CFD Simulation of Free Convection inside Symplocarpus Renifolius (Skunk Cabbage)
Symplocarpus renifolius ザゼンソウが誘起する自然対流のCFD解析

はじめに
2017年3月.山梨県甲州市,小倉山の麓にある群生地に訪れ,ザゼンソウ (座禅草, 学名: Symplocarpus renifolius) を初めて目にした.名前の由来とされるよう,確かに,僧侶が座禅を組んでいる姿に見えなくもない.
Photo
Fig. 1. ザゼンソウ (甲州市小倉山,2017年3月)

後日,僧侶に相当する肉穂花序が発熱し,マイナスの気温であっても20 ℃程度の温度を保っていることを複数のサイトで知る.一方,肉穂花序を包み込む仏炎苞が前面で開き,その重なりが僅かに前後していることから,

    (1) 肉穂花序と仏炎苞の間で自然対流が生じ,旋回する上昇流を誘起しているのではないか
    (2) その旋回流で(臭いと言われる)匂いを遠くに運び,多くの虫を誘い込もうとしているのではないか
との考えに至った.
その後,重い腰を上げるのに6年を要したが,これらの疑問を解消すべく,OpenFOAMを用いたCFD (熱流体) 解析を実施した.

CFD解析
Figure 2は,ザゼンソウの3次元形状モデルである.形状作成〜解析〜描画までを全て無償で済ませるため,初めて使用するソフトウェアばかり.不慣れな操作かつ知識不足も相まって,ヘタクソ極まりないが,何とか形になった.仏炎苞の両端は前後 (y方向) にずらし,隙間を設けている.

3D geometry model
Fig. 2. ザゼンソウの3次元形状モデル

計算領域としてx, y, z方向それぞれ,0.3 m × 0.3 m × 0.3 mの立方体空間を用意する.z = 0 mの面を地面とし,その中心にザゼンソウの形状モデルを据える (Fig. 3).
Computational domain and mesh
Fig. 3. 計算領域およびメッシュ

地面と空気の温度は0 ℃ (273.15 K)とし,筑波大学 山岳科学センター 菅平高原実験所のウェブサイトにある温度の計測結果を参考に,仏炎苞と肉穂花序の温度はそれぞれ,5 ℃ (278.15 K),25 ℃ (298.15 K) とした.

無風条件下におけるザゼンソウ内部で誘起される自然対流の流速ベクトルと温度分布をFig. 4に,また,それに伴うザゼンソウ内外の流跡線をFig. 5に示す.
ザゼンソウ内部ではジェットコースターの様な複雑な流れ場を形成するが (Fig. 5),予想通り,発熱している肉穂花序表面で暖められた空気が上昇する.ただし,仏炎苞に守られ熱の逃げにくい肉穂花序背面側 (仏炎苞開口部の反対側) においてである.それに伴い,地面に近い仏炎苞開口部では空気の流入が認められる.
これらの流れ場に誘起され,ザゼンソウ上空での旋回流形成に繋がることを期待したが,その見立ては誤りであった.肉穂花序背面側で上昇した空気は,仏炎苞開口部側で下降流へと変化し,再び,仏炎苞内へと取り込まれる.匂いを遠くにまで輸送することよりも,仏炎苞内部で流れを循環させることで発熱した熱を逃がさない省エネ戦略のようだ.リーゼント ポンパドールっぽい仏炎苞形状を有するザゼンソウが多く見られるのも,その戦略の一環かもしれない.
自然対流で誘起された仏炎苞内の最大流速は,高々,2.2 cm/sである.肉穂花序表面の小花もモデル化すれば,流速はさらに低下するであろう.やってきた虫たちの滞在を邪魔することはなさそうだ.一方,放出する匂いの輸送は自然の風まかせ,ということになろう.

Flow vectors and temperature around skunk cabbage
Fig. 4. ザゼンソウ内で誘起される自然対流.白い矢印は流速ベクトル.
(上)ザゼンソウ全体を表示.(下)断面の空間温度分布を表示.

Streamlines around skunk cabbage
Fig. 5. ザゼンソウ内外の流跡線.(上)鳥瞰,(中)側面,(下)背面.

あとがき
滋賀県には「ざぜん草もなか」や「ざぜん草月餅」なるものがあるらしい... 要現地調査.


Last Update: 18/Sep/2023
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