知の道3:諸法無我


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博士 博士, 諸法無我(しょほうむが) って何ですか.
博士 やけに乗り気じゃな,ヒヨコ君.さては桃ヒヨコちゃんとうまくいっているのか?
ヒヨコ君 楽あれば苦あり,苦あれば楽あり,引っつけば離れて,離れれば引っつくですよ.
博士 それは前回の諸行無常を学問として言っているのか,ヒヨコ君の私生活をただ単に語っているのか?
ヒヨコ君 どっちともです.
博士 なかなか成長したようではないかヒヨコ君.どうやらうまくいってるようじゃな.ま,それはさておき話を元に戻そう.「諸法無我」じゃ.
ヒヨコ君 直訳するとえーっと「すべての法は我ではない」ということですか.よく分かりません.
博士 それは「法」と「我」が訳されていないからじゃ.
ヒヨコ君 ではここで言う法って何ですか
博士 いろいろな解釈はあるが,一くくりにして「もの」といってしまってもよいであろう.
ヒヨコ君 「もの」って例えば目にみえるもの何でもですか?
博士 そう考えてもよい.形作られたものすべてを考えてもよい.
ヒヨコ君 じゃあ「我」は?
博士 これは実体と訳すのが一般的じゃな.
ヒヨコ君 すると直訳し直すと「形作られたすべてのものには実体がない」となりますね.いったいなんのことやら...
博士 じゃあ理解してもらうためにいつものように質問をしようか.ヒヨコ君は今までどうやって生きてこれたのじゃ.
ヒヨコ君 いきなりハードな質問ですね.まぁ簡単に言えば両親に育ててもらってかな.
博士 じゃあどうやってこのように日本語が話せるようになったのじゃ.
ヒヨコ君 それは日本で育っていろんな人と話していくうちに学習していったのですよ.
博士 じゃあ誰にも育ててもらえずに,しかも誰とも会話もしなかったとしたらどうかな.
ヒヨコ君 それは無理ですね.生きていけませんし,そんな人はどこにもいません.
博士 そういうことじゃ.昔何かのドラマで「人」という字は2つの線が支えあってはじめて人という字になるんですよというくさい芝居をみたことがあるが.
ヒヨコ君 あれは感動するシーンです.
博士 ま,つまりすべての人々は関係・影響しあって存在しているということになるな.
ヒヨコ君 人だけですか?
博士 なかなかいい質問じゃ.もちろん人だけではない.例えばヒヨコ君がすわっている椅子,それは大工さんがいてはじめて形として出来上がるものだし,その素材は木で出来ているが,その木は土と水と太陽の光があってはじめて育つし,いろんなものが関わりあって出来上がっているのじゃ.
ヒヨコ君 ふーん.
博士 さらには物質だけではないぞ.ヒヨコ君のものの考え方自体も親や友達やテレビの影響を受けているじゃろう.
ヒヨコ君 んっふっふ,わしは天涯孤独の身,誰のさしずも受けん!!
博士 TV時代劇の見すぎじゃ!!影響をすっかりうけとるではないか.
ヒヨコ君 どうしてもというのならやむを得ん.このわしと勝負するしかないようじゃな!!!
博士 いきがっておるが勝負してこの私に勝てるのか?
ヒヨコ君 ぐっ...す,隙がない.ま,参りました.
博士 下手な芝居もこれくらいにして,まぁ考え方なども周りと影響しあっているのじゃ.
ヒヨコ君 そうですね.
博士 言い方を変えると,何の影響や干渉や手助けも受けず,単独で存在することの出来るものは無いということじゃ.
ヒヨコ君 ではさっきの「形作られたすべてのものには実体がない」はどう解釈すればいいんですか.
博士 ここでいう「実体が無い」というのは物質的に存在しないという意味ではなくて,単独で成りたっているものは無いという意味じゃ.
ヒヨコ君 んー分かったような分からないような...
博士 ついつい我々は目にみえるものの形のみを実体と表現して,それがはじめからそうであるようにとらえるじゃろ
ヒヨコ君 んーでも目の前の椅子はどうみても椅子でしょ.
博士 じゃあその椅子をパーツ一つ一つに分解したら?
ヒヨコ君 ...椅子じゃなくなりますね...
博士 組みあがってようやく椅子になっているのじゃ.椅子という実体がもとからあると思ってしまいがちじゃが,分解すればたちまち椅子ではなくなってしまうというような状態で椅子が存在しているのじゃ.
ヒヨコ君 目にみえている形のみがすべてではないということですね.
博士 まさにその通りじゃ.まぁこの椅子の議論は最終奥義の話に近くなるので,また今度にして...「単独で成りたっているものは無い」の説明じゃが.
博士 例えばヒヨコ君がテストでいい点をとったらついつい自分の力のみで達成した感覚になるじゃろう?
ヒヨコ君 世界を制覇してやろうと思ってしまいますね.
博士 ところが,明日から急に両親は転勤でいなくなる,教科書,参考書の類はすべて間違って引越し屋に捨てられてしまった,両親からのこづかいももらえなかったとなったらどうなる.
ヒヨコ君 んー弱った弱った.まずバイトしなくては...勉強しているどころではないな.
博士 さらに桃ヒヨコちゃんからビンボーな人とはもう付き合わないなんて言われたりしたら?
ヒヨコ君 ガガーン!!ショックで勉強に手がつきません.
博士 そうじゃろう.両親に飯を食わせてもらって,教科書・参考書が手元にあって,学習する時間があって,病気にもならなくって,ちょっと女の子に励ましてもらったりして,そういういろんな条件の中でいい点がとれましたということになるのじゃ.
ヒヨコ君 いい点をとったという結果だけが単独で存在するのではなくてまわりの条件,そこにいくまでのプロセスがあってはじめてなりたっているということですね.
博士 その通り!!よく出来ました.花丸印をあげましょう!
ヒヨコ君 ということは...博士がいろんなことを知っているのも博士だけの力によるものでは無いんですね.
博士 んん...(くそっ痛いとこをチクチクつきやがって)ま,まぁそういうことになるな.
ヒヨコ君 なーんだ.
博士 なーんだとはなーんだ!確かに一人の力によるものではないが地道な努力をこつこつと積み上げることによって実力を上げていくというプロセスは大事なことじゃ.
ヒヨコ君 でも周りの条件がそろわないとなかなかしんどいんでしょ.
博士 その条件をそろえるようにがんばればよい.ヒヨコ君の知能も諸行無常じゃ,あきらめてなまければ,レベルの低い方に変化してゆくぞ.
ヒヨコ君 条件をそろえればといったって...
博士 ヒヨコ君は「情けは人のためならず」という言葉を知っているかね.
ヒヨコ君 情けをかければ人は甘えてつけあがるから情けをかけるなということですね.
博士 ばかもん!その逆じゃ.
ヒヨコ君 えーっ!違うんですか.
博士 まぁことわざも時代と共にその解釈が変わっていくから何年か後にはそのような解釈に変わってしまっているのかもしれんがな.
ヒヨコ君 じゃあどういう意味です.
博士 人に情けをかけると,そのかけた情けはめぐりめぐって最終的には自分に戻ってくるからどんどん情けをかけなさいという意味じゃ.(文法的にいうと「ならず」は動詞「なる」の未然形ではなく助動詞「なり」の未然形ということじゃ.)
ヒヨコ君 えー本当にもどってくるんですかー? なんかかけ損のような気がします.
博士 確かに100%保証というものはつかないが.ただ,自分を支えてくれているものを大事にするのは悪いことではない.周りの人にいいことをすると良い関係が保てて,たまに困った時に助けてくれたりすることがあるじゃろ.
ヒヨコ君 それはありますね.
博士 それくらいの軽ーい感覚でとらえておけばよい.あまり情けをかけすぎても身をほろぼすしな.
ヒヨコ君 要は自分ひとりのみで,単独で成り立っているものは無いということを意識しておけばいいんですね.
博士 まぁそのくらいの感覚でいいんじゃあないかな.まぁこれは仏教の世界では 縁起(えんぎ) とでも表現されるのじゃ.「縁りて起こる」という基本的な世界観じゃ.諸法無我ということの側面をよくあらわしている.
ヒヨコ君 これも諸行無常と同じようにどこにいっても通用する法則ですね.
博士 そういうことじゃ.この諸法無我という世界観も非常に重要で基本的なものなのでよく憶えておくように.
ヒヨコ君 はーい.
博士 今回はまじめに語りすぎたので疲れた...では,そろそろ時間のようなので今回はここまでにしよう.次回は「業と縁」じゃ.

第三話 完
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