ジャン・チャクムル ピアノリサイタル
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2019年8月1日(木) 19:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
ピアノ:ジャン・チャクムル  (使用楽器:KAWAI SK-EX)
 
ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 Op.18「華麗なる大円舞曲」

メンデルスゾーン:幻想曲 嬰ヘ短調Op.28 「スコットランド・ソナタ」

J. S.バッハ:イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV 811
          T.プレリュード
          U.アルマンド
          V.クーラント
          W.サラバンド、ドゥーブル
          X.ガボットT-U
          Y.ジーグ

(休憩20分)

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第7番 変ホ長調 D568

ショパン:24の前奏曲Op.28より
      第6番、7番、8番、15番、23番、24番

バルトーク:野外にて Sz.81
          T.笛と太鼓
          U.舟歌
          V.ミュゼット
          W.夜の音楽
          X.狩

(アンコール)
シューベルト/リスト:「美しき水車小屋の娘」より 水車屋と小川
 

 今回のピアノリサイタルは、2018年11月に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールの優勝者コンサートツアーの一環です。
 このコンクールは、1991年以来、3年に1回開催されており、若きピアニストの登竜門としてその歴史を重ねています。歴代優勝者には、アレシオ・バックス、アレクサンダー・ガブリリュク、ラファウ・ブレハッチ、アレクサンダー・コブリン、チョ・ソンジンなど、私が感銘を受けたピアノストの名前がずらりと揃っています。
 今回優勝のジャン・チャクムルは1997年トルコのアンカラ生まれの22歳で、現在ヴァイマル音楽大学で研鑽中とのことです。これから世界に羽ばたく期待の新星の演奏をこの耳で確かめるため、コンサートに参加することにしました。

 仕事を早めに切り上げ、大急ぎで会場入り。客席は1階とステージ周りの2階だけ使用されましたが、なかなかの入りではないでしょうか。若い人たちが多いのも目に付きました。
 ステージ上のピアノはKAWAIのSK-EX。チャクムルが予選から本線まで使用したピアノで、音の透明感と弾きやすさを絶賛したとのことです。

 時間となり、チャクムルが登場し、ショパンのワルツ第1番で開演しました。初めは緊張のためか固い印象で音楽が流れず、こんなものかと一瞬落胆したのですが、中盤以降次第に音が滑らかになってスピードアップ。おう、なかなかやるなあ・・という印象に変わりました。

 続くメンデルスゾーンの幻想曲は、初めから滑らかに音楽が流れ、淀みなく流れ出る色彩感あふれる音の噴水に感嘆しました。3つの楽章を猛スピード一気に駆け抜け、唖然としてしまいました。

 続いてのバッハのイギリス組曲は、メンデルスゾーンの流れそのままに、倍速再生するかのような猛スピードです。6曲からなく組曲のそれぞれを楽しむ間もなく、音の機関銃の連射にノックアウトされました。
 軽やかな音の洪水はピアノというより、チェンバロの速弾きという印象でした。これまでにこんなバッハは聴いたことがなく、衝撃的演奏と言えましょう。スピード違反で一発免停ともいうべき演奏は好みが分かれましょうが、私は好きです。

 休憩後の後半は、シューベルトのピアノソナタ第7番です。この演奏も前半の印象そのままに、緩急自在に、淀みなく流れ出る音の洪水に身を任せました。

 続いてはショパンの24の前奏曲からの6曲。ダイナミックレンジを大きくとり、歌わせどころはしっかりと歌わせ、聴き応え十分な演奏でした。いつも聴くショパンとは世界が異なり、チャクムルにより全く別の曲に作り替えられたかのようでした。

 最後はバルトークの「野外にて」です。自然界の様々な音を模倣したという5曲からなりますが、各曲の対比も見事であり、色彩感あふれる演奏は、聴く者を圧倒しました。夜の音楽と題された第4曲の深遠な静けさから一転して、雷鳴が轟くように荒々しい第5曲のすさまじさにおののきました。プログラム最後を締めくくるにふさわしいパワー溢れる演奏でした。

 アンコールはシューベルトの歌曲をリストが編曲したもの。これまでの興奮を鎮めるかのように、ゆったりと、しっとりと歌わせ、極上の演奏で酔わせました。

 ちょっと華奢にも見える細身の体から繰り出されるパワーあふれる音楽。音はあくまでも澄んでいて、濁りは全くありません。色彩感豊かにキラキラと輝いています。

 このクリアなピアノの美しい響きは、演奏者のせいなのか、ピアノのせいなのか・・。今日のピアノはKAWAIの最高峰であるSK-EX。日頃聴く Steinwey & Sons D274 と今日の Shigeru Kawai EX の違いなど、素人の私には比べるべくもありませんが、いつもとは違った印象だったことは確かです。

 トルコ出身のチャクムル。トルコといえばファジル・サイが思い浮かびますが、サイの演奏を初めて聴いたときのような興奮と感動を覚えました。

 これから世界的に羽ばたくことが確実の若き俊英。そんな若者の門出のコンサートを聴くことができて良かったです。これから年を重ねて熟成され、さらに素晴らしいピアニストになっていくことでしょう。

 

(客席:2階C5-3、会員割引¥2700)