脳のメカニズム



1.脳のはたらき

  1.感覚、認識

    見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触れる:いわゆる五感と呼ばれるもの。
    これらのいろいろな感覚情報に基づいて、外の世界のイメージを頭の中に作り上げる

  2. 運動の制御

    自動的な運動制御:意識することなく行われるもの。反射 。
                反射の中枢は脳や脊髄にある。
                その他、意識的な運動がうまく行われるよう、筋肉の緊張度の調節や
                バランスの調節など、意志に関係なく行われている。
    意識的な運動制御:自分の意志によって行われる運動。
                脳からの命令(自分の意志)によって、運動・活動している。

  3. 意識

    意識とは?:定義は難しいが、内的・外的の刺激に応じていろいろな心的現象を生じて
             いる過程。
            
    意識水準の変化:意識レベルは絶えず変動している。これを調節しているのは脳である。

    意識の集中:あることを行うとき、そのことにだけ意識を集中されることができる。逆に言
             えば、一度にあれもこれもできないので、特定のことにだけ集中しないと高
             度な精神活動は行えない。
             例えば恋人と話をしているときは周りの雑音は気にならないとか・・・・。

  4. 感情、情動

     怒り、喜び、悲しみ・・・、食欲、性欲・・・、これらの感情・情動を生んでいるのは脳である。

  5. 記憶、学習

    
これら高度な精神活動は脳なしでは行えない。

    

  これらの機能は、脳の部分により分担されている。(機能の局在



2.脳の構造


  1. 中枢神経系:脳、脊髄

    1.大脳:左右の大脳半球

      左右の大脳半球をつなぐもの:脳梁(2億本以上の神経線維の束)
      脳のしわ:盛り上がり:脳回、溝:脳溝。しわをのばすとほぼ新聞紙大。
      中心溝(ローランド溝)、外側大脳裂(シルビウス裂)、頭頂後脳溝という
      大きな切れ目があって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられる。

      皮質:灰白質(神経細胞体の集まり)、髄質:白質(神経線維のあつまり)
         大脳皮質:神経細胞体が集まる:6層の層構造をなす

    (1)前頭葉
       中心前回:運動の中枢:運動ニューロンが集まっている(Betzの巨細胞)
       運動性言語中枢(Broca中枢)、精神機能、その他:眼球運動など
    (2)頭頂葉
       中心後回:感覚の中枢、計算、書字
    (3)側頭葉
       聴覚、味覚、嗅覚中枢、感覚性言語中枢(Wernicke中枢)
       記憶、記銘、感情、摂食、性行動:大脳辺縁系(側脳室周囲)
       本能、情動:ほ乳類で発達、記憶の中枢:海馬
    (4)後頭葉
       視覚中枢
    (5)大脳基底核(淡蒼球、被殻、尾状核)
       運動の調整、筋緊張の調整
    (6)内包
       感覚路、運動路の神経線維の束

    2.間脳

    (1)視床
       感覚神経の最後の中継核:ここから頭頂葉の感覚中枢へ
       大脳皮質の活動性を維持、調節:網様体賦活系
       運動の調節
    (2)視床下部
       自律神経の調節中枢:体温、水・電解質、脂質、糖質、睡眠、食欲
       下垂体に線維連絡(間脳下垂体系)

    3.中脳

       感覚神経の伝導路(内側毛帯、脊髄視床路)
       視覚聴覚の伝導路
       運動調節に関わる神経核:赤核、黒質
       脳幹網様体
       脳神経核:動眼神経、滑車神経
       運動神経の束:大脳脚

    4.橋

       感覚神経、運動神経の経路
       脳幹網様体
       脳神経核

    5.延髄

       脳幹網様体
       血管運動中枢
       呼吸中枢
       感覚神経
       脳神経核
       運動神経:錐体交差(左右が入れ替わる):右脳→左半身、左脳→右半身

    6.小脳

       小脳半球、虫部
       運動の調整、平衡機能の中枢

    7.脊髄

       頚髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄
       頚神経(8)、胸神経(12)、腰神経(5)、仙髄神経(5)、尾骨神経(1)
       馬尾:脊髄から出た神経の束が馬のしっぽに似ている。

          
     ・間脳〜延髄を脳幹と呼ぶ。
     ・高等になるほど大脳皮質が発達している。

    大脳半球優位性と利き手

        言語機能:右利きの人は左大脳半球で行われる。
        言語に関しては左が優位半球である。
               (ただし、左利きの人は半数が左、半数が右)
        左半球:言語に関する機能、容易に言語化できる対象の操作、情報処理
        右半球:言語化できない対象に関する機能、抽象的概念
        左右の半球がばらばらに機能しているのではない。
               :脳梁を介して情報交換している。



  2. 脊髄、脳幹のはたらき

     反射の中枢
        見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触るという五感の感覚は、それぞれの経路を通って
        大脳に入り感覚される前に、いろいろな反射活動を起こす。

     脳の階層構造
        脊髄→延髄→橋→中脳→間脳→大脳  

        大脳皮質を除去しても生存できる。
        大脳がなくても間脳があれば感情を持つ。
        中脳がなくても延髄が残れば、生命維持は可能。:植物人間
        延髄がなければ呼吸も自分でできない:脳死(脊髄の反射は起こる)



3.反射

     反射:大脳を経由することなく生じる、刺激に対する無意識的、自動的反応を言う。

         脊髄レベルで起こる反射:脊髄反射
                 伸張反射:筋肉が伸展→縮め  
                         例:膝蓋腱反射、アキレス腱反射
                 屈曲反射(逃避反射):危険があると手を引っ込めるなど。

         脳幹レベルで起こる反射:脳幹反射   
                 瞳孔反射(対光反射):眼に光を当てると瞳孔が縮まる。
                 瞬目反射:眼に危険があると眼を閉じる。
                 角膜反射:眼に触ると眼を閉じる。

         その他:血圧、脈拍、呼吸、体温の調節も反射である

         これらの反射の統合、調節を行っているのが大脳である。


4.神経系の基本構造

  1. 神経細胞(ニューロン neuron) 

     神経細胞体にはたくさんの突起があり、樹状突起と呼ぶ。このうち1本は長く軸索突起
     
(axon)と呼ばれる。軸索突起は他の神経細胞とシナプスを介してつながり、情報伝達
     が行われる。

     有髄神経、無髄神経
        軸索突起が鞘で覆われた(電線で言えばビニールの被膜)有髄神経と、鞘のない
        無髄神経がある。この鞘は髄鞘(ミエリン)と呼ぶ。
        髄鞘には切れ目があって、神経細胞の電気的興奮は、この切れ目間を飛ぶように
        して伝わる(跳躍伝導)ので非常に早く伝わる。逆に無髄の場合は伝導が遅い。

  2. ニューロンの補助、支持成分

     髄鞘(ミエリン)を形成する細胞 
         末梢神経ではシュワン細胞、中枢神経では乏突起膠細胞(oligodendroglia)
     神経膠細胞(グリア細胞):神経細胞を補助する細胞
         星状膠細胞 astrocyte
         乏突起膠細胞 oligodendroglia
         小膠細胞microglia

  3. 神経系のまとまり方

     神経細胞があつまったところ:灰白質 皮質、基底核、神経核 などと呼ばれるもの
     神経線維(軸索突起)のあつまり:白質
     末梢での神経細胞の集まったところ:神経節

  4. 髄膜:三層の膜からなる脳を覆う膜。

     軟膜(柔膜):脳にを直接覆う薄い膜。
     クモ膜:クモの巣状にソフトに脳を覆う膜。この膜の間(クモ膜下腔)に髄液が流れる。
     硬膜:一番外側の頭蓋骨に接する堅い膜。

        大脳鎌:左右の大脳半球を分ける硬膜の仕切り。
        小脳テント:大脳と小脳を分ける硬膜の仕切り。

  5. 脳室:脳の中にある髄液で満たされた空洞。脈絡叢があって髄液を産生している。

     側脳室:左右の大脳半球にある。室間孔(モンロー孔)で第3脳室とつながる
     第三脳室:左右の大脳半球間にあり、中脳水道を介して第4脳室につながる。
     第四脳室:橋・延髄の背側と小脳の間にある。マジャンディ孔、ルシュカ孔という穴が
           あって脳表面とつながっている。

  6. 髄液:脳表、脳室を満たす無色透明な液体。

     脈絡叢で血液より産生される。
     脳室系を循環し、マジャンディ孔、ルシュカ孔から脳表に流れ出る。
     脳表面や脊髄表面のクモ膜下腔を潤した後、クモ膜顆粒(絨毛)で血液中に吸収される。
     この髄液の流れが障害されると、脳室に髄液がたまって、大きく拡大してしまう。
     この状態を水頭症という。
     
  7. 血管

     大動脈→総頚動脈→外頚動脈
                 →内頚動脈→前大脳動脈
                        →中大脳動脈
         →椎骨動脈→脳底動脈→後大脳動脈

     ウィリス動脈輪:脳底部で左右の中大脳脈、後大脳動脈がつながりあって輪を形成。

     静脈は静脈洞に集まり内頚静脈となって頭蓋外に出ていく。

5.末梢神経系
 
    脳から出る脳神経と脊髄から出る脊髄神経に分けられる。

  1.脳神経 cranial nerve :左右12対あって、番号が付けられている。

    1.嗅神経    嗅覚:鼻粘膜嗅細胞→嗅球
    2.視神経    視覚:視束→視交叉→上丘(中脳)→後頭葉
    3.動眼神経   眼球運動:内転、上転、下転、斜め外上方
               上眼瞼挙筋:上まぶたを上げる
               瞳孔括約筋:瞳孔を縮める。
    4.滑車神経   眼球運動:斜め外下方

    5.三叉神経   顔面の感覚、咬筋の運動
               三叉神経節を形成し、3本の枝に分かれる
               第1枝 眼神経  額、眼周囲の感覚
               第2枝 上顎神経 上顎部・頬部の感覚
               第3枝 下顎神経 下顎部の感覚
    6.外転神経   眼球運動:外転
    7.顔面神経   顔面筋の運動
               味覚(舌前2/3)
               涙腺、顎下腺、舌下腺の分泌
    8.内耳神経   聴覚:聴神経(蝸牛神経)
               平衡感覚:平衡神経(前庭神経)
    9.舌咽神経   舌後端、咽頭粘膜の感覚
               舌後方1/3の味覚
               咽頭筋の運動:嚥下
               耳下腺の分泌
   10.迷走神経   内蔵に分布する副交感神経
               反回神経:声帯の運動
   11.副神経    胸鎖乳突筋、僧帽筋の運動
   12.舌下神経   舌の運動

  2.脊髄神経:左右31対

    頚神経(C):8対(C1-C8)
    胸神経(Th):12対(Th1-Th12)
    腰神経(L):5対(L1-L5)
    仙骨神経(S):5対(S1-S5)
    尾骨神経:1対

    頚髄、胸髄、腰髄、仙髄から出た神経は、上から順に1, 2, 3, と番号が付けられている。
    脊髄の前方から運動神経が出る。(前根
    脊髄の後方から感覚神経が入る。(後根) 
    脊髄を出た神経は、隣接する上下の神経が互いに連絡を取り合って神経叢をつくる。
    さらにそこから末梢へとのびていく。

     頚神経叢:C1−C4
     腕神経叢:C5−8,Th1
              腋窩神経(三角筋)
              筋皮神経(上腕二頭筋)
              正中神経(前腕屈筋、母指球、手掌感覚)
              尺骨神経(固有手筋、尺側感覚)
              橈骨神経(上腕、前腕伸筋、背側感覚)
     胸神経:Th1−12
              肋間神経
     腰神経叢:L1−4
              大腿神経(大腿伸筋、大腿前面の感覚)
              閉鎖神経(大腿内転、大腿内側面の感覚)
     坐骨神経叢:L4−5.S1−3
              坐骨神経:大腿屈筋
              総腓骨神経 浅腓骨神経:背屈、足背皮膚
              深腓骨神経 下腿伸筋(背屈)
              脛骨神経  下腿屈筋
              腓腹神経
     陰部神経叢 膀胱,肛門、外陰部


  3.自律神経系

   交感神経、副交感神経   ともに1度神経を乗り換える(神経節)
                    神経節の前を節前線維、後を節後線維と呼ぶ。
        互いに逆の作用を持つ交感神経、副交感神経がバランスを取りながら
        調節を行っている。

   終末での伝達物質  交感神経:ノルアドレナリン、副交感神経:アセチルコリン

6.神経の興奮伝導のしくみ

   神経の活動→電気的活動→活動電位
   神経系の情報伝達:活動電位の伝導による。

   膜電位:細胞内:K+の濃度が高く、Na+、Cl-の濃度が低い
             −の蛋白質など多く、全体的にはマイナス(-90mV)
        細胞外:Na+の濃度が高くK+は少ない。
             Na+−K+ポンプ
             Na+は細胞内から外へくみ出されるが、外から中へは通りにくい。

   静止状態では、-90mVの電位差で平衡が保たれている。→静止膜電位
   外からの刺激で、細胞内電位が-90mVからプラス方向へ上昇していくと、(これを脱分極
   ある臨界レベルに達すると、Na+イオンの透過性が一気に増大する(Naチャンネルが開く)。
   それにより細胞外から細胞内へNa+が流入し、細胞内電位はさらにプラス方向へ傾き、Na+
   はどんどん細胞内に流入するため、細胞内電位は一気に+50〜70mVに反転する。
   これを活動電位と呼ぶ。これに少し遅れて、K+イオンの細胞内への流出が起こり、Na+
   イオンの流入が非活性化し、細胞内電位は元に戻る。
   Na+イオンの流入が一気に起こる臨界レベルのことを→閾値thresholdと呼ぶ。
   膜電位の変化が閾値に達しなければ、活動電位は発生しない。
   膜電位の変化が閾値を超えれば、一気に活動電位が生じる。
   活動電位が発生するかしないか(興奮するかしないか)ふたつにひとつ。
                                   →全か無かの法則all or none law
   興奮した後は一時的に興奮性が低下する→不応期 (絶対不応期、相対不応期)
   細胞膜の一点で活動電位が発生すると、興奮部より非興奮部へ電流が流れ(局所電流)、
   周囲の脱分極をもたらし、脱分極させ活動電位は周囲へどんどん広がっていく。
   筋肉の興奮→筋収縮も同様

   有随繊維:跳躍電動 髄鞘の切れ目(ランビエ絞輪)を飛ぶようにして伝わる。
          →伝導は早い

   シナプス伝達

    活動電位が神経末端に達すると、シナプス小胞から、神経伝達物質が放出される。
    神経伝達物質が、レセプターに結合すると、イオン透過性が変化し、膜電位の変化を起
    こさせる(シナプス後電位)これにより脱分極がおこると、活動電位を発生させる。
    →これによってニューロンからニューロンへ興奮が伝えられる。
    また逆に過分極させるとむしろ興奮を抑制することになる。
       シナプス後電位:興奮性シナプス後電位、抑制性シナプス後電位

    シナプス伝達の特徴
     一方向性伝達
     シナプス遅延:少なくとも0.5msの時間がかかる。
       疲労:伝達物質の消耗
     興奮と抑制:シナプスの種類による

    運動神経終末→筋細胞への興奮伝達も同様の機序
           :神経筋接合部(終板)