新潟A・フィルハーモニック 第二回定期演奏会
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2023年6月10日(土) 14:30 新潟市音楽文化会館
新潟A・フィルハーモニック
ソロ・コンサートマスター:渡辺美穂
ヴァイオリン:印田千裕、枝並清香、小宮 直、榊原菜若、嶋村由美子、庄司 愛、戸島さや野、中澤真理子、廣川抄子、増永花恵
ヴィオラ:村松 龍、小室明佳里、高野香子、尾崎 望
チェロ:海野幹雄、渋谷陽子、奥村 景、高橋麻理子、コントラバス:倉持 敦、石神 悠
 
モーツァルト:ディヴェルティメント ヘ長調 K.138

ピアソラ:ブエノスアイレス 四季

(休憩15分)

ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ ホ長調 op.22

(アンコール)
ドヴォルザーク:わが母の教え給いし歌




 

 新潟A・フィルハーモニックは、新潟に縁とゆかりがあるトップクラスの演奏家が結集して編成されたオーケストラで、2022年6月に第一回定期演奏会が開催されました。私も聴かせていただきましたが、まさにプロという極上のアンサンブルに酔いしれたことが思い出されます。
 ソロ・コンサートマスターの渡辺美穂さんを中心に、新潟在住のお馴染みの演奏家のほか、全国からトッププレイヤーが参集し、新たなメンバーを迎えて昨年より人数を増して、第二回定期演奏会が開催されることになりました。
 前回は、ヴィヴァルディの「四季」がメインプログラムでしたが、今回は「四季」つながりで、ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」が取り上げられ、後半にはドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」も演奏されます。
 今回も前回同様に素晴らしい演奏が期待され、第一回を聴かせていただいた私は、当然第二回も聴かせていただくことにして楽しみにしていました。

 昨夜の雨はやみ、穏やかな土曜日を迎えました。掃除・洗濯・ゴミ出しと、ルーチンワークをこなし、ネコと戯れ、デパートに買い物に出かけた暴君を見送り、私もおもむろに家を出ました。
 いつもの駐車場に車を止めようと思いましたが、新潟市陸上競技場では女子サッカーの試合が開催されており、県民会館やりゅーとぴあでもイベントが重なっていたためか、駐車場はどこも満車。仕方なく少し離れたコインパーキングに止めました。

 いつものように、上古町の楼蘭で冷やし中華をいただきましたが、席に着くなり「いつものねえ〜」と先に言われてしまい、何も言わぬままに注文は確定しました。まあ、毎回こればかり食べていますから仕方ないですけれど、これを食べると幸せになれます。

 お腹を満たして、上古町から白山公園を抜けて音楽文化会館に入りますと、既に開場されていました。私も入場して席に着き、この原稿を書きながら開演を待ちました。私の席は5列目で視界良好です。ステージ裏からは、音出しの音が、開演直前まで漏れ聴こえてきました。

 開演時間となり、メンバーが登場。オーケストラとは言うものの、今回も弦楽アンサンブルのみの演奏です。弦5部が6-5-4-4-2という編成で、昨年(5-4-3-3-1)より増員されています。指揮者はいません。最後に渡辺さんが登場してチューニングとなり、演奏開始です。

 1曲目は、モーツァルトの「ディヴェルティメント K.138」です。この曲は、先月アンサンブルフィーデルの演奏を聴いたばかりなのですが、最初の一音で「プロの音だあ・・」と感動しました。実際プロなのですから、当然なのですけれど。
 急・緩・急の3楽章を軽快に、明るく、生き生きと演奏し、このオケの魅力と実力を知らしめるに十分すぎるものでした。

 渡辺さんが一旦退場してステージが整えられ、2曲目はピアソラの「ブエノスアイレスの四季」です。ピアソラ五重奏団(バンドネオン、エレキギター、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス)用に書かれた曲を弦楽合奏用に編曲したデシャトニコフ編曲版による演奏です。コンマス席には、先月のアンサンブルフィーデルの演奏会で素晴らしい演奏を聴かせてくれた関西フィルの増永花恵さんが着きました。
 渡辺さんが登場して演奏開始です。配布されたプログラムはシンプルで、何の説明もありませんでしたが、作曲順に従って、「ブエノスアイレスの夏」「ブエノスアイレスの秋」「ブエノスアイレスの冬」「ブエノスアイレスの春」の順に演奏されました。
 ヴィヴァルディの「四季」にインスピレーションされてピアソラが作曲した曲で、ヴィヴァルディの断片が散りばめられていて、激しいタンゴのリズムと緩徐部での甘く切ないメロディが魅力です。
 渡辺さんのソロが素晴らしく、その実力をまざまざと見せ付けてくれました。うまく表現できませんが、かっこいい演奏でした。バックの弦楽合奏も素晴らしく、ピアソラ独特の奏法による剃刀のように切れの良いタンゴのリズムが心地良く感じられ、ブエノスアイレスの街並みが眼前に広がりました。
 「夏」ではヴィヴァルディの「冬」のメロディが出てきますが、ブエノスアイレスは南半球ですから、北半球とは夏・冬が逆なんですよね。
 「秋」では、長大な海野幹雄さんによるチェロ独奏がお見事でしたが、原曲にはあるはずもない「砂山」のメロディが出てきて、粋な遊び心で新潟市民を喜ばせてくれました。
 「冬」はしっとりと美しい曲で、個人的には4曲の中で一番好きなのですが、渡辺さんの艶やかなヴァイオリンが切なく胸にしみました。最後に現れるパッヘルベルのカノン的メロディも美しく、曲の良さを十二分に味わいました。
 最後の「春」も急・緩の対比も美しく、増永さんのソロもあって楽しめました。バックを支える弦楽合奏も素晴らしく、音楽のうねりに身を漂わせました。最後は静かに消え入るように終わりましたが、ここで第2ヴァイオリンがヴィヴァルディの「春」のメロディを演奏して曲を閉じました。これもいい演出ですね。
 この曲の素晴らしさ、ピアソラの魅力を存分に伝えてくれた見事な演奏でした。渡辺さんの独奏、バックの弦楽合奏とも渾身の演奏であり、全国水準の、新潟で聴ける最良の演奏ではなかったでしょうか。これを聴けただけでも今日聴きに来た甲斐があったように思われ、大きな満足感をいただきました。

 休憩後の後半は、メインのドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」です。ピアソラでお腹いっぱいになりましたので、もういいかなと思いましたが、この演奏も素晴らしいものでした。
 チャイコフスキーと並んで弦楽セレナーデの定番ですが、哀愁漂うこの曲の魅力を、余すことなく見事なアンサンブルで伝えてくれて、各楽章の対比も鮮やかであり、全5楽章をうっとりと聴き入りました。
 ゆったりと切なく歌う第4楽章から第5楽章へ。途中第4楽章のメロディで足を休めながら、軽快に走り回り、第1楽章のメロディが再現され、静けさから怒涛のフィナーレへと駆け上がり、大きな感動をもたらしました。
 
 鳴り止まない拍手に応えて、渡辺さんの挨拶があり、アンコールは、ドヴォルザークつながりで「わが母の教え給いし歌」です。これまでの感動と興奮を鎮めてくれる極上のデザートをプレゼントしていただき、終演となりました。

 昨年新潟の地に産声を上げた新潟A・フィルハーモニック。プロの力を知らしめてくれて、現在の新潟では最良のアンサンブルを聴かせてくれたものと思います。
 単発に終わることなく、今回第ニ回の演奏会を無事に開催されたことは喜ばしく、早くも来年の第三回演奏会が楽しみです。来年は、今回よりもサイズアップして、2024年6月8日に、りゅーとぴあコンサートホールで開催されます。大いに期待したいと思います。

 新潟A・フィルハーモニックの「A」に込められた意味は何なのか、今回は第二回定期演奏会でしたが、どうして「第2回」でなく「第二回」なんだろうか、渡辺さんと新潟のつながりは何なんだろうかとか、いろいろ思い巡らしながら家路に着きました。
 

(客席: 5-9、¥4000)