ALSの呼吸不全とその管理

非侵襲的呼吸管理法を中心に

保健婦への講演ノートより


1.ALSの呼吸不全の特徴

 @呼吸筋麻痺による換気不全がその原因である。(肺活量の低下)
 A呼吸不全が現れる時期はさまざまである。
 B球麻痺症状(嚥下障害、構語障害)、排痰障害を伴う。
 C進行性である。
 D気道感染を起こしやすい。
 E気道感染、痰づまり、誤嚥などにより急激に悪化する。



2.呼吸不全の予防

(1)呼吸訓練(肺理学療法)


   @呼吸筋の筋力を維持する
     発声訓練、腹式呼吸、深呼吸、ユニフロ
   A胸郭の柔軟性を維持する
     肋骨の捻転、体幹の捻転・側屈、深呼吸しながら上肢上げ下げ
   B補助呼吸になれる
     IPPV、用手補助呼吸(用手胸郭圧迫)、舌咽呼吸


(2)排痰

   @体位排痰法(ドレナージ)
   Aネブライザー
   Bタッピング、バイブレーション
   C吸引器
   D排痰補助装置(Mechanical In-Exsufflator:カフマシーン)

(3)健康管理、感染症予防

 
3.呼吸管理法

(1)非侵襲的呼吸管理法

a.体外式人工呼吸(Chest respirater:CR)(陰圧式人工呼吸)


 胸部にコルセットをかぶせ、さらにポンチョを着せて空気漏れのないようにする。コルセット内の空気を吸い出し陰圧にし、胸郭を広げさせて吸気する。筋ジスの分野では盛んに使用されたが、装着の煩わしさ、換気効率の悪さから、NIPPVに移行するようになった。


b.鼻マスク式人工呼吸(Nasal intermittent positive pressure ventilation:NIPPV)

 気管切開がいらない陽圧式人工呼吸法として、最近普及してきている。ただし、マスクの煩わしさ、圧迫による皮膚潰瘍、胃に空気を飲み込んでしまう、口を開けると空気が漏れる、等の問題点があり工夫が必要。鼻マスクの他に、鼻と口を覆うマスク、鼻に入れるプラグ、マウスピースなどが工夫されている。これらをまとめて、非侵襲的陽圧人工呼吸Noninvasive intermittent positive pressure ventilation: NIPPVと表現することがある。ひとつのやり方に固執せず、いろいろ試すことが重要。カフマシーンとの併用で気管切開はもう不要だという研究者もいるが、排痰障害、嚥下障害が急速に進行するALSでは、長期の管理は難しい。特に風邪等で痰が多いようなときはまかないきれなくなることが多い。



(2)気管切開による人工呼吸(Tracheostomy intermittent positive pressure ventilation:TIPPV)

 確実な人工呼吸管理を行う上では、気管切開が一番。痰の吸引も容易、鼻や口が解放されるなどの利点があるが、問題点としては、手術が必要であること、気管に直接気管カニューレを入れるので、清潔操作が必要なこと、定期的なカニューレ交換が必要なこと、気管カニューレの刺激で分泌物が多くなること、吸引が必要なこと、感染症を起こしやすい、長期になるとカフによる圧迫により気管壁に潰瘍が生じ、出血を起こすことがあること、発声・発語が困難となること、などがある。


4.呼吸管理の選択の道

 @呼吸管理しない。
 A肺炎等の病状悪化時、外せる見込みのあるときだけ呼吸管理する。(外せるとは限らない。)
 B非侵襲的呼吸管理だけ行う。
 C気管切開による呼吸管理を行う。



5.ALSの呼吸管理の問題点

 @呼吸管理しても決してALSが治るわけではない。進行は続く。
 A一度呼吸器を付けると外せなくなる。
  (故意に外して死に至れば、犯罪になる。事故で外れれば過失が問われる。)
 BQOLが保証されるとは言い切れない。意思伝達が困難な事態になりうる。
 C在宅となれば、家族だけではまかないきれない。社会支援(経済的・人的)が必須。
 D感染、窒息等により緊急に呼吸管理が必要な場合があり、あらかじめ方針を決定しておく必要がある。
  緊急時の病院受診時の対応法を決めておく。救命措置として気管内挿管・人工呼吸管理してしまうと
  呼吸器は外せなくなることが多い。
 E本人の意思、家族内の意志を統一しておく必要がある。


6.NIPPV及びその変法について

(1)インターフェイス


 @鼻:Nasal IPPV: NIPPV
      鼻マスク、鼻プラグ(ADAMサーキット)、
      鼻ピース、ミニマスク
      個人用型取り鼻マスク

 A口:Mouth IPPV: MIPPV
      マウスピース、リップシール

 B口鼻: Strapless oral nasal interface IPPV: SONI IPPV
      フルフェイスマスク

(2)呼吸器

 @従量式:PLV-100、LP-10 他
      一回換気量はやや多めにする。気道内圧は13〜20cmH2O位が目安。
      酸素は通常不要。
      エアリークの補償はされない。

 A従圧式:BiPAP S/T、Companion 335 他
      吸気圧(IPAP)・呼気圧(EPAP)の差で呼吸が行われる。
      圧上限に限界(BiPAPで20cmH2O、Companion 335で35cmH2O)がある。
      長期となり胸郭のコンプライアンスが低下すると換気不足になる可能性がある。
      換気量(volume)の調整はできない。
      アラーム類が不備。
      動作音がややうるさい。

(3)導入

  練習が必要。換気量・圧を少な目にして開始する。数分の使用から慣れさせる。
  BiPAPならEPAP 8程度から徐々に上げる。

(4)問題点

  皮膚潰瘍、エアリーク、腹部膨満、エアリークによる結膜炎、上気道乾燥、鼻閉・鼻汁