今日は終戦記念日。正午の時報とともに黙祷を捧げ、ゆっくりと昼食をとりました。せっかくのお盆休みではありましたが、どこへ行く予定もなく、今日はこのままステイホームしようかと思いました。
ホームページの記事を更新しようと作業を進め、コンサート情報を書き換えていますと、今日このコンサートがあることを思い出し、急遽家を出て長岡へと車を進めました。お盆ながらも道は空いており、混雑することもなく、朝日酒造に到着しました。
長岡市の旧越路町にある朝日酒造本社のエントランスホールでは、毎月第3土曜日にコンサートが開催されており、「3土」ということで、SanDoコンサートと命名されています。アンサンブルオビリーでお馴染みの片野大輔さんがプロデュースされ、魅力的なプログラムが組まれています。
遠方であり、聴きに行きにくいのですが、何度か聴かせていただいています。先回聴きに来たのは2019年5月でしたので、久しぶりになります。
さて、時刻はまだ2時前でしたが、既に開場待ちの列ができていました。開場まで15分ほどありましたので、車の中で待とうと思いましたが、列がだんだん伸びてきましたので、私もその列に並びました。日差しがまぶしく暑かったですが、爽やかな風が吹き抜け、太陽が雲に隠れますと、涼しく感じられました。
開場時間前に列に並んだ人たちの体温チェックがあり、その後に開場となりました。手を消毒し、受付で当日券を買って入場ました。
ホールとはいうものの、朝日酒造本社の玄関ロビーの空間です。コンクリート作りの直方体であり、残響は豊かです。奥にあるステンドグラスと大きな円柱、そして空中の回廊が目を引きます。
ステージというものはありませんが、ホール奥の右手にスタインウェイの小型グランドピアノが置かれ、その前にヴァイオリンとチェロの席が作られ、それを取り囲むように客席が設置されていました。
新型コロナ対策のため、椅子は1席ずつ間隔が空けられて並べられており、客席の全体の空間も、いつもより広く、ゆったりとなっていました。私は、せっかくですので、奏者直前の最前列中央のベストポジションに席を取りました。
コロナ禍の影響もあり、当初に発表されていた予定とはプログラムが変更されました。本来なら毎年8月に恒例の「ムジカマイスター」という男声四重唱の声楽公演だったのですが、合唱公演の開催は困難と判断され、5月に予定されていたものの中止されたこの公演に変更されました。
ベートーヴェン生誕250周年記念企画の第1弾として、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲ほかがプログラミングされています。演奏は新潟で活躍されているお馴染みの3人です。
客席後方から私のすぐ横を通って、ヴァイオリンの佐々木さん、ピアノの金子さん、チェロの片野さんの順に3人が登場しました。佐々木さんは紺色のドレス、金子さんは黒色のドレスです。
チューニングの後、挨拶代わりにバッハのG線上のアリアが演奏されて開演しました。お盆、そして終戦記念日ということで、追悼の意味を込めての演奏と思いますが、ゆったりとした演奏が、しっとりと胸に響きました。
ここで片野さんによる挨拶とメンバー紹介、曲目解説があり、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番「幽霊」が演奏されました。
奏者の直近でしたので、各楽器の音がダイレクトに耳に体に迫り、遅れて残響が降り注ぎました。眼前で繰り広げられる3人のパフォーマンスに酔いしれ、否応なしに演奏に引き込まれました。
繊細さを感じさせながらも情熱を秘めたヴァイオリン、それをどっしりと受け止め、朗々と豊かに歌うチェロが、軽やかに、時に熱く歌うピアノとせめぎ合い、調和し、燃え上がる演奏を創り出しました。
「幽霊」という名前の由来となった、ちょっと陰鬱な第2楽章を、暗さの中にも美しく歌わせ、明るく快活な第3楽章を熱気を帯びながら流れるように演奏し、フィナーレへと駆け上がりました。
大きな拍手の中、佐々木さん、金子さんが退場し、ひとり残った片野さんが、後半で演奏するブラームスのピアノ三重奏曲の解説を行って休憩に入りました。
佐々木さん、金子さん、片野さんの順に登場して、後半はブラームスのピアノ三重奏曲第1番です。ピアノには譜メクリストが付きました。
休憩前に片野さんが解説してくれましたが、作品番号8というように、若き日のブラームスの曲であり、晩年に改訂版が出され、現在演奏されているのは改訂版だそうです。
第1楽章が長大で、この第1楽章を演奏するだけで7割方精力を使い尽くすと話されていましたが、聴き応えある演奏でした。
ピアノの序奏の引き続いて、チェロがいかにもブラームスというような親しみやすいメロディを奏で、そこにヴァイオリンが重なって、ぐいぐいと演奏に引き込まれました。4楽章からなるこの曲は、ピアノ三重奏ではありますが、交響曲でも聴くかのような満足感を感じました。
美しく歌った第1楽章はブラームスの魅力がたっぷりと感じられて夢見心地。引き続く第2楽章は軽快さの中にも緊張感を維持し、第3楽章はゆったりと優しく歌い、第4楽章を情熱的に燃え上がるように演奏し、感動のフィナーレを迎えました。
前半・後半ともに熱のこもった力強い演奏で、3人の実力が如実に示されたように思います。日頃室内楽は聴く機会が少ないのですが、曲の良さも再認識できてよかったです。
チケットの半券に付された番号による抽選会が行われ、アンコールとして興奮を鎮めるデザート代わりに、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の第2楽章を情感豊かに演奏してコンサートを締めくくりました。
はるばる遠征した甲斐のある充実した演奏に、大きな満足感をいただき、家路に着きました。
(客席:正面1列目、¥1200) |