東京交響楽団 「第九」 2022
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2022年12月28日(水)18:30 サントリーホール
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:隠岐彩夏、メゾソプラノ:秋本悠希、テノール:小堀勇介、バリトン:与那城敬
合唱:東響コーラス(合唱指揮:冨平恭平)
 
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 op.125 「合唱付」


(アンコール)
蛍の光

 新型コロナ感染症が日本国内に侵入し、コンサートが開催できなくなった2020年3月に、東京交響楽団は無観客での演奏を「東京交響楽団Live from Muza!」として、ニコニコ生放送による無料配信を行い、のべ20万人以上が視聴し大きな話題となりました。
 このときは、大友直人さん指揮によるサン=サーンスの交響曲第3番が演奏されましたが、私も視聴させていただき、鬼気迫るような演奏に感動しました。(この公演はCD化されています。)
 以来、東京交響楽団は定期的にライブ配信を行うようになり、今年も何回か開催され、私も毎回楽しませていただきました。
 そして、2022年最後の配信となったのがこのノット指揮による「第九」のコンサートです。この演奏会は28日夜と29日の午後の2日間開催されましたが、初日の公演が配信されました。ライブ配信のほか、タイムシフト配信も行われ、ゆっくりと楽しむことができました。

 なお、今回の配信で特記すべきことは、40台のカメラからの同時生配信です。指揮者のほか各奏者に向けられたカメラの画像を、自由に選んで視聴できるというものです。
 40台の固定カメラの画像のほか、これまでの配信と同様の、演奏の流れでカメラ画像が切り替わる画像と、ステージの遠景だけの画像の2つで、総計42種類の画像を見ることができます。
 最初から最後まで、演奏の出番がないところを含めて奏者にカメラが向けられていますので、曲中の演奏者の挙動の全てが明らかになります。こんな試みは前代未聞で、今回が初めてであり、歴史に残りうる画期的な試みだと思われます。

 18時30分の開演でしたので、オンタイムでの配信は間に合わず、大急ぎで帰宅してネットに接続したときには第4楽章が終わろうとしていました。なかなか癖のある演奏だなあと思ううちに終演となってしまいました。
 後日ゆっくりとタイムシフト配信を視聴させていただき、40台のカメラ位置からの画像や音声も楽しませていただきました。

 まずは、これまでの配信と同様の通常のカメラワークでの演奏を通して聴かせていただき、その後40台のカメラの画像を少しずつ覗かせていただき、大いに楽しませていただきました。
 

 開演時間となり、合唱団がP席に静かに入場しました。左からソプラノ、バス(バリトン)、テノール、アルトという並びです。
 その後オケ団員が入場しました。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスの小林さんが入場して合唱団も起立し、大きな拍手が贈られました。
 次席は何とコンマスの水谷さん、2列目にコンマスのニキティンさんとアシスタントコンマスの田尻さんという最強の布陣です。弦の配置は対向配置で12型。男性団員は白い蝶ネクタイでいつもよりフォーマルです。

 ノットさんが登場して大きな拍手が贈られ、合唱団が着席して演奏開始です。早速のノット節。アクセントの付け方が独特であり、始めは癖の強さに驚きましたが、慣れると気持ちよく音楽が流れました。
 猛スピードで疾走する演奏は気分爽快です。通常の第九に慣れ親しんだ耳には新鮮で心地よかったです。今まで聴いてきたのは何だったんだろうと思うくらいのスピード感と躍動感でした。コンマスを始め弦は体を大きく動かしての激しい演奏でしたが、ニキティンさんはどっしりと構えていました。

 第2楽章も、第1楽章ほどの猛スピードではありませんが大きくアクセントを取って小気味良い演奏でした。緩急・強弱の揺らし方が心地良いですね。

 独唱者が拍手の中に入場し、一礼して指揮者前に着席しました。左からソプラノ、バリトン、テノール、アルトという並びです。

 第3楽章開始。この楽章も早めではありますが、ほどほどに抑えられられ、流麗な音楽が癒しのメロディを美しく歌わせてました。

 そしてアタッカで第4楽章へ。この楽章もスピーディに駆け抜けましたが、音楽は流麗で乱れることはありません。急流下りのようですが、流れは清らかで濁流ではありません。
 激しいオケに導かれて合唱団が立ち上がり、バリトンが歓喜の歌を力強く歌います。合唱が続いて、独唱者4人が競い合い、合唱が大きく歌い上げ大きな見せ場となります。
 行進曲の場面もスピード違反で突き進みます。その後の弦のスピードには圧倒されました。その後の合唱の部分では若干スピードをゆるめ、しっかりと歌わせるのがノットさんの心遣いでしょうか。
 終盤のフーガの部分ではかなりスピードを緩めて、力強さを増して大きく盛り上げました。再び独唱者が出る部分は再度猛スピードで疾走しました。
 最後の合唱の部分では、若干スピードを落としてためを作り、その後は猛スピードで、のけぞって演奏するコンマスとともにフナーレへと駆け抜け上がりました。

 カーテンコールの後、アンコールは東響では恒例らしい「蛍の光」をしっとりと演奏しました。最初は歌詞で歌い、その後はハミングで歌いましたが、合唱団はペンライトの灯りを点け、場内が次第に暗転し、暗闇に浮かぶペンライトの光とともに終演となりました。
 このアンコールの美しさに、思わず感動の涙が浮かんできました。素晴らしい演奏に感謝し、過ぎ行く年を思いながら心の中でブラボーを叫びました。

 その後、時間をかけて、40台のカメラを少しずつ覗きましたが、これがまた素晴らしいものでした。各奏者にカメラが向けられているのみでなく、その奏者の音が強調されており、どういう演奏をしているのか一目瞭然・一聴瞭然で楽しめました。
 今さらながら、オーケストラの音楽が、細かなパーツの集合体として形成されていることが理解され、総体としての音楽だけを楽しんでいた私は、やっぱり素人だったんだあなあと感じ入りました。
 ステージ入場から退場まで、カメラが団員を映し続け、演奏していないときの様子も映し出されていました。自分の出番まで、ひたすら待ち続ける奏者の姿は感動的にすら感じました。
 そして、美しい団員の姿を飽きるほど観ることができたのも収穫でした。ますます東響が好きになってしまいました。独唱者の美貌にも感動。

 これまでの配信以上に収穫のあった演奏会でした。40台のカメラで、指揮者・独唱者のみならず各パートの団員の演奏を個別に楽しめて、最高でした。この素晴らしい試みを無料で視聴させていただき、東響に感謝したいと思います。ありがとうございました。

 

(客席:PC前 無料)