東京オペラシティシリーズ 第116回
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2020年7月18日(土) 14:00  東京オペラシティ コンサートホール
指揮:ジョナサン・ノット (ドヴォルザーク:映像にて)
コンサートマスター:水谷 晃
 

ブリテン:フランク・ブリッジの主題による変奏曲 op.10 
       (指揮無し)

(休憩:20分)

ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 op.88





 今週はコンサートの予定がなく、ステイホームしているのですが、ちょうどこのコンサートのライブ配信がありましたので、聴かせてもらうことにしました。

 今日の指揮者は、音楽監督のジナサン・ノットなのですが、新型コロナによる入国制限のため来日が困難となり、前半は指揮者なしでの演奏、後半は収録したノットの指揮に合わせて東響が演奏するという冗談みたいな試みが行われます。
 ここに至る事情につきましては、東響のホームページに、「事務局長が語る 音楽監督ジョナサン・ノットとの4ヶ月」として詳しく紹介されていますので、是非お読みください。

 最後まで来日をあきらめず、あらゆる手を尽くしたノット。そして、いざ来日困難となると、リモート指揮を提案してきました。技術的問題によりライブでの指揮が困難となると、ノットが指揮をする様子を映像に収録し、それに合わせて東響が演奏するという提案をしたそうです。
 ノットの東響への思い入れの強さに感銘を受け、無謀ともいえる提案を受け入れ、演奏を実現させたコンマスをはじめとする東響の皆さんの頑張りに拍手を贈りましょう。

 昼食を摂り、コンサート気分を味わうために、早めにニコニコ東京交響楽団(ニコ響)のサイトにアクセスしました。画面には無人のオペラシティのステージが映し出されていました。開演時間が近づくにつれ、パラパラと客が入場。座席はひとつおきに間引かれて、密が避けられていました。

 開演時間となり、拍手の無い中に、お揃いのグレーの東響マスクを着けた団員が入場。最後にコンマスが登場して、大きな拍手が贈られました。
 オケは弦楽だけで、弦5部が 8-8-6-4-3 という8型の小編成です。ヴァイオリンが左右に分かれ、チェロが左、ヴィオラが右、コントラバスが中央後方という対向配置です。コンマスは水谷さん、次席が田尻さんで、水谷さんだけマスクなしです。

 前半は、ブリテンの「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」で、指揮者なしでの演奏です。小編成の弦楽合奏の曲ですので、プロなら指揮者なしで十分演奏できるのでしょう。コンマスが演奏を仕切っているのが良くわかりました。

 なかなか美しく面白い曲で、序奏と主題の提示に引き続いて、9つの様々な曲調の変奏が間を置きながら次々と演奏され、フーガとフィナーレで締めくくられました。各楽器をマンドリンのように弾く変奏は面白いですね。

 この曲は初めて聴きましたが、複雑なリズムを刻み、いかにも現代風というところもありますが、全体としては穏やかにゆったりと音楽が流れ、深淵な響きに思わず引き込まれました。コンマスのソロもあって、水谷さんは大活躍です。東響の弦楽陣の実力が如実に示されたと思います。

 演奏が終わり、水谷さんが立ち上がりましたが、他の団員は立ち上がらずに水谷さんを讃えていました。その後は水谷さんが、コントラバス、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンと各パートごとに起立させて讃え、最後は団員が水谷さんを讃えました。
 一旦退場後、再び全員登場して拍手に応え、全員で礼をして休憩に入りました。指揮者なしでしたが、実際は水谷さんの弾き振りと言うべきでしょうか。良い演奏でした。

 休憩時間には、指揮者の場所にモニターが4台(オケ側3台、客席側1台)設置されました。トイレに行き、PCの前に戻りますと、このコンサートについての宣伝ビデオが流されていました。
 ビデオが終わり、画面がステージに切り替わりますと、すでに団員が入場して音出しをしていました。管楽器とティンパニが加わったため配置が変わり、コントラバスは左に移動していました。
 最後に水谷さんが登場して拍手が贈られ、チューニング。ノットの姿がモニターに映し出され、画面上のノットの指示で起立し、拍手を受けました。

 ノットの指揮に従って、弦楽のアンサンブルに載せて美しいフルートが奏でられ、その後はスピードアップし、何事もないかのように演奏が進みました。
 管楽器の各パートのソロもお見事。日頃は遠目で見えない美しい女性奏者のアップ画像に胸をときめかせながら演奏を聴きました。
 
 ノットは、オケの音のフィードバックなしで指揮しているわけですので、オケが指揮にどう反応しているのかは知ることはできません。それでも流麗な音楽を引き出しているというのは驚異的です。
 ノットというより、ノットの指示を理解し、音楽を作り上げたコンマスの水谷さんの力とオケの力を賞賛すべきでしょう。最後は迫力いっぱいに爆発させてフィナーレを迎えました。
 オケは8型で、弦楽の人数をかなり減らしていますので、実際のホールでの音量、響きはどうだったのか気になりますが、ホールでの生の音楽はすばらしかったことでしょう。

 盛大な拍手に応えて、指揮者の代わりに水谷さんが各パートを起立させて演奏を讃え、最後に水谷さんに拍手が贈られました。今日の成功の主役はコンマスの水谷さんでしょう。
 スイスで生中継を見守っていたノットの喜ぶ姿がモニターに映し出され、聴衆とともにオケの偉業を讃えました。一旦ステージを降り、再び全員がステージに登場して礼をして終演となりました。

 ステージの撤収や、客席の点検風景を画面に見ながらこの文章を書き、中継の終了とともにパソコンを閉じました。

 モニター上の指揮者を見ながらの演奏。前代未聞の無謀ともいえる試みを、失敗のリスクを背負いながら果敢に挑戦した東響の皆さんにブラボーを贈りましょう。

 同じ試みが、23日のミューザ川崎、25日のサントリー定期と26日の新潟特別演奏会で行われます。新潟は本来の定期演奏会としてではなく、新潟特別演奏会として開催されます。新潟定期会員には密接・密集を避けて座席を再配分したチケットが送付されました。
 今日の画期的な試みを、新潟でも体験することができます。このような特別な演奏に立ち会えるのは不幸中の幸いであり、期待を持ってコンサートに臨みたいと思います。
 
 

(客席:自宅 、無料)