』は避けて正解。不安を解消してくれない『説明嫌い医師』も不安です。実際、患者さんの訴えを聞いただけで座薬を出していた病院から私の病院に移ってこられた方に、直腸癌だった人がいます。指1本入れれば確実に診断できたことなのに。一方、最低限必要な視診と触診をする医師でも、説明を嫌がる先生はどうかと思います。自分の診察内容に自信があれば、患者さんの不安が解消するまで丁寧に説明できるものですからね。
2・「ヘモの手術はウンテンの仕事」とは言うが今どき患者を「クランケ」とは言わないのである
Q外科業界(!?)では『痔の手術は後輩(新人)医師のお仕事』のことを「ヘモはウンテンの手術」と言う。ヘモはヘモロイド=痔疾の略で、ギリシャ語の血=ヘモ、流れる=ロイドが語源である。では、ウンテンは?
Aドイツ語のUNTER=下に、下方への意、から来た言葉です。ただし、私たち世代では医学にドイツ語は一部を除いてほとんど使いません。自分から進んで使うこともありません。テレビドラマなどで若い医者が「クランケがどうの」というセリフを言ってるシーンを見ると『そんな奴、今どきいないよぉ』と思います。
Qでは患者のことは何て言うの?「お客さん」?
A「患者さん」です。「患者様」と呼ばれる先生もおられますが。名前がすぐ出て来ない時に「あの、ほら705号室の、痔ろうの患者さん」と言ってしまうことがあり、反省することも。
Q患者数の多い痔核の人の場合、なんと呼ぶの?「お尻が色っぽい患者さん」とか「お尻まで毛むくじゃらの患者さん」とか?
Aいえいえ、「痔核3つ、うち最大直径5ミリの患者さん」と…なわけはありません!
3・最近、お尻から出てきた変な物
Q前回の魚の骨に引き続き、今回も先生のおもしろびっくり発見談をひとつ。
A外来におばあさんが「軟膏のチューブがなくなった。どうもお尻の中に入れてしまったらしい」と駆け込んでこられました。『そんなバカな。トイレにでも落としたんじゃないの?』と思いつつも念の為にレントゲンを。と、しっかり見えました。直腸内に鎮座まします注入式容器が。幸いご高齢のため括約筋が緩かったので、すぐに指で取り出せホッ。
Q直腸に入ったことを知らずに生活していたら、どうなった?
A汚物と一緒に出たのでは、と思いますが、肛門を傷つけることにもなりかねないので、やはり病院へ来たのは賢明だったと言えるでしょうね。
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