この度、「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴及び飲用上の注意の掲示等の基準」の改定と「鉱泉分析法指針」の改定が行われ、療養泉を規定する基準と、禁忌症・効能・注意等が改定されました。 これまで「妊婦」の温泉入浴は禁忌とされていましたが、この度の改定から禁忌でなくなったとの報道はすでになされていて、ご存知かと思いますが、そのほかにも重要な改定がありますので、ご紹介したいと思います。 |
1.鉱泉の定義 鉱泉の定義についてはこれまでと変更はなく、下記のように規定されています。 2.療養泉の定義 これが今回の改訂で大きく変わりました。これまでは、温度(25℃以上)、溶存物質(ガス性除く:1000mg/kg以上)、遊離二酸化炭素(1000mg/kg以上)、総鉄イオン(20mg/kg以上)、銅イオン(1mg/kg以上)、アルミニウムイオン(100mg/kg以上)、水素イオン(1mg/kg以上)、総硫黄(2mg/kg以上)、ラドン(30x10-10Ci以上)が基準でしたが、今回の改訂では、銅イオン、アルミニウムイオンが外され、よう化物イオンが加わりました。 つまり、これまであった含銅泉や含アルミニウム泉、単純アルミニウム泉はなくなり、新たに含よう素泉、単純よう素温泉、単純よう素冷鉱泉という泉質名ができました。 |
1.禁忌症とは 1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象が生ずる危険性がある病気・病態と定義されています。 |
2.温泉の一般的禁忌症(浴用) |
・病気の活動期(特に熱のあるとき) ・活動性の結核 ・進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合 ・少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気 ・むくみのあるような重い腎臓の病気 ・消化管出血 ・目に見える出血があるとき ・慢性の病気の急性増悪期 |
と、これまでより具体的な記載になっており、これまであった、妊娠中(初期と末期)という記載がなくなっています。 |
3.泉質別禁忌症 |
浴用 | 飲用 | |
酸性泉 |
皮膚又は粘膜が過敏な人 高齢者の皮膚乾燥症 |
− |
硫黄泉 | 酸性泉に同じ | − |
4、含有成分別禁忌症 |
成分 | 浴用 | 飲用 |
ナトリウムイオンを含む温泉を1日(1200/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | − | 塩分制限の必要な病態(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など) |
カリウムイオンを含む温泉を1日(900/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | − | カリウム制限の必要な病態(腎不全、副腎皮質機能低下症) |
マグネシウムイオンを含む温泉を1日(300/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | − | 下痢、腎不全 |
よう化物イオンを含む温泉を1日(0.1/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | − | 甲状腺機能亢進症 |
上記のうちニつ以上に該当する場合 | − | 該当するすべての禁忌症 |
Aは、温泉1kgに含まれる各成分の重量(mg) |
そのほか、浴用の方法及び注意として、これまで以上に詳細かつ分かりやすく記載されていますが、書ききれませんので、詳細はこちらをご覧下さい。 |
1.療養泉の一般的適応症(浴用) 泉質によらず、共通に持つ効能です。従来より分かりやすい記載になっています。 |
・筋肉又は関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期) ・運動麻痺における筋肉のこわばり ・冷え性 ・末梢循環障害 ・胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど) ・軽症高血圧 ・耐糖能異常(糖尿病) ・軽い高コレステロール血症 ・軽い喘息又は肺気腫 ・痔の痛み ・自律神経不安定症 ・ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など) ・病後回復期 ・疲労回復 ・健康増進 |
2.泉質別適応症 療養泉の分類が変わりましたので、かなりの変更があり、適応症の見直しがなされていますます。新しく療養泉に入れられた含よう素泉の効能が加わったほか、単純温泉の適応症が個別に認定されたことが注目されます。 |
掲示用泉質 | 浴用 | 飲用 |
単純温泉 | 自律神経不安定症、不眠症、不眠症、うつ状態 | − |
塩化物泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 | 萎縮性胃炎、便秘 |
炭酸水素塩泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 | 胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風) |
硫酸塩泉 | 塩化物泉に同じ | 胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘 |
二酸化炭素泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症 | 胃腸機能低下 |
含鉄泉 | − | 鉄欠乏性貧血 |
酸性泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症 | − |
含よう素泉 | − | 高コレステロール血症 |
硫黄泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型については末梢循環障害を加える) | 耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症 |
放射能泉 | 高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎など | |
上記のうちニつ以上に該当する場合 | 該当するすべての適応症 | 該当するすべての適応症 |
療養泉の一般的適応症と泉質別適応症について重複するものがある場合は、泉質別適応症の掲示を優先するとのことです。 また、かねてから、私が問題に感じていたことについて、下記のように検討・記載されているのは評価できます。 温泉は自然由来のものであり、ゆう出後に空気との接触による酸化、揮発性成分の揮散等により、温泉成分に変化が見られる場合もあり、実際の浴用にあたっては気温変化や利用者の多寡による変化の度合いも異なるため、恒常的に分析結果を示すことは困難である。 掲示内容については、利用施設における成分分析結果に基づき行うことを原則とするが、ゆう出口と利用施設の間でその成分と差異がないと認められる場合には、ゆう出口における分析結果に基づき掲示して差し支えないとしている。よって、源泉の分析結果に基づき適応症を判断したものである場合にはその旨が温泉利用者へ分かるようにすること。また、利用施設における温泉の成分分析結果に基づいて適応症を判断した場合にはその旨を掲示することは差し支えない。 と記載されています。これまでの効能効果の決定は、湧出直後の源泉の分析結果でなされており、実際の浴槽の湯の効能効果を保障するものではありません。加水・加熱・循環・塩素消毒された浴槽の湯がどれほどの効能効果があるのか、疑問に思われます。 この問題に踏み込んでいるのは良いのですが、願わくば、利用施設における温泉の成分分析により効能効果を決定することを「原則とする」ではなく、義務付けるのが望ましいと思います。 |
温泉の効能の機序として、下記のように説明されています。よくまとまっていますので紹介します。 2.温泉療養は、特定の病気を治癒させるよりも、療養を行う人の持つ症状、苦痛を軽減し、健康の回復、増進を図ることで全体的改善効用を得ることを目的とする。 3.温泉療養は短期間でも精神的なリフレッシュなど相応の効用が得られるが、十分な効用を得るためには通常2〜3週間の療養期間を適当とする。 4.適応症でも、その病期又は療養を行う人の状態によっては悪化する場合があるので、温泉療養は専門的知識を有する医師による薬物、運動と休養、睡眠、食事などを含む指示、指導のもとに行うことが望ましい。 5.従来より、適応症については、その効用は総合作用による心理反応などを含む生体反応によるもので、温泉の成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難である。 |
参考資料 |