その他の神経難病


1.多発性筋炎・皮膚筋炎         polymyositis, dermatomyositis 病因    自己免疫的な原因により、四肢体幹の骨格筋に炎症が起こり、筋力低下を来す。    皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎と呼ぶ。 発生率    人口10万人当たり5−8人程度の頻度。女>男。年齢40〜50歳代が多い。 症状    四肢近位筋を中心とする筋力低下、筋痛、嚥下障害など。皮膚筋炎では、上眼瞼のむくみ    を伴う紫紅斑(ヘリオトロープ疹)や指関節伸側の皮疹などが有名。 合併症    間質性肺炎や悪性腫瘍の合併がみられることもある。 検査    @血液検査:筋原性酵素の上昇:CPKなど。          自己抗体:Jo-1抗体が特異的。          炎症反応:CRP上昇、血沈亢進。    A筋電図:低電位、短持続時間の筋原性変化。    B筋生検:筋組織の炎症性変化を直接みる。         血管周囲や結合織に炎症性細胞浸潤がみられる。 治療    @ステロイドホルモン(パルス療法も行われる)    A免疫抑制剤    B血漿交換 2.重症筋無力症 myasthenia gravis: MG 病因    自己免疫異常により神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する抗体が産生され、    運動神経末端から筋への情報伝達が阻害され、筋力低下を生じる。免疫組織のひとつ    である胸腺との関連が明らかにされており、高率に胸腺腫・胸腺過形成を合併する。 発生率    患者数は全国で5,000〜7,000人程度。女>男。 症状    筋肉が疲れやすい。休息により改善。日内変動があり、朝より夕方が悪い。眼の症状    が出やすく、眼瞼下垂、複視、眼球運動障害などを生じる。四肢筋力低下や嚥下障害、    構音障害なども生じる。時には急激な症状増悪を示すことがあり、クリーゼと呼ばれ    る。 合併症    胸腺腫、甲状腺疾患、種々の自己免疫疾患などを合併することがある。 検査    @テンシロン(アンチレクス)テスト     神経筋接合部でのアセチルコリン分解を抑制する抗コリンエステラーゼ剤である。     これを注射するとアセチルコリンの量が増加し、一時的に伝達が改善され、症状が     軽減する。    A反復刺激試験     運動神経神経を電気刺激し、支配筋の複合筋活動電位(CMAP)を記録する。3Hz程     度で刺激すると、徐々に伝達が障害され、CMAPが減衰(waining)する。筋収縮さ     せたりして疲労不可を与えると waining現象がより明らかとなる。    B抗アセチルコリン受容体坑体の測定    C胸腺の異常の有無検索(胸腺腫の合併が多い):CT、MRIなど 治療    @胸腺摘出        最も有効な治療法として広く行われている。    A抗コリンエステラーゼ剤        アセチルコリンの分解を抑制し、神経筋接合部での伝達効率を高める。    Bステロイドホルモン(パルス療法も行われる)    C血漿交換(免疫吸着)    D免疫抑制剤    Eリンパ球除去療法 類似疾患   筋無力症候群 Lambert-Eaton myasthenic syndrome: LEMS    悪性腫瘍に伴って発症、小細胞性肺癌が多い。神経筋接合部での運動神経末端からの    アセチルコリン放出が障害される。運動を繰り返すうちにアセチルコリン放出が促進    され、筋力が増強するのがMGとの違い。    筋電図で、高頻度反復刺激でCMAPが漸増(waxing)するのが教科書的には有名。 3.多発性硬化症 multiple screlosis: MS 病因    中枢神経細胞の髄鞘が免疫異常により障害される。(髄鞘の障害→脱髄)    中枢神経系のいろいろな場所が障害され(空間的多発性)、    再発を繰り返す(時間的多発性)。    遺伝的・環境的要因が関わる。 発生率    思春期〜中年に多く、女>男、欧米>日本、人口10万人当たり4〜5人程度。 病理    病巣は1〜2cm位で、大脳では、髄鞘に包まれた神経線維の多い白質、特に脳室の周辺に    多い。脊髄や視神経も障害されやすい。病巣内の小静脈や毛細血管周囲には、リンパ球、    単球や形質細胞とよばれる免疫細胞が出てきて、周辺では髄鞘が無くなっている。慢性    期の病巣は周囲との境界が明瞭で、形の不規則な脱髄班をなし、神経膠細胞が増加して    固くなるので「硬化症」と呼ばれる。 症状    どこが障害されるかでさまざま。視力障害、運動障害、感覚障害、膀胱障害などいろい    ろ。症状の頻度としては、視力低下が多く、運動麻痺、知覚障害、深部反射亢進などの    順である。    @視力障害:視神経、視束、視放線の障害。急激な一側ないし両側の視力低下。中心暗     点、半盲など。    A運動障害:脊髄障害による下半身麻痺(対麻痺)が多い。深部反射亢進、病的反射、     感覚障害、排尿障害などを伴うことが多い。    B知覚障害:脊髄・脳幹・大脳など障害部位により分布は様々。有痛性強直性痙攣や痒     み発作を呈することもある。    C脳幹症状:眼球運動障害が多い。(内側縦束症候群)    D膀胱直腸障害:40%の頻度。    Eその他:小脳症状、精神症状(感情の変化) 検査    @髄液:単核球増加、蛋白増加、IgG増加。    ACT、MRI:脳室周囲の大脳白質に病巣が多い。    B大脳誘発電位:視覚誘発電位(VEP)            聴性脳幹反応(ABR)            体性感覚誘発電位(SEP)などが有用。    C脳波:70〜80%の患者に異常。 治療    @ステロイドホルモン(一度に大量投与するパルス療法も行われる)     Aインターフェロン     B免疫抑制剤    Cリンパ球除去療法 類似疾患    急性散在性脳脊髄炎(ADEM)       急性の経過をとる脳・脊髄の散在性炎症性病変。発熱、髄膜刺激症状(頭痛・悪       心・嘔吐)、意識障害など炎症性変化が強い。       ウイルス感染やワクチン接種後1〜3週後に発症することが多い。 参考:その他の脱髄性疾患  @先天代謝障害(髄鞘形成不全)    ・ 副腎白質ジストロフィー adrenoleukodystrophy    ・ Krabbe病    ・ 異染性白質ジストロフィー    ・ Pelizaeus-Merzbacher病  など  A末梢神経の脱髄性疾患    ・ ギラン・バレー症候群 Guillain-Barre syndrome        上気道感染、下痢などの感染症に引き続いて、下肢遠位部より筋力低下が進行        し、さらに上肢にも及ぶ。重症例では、脳神経まで障害され、呼吸筋麻痺も生        じる。髄液では細胞数は正常だが蛋白が上昇する。神経伝導速度は低下し、伝        導ブロックを生じる。治療としては血漿交換が有効。ほとんどは自然に改善し、        後遺症なく回復するが、一部に回復の良くない重症型(軸索障害型)がある。    ・ 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 CIDP        免疫的異常によって、末梢神経の脱髄を繰り返す。治療としてステロイド剤や        免疫抑制剤、ガンマグロブリン、血漿交換等が試みられている。 4.SMON subacute myelo-optico-neuropathy   整腸剤として使用されたキノホルムによる中毒。病名のごとく、主として脊髄、視神経、   末梢神経が障害され、下半身の感覚障害、運動麻痺、視力障害が多い。   キノホルムの使用が禁止されてから新規患者発生はない。難病に指定されているが、薬害   であり、他の神経難病とは性質が異なる。 5.神経ベーチェット病   ベーチェット病は、口腔内アフタ外陰部潰瘍、ぶどう膜炎などの眼症状皮膚症状を4   大症状とする慢性炎症性(免疫性)疾患であるが、神経症状を伴うものを神経ベーチェッ   ト病と呼ぶ。ベーチェット病の発症から数年経ってからの発症が多い。日本人に多い。病   変は脳幹に多い。発熱が先行し、運動麻痺、構音障害、精神症状、頭痛等を示すことが多   い。 6.神経難病医療の課題   神経難病は、何らかの運動機能障害を必ず有し、その根本的治療法はない。そこで、患者   の障害と、障害を有するがために受ける社会的不利を少しでも軽減・改善するよう援助す   ることが大切である。   @ 医療としては:     個々の病状に見合った治療の継続、合併症の予防・治療、全身状態の維持・管理、機     能訓練、生活指導。   A社会的には:     人的・経済的援助、社会参加支援、生きがい対策。医療機関、行政(福祉)が力を合     わせ、患者の毎日の生活支援を行い、生活の質(Quolity of life: QOL)を高めるこ     とが大切である。   看護・生活支援の上での課題   @健康管理、服薬指導、運動指導   A合併症の予防と管理(感染症、褥瘡など)   B心理的ケア(これがもっとも大切かもしれない):家族への精神的支援も重要である。   C社会資源の活用:人的、経済的補助制度の紹介と導入支援。      入浴サービス、ホームヘルパー、ショートステイ   D他部門との連携:病院、地域医療、行政、家族の協力が不可欠である。   E嚥下障害:食餌形態、姿勢、食べさせ方の指導      誤嚥を防止するとともに、栄養を確保し、精神的満足感を与えられるように。      進行例では、経管栄養法の指導、チューブや胃瘻の管理。   F排泄障害:排泄自立への指導、便通調節、浣腸・摘便、導尿、清潔   G言語障害:発声指導、コミニュケーション法の確立      寝たきりにしない工夫、全身状態の維持、合併症の予防と治療が大きな問題となる。また、   支援していく上で、患者及び家族との信頼関係の確立がもっとも重要な課題である。   在宅推進が叫ばれており、在宅こそbestだ、との風潮があるが、個々の患者の生活環境は   すべて異なり、介護者の有無、経済的状況、家屋構造など総合的に判断する必要がある。   患者・家族が在宅を望むなら、できる限りの支援を行わなければならないが、在宅困難と   なったときの対応策は常に考えなければならない。主たる介護者一人に負担がかかる場合   が多く、介護者の肉体的・精神的健康にも目を配る必要がある。(介護者のQOL)