Interview of DOLL #131 July, 1998

  久方ぶりのRANCIDの新作「Life Won't Wait」はいろんな意味で突っつきがいの余地ありな内容に
出来上がってた。前作「・・・Wolves」で新たな境地を見せつけたにも関わらず、新作ではさらに
もう5、6歩踏み込んだ複雑多な展開で、早くも彼らのサード・ストリームに到達したと銘打っても
おかしくない音蝕。歌詞の内容は依然アグレッシブに残しつつ、楽曲にはそれまでにも増しての
スカやらレゲエったらしいラスタ・テイストまっさかり。とは言ってもそこは彼らのサジ加減一つで、
甘味もしぶ味もノージャンルRANCID風味にまとめ込む。一聴して懐かしゅう思いに駆られながろも、
彼らならではのオリジナリティが根を張りめぐってるっつう確かなあんばい。そんな新作を踏まえつつ、
目まぐるしかったここ数年の動向も含めてギターのLarsを突っつき回してみた。


−今回のアルバムは前作から実に3年ぶりの新作となるわけですけど、
いつ頃から取り掛かってたんですか?

「アルバムに取り掛かる前に、それまでの事を振り返ってみたら、、93年から2年間の間に3枚も
アルバムを出してるんだ。アルバムが出ればツアーをして、ツアーが終わればアルバムに取り掛かるって
いう状態がずっと続いてたんだ・・・そんな事を考慮しながら今回のレコーディングを開始したんだけど、
一番最初は・・・96年2月頃に始まったのかな。それを皮切りにいろんなところでチョコチョコ録音して
回って、最終的にたまったテープを一つにまとめ上げる形になったんだ」

−それまでみたいにスタジオへ行ってライヴのような感じで一気に取り終えるっていう
やり方じゃあ無いんですね。

「いや、3年もスタジオにこもりっきりだったわけじゃないよ(笑)。だいたい2週間くらいスタジオで
好きなようにレコーディングしてみて、その後4〜5週間他のことして遊んでるっていう調子だったんだ。
Timと一緒にLAまで行ってレコーディングしてきてみたり、ニューオーリンズまで下がってもみたし、
ジャマイカにも行ったんだ・・・。だから今回のアルバムでは行きたいところで、やりたいようにっていう
のを前面に出して行ってるんだ」

−今回は本当に多所で録音してますけど、もともとどういったアイディアでそうなったんですか?

「とにかく行ってみたかった街とか行ってみたかった国なんかを渡り歩いたんだ。一番最初の
レコーディング・セッションで、メンバー同士久々に顔合わせしたんだ。それまでのツアーが
終わってから各自全く合ってなくてバラバラに過ごしててね、それでまたバンド感っていうか
そういう感覚を取り戻すために山に登ってみんなで落ち合ったんだ・・・。まあそれは結局うまく
いかなくてね(笑)。それじゃあ、っていろんな場所に行ってみることになったんだ。
ちなみにニューオーリンズって行ったことある?」

−いや、ないです。

「まったく狂った街だよ。・・・。なんていうか人々の持ってるバイブレーションっていうか、
言葉で説明するのは難しいんだけど、とにかくあそこへ行ってみたら分かるよ。狂ったとこなんだ。
それが自分たちの持ってるものとすごく共鳴してね・・・。じゃあジャマイカは行ったことある?」

−いや、まったくないです。

「自分も始めは物凄いカルチャー・ショックを受けたんだけど、なんていうか
日本にある意味似てる国でね。」

−みんな背が小っちゃくて、すばしっこいから?」

「(笑)いや、そういうじゃあないんだけど、日本人と同じ感覚を持ち合わせてるっていうか。
何か日本のあの混沌としたところとかがすごく似ててね。どこ行っても人でごった返してるとことがね。
その上誰でもみんなすごくフレンドリーなんだ。どこへ行っても気軽に受け入れてくれるし、
まったく迫害的なところなんて感じさせないんだ。だからジャマイカも日本もすごく気に入ってるんだ。」

−今回のアルバムで聴けるレゲエとかスカの影響を追い求めてジャマイカに行ったってのも・・・。

「そりゃもちろんあるよ。今風の新しいサウンドも好きだけど、同時に古いタイプの音楽だって
好きだからね・・・。なんていうかそういう自分たちと共鳴できる場所に行ってみたかったってことだよ。
説明するのが難しいけれど・・・。」

−ジャマイカでは一緒にセッションに参加してくれたミュージシャンなんかもいたんですか?

「元々チョットだけレコーディングして、後はノンビリやってるつもりだったんだ。大したプランも
なしにね。そこでたまたまBuju Bantonとスタジオで出くわして、意気投合して一緒に
レコーディングまでできたんだ。Timがそういうダンスホール・サウンドの熱心なファンだからね。」

−新作を聴いている限り、音楽的な興味が70年代周辺に片寄ってる感じがするんですけど・・・。

「いや、まったくそんなことはないよ。みんなライヴにはよく足を運んでるし、Timが自身のレーベル、
HELLCATも始めて既に7バンドぐらいリリース予定もあるからね。自分も今日、君と話し終わったら
25 TA LIFEをみにいくところだからね・・・。だからオレ達の音への執着ってのは常に前進し
続けてると思うよ。新しいバンド達と常に影響し合っているし・・・。ただ、今回のアルバムで
聴けるようなサウンドは自分達がずっと好きだった音だし。そういったいろんなジャンルを
ミックスしてみたかったんだ。」

−今回は曲のスピードもミッド・テンポなもの中心で落ち着いてますよね。

「何曲かは速い曲を入れたつもりだけど・・・。どっちにしろ同じところにいつまでも
留まってられることなんてできないと思うんだ。少なくともオレ達にはムリだよ。
他のバンドでそうやって一つのスタイルを貫いて活動し続けるものもいるけど、オレ達はそうは
出来ないんだ。また「Let's Go」とか「・・・Wolves」みたいなアルバムを出したとしても、
それはもうオレ達のモノじゃあなくなってしまうんだ。その時々の一番新しいサウンドが
オレ達そのものだから。1stから今回のアルバムまでを通して聴いてくれれば、
常に成長し続けてきてるのが分かるはずだよ。1stアルバムでのツアーの時には、「Let's Go」の曲を、
2ndでのツアーの時には「・・・Wolves」の曲をすでにやってたからね。絶えず前進し続けてるんだ。
それが”バンド”っていうもののいいところだと思うよ。インタヴューでは常に答えてきてるんだけど、
いつも同じ場所に突っ立ってるつもりはないし、同じ曲調で毎回同じアルバムを繰り返し出し
続けてることなんて無意味だと思うんだ。自分達のファンだったらそのことを理解してくれるはずだよ。
アルバムを出すたびに新たな境地を見出して、それが毎回新作を凌いでいけるなんて素晴らしいことだと
思うからね。まあ、バンドのメンバーじゃない限り、そのバンドを評価する側になっちゃうのは
しかたないけど、オレ達自身はそういうスタイルで大満足してるから」

−今回は一曲の中にいろんなタイプのサウンドを放りこむってのよりは、パンクはパンク、
スカはスカって曲調がくっきり別れてる感じですね。

「それは君が曲を細かく分析しすぎてるからで、自分達の曲は自分達の心から出てくるものだから・・・。
だからそう解釈されてもどう返していいか分からないよ。自分達ではどの曲を聞いても”RANCID”の
曲に聞こえるから」

−今回はそういったオーセンティックなスカやらレゲエっていうサウンドが基調となっていて、
パンクはそれに少し加味させたような仕上がりですけど。

「自分達ではスカらしい曲は7、8曲で、残りはパンクの曲のつもりだったんだけどなぁ(笑)。
元々どれを強調させてどれを引っ込ませて、なんて形で曲は作ってないからね。
このサウンドはいい、って思ったものがストレートに録音されただけのことだよ。」

−曲を書いてる人の違いでサウンドにも変化が出てくるのかも・・・。

「どうだろうね、そうかもしれないけど・・・。とにかく全部がRANCIDなんだ。
誰が何を手がけてようが・・・説得するのは難しいけど。例えばもしオレ個人ではタッチしてない
曲にしても、それはどこかしら自分も絡んでる曲になるんだ。結局はRANCIDの曲だからね。
分かる?間接的に繋がってるってことなんだ・・・」

−曲はみんなで寄り集まって書いてるんですか?

「曲はTimが殆ど手懸けてるね。オレは殆どの歌詞を書いてて、たまに曲を書くぐらい」

−これまで以上にいろんなタイプの楽器も導入してますね。

「単にいろいろ試してみたかったんだ。曲の展開から必要に思ったから使ってみたし、さっきも
言ったけどさ、これも自分たちの音楽的発展なんだ。そんな楽器のことなんか元々考えてもなくて、
気が付いたら自然に必要になったって感じなんだ。」

−じゃあ初めから使おうと意図してたわけでもなく・・・。

「そうそう、ここはホーンがあったらいいな、って言い合ってその場で突発的に使ってみたりして」

−そうすることに伴って、曲調もシンプルさからもっと複雑なものへと変化してますね。

「・・・そうだね。とにかく今自分達が楽しめる音楽ってのがこういう形で出たんだから、
それをそう受け止めるなら妥当だと思うよ。メンバー全員いろんなタイプの音楽にのめりこんでるからね。
いつまでたってもGBHのレコードばっかり繰り返して聴いてるわけじゃないって証拠だね(笑)」

−Specialsのメンバーもコーラスで参加してるとか。

「「Hooligans」っていう曲で、Roddy、Lynval、Nevilleの3人がコーラスとリード・ヴォーカルを
とってるんだ。もともとSpecialsのドラマーのRayが随分昔に「Rock Stars Kill」っていうCompで
オレたちの曲をプロデュースしてくれて、それ以来の付き合いなんだ。
今じゃあお互いのアルバムで歌い合うことにまでなってね」

−えっ、Specialsの曲で歌ってるんですか。

「そうだよ、彼らの一番新しいアルバムで歌ってるよ」

−そりゃ知りませんでした。他にもM.M.Bostonesのメンバーも・・・。

「Dickyが参加してくれたんだ。他にも今回のアルバムにはそれこそ数え切れないぐらいの
ミュージシャンが集まってくれてるんだ。Slackers、Agnopstic Front、Hepcat ・・・
オレ達の好きなバンドの連中が殆ど参加してくれてるんだ」

−そういった人たちは、ホーンや他の楽器で参加してるわけですけど、これからのライヴでも、
そういったものを使っていくってことなんですか?

−それは誰にも予測できないことだね。確かにそのアイディアはメンバー間でも話し合ってきた
ことなんだ。ロラパルーザで前にやった時に、ホーン・セクションを使ったんだけど、
すごくいい感触だったからね。今回のレコーディングの時も予想以上の仕上がりだったし、
ああいう他の楽器なんかを使ってみると自分達の音楽を改めて
違う角度から聴き直すことが出来るから、いい刺激になってると思うよ」

−ホーン・セクションなんかのパートもメンバーが書いたんですか?

「曲自体は書いてないけど、今回は自分とTimのプロデュースだったから、
自分たち2人の思うままに音を出してもらったって感じかな」

−Timはロスに引っ越して自分のスタジオも構えたとのことですけど。

「あれは自分のレーベルを始める為に引っ越して、そのレーベル用に設立したスタジオなんだ。
Bloodclotていう名前のスタジオなんだけど、そこで今作のヴォーカルの大部分は
レコーディングしてるんだ」

−そういや今回「Bloodclot」っていう曲が収録されてますね。

「いや、あの曲はだいぶ前に書いたもので、スタジオがそのタイトルを取ったっていう感じだね・・・
だと思うよ。ハッキリ覚えてないや(笑)」

−昔一緒にステージを共にしていたベイエリアのバンド達をどう思います?

「そうだね・・・Grimpleみたいなタイプのバンドはもう見かけなくなっちゃったけどね」

−一時期盛り上がりを見せてたいわゆるメロコアってものもだいぶなりを潜めてきてるようですけど。

「どうだろうね・・・。確かにそういう風潮にはあると思うよ。けど自分はもっとハードコアのライヴの
方に多く行ってるからね。だからメロコアの方がどうなってるかまではあんまりはっきりとは言えないな。
70年代タイプのバンドなんかの、StoogesとかNY Dollsタイプのバンドなんかも好きなんだ。
Oi/SKINタイプのサウンドも気に入ってるしね。TimのレーベルからでるUS Bombsとか
Drop Kick Murphy'sとかHepcatとか・・・とか・・・とか・・・とかもいいよ」

−確かに最近、80年代を意識したサウンドのバンドがやたら目を引きますよね。

「けど、オレ達はオレ達のやりたいことをやってるだけだから、そんなバンドとはまったく
同一じゃないよ。俺たちはクルクル時代を回っては、ウケを狙って曲を書いたりなんて絶対しないよ。
これからだってありえないし」

−いや、別にRANCIDがそうなわけでなくて・・・。

「言わんとしてることは分かるよ。とにかく俺たちはただ自分達のサウンドをやり続けているだけだ
からね。けど、いろんな若い連中が、新しいバンドが、何か新しい音を出そうとして躍起になっているんだ。
それがパンク・ロックの素晴らしいところでもあると思うよ。一番大事なのはサウンドであって、
詩であって、それがどれだけ聴き手の胸中に響いてくるかが重要なんだから。オレ達に関して言えば、
別にトレンドなんてなぞってく気もないし、自らのサウンドにだけこだわり続けていくつもりだよ。
CrassだろうがMotorrheadだろうがAgnostic FrontだろうがBob Merleyだろうが自分達にしてみれば
みんな同じものなんだ」

−自分の耳に聞こえが良けさえすれば音楽なんて何だっていいと。

「その通り。それが一番大切なところなんだ。気に入ったらそれが好きなんだよ。
PennywiseとSpice Girlsを同時に聴いたって構わないんだよ(笑)。それがオマエの耳であって、
それが貫いていくべきところであるんだ。それがパンクに精通していくんだし、
それがオレ達のしてきたことだよ。好きなサウンドを好きなようにプレイする。
それに何の間違いがあるんだって・・・」

−最近はどんなバンドと活動してるんですか?

「実は去年の12月辺りからまったくライヴは行ってないんだ。これから逆にWarpツアーの
ヨーロッパに始まって、苛酷なツアーだらけの日々が始まろうとしているところだよ」

−ローカルのライヴなんかにはまだ足を運んだりはしてるんですか?」

「もちろん、さっきも行ったけどこの後ライヴに観に行く予定だからね。ライヴは常にかかさず
観に行くようにしているんだ。それが一番大事なことだと思うからね。オレ達が大金をせしめて、
ベネズエラのどっかでプールに浮かんでんだろうと思ってる連中もいっぱいいるだろうけどさ(笑)、
俺たちは常にライヴやバンド達と密接にいるっていうのが本来の姿なんだ。
Tim以外はみんなベイエリアに住んでるし、メンバー各々でライヴにはしょっちゅう足を運んでいるよ」

−実を言うと、個人的にRANCIDのライヴを最後に見たってのは、5年ぐらい前にQUEERSとか
RIP OFFS(初ライヴだった)とかとギルマンでやった時なんですよ。

「そりゃ・・・とてつもなく昔の話だね(笑)

−そしてそれが最初で最後ともなってるんですけど・・・。

「(笑)、どうだったその頃のオレ達は?」

−ステージの端っこに座ってみてたらLarsに”ライヴ中は暴れるから、邪魔だからどいとけ”って
言われたのは覚えてます。

「ホントに?(笑)、もう今じゃあそんなこと覚えてないけどさ、だけど一つ言えるのは、
俺たちはアメリカでやるのと同じくらい日本でライヴをするのは大好きなんだってことだよ。
自分の中では、日本ってあのブレードランナーの世界そのままのイメージがあって、
なんていうかすごく未知であって、懐古的であって・・・」

−これからツアー続きなスケジュールが始るわけですけど、日本は含まれてないんですか?

「もちろん行くよ。ただ、いつとははっきり約束できないけど・・・。来年の1月だか、2月ごろに
なると思うよ。メンバー全員早いとこ日本でまたライヴをやりたくて仕方ないんだ。
それまではサンフランシスコの日本街のすぐ近くに住んでるから日本の雑誌を立ち読みしに行ってるよ(笑)。
日本食ばっかり食べてるしね。ちなみに仮面ライダーXのレーザーディスクの5巻目を探してるんだけど、
誰か手に入れてくれる人いないかなあ・・・」

雑誌「DOLL」No.131 July 1998 からそのまま書きました。みんなも買っとけ!