健康のために・・・・
本当にあったお話をします。私の知人が進行した胃癌で某総合病院に入院していました。病名も告知され、あと2ー3ヶ月だと宣告されました。まさに働き盛りであり、幼い子供もあり、さぞ心残りかと思います。不安、イライラ、焦燥とつらい日々を送っていたに違いありません。体は衰えるばかり。彼の唯一の気休めはタバコでありました。ある日も喫煙室でタバコを1本吸いながら、つかのまの安らぎを得ていました。そこへ看護婦さんが通りかかって彼に、「タバコは体に良くありませんよ。吸いすぎると長生きできませんよ。」としかりました。何気ない注意だったのかもしれません。その言葉に間違いはありません。でも、余命わずかの患者さんに長生きもあったものではありません。タバコを吸って肺癌の心配をする猶予はないのです。その人の残された時間を考えたときに、どういう指導をすべきなのか考えるべきでしょう。病気をみて病人をみない最近の医療を象徴しているような出来事に思えました。涙を流して悔しがっていたと奥さんがしみじみ話しておられました。
病気に良くてもその人が不幸なら何にもなりません。医療者は病気を診るのではなく、病気を持った人を看るのだということを忘れてはなりません。患者さんの体だけでなく、患者さんの生活、人生まで考えなければなりません。その人にとってどうすることが一番いいことなのか常に考えながら医療は行わなければならないと思います。
1998年11月