還暦の花火



 今年も県内各地で数多くの花火大会が開催された。生来の花火好きの私は、家族の冷たい視線をよそに、都合の許す限り花火に繰り出していった。今年は大型花火が各地で上げられた。当地柏崎でも3尺玉を含む絢爛たる花火大会があったが、両津や新潟(赤塚)でも3尺玉が上げられ、新津でも20数年振りという花火大会が復活し、3発の3尺玉を含めた花火が打ち上げられた。
 私は柏崎には単身赴任であり、新潟に自宅がある。砂丘地の高台にあるアパートの5階にあるため、新潟平野が一望でき、遠く長岡あたりまで見通すことができる。7月、8月は各地の夏祭りが盛りであり、特にお盆の前後は同じ日に何ヶ所かで花火大会が行われたりする。そんな各地の花火が、小さいながらも見ることができ、わが家にとっての夏の風物詩である。何年か前には天気がよく長岡の3尺玉も見ることができた。
 さて、花火というと、歴史ある両国の花火、コンクールで有名な秋田県大曲の花火、PL教団が物量でせまる大阪は富田林の花火などいろいろな花火大会があるが、県内ではやはり日本一をうたう長岡の花火が最も有名であろうか。しかし、私は片貝の花火が好きである。世界一の4尺玉で知られるが、そちらには興味がない。豪快さはあっても、開いたときの華麗さは3尺が限度であろう。4尺はきれいな円形にはならない。長岡との大型花火競争の末に4尺玉が上げられたのであるが、やはりこれが限度との判断からかいつのまにか日本一の長岡、世界一の片貝ということで落ち着いてしまった。
 片貝の花火は、長岡や新潟のような間断なくスターマインが打ち上げられるスマートさはない。しかし、1発1発に奉納者の願いが込められているためか飽きさせない。花火の技術的な面では、新しいものは無いのだが、力でねじ伏せてしまうのが片貝花火である。その量と迫力、演出のうまさは、他の追随を許さない。片貝の花火は人生の節目に同期生が金を出し合って大型花火をあげるのが習わしである。色鮮やかな成人の花火、華麗な厄年の花火もよいが、何と言っても圧巻は還暦の花火である。片貝の花火のメインは、4尺玉などではなくこの還暦の花火だと私は思う。人生の全てを賭けているような神がかり的な力を感じる。毎年還暦の花火は金色一色であり、その色は人生のクライマックスを飾る輝きである。いったい何発の花火が上げられるのだろうか。もうこれで終わりかなと思ったときに、尾を引きながら次から次へと尺玉が上がっていくさまは、これぞ片貝という感じである。熱気あふれる町の賑わいを肌で感じるにつけ、この地に生まれ育った人達がうらやましく思われた。
 こんな話を妻にしてもまたかという表情で相手にしてくれない。でも皆さんにもこの還暦の花火だけは見ることをおすすめします。

1998年10月