今日は新潟が世界に誇るテノール歌手・笛田博昭さんのリサイタルです。笛田さんは、湯沢町に生まれ、湯沢中学校から新潟市の敬和学園高校に進み、新潟市で3年間過ごされました。高校時代に新潟県音楽コンクールーに出て優秀賞を受賞したのがその後の音楽人生を決定づけたそうです。
卒業後は名古屋芸術大学に進み、大学院を修了されました。その後イタリアで研鑽を積まれ、数々のコンクールで優勝しています、藤原歌劇団に所属しながらソリストとしても活発な活動をされており、今や日本を代表するテノール歌手にまで上り詰めました。新潟県人の端くれとしましては、うれしい限りです。
私が笛田さんの歌声を聴いたのは、2008年3月の新潟県民会館での「フェニックスコンサート」が初めてでした。ホールいっぱいに響き渡る圧倒的な歌声に驚愕したことが思い出されます。
その後、2010年1月の、りゅーとぴあでの「ニューイヤー・ガラコンサート」で、秋山和慶さん指揮による東京交響楽団をバックに、堂々とした歌声で魅了してくれました。
そして、2019年5月に、新潟市音楽文化会館で新潟市での初リサイタルを開催し、ホールを埋めた聴衆を感動の渦に誘いました。
今回は会場をりゅーとぴあ・コンサートホールに移して、新潟市では2回目のリサイタルとなります。新潟に来るたびに成長を続け、人気はうなぎのぼりの笛田さんですので、指定席はすぐに完売となりました。新潟県民の期待の大きさがうかがい知れます。
さて、今日共演するピアニストは園田隆一郎さんです。プロフィールを拝見しますと、指揮者のはずなのですが、今回はピアニストとしての出演です。オペラ指揮者として実績のある人なのですが、著名な歌手の伴奏ピアニストとしても活躍されているようですね。ピアノ伴奏で共演して数枚のCDを出されています。オペラ、特にイタリアオペラのスペシャリストである園田さんをピアニストとして迎えるというのは素晴らしいことであり、選ばれし笛田さんということなのかもしれませんね。
また、司会はオペラ歌手で昭和音大教授でもある五十嵐麻利江さんです。前回のリサイタルはピアニスト兼司会者として大活躍でしたが、今回は司会に専念ということでしょうか。前回のリサイタルで感じましたが、笛田さんはオペラ界の大御所的な五十嵐さんに全幅の信頼を置いているようですね。
梅雨前線の活発化により、今朝は九州に大雨特別警報が出されました。新潟もずっと雨が降り続いていましたが、昼前から雨は上がり、どんよりとした天候の中、りゅーとぴあへと車を進めました。
ワンパターンではありますが、今日も上古町で極上の冷やし中華(半チャーハン付き)をいただき、幸せ気分でりゅーとぴあ入りしました。
開場15分前でしたが、既に長い開場待ちの列が4列で伸びており、私も末尾に並びました。ほどなくして開場となり、入場しましたが、1階は指定席、2階正面前方3列は招待者席となっており、2階左サイドに席を取りました。
ロビーでは、笛田さんグッズやCDの販売、次のコンサートのチケットの販売、後援会の入会申し込みなどで賑わっていました。ビッグになったものですねえ・・。
開演時間が近付くにつれ客席は埋まり、3階席までかなりの賑わいとなりました。コロナ禍がうそのような満席の客席は壮観です。密集・密接が気になりますが、平均年齢はかなり高そうですので、大方はワクチン接種済みでしょう。一般席の賑わいに比して、招待者席の空席が目立ちました。
時間となり、笛田さんとピアノの園田さんが登場して、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」をしっとりと歌い、続けてレオンカヴァッロの「朝の歌」を朗々と歌い、ホールの空気を一気に自分のものにしました。
ここで司会の五十嵐さんが登場して、以後笛田さんの声休みを兼ねて、五十嵐さんによる曲目解説を交えながらコンサートが進行されました。
笛田さんの歌声はいずれも素晴らしく、コンサートホールの隅々まで声量豊かに響き渡りました。暖かく包み込むような歌声。この素晴らしさを言葉では表現しようもなく、おそらくは日本でも最高級の歌声に酔いしれるばかりでした。以後は簡単な紹介にとどめます。
トスティの歌曲を2曲歌って水飲み休憩。さらにトスティの歌曲を2曲。そして、本来はドイツ語のレハールの「君は我が心のすべて」をイタリア語版で歌って休憩になりました。
休憩時間は、客席での会話はしないように係員がプラカード持って巡回していましたが、何の効果もなく、ホール内は賑やかにおしゃべりの花が咲いていました。皆さん感動を抑え切れないようですね。
後半はイタリアのオペラ曲です。五十嵐さんによる曲目紹介を交えながら、ジョルダーノの「フェドーラ」から「愛さずにいられぬこの思い」とヴェルディの「運命の力」から「天使のようなレオノーラ」が歌われ、情熱的な歌声に会場を熱狂させました。
ここで、チラシには予定曲目として載せていたものの、「運命の力」に曲目変更されたために外されたヴェルディの「アイーダ」から、ピアノで「凱旋行進曲」をさわりだけ演奏し、笛田さんに頼んで「清きアイーダ」の前半が歌われました。全曲聴きたいところでしたが、予定以外のサービスに感謝しましょう。
続いて、チレアの「アルルの女」から「フェデリーコの嘆き」、ヴェルディの「ルイザ・ミラー」から「穏やかな夜には」が歌われました。
その後に、笛田さんの声休みのため、プログラムにはなかった「カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲」がピアノ独奏で演奏されて、美しい調べにうっとりと聴き入りました。
最後はもちろん、テノールの定番であるプッチーニの「トゥーランドット」から「ネッスン・ドルマ:誰も寝てはならぬ」で〆て、大きな拍手が贈られました。
拍手に応えて、アンコールは意表をついて「千の風になって」をしっとりと歌い、しみじみとした感動を誘い、笛田さんの新たな魅力を感じさせました。
このまま静かに終わるはずはなく、アンコールの定番ともいえるヴェルディの「女心の歌」を、五十嵐さんに促されて観客の手拍子を交えながら歌って盛り上げました。
これで終わりと思ったのですが、さらにアンコールは続きました。笛田さんがパヴァロッティの歌う「ネッスン・ドルマ」を聴いてオペラ歌手を夢見て、高校3年生のとき新潟県音楽コンクールで歌って優秀賞を受賞して声楽家への道を決心した思い出の曲「カタリ・カタリ」を歌ってくれました。この曲を高校3年生で歌うとは、やはり只者ではなかったのですね。
さらにアンコールは続き、「オーソレミオ」でホールを熱狂させてスタンディングオベーションとなりました。これでも終わらず、水飲み休憩しながら、前半最後に歌った「君は我が心のすべて」を歌い、最後の最後は後半に歌った「愛さずにいられぬこの思い」を歌ってお開きになりました。
笛田さんはステージに残り、客席から観客が退席するのを見送ってくれました。これほど熱狂したコンサートホールは久しぶりです。皆さんコロナのことなどすっかりと忘れて、束の間の夢の世界を楽しみました。
期待にたがわぬ笛田さんの歌声。新潟の宝です。世界でもこれほどの声の歌手はいないと五十嵐さんが話していましたが、まさに世界でものトップ級と言っても過言ではないでしょう。これからさらに円熟を重ね、日本を代表するテノール歌手として活躍されることを祈念したいと思います。
(客席:2階D4-29、自由席:\3000) |