第22回澤クヮルテットコンサート with ヘンシェル&フレンズ 蓼沼恵美子
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2024年10月5日(土)14:00 長岡リリックホール コンサートホール
澤クヮルテット: Vn1:澤 和樹、Vn2:大関博明、Va:市坪俊彦、Vc:林 俊昭 →蟹江慶行
ゲスト: Vn:クリストフ・ヘンシェル、Va:モニカ・ヘンシェル
     Vc:マティアス・バイヤー=カルツホイ、Pf: 蓼沼恵美子
 
ブラームス:F.A.E.ソナタより 第3楽章「スケルツォ」ハ短調
  ヴァイオリン:澤 和樹、ピアノ:蓼沼恵美子

ブラームス:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 Op.18
  第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル、第2ヴァイオリン:大関博明
  第1ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル、第2ヴィオラ:市坪俊彦
  第1チェロ:マティアス・バイヤー=カルツホイ、第2チェロ:蟹江慶行

(休憩:15分)

ブラームス:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 Op.34
  第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル、第2ヴァイオリン:澤 和樹
  ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル、チェロ:マティアス・バイヤー=カルツホイ
  ピアノ:蓼沼恵美子

(アンコール)
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲第2番 第3楽章
 1990年11月に結成された澤クヮルテットは、 第2ヴァイオリンの大関博昭さんが長岡市出身ということで、 長岡市と深いつながりを持ち、毎年この時期に長岡リリックホールで演奏会を開催しています。
 今回は、回を重ねて22回目となります。 これまで何度か聴かせていただいていますが、前回聴いたのは2021年10月の第19回演奏会でしたので、3年ぶりになります。

 今回の演奏会は、これまで共演を重ねてきたヘンシェル弦楽四重奏団のメンバーとピアノの蓼沼恵美子さんを迎えての、オール・ブラームス・プログラムというのが注目されます。
 とはいえ、不勉強な私は、ヘンシェル弦楽四重奏団の名前も聴いたことがありませんでした。ドイツの弦楽四重奏団で、1994年に、クリストフ、マルクス、モニカのヘンシェル3兄弟にチェロのマティアス・バイヤー=カルツホイが加わり、弦楽四重奏団としての国際的なキャリアを開始したそうです。今回はこのうち、ヴァイオリンのクリストフ・ヘンシェル、ヴィオラのモニカ・ヘンシェル、チェロのマティアス・バイヤー=カルツホイが参加します。
 また、蓼沼恵美子さんについても知らなかったのですが、澤和樹さんとの共演が多く、どういう関係なのかと調べてみましたら、なんと澤さんの奥様でいらっしゃったのですね。

 ということで、今日は他にも興味深い演奏会があったのですが、この演奏会を選ばせていただき、チケットをネット購入して、楽しみにしていました。
 しかし、最近になり、長岡リリックホールから手紙が届き、チェロの林敏昭さんが体調不良で出演できなくなり、蟹江慶行さんが出演するとのことでした。
 蟹江さんの名前は聞いたことがあると思ったのですが、東京交響楽団の現役メンバーですので、新潟ではおなじみでしたね。
 いつもとは違ったメンバー編成で、ブラームスの名曲を、どのような演奏で聴かせてくれるのか楽しみにしましょう。

 昨日まで雨が続いていましたが、今日は曇り空ながらも天候が回復して何よりでした。いつものルーチンワークを終えて昼食を摂り、国道116号線を南へと進みました。大河津分水を渡って左折し、信濃川沿いを進んで、与板経由で長岡市街へと向かいました。
 快適なドライブで、家から51km、ゆっくり走って1時間20分で、長岡リリックホールに到着できました。早く着き過ぎて、駐車場はまだガラガラでした。ここの駐車場は無料でありがたいですね。

 しばし車の中で休息し、リリックホールに入館しました。ラウンジで音楽雑誌を読んで時間調整し、開場とともに入場して席に着き、この原稿を書きながら、開演を待ちました。

 開場時間となり、澤さんが登場して、ヘンシェル・カルテットとの30年来の関係、チェロの林さんが健康上の問題で出演できないことの説明があり、最初の演目である「F.A.E.ソナタ」についての解説がありました。
 ヨーゼフ・ヨアヒムのために作曲されたこと、F.A.E.の意味(Frei aber Einsam:自由に、しかし孤独に)について、そして、F(ファ)、A(ラ)、E(ミ)を音名に置き換えて作曲したことなど、興味深く解説してくれました。

 澤さんが一旦下がって、黒いドレスの蓼沼さんとともに再登場し、遅れて譜メクリストも登場して、ブラームスの F.A.E.ソナタの演奏開始です。
 熱く奏でるピアノとともにヴァイオリンが歌いましたが、ヴァイオリンはどこか枯れた印象に感じました。渋さを感じさせながらも、それが魅力に思えました。緩徐部の歌わせ方は美しく、うっとりと聴きました。興奮しすぎることのない悟りの境地のような音楽は、熟練の澤さんならではの孤高の世界といえましょうか。

 一旦下がった後、澤さんが登場し、次のブラームスの弦楽六重奏曲第1番の説明があり、この間にステージが整えられました。
 ヘンシェル・カルテットとは何度もこの曲を演奏していること、1991年の澤クヮルテットを結成して間もない頃に、ロンドンでのアマデウス・カルテットの講習会でヘンシェル・カルテットのメンバーと出会い、1992年の日本でのアマデウス・カルテットの講習会にヘンシェル・カルテットのメンバーが参加し、以後毎年来日していること、ヘンシェル・カルテットに、カルツホイさんが加わって現在のメンバーになって30周年になること、そして本日、林さんの代わりに演奏する蟹江さんの紹介がありました。
 蟹江さんは、東京交響楽団のメンバーであるほかに、ほのカルテットのメンバーであり、2023年の大阪国際室内楽コンクールで第2位となり、そのときの審査員がモニカ・ヘンシェルさんで、その関係で今日の代役としての招聘につながったとのことでした。

 6人が登場。左から、クリストフ・ヘンシェル、大関博昭、モニカ・ヘンシェル、市坪俊彦、マティアス・バイヤー=カルツホイ、蟹江慶行という並びです。
 第1楽章は、チェロの二重奏と第1ヴィオラとで始まりました。ヴァイオリンが加わり、最後に第2ヴィオラが加わって、甘美なブラームスの音楽が始まりました。ふくよかで、しっとりと響く弦楽アンサンブルの美しさに酔いました。次第に激しさを増し、そして再びゆるやかに。寄せては返す波の如く、寄れ動く思いに身を委ねました。
 ここで拍手が入り、第2楽章へ。有名なメロディが切々と胸に迫りましたが、少し荒々しく激しさも見せて、哀しみに濡れることはありません。ムード音楽に堕することなく、緊張感を漂わせました。熱く煮えたぎる感情の濁流の中で、溺れそうになりました。終盤はゆったりと歌わせ、切々たる思いが胸に滲みました。
 第3楽章は、舞曲風のスケルツォですが、軽快に明るくリズムを刻み、躍動的に駆け足して、爽やかな音楽が心地良く感じられました。
 第4楽章のロンドは、ゆったりと爽やかに歌い、明るくメロディーが流れ出ました。極上の弦楽アンサンブルにうっとりと身を委ね、スピードアップしてフィナーレとなりました。
 ブラームスの美しい音楽を、極上の演奏で具現化し、聴衆に大きな感動をもたらし、大きな満足感とともに、前半が終了しました。

 休憩後の後半は、ヘンシェル・カルテットの3人に第2ヴァイオリンとして澤さんが加わり、ピアノの蓼沼さんとともに、ブラームスのピアノ五重奏曲です。5人と譜メクリストが登場して演奏開始です。
 第1楽章は、いきなり冒頭から熱く、激しく始まり、そして静けさが訪れて、緩急・強弱の大きな波を繰り返し、激しく感情を吐露しましたが、弦楽四重奏が前面に出て、ピアノは控え目に感じました。ゆったりと美しい弦楽四重奏を聴かせ、ピアノとともに熱く燃え上がって楽章を閉じました。
 第2楽章は、澤さん以外の三重奏とピアノで始まりました。ゆったりと、大きなうねりを作りながら熱を帯びていきました。そして、穏やかに、朝もやのような静けさの中から、ゆったりと音楽の川が流れ出ました。波打つ流れに浮かぶ小舟のように、感情が大きく揺り動かされ、心地良いまどろみの中に楽章が終わりました。
 第3楽章は、荒々しくリズムを刻んで緊迫感を生み、せわしなく刻むリズムに追い立てられるようでした。力強く雄たけびを上げて、荒馬が駆け抜け、ひと呼吸おいて再び激しく荒野を走り出し、その迫力に圧倒されました。
 第4楽章は、深遠な、ゆったりとした響きで始まりました。うねりを作り、緩急の波を作りながら激しさを増し、激しい波とゆるやかな平穏とを繰り返すうちにエネルギーを蓄えました。そして激しく燃えて、フィナーレとなりました。
 エネルギーに満ちた興奮の演奏に、聴衆に感動をもたらし、胸が高鳴り、会場からは大きな拍手が贈られて、渾身の演奏を讃えました。

 カーテンコールの後、クリストフ・ヘンシェルさんが曲紹介をして、アンコールとして、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲第2番の第3楽章が演奏されました。
 先ほどまでのブラームスとは一転して、明るく軽やかな音楽流れ、美しく歌うメロディに心も明るく踊るようでした。途中に拍手が入ってしまいましたが、爽やかで心地良い音楽は、極上のデザートのようであり、素晴らしいプレゼントでした。

 カーテンコールでは、本日の出演者全員が登場して拍手に応えていました。本来は、澤クヮルテットのコンサートなのですが、今回はヘンシェル・カルテットのメンバーが主体に活躍してしておられました。
 質の高い演奏を、リリックホールという室内楽にはぴったりの濃密な空間で聴くことができて、大きな満足感をいただきました。安価な料金で、極上の音楽を聴くことができて、長岡遠征をした甲斐がありました。

 気分も高まり、元気をいただいてホールを後にしました。帰り道に、遠回りして長岡市内の某所に立ち寄り、今度は極上の湯をいただいて、さらなる満足感に浸りました。
 
 
(客席:15-10、¥3000)