(1)排便調整
便秘は必発であり、適当な緩下剤の投与が必要です。食物線維(10g/日以上)は有効です。
(2)急性胃拡張、上腸間膜動脈症候群、腸閉塞(イレウス)
やせが進行してくると生じやすい傾向があります。やせると上腸間膜動脈(SMA)と大動脈・脊椎の間で十二指腸の横行部(第3部〜4部)が挟まれて閉塞してしまいます。そのため十二指腸部で通過障害が起こり、胃部拡張・嘔吐などが起きます。嘔吐、腹部膨満に対しては、胃チューブ留置による排液、輸液が必要です。一般には単にやせただけでは起こりにくいのですが、筋ジス患者の場合は、やせが高度になりやすく、脊柱変形や消化管の平滑筋の障害もあり、臥床時間も多いため、特に発症しやすいと考えられます。
発症の仕方には、急性型、慢性型がある。急性型は、嘔気・嘔吐・腹痛などの上部消化管閉塞症状が急激に発症します。ときに急性胃拡張を呈します。吐物は食物残渣から胃液と胆汁の混じった黄緑色となり、最終的にはコーヒー様となります。症状は、腹臥位や胸膝位で軽快することが多いです。慢性型では、間歇的に繰り返す食後の腹部膨満、上腹部痛、嘔気・嘔吐を主訴とし、るいそう、栄養不良状態に陥ります。食べると腹痛が起きるので、拒食症となったりすることもあります。
検査では、腹部立位単純X線像で十二指腸の閉塞を示唆する胃・十二指腸の拡大(double
bubble sign)が見られます。バリウムによる上部消化管造影で、十二指腸第3部〜4部での途絶像が確認され、腹臥位や体位変換で途絶が解除されれば確かです。さらに腹部エコーや血管造影で、閉塞部とSMAの走行が一致すれば確診されます。しかし筋ジスの場合、実際の医療現場では、ここまでの検査は行えません。他に明らかな原因がなければ、SMA症候群または急性胃拡張として、治療を行うべきと考えられます。
治療としては、胃管挿入により胃内容を除去し、絶食、輸液管理など保存的治療を行います。嘔吐や吸引によって失われた水分や電解質を補正します。体位の工夫も重要です。腹臥位、胸膝位で改善することが多いです。筋ジスの場合は、やせや変形が進むと高頻度に発症します。予防は、一度にたくさん摂取せずに数回に分けて少量ずつ摂取し、食後は短時間坐位をとりゲップを吐き出させ、30分程度右側臥位あるいは腹臥位をとります。
このほか、平滑筋障害の影響からか腸がねじれたり、動きが悪くなったりして、腸閉塞(イレウス)を起こすことがあり、場合によっては外科手術が必要となります。
(3)感染症(肺炎)、気胸
喀痰喀出能力の低下、全身的抵抗性の低下、誤嚥などがあり、呼吸器系の感染症を起こしやすいです。重症化しやすく、点滴治療を要することが多いです。喀痰の増加したときは、吸引をしたり、ネブライザーを使用したりしますが、口からの吸引がしにくいときは、のどに吸引チューブを通すための針(トラヘルパーなど)を刺すこともあります。窒息状態になったら、気管内挿管が必要であり、慢性的に痰がつまりやすい時は、気管切開を考える必要があります。また、気胸を合併することがあり、胸腔穿刺による脱気や持続吸引が必要なこともあります。
(4)血栓症:肺梗塞、脳梗塞
最近、筋ジスの突然死の原因として、肺梗塞が注目されています。また脳梗塞の合併も知られ、当院でも数例の経験があります。全身的な血液凝固異常が注目され、研究が進められています。特に心機能低下例は血栓を生じる危険が高いので、血栓を予防するワーファリンという薬も検討されます。脱水が誘因になりやすいので、水分管理にも注意を要します。
また、下肢の深部静脈血栓症を起こすこともあります。この場合はヘパリンの持続点滴を行い、その後はワーファリンによる抗凝固療法を行います。
(5)嚥下障害
食事形態の工夫、流動食、栄養補助食品の利用などが大切です。障害が強ければ、胃チューブによる経管栄養が必要です。胃瘻造設も検討されます。最近は、内視鏡的胃瘻増設術が行われています。
(6)肥満とやせ
肥満で困っている人もいれば、体重減に悩んでいる人もいます。過度の肥満は、心臓への負担を増し機能低下を助長します。最近の経験から、小学生〜中学生期に急激に肥満が進行した人は、早期に心不全が現れる傾向があるように思われます。
一方やせも問題です。やせは体全体の衰弱の現れであり、急に体重減少がみられるときは、心不全や呼吸不全が進行し、全身状態が低下していることが多いようです。その患者毎に体重の最低ラインを設定し、食事量のチェック、補食などを行う必要があります。食欲を生むようなメニューの工夫が現実には大事なのですが、病院としては努力してはいるものの、難しい問題です。現実的には、食事の不足分は栄養剤による補食などで対応しています。
(7)アセトン血性嘔吐症
悪心嘔吐、食欲低下とともに、尿ケトン陽性となることがあります。筋ジス特有の糖代謝の変化があるものと思われます。治療としては、糖質主体の輸液を尿ケトンが陰性化するまで続けます。輸液には、ビタミンB剤を混注します。