腐食療法は30年以上前、注射一本で痔を腐らせて取ると言うことで評判を得ていました。中には、手術などいっさいせずに注射のみで開業する医師もいました。その当時の手術は今とは術式が違い、手術後もかなり痛くて、多くの患者さんが苦しんでいました。「注射なら切るより痛くないし、入院の必要もない。」と言う宣伝文句は、かなりの説得力を持っていたようです。

多くの患者さんはうまく治療できますが(現在でも腐食療法が得意な先生もいらっしゃいます。)下手な医師がやると大変なことになります。
組織に毒性のある注射液を痔核に注射して壊死(腐らせる)させるわけですから、うまく内痔核だけとどまれば痛みもなく痔核を取ることができます。しかし、ひとたび痔核の周囲に注射液が広がりますと、正常な組織まで腐らせてしまうわけです。外痔核や肛門周囲の皮膚が腐食されれば、神経がありますから激痛となりますし、治る過程で肛門周囲が傷跡のような固い組織となり肛門機能を損ないます。
このような事情で、現在腐食療法を行う施設はわずかになってしましました。


この患者さんは、肛門の周囲の皮膚が腐食されなかなか治らない潰瘍を生じています。排便のたびに痛むし、いつもガーゼを当てていないと、浸出液で下着が汚れると訴えられています。

痔核腐食療法後の難治性皮膚潰瘍(67.4KB)
この患者さんは、肛門全周が腐食されたため、治る過程で肛門が収縮し肛門狭窄となり、診察のため小指を入れることもできませんでした。もちろん太い便も出せないため下剤を大量に飲んで、水のような便をしていました。

痔核腐食療法後の狭窄(73.1KB)
勿論、手術療法であっても、下手にやれば難知性潰瘍や肛門狭窄を来すこともあります。しかし、私は手術の方が簡単確実だと思っていますので、腐食療法はやったことがありません。