体性感覚誘発電位
( Somatosensory evoked potentials: SEP )
<目的>
SEPは体性感覚のうち主に後索を通る深部知覚系の伝導状態を反映する。
通常は電気刺激を用いて行う。
早期成分(短潜時体性感覚誘発電位:SSEP)は意識状態や薬物に影響されず、再
現性があり、末梢神経、脊髄、脳幹、視床、皮質に至る系の異常の診断に広く利
用されている。
<対象>
種々の末梢神経疾患
頚髄症、多発性硬化症などの脊髄を侵す種々の疾患
血管障害、多発性硬化症、腫瘍などの脳幹や大脳を侵す種々の疾患
<方法>
当科では下記のような方法で記録している。
(短潜時のみ検討している。:SSEP)
[上肢]
刺激部位:通常正中神経を手首部で刺激。
※必要によっては尺骨神経刺激を用いることがある。
正中神経はC5−C7 のルートから脊髄に入るが、尺骨神経は
より下位のC7−Th1 のルートから入るので、両者の組合せ
で頚椎、頚髄病変の高位診断に利用される。
刺激方法:当科では持続 0.3ms の矩形波を用いている。
刺激頻度4Hz の random 刺激。
刺激強度:母指が軽度収縮する強度で電気刺激。(数mA程度)
最も伝導が速いIa 線維が刺激されることが重要である。刺
激が不適切でU群線維しか刺激されないと、見かけ上の潜時
の遅延を招く。末梢からの入力が少ないと CCT が延長するこ
ともある。
Ia 線維の閾値は運動神経の閾値より低いので、筋収縮があ
ればIa も刺激されていると考える。
記録部位:肘窩、Erb点、第7頚椎棘突起上(Cv7)、
対側頭皮上(C3'またはC4':Cz より7cm 外方、2cm 後
方の点:いわゆる Shagass point)より、前額部(Fpz)を
基準電極として記録。
分析時間:40ms
加算回数:500回加算で2回以上記録し再現性を確かめる。
検討事項:elbow、Erb点の各電位の潜時、Cv7 の N13 の潜時、C3'(
C4')よりの N20 の潜時、そして N13−N20 の潜時を中
枢伝導時間(central conduction time:CCT)として検討。
[下肢]
刺激部位:後脛骨神経を足首で電気刺激。
刺激方法:上肢と同様。
刺激強度:母趾が軽度収縮する強度。
記録部位:膝窩部、第12胸椎棘突起上(Th12)、対側頭皮上(C3"また
はC4":Cz より2cm 外方、2cm 後方の点)より、膝窩部
とTh12 は対側腸骨稜を、C3"(C4")は前額部(Fpz)を
基準電極として記録。
分析時間:70ms
加算回数:500回で2回以上記録。
検討事項:膝窩部の電位、Th12 の N20、C3"(C4")の P39 および
N20−P39 を CCT として検討。
※注意
電極をいかに上手につけるかがポイント。
記録部位はよく磨いて(スキン・ピュアーなどを綿棒に付けこする。)
皮膚抵抗を減らす。
インピーダンスは 10kΩ 以下に落とす。
Cv7 や Th12 の電極は皮下脂肪の厚い人では浮き上がりやすく固定を
よくしないとうまく記録できないことも多い。
<各ピークの起源>(異論もある)
上肢 N9 腕神経叢
N11 後根の脊髄入口部
N13 後角〜後索
N14 内側毛帯
N20 体性感覚野
下肢 N20 脊髄への入口部−後角
P39 体性感覚野
P39 はP37、P40などとも呼ばれる。
<結果の解釈>
各ピークおよび CCT の異常などより異常部位、程度を推定する。
<正常値>
新潟大学神経内科 SEP正常値(mean±2SD ms)
上肢(正中神経) elbow 2.77- 3.93 ms
Erb 9.20-10.88
N13 11.74-14.82
N20 17.38-20.90
CCT 5.27- 6.27
下肢(後脛骨神経) poplitea 5.00- 7.56
N20 17.93-23.85
P39 33.84-41.04
CCT 14.18-18.64