聴性脳幹反応
( Auditory brainstem response : ABR )
( brainstem auditory evoked potential : BAEP )
<目的>
音刺激による誘発反応のうち 10ms 以内の反応は、睡眠、意識状態、薬物など
による影響が少なく、各ピークの再現性もあり、聴神経、脳幹の異常の診断に
利用されている。
<対象>
聴神経腫瘍などの末梢性の疾患
多発性硬化症、腫瘍、血管障害などの脳幹を侵す種々の疾患
昏睡、脳死の判定 など
<方法>
記録電極 : 頭頂部(Cz)
基準電極 : 刺激側の乳様突起または耳垂
接地電極 : 前額部(Fz)
当科では検側に 4000Hz、100dB の持続 0.1ms のクリック音を 10Hz の頻度で与
え、対側は 60dB のホワイトノイズでマスクしている。
1000回加算で2回以上記録し、その再現性とT−X波の各波の潜時及び頂点間潜
時を検討している。
左右2chで記録を行っている。
[参考]各波同定のポイント
1)まずT波を決める。潜時 1.5ms 前後の波である。T波が出ていなければ十分
な入力がなされていないと考えられ、末梢性の聴力障害が疑われる。
(電位のベクトルの方向と記録電極の位置関係から出にくいこともある。)
2)次にX波を決める。6ms 以降に大きな陰性波がみられる。これは約 10ms を
ピークとし、slow negative ten(SN10)と呼ばれる。この大きな波のすぐ前
に出る潜時 5.5ms 前後のピークがX波である。
X波はときにW波とゆ合し、W波の後の変曲点として出る場合もある。
3)T、X波が決定したらそれを参考にU−W波も決める。
<各波の起源>(定説はないが参考までに)
T: 聴神経
U: 蝸牛神経核(延髄)
V: 上オリーブ核(橋)
W: 外側毛帯(橋)
X: 下丘(中脳)
<結果の解釈>
各ピークおよび頂点間潜時の異常の有無より障害部位、程度を推定する。
<正常値>
新潟大神経内科 ABR正常値 (mean±2SD ms)
T 1.32-1.64 T-V 2.02-2.50
V 3.41-4.05 T-X 3.80-4.52
X 5.28-6.00 V-X 1.54-2.26
[注意]刺激の強さ(音圧)により潜時は変化しうるので、その記録条件における
正常値を基に診断する。