(1)遺伝相談のシステム作り
遺伝相談の専門家(遺伝カウンセラー)の養成、遺伝相談を実施する施設や実施手順、遺伝子検査の実施方法、遺伝子の保存方法、遺伝子バンクの設立、プライバシーの保持方法など、システムとして確立しなければならない問題が多くあります。
(2)保因者診断
DMD患者さんの姉妹での保因者診断の依頼が増えています。患者さんのDNAの異常部位が確認されている場合は、その部位の遺伝子量を測ることで保因者診断が可能です。遺伝子異常の部位が確認できない場合は、家系での多因子解析が必要となります。ただし、発症していない人に対する遺伝子検査の倫理性の問題は未だ議論されている段階です。
(3)出生前診断(妊娠した子が病気か否か)
1)羊水診断(妊娠16〜20週)
羊水中の胎児細胞を採取しDNA分析を行います。
2)絨毛診断(妊娠8〜11週)
絨毛細胞を採取(流産の危険)し、胎児細胞を分析します。
3)胎児血診断(〜20週)
母体血中に微量含まれる胎児由来の有核赤血球を集めDNA分析を行います。
胎児細胞→性別判定(10週で可能)→女児:妊娠継続
→男児:DNA診断
人工妊娠中絶に対する倫理的問題、胎児の権利の解決はなされていません。
病気の子は生まれる権利がないのか? 生まれないことが子の利益と言えるか?
(4)着床前診断
体外受精→DNA分析→正常な受精卵を子宮に戻す。
実施申請が出されていますが、倫理的問題が解決されず、未だ実施されていません。
(5)遺伝子診断の問題点
遺伝子検査には、通常の臨床検査とは異なる大きな問題があります。以下列記します。
1)遺伝子異常は生まれながらにして持つものであり、その異常は一生変わることはない。
2)病気の発症以前から遺伝子異常については検査することが可能である。
3)発症した患者の確定診断のための遺伝子検査と異なり、何ら症状のない人に対する発症前診断、保因者診断、出生前診断などについての倫理的問題に対する議論は十分でない。
4)診断後のカウンセリング体制は無いに等しい。異常なしと判定された場合は良いが、異常と判定された場合、その後どのように関わるべきか、フォローすべきか問題である。
5)胎児診断を行った場合、その結果に基づいた人工妊娠中絶の倫理性については議論されている。
6)個人の遺伝情報、プライバシーの保護は重要である。優生思想、差別意識の元になる危険がある。(遺伝子差別)検査結果の保管、開示、DNAの保管・破棄、など細かく取り決めておく必用がある。
7)知る権利、知らない権利は保障されなければならない。検査は強要されることがあってはならず、当事者
の自発的意志によって実施されなければならない。
8)遺伝子検査の結果は本人だけではなく、家族・親族全体に関わる可能性がある。その人の遺伝子異常が判明することで、家系内の他の人の遺伝病の可能性が判明する場合もあり、個人の問題ではなく、家系全体の問題としてとらえる必用も出てくる。
9)遺伝子診断の信頼性の問題がある。遺伝子診断が絶対正しいとは言い切れない。検査の技術的限界はある。また、保因者診断の場合、遺伝子診断が正常であっても、突然変異による患者発生はありえるので、絶対病気の子は産まないとは言い切れない。
10)正しい遺伝知識の啓蒙も必用である。誤った遺伝知識が誤解・偏見・差別につながることもある。
11)インフォームドコンセント(説明と同意)の重要性は改めて言うこともない。