NHK交響楽団 第1569回定期演奏会
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2006年5月13日  NHKホール
 
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
 

 
(開演前の室内楽)
D.フンク:組曲 (チェロ四重奏)

ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版/1890年)


 

 
 

 本日は久し振りの東京出張です。早朝の新幹線で上京。新宿での会を午後に終え、原宿駅からNHKホールへ向かいました。

 せっかくの東京出張であり、いいコンサートはないかと捜しましたら、ミスターSことスクロヴァチェフスキのコンサートがあるではないですか。それもブルックナーの8番です。ブル8は好きな曲であり、実演を聴いたことがないので、喜び勇んで駆けつけたのでありました。

 あいにくの雨模様でしたが、代々木公園ではタイの催し物があり、露店が建ち並び、たくさんの客であふれかえっていました。人をかき分けてホールへ到着。

 開演前の室内楽は、今回はチェロの四重奏。メンバー紹介の後、フンクの組曲が演奏されました。8曲からなる組曲ですが、本来はヴィオラダガンバの曲だそうです。なかなか叙情的な癒しを感じる曲でした。

 さて、客席はほぼ満席。さすがです。今回はCプログラムの2日目。昨日はFMで生中継されていました。中継・収録のない日のN響は気が抜けるとの噂もありますが、今日はいかなる演奏を聴かせてくれることでしょうか。

 楽員の入場。新潟なら拍手の中入場となるはずですが、静寂の中の入場です。3階のD席ですので、はるか上からステージを見下ろす感じになります。スクロヴァチェフスキが登場。ご高齢のはずですが背筋がピンとしてしっかりした足取りでお元気そうです。
 弦の弱奏トレモロで演奏開始。重厚なブルックナーサウンドが巨大なホールを満たします。安定した低弦の美しさに支えられた金管の響き。響きの良くない巨大なホールですが、弱音から強奏まで3階席まで十分に音が届きます。CDでは味わえない3次元的空間の広がり。これぞオーケストラの醍醐味。やっぱり生演奏はすばらしいです。管楽器での不安定さを一瞬感じた場面がありましたが、指揮者と一体になった集中力のある力の入った安定した演奏でした。
 ハープの美しさ、コンマスのソロのきらめき、第2楽章の最強奏の場面2ヶ所だけのためにひたすら座り続けるシンバルとトライアングル、ホルンの4人がワグナーチューバに持ち替えて出す厚みのあるサウンドの美しさ、などCDでは何となく聴き流していたことが新鮮な感動として今日始めて気がつきました。
 そして圧巻は第3楽章。美しいアダージョに心は天上の世界へトリップします。終楽章は身を乗り出して聴き入りました。このままいつまでも聴いていたいという思いを抱きました。演奏が終わりブラボーの声。さすがにN響、さすがスクロヴァチェフスキ。すばらしい演奏をありがとう。拍手は鳴り止みませんでしたが、コンマスの手を引いて退場し、お開きとなりました。

 新潟ではなかなかブルックナーを生で聴く機会はありません。私はブル8は今回が初めてです。演奏がどうの、ノヴァーク版がどうのと論ずる前に、演奏を聴覚的・視覚的に体験したと言うことが本日の収穫です。こういう大曲が日常的に演奏される東京がうらやましいです。CDやFMでは味わえない生の感動は格別です。

 ホールを出ると冷たい雨が降り続いていました。でも、いい音楽を聴いたあとの心は晴れやかです。

 と、帰宅してヴァントのCDを聴きながらこの文章を打っているのですが、ミスターSに感動したばかりというのに、ヴァントの演奏の良さにあらためて感動しています。こうしてみると名演と感じたN響の演奏もたいしたことなかったのかなあ・・。
 

(客席:3階C5−50、D席3460円)