2.筋ジストロフィーの診断



 診断は、臨床症状、診察所見、経過、家族歴の他、血液検査、筋電図検査、筋生検などを総合してなされます。病型によっては、遺伝子(DNA)検査で確定診断可能です。血液検査では、CK, LDH, GOT, GPT,アルドラーゼなどの筋細胞に多く含まれる酵素が血液中に漏れ出て高値となります。
 

1)病歴・家族歴

 家族歴がはっきりあれば、精査しなくても診断できることもあります。家系図を書き、どのような遺伝形式か検討する必要があります。性別や発症時期も大切です。
 たとえば、Duchenne型は原則として男児のみの発症であり、出生直後は異常ありません。福山型は男女ともに発症し、出生直後から異常に気付かれます。


2)診察

 筋萎縮(やせ)・筋力低下のある筋の分布、程度、随伴症状の有無である程度診断がつきます。
 たとえば、Duchenne型は体の胴体に近い筋(近位筋)を中心に萎縮が強く、顔面筋はしっかりしています。福山型は顔面筋の障害や関節拘縮が高度で、知能障害があるのが特徴的です。大人の筋ジスで最も多い筋強直性ジストロフィーは手や足の先の方の筋肉(遠位筋)の障害が強く、筋肉の緊張が強く、握った手が開けないなどの特徴ある症状(ミオトニア)を示し、顔面筋や頸部の筋萎縮、前頭部脱毛のため特徴的な顔貌を示すので、慣れると見ただけで診断が付けられることもあります。

 
3)血液生化学検査

 筋ジストロフィーの場合は、GOT、GPT、LDH、CK、アルドラーゼなど、筋細胞の中に多く含まれる酵素が、筋細胞の障害とともに血液中に漏れ出るため高値となります。特にCKの上昇がポイントです。単に検診でGOT、GPTしか調べていないと、肝臓病と診断されてしまうこともあります。
 検査値の異常は病気の重症度とは関係がなく、病気が進行し筋肉量が減ると、逆にCKは低値となっていきます。病型によってはCKの上昇がほとんどない場合もあります。
 

4)筋電図

 筋収縮は、運動神経の電気的興奮が筋細胞膜に伝わることによって、筋細胞膜の電気的興奮(脱分極)が起こることによって引き起こされます。この時の電気活動を筋肉内に刺入した針電極によって記録し評価するのが筋電図という検査です。記録される電位は、筋線維の障害のされかたで変化し、その波形の形、振幅、持続時間、力を入れたときの波の増え方などを検討することで、筋原性疾患か神経原性疾患かを判定することができます。筋原性疾患では、低振幅・短持続時間となり、神経原性疾患では、高振幅・長持続時間、多相性となります。
 また、何も力を入れない安静時は波形が出ないのが正常ですが、筋強直性ジストロフィーのように筋膜の緊張性が高まっていると、筋収縮に関係なく、自発放電が記録されます。筋強直性ジストロフィーでの自発放電は、バイクのエンジンを噴かしたような特有の音がして、それだけで診断的価値があります。(急降下爆撃音とも称されます。)
 その他、末梢神経を電気刺激して、運動神経や感覚神経の機能異常を評価する、神経伝導検査(神経伝導速度)もあります。
 

5)CT、MRI

 筋原性疾患では、筋肉の中の筋細胞が減って、そこを脂肪とか結合組織が埋めるので、筋肉は虫食いのように見えます。その虫食いの程度により障害の分布、程度がわかります。MRIは炎症の有無がよく分かるので筋炎の鑑別に役立ちます。
 

6)筋生検

 筋組織を取って病理学的に調べる方法ですが、当然侵襲(痛みや傷)を伴います。通常は、局所麻酔下で、上腕二頭筋、三角筋、大腿直筋、腓腹筋などから外科的に採取します。症状のある筋で調べる必要がありますが、あまり筋力低下が強すぎる筋では、筋線維の変性が強すぎて、繊維化・脂肪化してしまい、逆に評価できなくなり、検査には適しません。
 具体的には、十分に局所麻酔した後、皮膚を2cmほど切開します。次に皮下脂肪を剥離し、筋膜を露出した後、筋束を長く分離し、筋束を切断します。止血を確かめたあと、傷を縫合閉鎖します。筋生検による事故はほとんどありません。
 採取した筋は、組織化学用、生化学用、電子顕微鏡用などに分けて、凍結保存したり固定液に入れたりして処理します。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色、Gomoriトリクローム染色変法、NADH-TR染色を基本として分析します。
  

7)遺伝子検査

 遺伝子異常が判明している病型では、DNA を調べることで確定診断可能です。通常は末梢血のリンパ球を調べます。血液だけで確定診断可能という利点がありますが、遺伝情報を扱うので、高度なプライバシーに関わり、その実施、DNAの保存については厳しいガイドラインが決められています。